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江戸戦場  作者: かわむら
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地獄からの脱出

スモイダ星人に生け捕りにされた茜と千代姫は連行され、何かの実験をしている風な部屋に入らされた。

その実験室は薄暗く、人が寝るだけの大きさの台が何台も並んでいた。

部屋の壁際には、牢屋らしき部屋があった。

そこには江戸中からさらってきた若い女たちが三十人ぐらい、一まとめに投獄されていた。

ただ牢屋と言っても木製の格子扉ではなく、高圧電流が碁盤目状に縦横に流れているのだ。

当然、その電流に触れれば感電死する。

茜と千代姫は電流越しに、怯えている女たちを見た。

連行してきたスモイダ星人が何かの操作をすると、凄まじい勢いで放電されていた電流の格子窓が消えた。

茜と千代姫は乱暴に押され、女たちの中へ放り込まれた。

二人を牢屋に入れると、スモイダ星人はまた放電の操作をした。

するとまた電流がバチバチバチ!という音を立てて、流れ始めた。

二人を投獄したスモイダ星人は、どこかへ消えてしまった。

「茜、我々はどうなるのじゃ?」

「分かりません。それにしても何故女だけを捕らえておるのか気になります」

「そなたら、奴らに何かされたのか?」

千代姫は、怯えて憔悴しきっている女たちに尋ねた。

「今の所、何もされておりません」

一人の女が答えた。

「その方、名は何と申す?」

「あたしは椿と申します」

「椿とやら、なぜ女ばかりを捕らえておるのか分かるか?」

「決まってるわよ。あいつら、あたいらを輪姦するつもりよ!」

若い女の一人が叫んだ。

「輪姦じゃない、食われるんだよ!」

別の女も愚痴を言う。

「あいつら、人の肉を食うのかい?!」

「食わないなら、何のために口があるんだよ、あの妖怪に!」

「輪姦でも食われるのでも、最悪だねえ」

「ちくしょ~、ここから出せぇ~!」

電流に囲まれた牢屋では、絶望感が漂った。

ただ二人、茜と千代姫だけは必ずここから生きて脱出する、そう念じていた。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―


スモイダ星人との激闘で、柳生の生き残りは数えられるぐらい激減していた。

トボトボと柳生の仲間たちと歩く兵庫ノ助は、心身共に憔悴(しょうすい)しきっていた。

柳生史の汚点とも呼ぶ大惨敗だ。

このまま江戸を、引いては日本国を占領されるのか?

いや、そんな事は己の命に替えても阻止する。

いまは生きて帰る事が大事だ。

50人ぐらいの柳生の者が手傷を負った状態で、帰ってきたのを門番が見つけた。

門番はただちに、柳生屋敷を親父から預かっている柳生又十郎に報告しに行った。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


