129話 眼帯の下は秘密でいっぱい
【アクアラグーン訓練場・ルーシー視点】
※合宿終了まであと11日。
「お前、ルイーズ様の娘らしいな」
これが、約3週間ぶりに対峙したジュード団長補佐の第一声だった。
今日は黒い長い髪を後頭部の低い位置で一つに結わえ、黒の眼帯、黒のTシャツ、黒のパンツ、黒のブーツという全身真っ黒コーデのジュード団長補佐が、私に木刀を放り投げた。快晴のアクアラグーン訓練場グラウンドに土埃が舞い上がる。
「母をご存じなんですか?」
木刀を拾いながら答えると団長補佐は残念そうな表情で私を見つめた。
「なんかの間違いじゃねぇのか?」
「はい?」
「ルイーズ様は、もっとこう…色っぽくて艶っぽくて、目が合っただけで鼻血が吹き出る程のフェロモン出してたぜ」
「は?」
イフリート殿下が一瞬で一目惚れするくらいの美女と聞いていたので特に不思議に思わなかったが、言い方というか、表現がおかしい。ジュード団長補佐は何を想像したのか、話しながら顔を赤くした。
「本当に娘なのか?」
どうも納得できないらしい。
「私、まだ15歳です。それにたぶん私は父親似かもしれません。……あの、そんなことはどうでもいいので、手合わせを」
「父親か……」
ジュード団長補佐がつかつかと私に近づき、黒い眼帯を上げた。
「えっ!?」
顔を両手で掴み、両下瞼を親指で下げ、眼帯で隠していた目を見開いた。
黒っ……。白目部分が無い。ただそこに真っ暗な闇が続いているかのような眼だった。
その眼を大きく見開き私の瞳を覗き込んだ。怖い。
「 ……なんだこりゃ? お前……」
「なっ、なんですか?」
手を放し、困惑した表情のジュード団長補佐が今度は顔を耳元に近づけ小声で聞いた。
「(小声)お前……悪魔か!?」
「え!? なんで?」
なんかの冗談かと団長補佐の顔を見つめると。
「(小声)陛下は知ってんのか?」
「だから、なんで!?」
「(小声)その眼。お前の親父は悪魔かもしれねぇ」
「悪魔!?」
眼帯を目に戻し、ニヤリと顔を歪めた。
その眼帯の下の目って、血縁的な何かが見えるの!? 凄いかも!?
「悪魔…そんな感じの奴だ!」
「わかるんですか!?」
「まあな。しばらく黙っておいてやる。じゃあ、やるか?」
「は、はいっ!」
実の父が”悪魔”かもしれないという新情報を聞かされた私は、十分に有り得ると思った。
あの、イフリート殿下と再婚を決意した波乱万丈な母のことだから、”私の父親”が実はとんでもない男だったとしてもおかしくない。
「あんまり動揺しねぇんだな」
木刀を持った団長補佐は、手をグルグル回しウオーミングアップをはじめた。
「はい。母のことだからもしかしてと思いまして。イフリート殿下と再婚した母ですよ。それに私、殿下の娘になるんですよ。悪魔だったら丁度いいかなって……」私は木刀を両手で持ち身構えた。
「ブッハハハハハ! それもそうだなっ。おっ……そうだ、魔力で防御できるようになったんだってな。ブラッドから聞いた」
ブラッド隊長、言っちゃったの!?
突然、魔力で防御かまして驚かそうと思ったのにーっ!?
「……はい」
「じゃあ、手加減はしねぇぞ!」
ダッ…
ジュード団長補佐が足に黒い魔力を纏い向かってくるのが分かった。
ひいぃっ。
ガキィィィンン!!!
両手で握った木刀で斬撃を弾き、魔力で防御しジュード団長補佐を弾き飛ばす。
それを一切モノともせずブワッと放出した黒い魔力で飛び上がり、上から瞬時に斬りつけてきた!?
これが実践経験の違い!?
ヒュン……ガンッ!
そこから打ち合いが始まった。
ガンガンガン…ザッ…ブンッ!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!!!
怖いっ!
一瞬でも気を抜いたらあの木刀に殺られる。
「ぐわあああああああっ」(ジュード団長補佐)
ガキィィィンン!
