130話 …が終わったら。乱立するフラグ。
【アクアラグーン訓練場訓練棟講義室・アイザック視点】
※合宿終了まであと10日。
新人騎士見習合宿は残すところあと10日。
午後14:00。
俺たちは、来週行われる”野外訓練キャンプ”のオリエンテーションのため訓練棟の講義室に集まっていた。
約2か月に及ぶ騎士見習合宿を締めくくるべく行われる”野外訓練キャンプ”での注意事項や訓練内容等をブラッド隊長から説明を受けた後。騎士見習全員で話し合い、調理計画、キャンプファイヤー、歌などのレクリエーションなどの役割分担を決めなどを行った。
自ら議長をかって出た俺は、この場を利用してある報告を行いたいと考えている…。
アクアラグーン合宿は俺にとって非常に有意義で充実したものだった。
騎士見習訓練と、宿泊所の改善、虫よけ石鹸の開発。
一番の成果は王都カルカソのパーカー商会の息子ジュリアンとの出会いだ。
はじめは白い豚みたいな奴とバカにしていたが、俺が訴えた劣悪な宿泊所の環境改善計画にただ一人のってくれた。話をしてみたら優しくて商才もあり頭もいい。ハーブの話で盛り上がり、じゃあ石鹸を作ろうということになり訓練後の空いた時間や休みを利用して二人で思考錯誤し作り上げた。
宿泊所はいい香りに包まれ、女の子にも好評。
しかも石鹸のせいで陛下がサミュエル副隊長を嫉妬したと聞き、これだと思った。
そして、今日この場を利用して石鹸のネーミングを発表する。
+++
役割分担決めを終えた講義室で俺は咳払いをした。
「コホン! 諸君! 宿泊所を見違えるほど爽やかな香りで満たす石鹸の名前を発表する!
「「『ジェラシーシャボン!』」」
ジュリアンが”ジェラシーシャボン”と書かれた紙を広げると、教室がざわついた。
「へぇー。なんか大人っぽい名前だね」マリオンが感心した。
「値段は!?」弓の先輩がすかさず質問してきた。
「ジュリアンいくらぐらいだ?」
「そうだね、1個500FLぐらいにしたいけど、輸送費とか入るともっと上がるかもしれない」
「500FLかぁ~揚げパン10個分!」
ルーシーが相変わらず貧乏くさい換算をし渋い表情をした。王国の勇者なんだから、陛下に頼めば欲しいだけ買ってもらえそうなのに。
「じゃあ、3つで1200FLとかは無理?」ロナが聞いてきた。
「王都のパーカーファームとデウスのラミエル・リテイル・カンパニーで購入するとお安くできるシステムも考えてる。ね、アイザック」
「ああ、3個で1200か。悪くないな。それ採用しよう!」
「うちの城で使いたいから、大量発注できるのか?」ホムラが手を上げた。
「申し訳ないがまだ無理だ。人員の確保や工房建設まではまだまだかかる。今は、俺とジュリアンの手作業で作っているからな」(アイザック)
「手作業!?2人で!?」(ホムラ)
「そうだ!」(アイザック)
「それじゃあ、うちの城で作ればいい! 広いし使える人員も多い。ノールとの交易も可能だ。どうだ?」(ホムラ)
悪魔族のホムラが目を輝かせジュリアンの方へ歩み出て商談の握手を求めると、慌てたジュリアンは両掌をホムラへ向け手を振った。さすがはアスモデウス殿下の娘、発想の規模が違う。
「ええっ!? ホムラが言っている城って”バンディ城”だよね! いいの、勝手に決めちゃって」
「いいに決まってる。私が城主になるんだから」(ホムラ)
「「「マジで!?」」」(全員)
講義室の見習い全員が声を挙げた。
「……どうするアイザック?」
嬉しそうでそれでいて少し不安げな表情のジュリアンに聞かれ俺は考えた。
「そうだな……バンディ城か。
王国随一といわれる風光明媚な海岸線が続く景色。
その海岸近くにそびえる荘厳なバンディ城。
その”城”で作られた石鹸は、国王が嫉妬するほどの薫りをもたらし、城の城主や王国の勇者、果てはすべてのモノたちに愛される。(考えがそのまま声に出てしまっていた。)……いい、いいぞ! ジュリアン! この石鹸にふさわしい設定じゃないか!」
「じゃあ、ホムラ。詳しい話は合宿が終わってからでもいい?」(ジュリアン)
「いいよ。結婚したら暇になると思ってたけど楽しくなりそう。よろしく」(ホムラ)
ホムラが笑顔で差し出した右手をジュリアンが握った。
「よ、よろしく」(ジュリアン)
俺もその上に手を重ねた。
「商談成立だ!」
天使界のラミエル・リテイル・カンパニー、王都のパーカーファームと、バンディ城次期城主ホムラ。
突如なされた異例の商談は俺たち(ジュリアンと俺とホムラ)にとって、新たな発展の可能性を示唆するものとなるに違いないと、俺はなんとなく思った。
+++++
【ホテルホーリーウッド・ルーシー視点】
※合宿終了まであと7日。
驚くほど今週は、物事が瞬く間に過ぎて行くように感じた。
基礎訓練にジュード団長補佐との手合わせ、中小隊編成での戦闘訓練。夜間のブラッド隊長との魔力の防御訓練と剣術指導。宿に着くころにはクタクタで、シャワーをどうにか浴びてベッドに倒れる……そんな毎日。
こんなんじゃレグルスちゃんが来ても起きられるかどうか自信がない。シャルルは起こしてくれると約束したが、大丈夫だろうか?