その頃、新右衛門、直助、五平、太助たちはスモイダ星人らに強制労働を()いられていた。

一日中、荒れ地を(くわ)で、開墾されられた。

この開墾した土地に、スモイダ星人の食料の種を植えつけるのだ。

皆が真夏の太陽の下、汗だくである。

新右衛門は耕している最中に、チラッと周りを見た。

光線銃を持ったスモイダ星人たちが、怠けないように交替で監視している。

何人かの年配の者が、スモイダ星人に「休憩させてくれ~!」「水を飲ませてくれ~!」と懇願してきた。

スモイダ星人は懇願してきた者たちに、光線銃の銃口を向けた。

「休憩させてくれねえと、これ以上は働けねえ!」

「鉄砲で脅してもムダだ!何か食わせてくれえ!」

すぐさま、スモイダ星人に意識を乗っ取られた鉄蔵がやってきた。

「おい、貴様ら!さっさと持ち場へ戻れ!」

もはや日本語のしゃべれないスモイダ星人の代弁者となった鉄蔵には、一切の情けはない。

「お願えだ、休ませてくれ!」

「腹が減って動けんのだ!」

「一杯でええから、水をくれ!」

皆が強気に、鉄蔵に逆らった。

「持ち場に戻れ、と言ったのが分からんのか?言う事が聞けん者は容赦なく殺すぞ!」

「わしらはなあ、死ぬ覚悟で上申してるんだよ!」

年配者たちは、一歩も譲らぬ気配だ。

畑を耕している者は皆、鉄蔵と年配者とのやり取りに聞きいった。

「ならば死ぬがよい!」

鉄蔵が合図すると、周囲のスモイダ星人全員が光線銃を発射し、

訴えた連中は皆が骨だけに焼き殺された。

周りから、「ひいいい!」と悲鳴が響いた。

「妖怪どもめ、もう勘弁ならねえ!」

怒った五平は鍬を持ってスモイダ星人に殴り込みにかかろうとしたが!直助が通せんぼをした。

「やめて下さい、五平さん!ムダ死にするだけです!」

「通せ、この若造が!」

怒りが頂点に達した午後は鍬を振り上げ、それで直助を殴ろうとした。

「軽はずみな真似はやめろ!」

新右衛門や太助、その他周りにいる連中が五平の身体をつかみ、

踏みとどらせた。

「放せってんだよ!」

暴れる五平の前まで、鉄蔵がやってきた。

「おい、そこのお前。持ち場に戻るか死ぬか、好きな方を選べ」

「本当においらの顔を忘れちまったのかよ?!」

「貴様など、知らん」

鼻息を荒くして、五平は鉄蔵の顔を見た。

無表情そのものの顔からは、何の哀れみも感じられない。

まだ怒る五平は(きびす)を返し、元の作業場に戻った。

鉄蔵は笑みを浮かべると、耕している連中に言った。

「動けなくなった者、怠ける者、すべて即座に殺す。

ようく覚えておくがいい」


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―

柳生邸は、てんやわんやの大騒ぎになった。

逃げ帰った柳生の仲間や、大ケガをした浪人の世話で、誰もが慌てている。

又十郎は兵庫ノ助を、布団に寝かせてやった。

幸運にも、兵庫ノ助の傷口は浅い。

しかし親父、兄の十兵衛、左門、姉の茜、そして千代姫様までもが戻ってきていない。

「兵庫ノ助様!一体何があったのですか?!」

「又十郎・・・、わしらは全滅したのじゃ」

かすれ声で、兵庫ノ助は戦況を報告した。

「すると、妖怪に大敗を喫した、という事ですね・・・」

又十郎の拳が、怒りでワナワナと震えた。

「では他の者たちはどうなったのです?!親父や兄貴たちは!?」

「それはこのわしにも分からん・・・。帰還していないという事は、おそらく妖怪に殺されたのだ。残念だが」

「うそだ、俺は信じない、親父や兄姉が殺されたなんて!」

「又十郎、お主の信じたくない、という存念はこのわしも同様じゃ。

しかし確かに完膚(かんぷ)なきまでに人間勢は妖怪どもにやられた。

