ⅩⅩⅩⅠ
廉士さんは週三だったバイトを週六にして、家を空けることが多くなった。
一人で過ごすことを嫌がったゆきちゃん。
僕は日曜日だけでなく、ほぼ毎日彼女の部屋を訪れることになった。
僕らは何をするわけでもなく、傍で好きなことをしているだけ。
ゆきちゃんは映画を見たり、寝たりしていた。
僕はそんな彼女をずっと眺めていた。
ある日、ゆきちゃんが真剣な顔で僕に話しかけてきた。
「ねぇ、詩晴。ずっと聞きたかったのだけど、このピアスのアネモネ。
"赤のアネモネ"なのは花言葉を知っていて?」
、、、、やっと気づいてくれた。
赤のアネモネの花言葉は"君を愛す"。
あの頃から僕の気持ちは変わらないんだ。
「ゆきちゃんはいつ、そのことに気がついたの?」
僕は軽く目を伏せる。
「、、、詩晴がいなくなった後でれんに教えてもらったの。」
あぁ、廉士さんかぁ。
あの人男前な顔して花言葉とか知ってるんだ。
「降参だ、誤魔化しきれないな。
そうだよ、僕はゆきちゃんのことが好きだ。
好きなんかじゃ足りない、愛してるんだ。」
流石のゆきちゃんでも気持ち悪いかな。
そう思いながらも、彼女の顔を見る。
彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
駄目だ、そんな顔されたら我慢できない。
僕はそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れるか触れないかの距離で手を止める。
「ゆきちゃん、僕は君の特別になりたい。嫌なら僕から離れて。
そしたら僕は君にはもう触れないことを約束する。」
ゆきちゃんはそっと僕から離れた。
それが君の答えなんだね。
僕は伸ばしていた手を下ろした。
「ゆきちゃん、ごめんね。こんなのがずっと傍にいたなんて気持ち悪かったよね。」
僕はゆきちゃんから離れ、背を向けた。
僕が涙を堪え、上を向いていると腰に強い衝撃があった。