あと1週間か……。
もう一度会いたい。お花のお礼もしたい。顔を見てどうして泣いていたのかも聞きたい。みんなに紹介して一緒にパンケーキを食べたい。
灯りを消しベッドに大の字で寝転がり、タオルケットを被った。
「レグルスちゃん来てくれるかな?」
目を閉じ、呟いた。
『……わからない。でも心配しないで。彼女がやってきたら僕がちゃんと起こすから』
窓辺に立てかけた”勇者の剣”の声が頭の中に響いた。
ここ数日、忙しくてろくに会話もできなかったので、しばらくぶりのイケボの響きに脳が癒された。
「そうそう、シャルル。前に、ジュード団長補佐が私の父親は”悪魔族”かもしれないって言ってたけど……どう思う?」
『あのさー、ルーシーは素直すぎ。悪魔の言うことをすぐ信じちゃうなんて。もっと疑うことを覚えてよ』
「でも、嘘つく理由もわからないし、それにあれからジュード団長補佐が優しいというか、私をバカにしなくなった」
『それは君が強くなったからだと思うよ』
「そう? シャルルもそう思う?」
魔力の調整も順調でガードや回避に加え、一瞬空を飛べそうな跳躍(?)もできるようになっていた。今日ブラッド隊長からは、ガードしてからの剣を打ち込むスピードが速くなったと褒められた。
『あの隊長、教えるのが上手いよ。ルーシーの魔力の量や放出するときの癖、行動パターン、それらを鑑みて君に指導してるみたいだった』
「そうなの!? あんなに攻撃仕掛けても読まれちゃってるって、ちょっとショック。……だから、本気出してくれないのか。黒い魔力見てみたいのに……」
『いやいやいやいや、もっと注意深く見るんだ。足元とか影に紛れて漏れてるのが分かるよ』
「”影”! なにそれ!? かっこよくない!?」
『フフッ。言うと思った。あんな風に魔力出すなんてね。なんでそんなに抑制しているのかはわからないけど、僕もかっこいいと思ったよ」
「いいなー。今度じっくり観察しなくちゃ。ジュード団長補佐なんでダダッ洩れの垂れ流しだからね、あの魔力の圧になんか慣れちゃった」
『アハハハ! そんな言い方する子はじめてだよ、ハハハっ頼もしいなーー』
シャルルの明るい笑い声に私もなんだか嬉しくなり安心したせいか眠気が襲ってきた。
「明日は休みだから。ゆっくりするぞ。ふわぁ~~~(あくび)」
月明かりが照らされカーテンに黒く映る”勇者の剣”影に「おやすみシャルル」と言うと『おやすみ、ルーシー』と優しい声が頭の中に溶けていった。
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【アクアラグーン樹海東・イム副隊長視点】
※合宿終了まであと7日。
青白い月夜の晩。
赤い花畑の先の宿に、小さく輝くルーシーの部屋の灯りが消えた。
ザァ…と花が揺れ、気持ちの良い南風が頬を撫でつけた。
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「イム。妹に何をした!?」
数日前、妖精王の第一王子復活騒動の日の朝。突然現れたオスカーは憎悪の目で俺を睨みつけ、怒鳴った。近衛騎士の隊服に腰には実戦用の剣を帯刀し、歯をギリギリと噛み締めている。
「何もしてない」と答えると、「嘘をつけ!」と怒鳴られ、親父が俺とルーシーが合宿中に密会していると聞かされたと言った。「誤解だオスカー!ルーシーに確認してみろ」「気安く名前を呼ぶな! 俺は、お前を信じてた…のに…」「だから、俺はなにもしてない」「結婚式の日取りも決まったと言っていたぞ」「は……」全身の力が抜けた。あの親父、何してくれてんだ。「……クソッ!」オスカーが吐き捨て、宿へ駆け込んでいった。
事態が思いもよらない方向へ進む中、親父が宿泊所に現れた。イフリート殿下と俺とルーシーを交えて挙式の話し合いを兼ねた食事会をしたいと言われ「ふざけるな」と断った。兄貴の事を聞くと「見違えるほど元気になって、悪戯しただけだって笑ってたぞ」と言い。「式典でお前やルーシーに会うのを楽しみにしていた」と安心しきったような顔で答えた。これもきっと親父の思い込みだろう…。
ハントには監視を代ろうかと言われたが、俺の兄貴のせいでハントに何かあったらと考えるだけで怖くなる。
突然、アキレアの花を咲かせ俺をノイバラに閉じ込めた。
兄貴は一体なにを考えているのだろうか……。
夜間、いつもの場所で監視をしていると移動用魔方陣で宿へ戻ってきたルーシーとオスカーの姿が見えた。二人は俺なんかが入り込む隙も無いくらい仲良さそうに何か話をしていたが、突然走り出したオスカーをルーシーが「逃げんなー」と声を張り上げ追いかけて行った。いつも自慢げに聞かされていた「かわいい妹が行かないで」と俺を追いかけてくると。
なんだよ……オスカー。
あいつはただ妹を、他の誰かに渡したくないだけなんじゃないのか!?