その事実は疑いようもない。今はそれを受け入れるしかない。

親父や十兵衛、左門、茜が死んだという事実をな」

兵庫ノ助は疲労困憊で、眠ってしまった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

牢獄の中で、数時間が経過した。

今が昼なのか夜なのか、分からない。

眠っている千代姫は茜が、「姫!起きて下さい!」と体を揺するので目を覚ました。

「何事じゃ?!」

「妖怪が!」

千代姫は電流越しに、一匹のスモイダ星人が女たちをジロジロ眺めているのに気づいた。

どの女が一番健康そうか、選り好みをしているように(うかが)える。

「何よ、あの化け物~?!」

「どいつから食うか、品定めをしてるんだよ!」

「違う!誰から輪姦するか、迷ってんだよ!」

「輪姦した後、食うつもりなんだよ!」

女たちは何のためにスモイダ星人が()め回すように見ているか、気味悪がっている。

ついにスモイダ星人は、目当ての女を決定したようだ。

壁に手を当てると、生体認証されて放電されていた電流は、パッと消えてしまった。

牢屋の中にスモイダ星人がずかずかと乱入すると、皆が「ひいいい!」と叫んで後退した。

誰もが後ろの壁にまで下がっている。

スモイダ星人は二十歳の女の髪をつかむと、引っ張り、連れて行こうとした。

「痛い!放して~!」

女は必死に抵抗したが、巨体のスモイダ星人には(かな)わない。

「た、助けてえ~!」

泣き叫ぶが、誰も助ける者はいない。

女を、引きずって牢屋から出すとスモイダ星人はまた壁に手を当てた。

凄まじい勢いで放電が再開され、再び脱出は不可能になってしまった。

「イヤあぁぁ~!」

連れ去られた女のわめき声が、断続して聞こえる。

牢屋の中では逆に戦慄した恐怖で、静まり返った。

「何であの娘だけが連れて行かれたの?!」

「一番イキが良さそうだからでしょ」

「あの妖怪の好みのツラだったのよ」

「これから食われるの?!かわいそう」

「食われる前に、犯されるんだよ」

落ち着くと、皆が口々に言いたい事を言った。

千代姫と茜は、生きている心地もしなかった。

牢屋の外の明かりは薄暗いが、何とか周囲の状況は分かった。

「だ、誰か~!」

女の叫ぶ声が響き渡る。

皆が電流越しに、さらわれた女の運命が気になって、外を注視した。

女は手術用の台に寝かされ、手足を拘束具で拘束されている。

当然女は抵抗しているが、抜け出せれない状況だ。

台の上の女の前に、スモイダ星人が立った。

何をするつもりなのか、皆が見入った。

スモイダ星人の下半身から、何やら細長いヒモのような物が出てきた。

皆が妖怪が下半身からクネクネと曲がるヘビを出したのか、と思ったが違う。

その細長い物はゆっくり伸びていき、女の股関の中へ入っていく。

「イヤあぁぁぁ~!」

細長い物とは、スモイダ星人の生殖器だったのだ。

「殺してぇぇ~!」

スモイダ星人に犯されている台の上の女は、わめいた。

女を犯し終わると、そのスモイダ星人はどこかへ消えてしまった。

牢屋の中の茜と千代姫はまだ、女が種子を植えつけられたと分かっていない。

五分ぐらい経過した後、牢屋内の茜と千代姫は信じられない光景を見た。

台の上の女の腹が、瞬く間に膨らんだ。

「ぐえぇぇぇ!」

犯された女は、口から血を吐いた。

腹が最大限に膨らむと、女の腹を食い破り、スモイダ星人の赤ん坊が出てきたのだ。

「ひええええ!」

皆が恐怖におののき、泣きわめいた。

桃色の鬼は、人間の女を強姦し、妊娠させたのだ。

そしてすぐに、妖怪の赤ん坊は母親の腹を食い破り、この世に生誕した。

数匹のスモイダ星人が現れ、赤ん坊を大事そうに抱え、どこかへ行ってしまった。