ジュード団長補佐の魔力を纏った一撃に盛大に吹っ飛ばされた。
「ゔあぁぁぁぁぁっ」(ルーシー)
足から放出した魔力で体勢を戻しながら押し返すも、また、飛び上がった団長補佐が真上から襲いかかる。
それを脚に溜めた魔力で避けながら攻撃を仕掛ける。
・
・
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結局、疲労で意識が飛びかけたところで”勇者の剣”を召喚してしまい、手合わせは終了した。
すぐに駆け寄ってきたサミュエル副隊長に応急処置を施され、レイ兄さんに背負われ医務室に運んでもらった。本当はふわふわの羽のサミュエル副隊長におんぶしてもらいたかったのに「ダメだ!」とレイ兄さんにピシャッと断られた。
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【キャージュ城・スチュワート視点】
ノール帝国との軍事協定によりアレキサンドライト王国南の海岸一帯に防衛拠点の建設が開始され、それとともに予算の増大と、物資や動員される人員の確保など、皮肉なことに王国内は活気に満ち溢れていた。
無事にご結婚を回避されたルーシー様に陛下は安堵なさり意欲的に公務に復帰。
ノール帝国王子アレクセイ様も防衛線の最前線に立ち、南のジェダイド帝国の動向を常に伺い。
妖精族には、主に食料や薬草の量産を要請。天使界には、軍、医療設備の提供。貿易を中心に栄えているイナリ国には軍の備品調達と船の製造を要請。
今回、私は合宿終了後のルーシー様の訓練場所となるキャージュ城近くの砂漠地帯に建つ”三日月砦”の改築の進行状況を確認しに訪れていた。
キャージュ城は、アレキサンドライト王国南西砂漠地帯の海岸近くに位置し、オアシス全体を取り囲むように建てられた石造りの広大な城である。陛下よりも上位の悪魔バルベリス殿下の居城であり、南の防衛線戦の重要な拠点でもある。
「兄さん!」
私の2歳下の弟ダヴィットが短く濃い青髪を乾いた風になびかせながら、建設中の砦の石階段を駆け足で上ってきた。普段身につけている側近用の黒の上着を脱ぎ、白いシャツに黒のスラックス姿で、左手には畳まれた地図が握られている。私の傍まで来ると、金色の瞳を輝かせ私に抱きついた。
「兄さん! 元気だった?」
弟ダヴィットは前王国時代、私とともに側近見習をしていた。
現在はバルベリス殿下の側近をしている。
「ああ元気だ。ダヴィットおまえは?」
背中を叩くとダヴィットは身体を離し子どものように歯を見せ笑った。
「ハハハッ、元気だよ! 兄さんルーシーちゃんは順調?」
「ああ、問題ない。ダヴィット済まない。少し急いでいる手短に進行状況を教えてくれ」
「いいよー」
三日月砦の平面図が描かれた地図を広げた。
砦は、バトルスカラファッジオ(巨大なゴキブリ)というバルベリス殿下のペットの巣を半周するように三日月型で、両端に立つ二つの塔の部分を覗けばほぼ完成に近い状況だった。
「だいたい順調でね。問題は”塔”だね。殿下が、ルーシーちゃんと二人で過ごすスペースだから豪華にしたいって言いだしちゃって」
「ダヴィット、急いでいると言ったはずだ。冗談はやめてくれ」
私の言葉にダヴィットは、眉を寄せ首を横に振り声のトーンを落とした。
「(小声)実は兄さん。昨日妖精王様が殿下のもとにいらして、王子との正式な婚約を自慢げに話して行かれて。それで殿下が塔を壊して作り直せって……俺もちゃんと言ったよ。妖精王の王子と婚約していて、べリアス陛下のお気に入りだからダメだって。でも、それでもいいからって……ちょっと二人で、その、お話したいと……」
一難去ってまた……
バルベリス殿下は、ルーシー様には興味がないと考えていただけに動揺を隠しきれませんでした。
「はーーーーっ。(ため息)あのバルベリス殿下が”お話だけ”で済むと思うのか?」
「は、ははは。そうだよね……」
ダヴィットは頭を掻きながら顔を引きつらせた。
「……ダヴィット、お前も大変だったんですね」
「兄さん程じゃないし、前の王国に比べたら全然楽勝だよ。砂漠好きだし殿下は可愛らしいし」
ダヴィットは、背中を向け伸びをしながら砂漠を見渡した。
ダヴィットは兄弟の中でも私より賢く正義感が強かった。故に前王国時代、貴族がらみの都合の悪い事実を見過ごすことができず17歳で投獄された。
「ルーシー様はこれから大事な時期です。ダヴィット、ルーシー様のキャージュ城での訓練中は出来るだけバルベリス殿下の傍を離れず、何かあったら殿下を止める。いいですね」
「はい。兄さん」
振り返り微笑む成長した弟の笑顔に、頼もしさを感じた。
「っーつか兄さん。ルーシーちゃんって人魚族なんでしょ。この前ちょっとしか会えなかったら。俺、楽しみだーーっ」顔を緩ませ頬を高揚させた。
「ダヴィット……お前は(怒)!」
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