月明かりの下、足元に咲く真っ赤な花を見つめた。視界が歪んだ。
「イム!!!」
宿の方から聞こえたオスカーの声に、顔を上げ涙を拭った。
オスカーは花畑を全速力で駆け抜け、汗だくで俺に会うなり「ごめん!」と大声で頭を下げた。
「ごめん。お前の言うことを信じなくて、ごめん。本当に、ごめん、許してくれ」
「いいって」と言うとオスカーは俺の肩を両手で掴み、「良くない! イムを疑って、傷つけた。俺を殴ってくれ!」と迫った。
「やだよ! それより、どうなったんだ? その、…結婚の話は」
「婚約はするが、結婚は先延ばしになった」
嬉しそうにオスカーが言った。少しムカついた。そんなに俺と結婚させるのが嫌なのか!?
「そうか……良かったな」俺は皮肉を込めて言うと。
「おまえ、他人事のように言いやがって!」
オスカーが俺を睨みつけた。
だって俺は、お前に”妹に会うな”と言われたから会いに行かなかった。今日の親父たちとの食事会も断った。できるだけルーシーに近づかないように気を使った。なのに、今度は……
「じゃあ、なんで”会うな”とか言った! 俺だって会いたいよ! 会ってもっと話をして、これからどうしたらいいか相談だってしたかった。そんなに大事ならお前がルーシーと結婚すればいいだろ! お前とルーシーは血のつながりはないんだから、とっとと結婚しちまえよ!」
溜まっていたうっぷんを吐き出してしまった。
オスカーは目を見開き驚きの表情で怒鳴り返した。
「はぁ!? 結婚!? 妹だぞ! 気持ち悪いだろ!」
「え!?」
気持ち悪いという言葉に俺は固まった。
「確かに、ルーはかわいい。だけど俺は一度だってそんな目で見たことはない。妹だぞ。俺はただ、妹には心から好きだと言える相手と結婚して、幸せになってもらいたいだけなんだ」
「は、ははっ。……まとも」
「なんだよ!」
「なんか、まとも過ぎて……クッ、」
「なんだよイム。なに笑ってんだよ」
「笑うよ。……お父さんか!?」
俺の言葉にオスカーはうっと声を詰まらせ、頭を掻いた。
「”妹に会うな”と言った俺も悪かった。でもルーが……言うには、うーん。妹がお前を好きだって言うなら俺は別に構わないが……」
「…え? あ、その、ルーシーは俺のこと……なんて?」
「”わからない”と言っている」
「”わからない”?」
「……”よくわからない”と」
「えっ…じゃあだったら、もしルーシーが俺を好きだって言ってくれたら結婚しても……いいのか!?」
「フッ…そうだな」
オスカーが笑い頷いた。
なんだよ……だったらもっと近づくことだって……気持ちが一気に舞い上がった。
「じゃあ、ルーシーに会ってもいいのか!?」
「合宿中はダメだ! アンフェールに戻ったらまた会えるだろ。だからもう少し我慢してくれ」
今すぐにでもルーシーがいる宿へ駆け出しそうになった俺に、オスカーは慌てて言った。
女子寮の扉から飛び出し、俺に微笑みかけるルーシーの顔が浮かぶ。
「アンフェールに戻ったら、本当にいいんだな」
「いいよ」
笑顔でグータッチしたオスカーは、移動用魔方陣でロイヤルラグーンへ戻って行った。俺は、嬉しくて拳を握りしめ叫びたいほどの幸せに身を震わせた。
ルーシーに会いたい。
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青白い月夜の晩。
迷いが消えた瞳には、赤い花畑の先の宿の灯りの消えた窓辺さえも愛おしく映り込んだ。
ザァ…と花が揺れ、気持ちの良い南風が頬を撫でつける。
そのとき、この世界にじわじわと忍び寄る危機が迫っていることを、俺たちは気づかずにいた。
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いつもお付き合いいただきありがとうございます!
ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m
もう少しで1年。
物語の折り返し地点に入ります。書き進めるのが遅いので申し訳ないのですが、これからもお付き合いいただけましたら幸いです。