腹が破裂した女は、顔をこっちへ向け、目を開けたまま死んだ。

妖怪に連れ去られただけでも絶望状態だったのに、絶望度はさらに増した。

これで妖怪たちが、なぜ女ばかりを連れ去っているのか理解出来たのだ。

誰もしゃべる者もおらず、この受難を呪っている。

「見た、今の・・・」

「妖怪の赤子が、母親の腹を食い破って生まれるなんて・・・」

「あの妖怪どもには、メスの妖怪はおらんのかい?」

「腹を食い破られるなんて、どれくらい痛いんだろう?」

「もう、この世の痛みじゃないよ」 

「神様、仏様、いるなら助けて!」

誰もが不安がり、愚痴を言う。

「姫様は兄上を愛しておられるのでしょうか・・・」

唐突に、茜が聞いてきた。

「ふっ、愛しておるわ。どうしようもないぐらいにな・・・。身分違いの恋ほど、厄介なものはない・・・」

寝ていた千代姫は、上半身を起こした。

「身ごもるなら、腹に十兵衛の子を宿したかった・・・。妖怪の子など、ごめんこうむる。茜、そなたも十兵衛を愛しておるのか?」

「私も姫様同様、兄を愛しておりまする・・・」

「お前もわらわと似た者同士よ。同じ男に叶わぬ恋をしておる・・・」

茜は笑った。

千代姫の言う通り、妹が兄と結婚は出来ないからだ。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ―


その日の晩・・・。

朝っぱらから休みなく続いた作業はようやく、終わった。

夜になるとうろついていたスモイダ星人の大多数は、円盤内に戻った。

数匹のスモイダ星人が、捕虜たちが逃げないよう見張っている。

新右衛門、直助、太助、五平らは一日の終わりにやっと食事を支給された。

皆が焚き火を取り囲み、粗末な食事を食べた。

腹が減っていたので、誰もがすぐに食い終わった。 

皆、疲れ切って、黙ったままの状態だ。

「旦那様、一つお話したい事がございます・・・。いや、皆さんも聞いておくんなさい」

「何だ、直助?」

新右衛門が聞いた。

「あっしに名案があります」

「名案?」と太助。

「ここから逃げるんでさ」

「どうやって?」と五平。

「策はまだ考えておりやせん。このまま死ぬまで奴らの食料を収穫していくつもりですかい?」

「そんなつもりはない」と新右衛門。

「旦那は貧村から口減らしのために奉公する羽目になった、あっしを可愛がって下さった。今こそ、ご恩を返す時でございます」

「どうやって逃げるというのだ?!妖怪どもが鉄砲持って、あちこちに見張りを立ててるんだぞ!」

「静かにしろ!妖怪にきこえたらどうする?!」

皆が声を荒げる五平を牽制した。

「いつ脱出するんだ?」と五平。

「それも現時点では不明です。あの妖怪どもの隙をついて必ず生きてここから脱出いたしやす。その心づもりだけはしといておくんなさい」


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


闇の中、意識を取り戻した十兵衛は立ち上がった。

こんな所で、のたれ死にするつもりはない。

斬られた片目の出血は止まっているが、完全に見えなくなってしまった。

十兵衛はまだ見えている片目だけで、闇夜を歩いて行った。

足元は暗く、まだ数十人の死体が転がっている状態だ。

死体につまづき、何度も倒れた十兵衛はゆっくりと歩いて行った。

親父や左門、それに茜、千代姫、兵庫ノ助は無事なのだろうか?

生きて無事に、柳生邸に退却出来たのだろうか?

不安ばかりがよぎる中、十兵衛は何とか戦場を脱出し、森の中へ入った。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

それからと言うもの、スモイダ星人は日に女を2~3人牢屋から出し、犯して子供を産ませるようになっていた。

当然、牢屋の女の数は日増しに減っていく。

誰しもが、今日は自分の番なのか、と恐れおののいている。

「茜、我々はこのまま死ぬのか?」

千代姫が茜に聞く。

「何もしなければ、確実に死にます」

「犬死にするつもりはない。奴らのややこを産み落とすぐらいなら、腹をかっさばいて死んだ方がマシじゃ」

御意(ぎょい)にございます。私も柳生の女。身ごもる前に刺し違えてでも、貞操は死守します」

しゃべっている間に、一人の女がうつろな表情のまま、立ち上がった。

ゆっくり、高電圧で流れている電流に近づいていく。

「そなた、何をするつもりじゃ・・・?」

千代姫には、その女がこれから何をしようとしているのか理解出来なかった。

「もう、生きていく理由なんかない・・・」

女は電流をつかもうと、両手を差し出した。

「早まるな!」

茜は電流をつかもうとする女を引き離そうとしたが、遅かった。

茜が制止するよりも前に、女は電流を両手でしっかりとつかんだ。

たちまちバチバチバチ!という音と共に火花が散り、女は感電死した。

女の死体は、後方へふっ飛んだ。

「ひいぃぃぃ!」

感電死した死体を見て、牢屋の女たちが悲鳴を上げた。

目を見開いた女の死体からは、蒸気が噴出していたからだ。

女たちは互いに身を引き寄せ合い、抱き合って恐怖に怯えた。

「何なの、あれは~?!」

電流に怯えた女が叫んだ。

「あれは・・・、西洋に伝わる『エレキ』という物に相違ありませぬ」

茜は千代姫に説明してやった。

「エレキ?」

「さようにございます。雷と同じ性質の物らしい、とか・・・。西洋では人力に代わる物として、開発が進められているとかの噂です」

「そんな物を、妖怪どもは利用しておるのか・・・」

話していると、電流の前にスモイダ星人がきたのが見えた。

皆が、「ひえええ!」と怯えた。

「そんなに若い女がいいなら、こいつ持っていってよ~!」

一人の女が、衰弱して動けなくなった女を引っ張ってきた。

牢屋にいる女全員が、スモイダ星人が衰弱している女を持っていってくれればいいと願ってる。

電流を消して牢屋に入ってきたスモイダ星人は、衰弱している若い女を見た。

子孫を産ませるには体力的に不合格だと判断し、そのまま無視して別の女の髪をつかんだ。

「痛っ、ちょっと何すんの?!」

髪をつかまれた女は抵抗し、逃げようとしたがスモイダ星人の握力にはとうてい敵わない。

「ひえええ!」

女は髪をつかまれたまま、ズルズルと床を引きづられて連れて行かれた。

「助けてえぇ!」

女の悲鳴と共に!再び放電が開始された。

悪夢のような光景に、牢屋内はシーンと静まり返った。

電流の格子の外からは、連れて行かれた女の悲鳴が聞こえた。

今頃、妖怪の赤子を、はらませるために犯されているだろう。

誰もその地獄の光景を、電流越しに眺めようとしなかった。

後は妖怪の赤子に腹を食い破られ、死しかない。

牢屋の女たちは、泣きわめいた。

「ちくしょう、泣くなよ!泣いたって、状況は変わらないんだ!」

ある女は泣いてる女を、励ましている。

死への実感がひしひしと沸く中、千代姫は誰かが手首を引っ張っているのに気づいた。

茜かと思ったが、茜は今そばにいない。

千代姫は、手首をつかんでいる人物を見た。

そいつは、衰弱して動けなくなった女だった。

その女は千代姫に何かしゃべろうとしたが、口が聞けない程弱っていた。

千代姫は衰弱している女が、何を言おうとしているのか、耳を口元に近づけた。

「何か言い残す事があるのか?何でも聞いてやろうぞ」

千代姫は衰弱している女が、何かを手渡したのを感じた。

手の平を見ると、そこには一本のカンザシがあった。

「・・・それを使って・・・、あなたが妖怪に連れて行かれそうに・・・なった時に・・・」

衰弱している女は、やっと言葉を出すと死亡した。

千代姫は死んだ女の手を、握り返してやった。

「すまぬ。そちの思い、ムダにはせぬぞ・・・」


      ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


開墾が終わると、次は種まきである。

新右衛門、直助、太助、五平たちは、スモイダ星人の食料の種子が入った箱を渡された。

箱には、植物の種と思われる物がたくさん入っている。

開墾した土地に、種を順序よく植えつける作業が終了した。

「芽を出させるには水分が必要だな。水はどこにあるんだ?」

新右衛門が、指揮している鉄蔵に聞いた。

「水など必要ない」

鉄蔵が答える。

「しかし水がねえと、芽吹かせるのは不可能だぜ」

そう言った五平を、鉄蔵は光線剣で斬り捨てた。

「わひゃあぁ!」

皆がどよめき、横にいた新右衛門は五平の血をまともに浴びた。

さっきまでしゃべっていた人物が死のうと、新右衛門は驚かなくなってしまった。

「そいつの血を、その桶に入れろ」

鉄蔵に命令され、皆が倒れた五平の体から流れている血を

桶に入れた。

「こんな事を、何のためにするんでしょうか?」

隣にいる直助が、新右衛門に聞いた。

「わしにも分からぬ」

「ひょっとすると、あの植物は人の血を肥料の代わりにしてるんじゃねえのか?」

太助が言う。

「それは考えられるな」

桶一杯に血を溜め終わると、鉄蔵は「その血を畑に撒け」と柄杓(ひしゃく)を出した。

新右衛門は柄杓で、五平の血を地面にばらまいた。

たちまち、地面は赤色に染まってしまった。

瞬く間に、種は地面の血を養分として吸い上げ、元の土色に戻った。

新右衛門、直助、太助はこれで確信した。

この植物は水の代わりに、人間の血を吸うのだと言う事が。

すると、地面から発芽した芽が何本も出てきた。

「まだ血を()いておらぬ場所は残っておる。そこにも血を撒くのだ」

「でも、五平さんの体から血は出し尽くしちまったよ!」

「それには心配無用じゃ。あの丘の上を見てみるがいい」

太助の問いに、鉄蔵は答えた。

新右衛門、太助、直助、その他大勢が丘の上を見た。

そこには江戸中から捕らわれてきた者が、連行されてきていた。

そいつらは畳六畳分の宙に浮かぶ鉄板に乗せられ、電流が鉄格子の代わりに走っている。

「血を提供する人間なら、いくらでもおる。今日から貴様たちが肥料となる血を搾取(さくしゅ)し、撒いていくのだ。

貴様らは死ななくてもいいから、幸運だぞ」

鉄蔵の言う事に、皆が嫌悪感を覚えた。

人間の血を集め、畑に撒くなんて。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―

捕らわれて四日目。

ついに千代姫は、決行の覚悟を決めた。

この地獄から、生きて外へ出るのだ。

千代姫は放心状態の皆の前に立った。

「よいか、皆の者。心して聞くがよい。このままでは、我らは妖怪の子供に腹を食い破られ、死ぬだけじゃ。

そうなりたいか?」

「嫌じゃ!」

「ご勘弁!」

「後生!」

皆が口を揃えて言った。

「我らに残された道は一つ、脱出しかない。

必ず成功する見込みがある分けではないが、ただ死を待つよりかは、やってみる価値がある。皆、生きて愛する家族の元に帰りたいであろう?」

「帰りたい!」

「家族に会いたい!」

皆、口々に同じような事を言った。

「茜、今日奴らが女を引き連れに入った時、脱出するぞ。準備はよいな?」

「合点です」


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―  


新右衛門、太助、直助たちは丘の上の、捕虜として連れてこられた人間たちが集まっている場所にきた。

捕虜の人間たちの首には、何やら得体の知らない首輪がつけられてあった。

宙に浮かぶ鉄板には、それぞれ十人ぐらいが乗っている。

スモイダ星人が手を触れると生体認証されて、放電されていた電流がピタッと止まった。

電流の柵がなくなっても、捕虜の人間たちは怯えている。

「そいつらを一人ずつ殺していけ。殺した奴から、血を桶に入れろ」

鉄蔵が直助に、光線剣の柄を渡した。

直助が(ぼたん)を押すと、柄から黄色の光線が出てきた。

「さあ、何を躊躇しておる?さっさとこいつらを斬っていくがい」

直助にせかす鉄蔵。

「出来ない・・・、私にはそんな恐ろしい事・・・」

人を斬った事もない直助には、出来るはずもなかった。

「臆病者め・・・」

震えている直助に代わり、鉄蔵が光線剣で人間を五人、まとめて斬った。

「助けて~!」

残りの五人は、逃げ出した。

逃げなければ、死ぬだけだ。

数十歩走った所で首輪が爆発し、地面には首と胴体が離ればなれになった死体が転がった。

死体を見て、鉄蔵は微笑んだ。

「皆の者!逃げてもムダじゃぞ!逃げれば首輪が爆発する仕掛けになっておる!」

鉄蔵は捕虜の人間たちに聞こえるよう、大声で説明した。

「さあ、血を桶に入れろ。入れたら畑にまけ」

鉄蔵に言われ、皆が死体から血を桶に入れ始めた。

入れている最中、直助は殺されてもいいからここから逃げなければダメだと固く心に誓った。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―


牢屋の女たちは規則正しく壁にもたれかかり、スモイダ星人がやってくる時間を待った。

いつも同じ時間で、牢屋の女をさらっているからだ。

待ってる間、心臓の鼓動が速くなった。

緊張してる時に足音が聞こえ、スモイダ星人の一匹が牢屋の前に姿を現した。

牢屋の横の壁に手を当てると、電流は一瞬で消えてなくなった。

入ってきたスモイダ星人は、どの女が()きがいいか、品定めをしている。

千代姫はわざとスモイダ星人に、色気目線で見つめた。

まるで、私が今一番熟れ頃なのだ、と言わんばかりに。

スモイダ星人は狙いを定め、千代姫の手をつかんだ。

千代姫を立ち上がらせ、牢屋から去ろうとするスモイダ星人。

やるなら、今だ。

千代姫は連れ去ろうとするスモイダ星人の巨体の背後に抱きつくと、目をカンザシで刺した。

目から緑色の血が流れ、スモイダ星人は耳をつんざくような雄叫びを出した。

「今じゃ、逃げやれ!」

千代姫は捕らわれの女たちに、叫んだ。

「さあ、早く!」

茜が皆を先導し、放電が途切れている隙に牢屋を脱出した。

「姫様も早く!」

茜は牢屋を振り返った。

千代姫は背後から抱きついて、まるで妖怪におんぶされているように見える。

「女と思って、ナメとんのか~?!」

スモイダ星人は乗っかっている千代姫を振りほどき、床に投げ捨てた。

千代姫は立ち上がり、電流の消えている間に逃げた。

「逃げるぞよ!」

千代姫と茜が先頭に走り、地獄からの逃避行が始まった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


お喜乃とお藤は、江戸・両国へと帰ってきた。

両国の町は、見るも無残な姿へと変貌(へんぼう)していた。

あちこちの家屋は全壊・半壊し、焼けてしまっていた。

数人と遭遇したが、皆明日からどうやって生きていけばいいのか、途方に暮れている。

「お喜乃さん、本気なのかい?、邸宅に戻るなんて!」

隣にいるお藤は、お喜乃の無謀さを非難した。

せっかく森へ逃げたのに、また町へ戻るとは。

そうまでして、夫と会いたいのか。

「ええ本気よ。夫と会うためにはそうするしか、方法がない」

お喜乃が邸宅に戻ったのは、何も夫の新右衛門と会うためばかりではない。

己の命とも呼べる琴を、置いて行ってしまったからだ。

命と引き替えにしてでも、何としても取り戻したい。

お喜乃は看板のかかっている邸宅の前まできた。

塀が壊されている以外、邸宅は無事だった。

「お喜乃さん、実家は無事だったんだねえ」

お藤も、お喜乃の実家の無事を祝った。

お喜乃は居ても立ってもいられず、土足で中へ踏み入れた。

自分の部屋に入ると、琴は無事だった。

お喜乃は愛用の琴を、ひしひしと抱きしめた。

もう絶体に、手放したりするものか。

「お喜乃さん、あんたそこまで琴を気にいってたんだねえ」

お藤はお喜乃が命同様に、琴を愛していたのか理解した。

「お藤さん、そこの押し入れに予備の琴が入っとるから出しておくんなさいな」

「ええ」

お喜乃に言われ、お藤は押し入れの戸を開けた途端、ビックリして尻餅をついた。

なんと押し入れの中には、一匹のスモイダ星人が入っていたからだ。

「ひいっ!」

心臓が止まりかけたお藤は、後退した。

身をかがめていたスモイダ星人は、ゆっくりと押し入れから体を出した。

「何が望みなの・・・?」

邸宅の狭い押し入れの中にスモイダ星人が入っていた事に、動揺を隠せないお喜乃。

完全に押し入れから出たスモイダ星人は、お藤を指差した。

「何なの、この妖怪・・・?あたしを指差して・・?

お喜乃さん、食われる前に逃げようよ」

お喜乃は体が硬直して、動けなかった。

突然、お藤が「はがうえぇぇぇ~!」と奇声を出し、のたうち回った。

「どうしたのよう、お藤さん?!」

とにかく、お藤の苦しみようは尋常ではない。

お藤は畳の上に倒れ、痙攣(けいれん)して口から泡を吹いた。

「妖怪・・・、お藤に何をしたの・・・?どういうつもり・・・?」

スモイダ星人の意図が分からないお喜乃は、次は自分が頭を狂わされるかも知れない、と感じた。

「何とか言ったらどうなの!?口があるくせに!」

お喜乃は琴を抱え、逃げ出そうとした。

「驚かせて申し訳ない。そなたに是非とも頼みたい事があって、こうやって押し入れの中で待っていたのだ」

スモイダ星人の口から出た言葉ではない。

お喜乃は隣に立っている者を見た。

いつの間にか、倒れたお藤が別人の声でしゃべっていたのだ。

「え?」

「我々は人間の言葉をしゃべる事は出来ない。だが人間の意識を操作し、言葉をしゃべらせる事は出来るのだ」

お藤の瞳は、緑色になっている。

お喜乃はようやくお藤が妖怪に操られている、と言う事に気づいた。

「妖怪、人間を操って言葉をしゃべらせる事が出来るのか?!

ならば聞こう、妖怪め。なぜ江戸を攻撃する?!」

お喜乃はスモイダ星人とお藤の両方を見た。

「残念ながら、こちらの用件だけを伝えたい。そなたに危害を加えるつもりはないから、安心して聞くがよい。我々は日本国のみならず、世界を侵略するつもりできた。

江戸はほんの手始めに過ぎぬ。しかし、私はこんな殺戮に嫌気がさした。

無益な殺生をする同胞が、許せなくなった。だから、我々の弱点を、そなたにだけ教えよう。持っている琴を、弾いてみるがよい」

「え、琴を?」

「そうだ、琴だ」

お喜乃はなぜ琴を弾かねばならんのかといぶかしみながら、弾き始めた。

弾いている内に、徐々にスモイダ星人は苦しみ始めた。

「どうしたのさ?!」

お喜乃は琴を弾く手を止めた。

「手を休めるな!我々を殺したいのではなかったのか!?」

お喜乃は苦しむスモイダ星人の様子をうかがいながらも、琴を弾き続けた。

苦しむスモイダ星人の頭部は、徐々に膨らみ始めた。

「これで理解したか?我々の脳波は日本国の琴の音に共鳴し、爆発する。もっと、弾き続けろ!」

悶え苦しむスモイダ星人が、説明した。

お喜乃がさらに弾き続けると、スモイダ星人の頭はモコモコと波打ち、破裂してしまった。

お喜乃は顔にスモイダ星人の血を、浴びてしまった。

スモイダ星人が畳に倒れると同時に、お藤も畳に倒れてしまった。

放心状態のお喜乃は、お藤が倒れて我を取り戻した。

「お藤さん!まだ妖怪に操られてるんじゃないでしょうねえ!?」

お喜乃はお藤の頬を、平手打ちした。

お藤は目を覚ました。

「ん・・・、気を失なっていたのかい・・・」

意識を取り戻したお藤は、スモイダ星人に意識を操作されていた事が記憶にない。

お藤は顔が緑色になったお喜乃を見て、悲鳴を上げた。

天井や畳には緑色の血が広がっており、頭部の破裂した妖怪が転がっているではないか。

「どうなってるんだい、お喜乃さん?!」

お藤に問われても、お喜乃は答えようとしない。

ただ、これだけは言える。

自分は、あの憎き妖怪を倒す武器を持っているという事が。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―


円盤内の通路を走る、捕らわれの女たち。

しかし、どう行けば出口なのかも分からない。

千代姫と茜は、焦り出した。

こうやってウロチョロしてる間に妖怪どもに見つかり、牢屋に連れ戻される危険性がある。

「茜、どこに行けば出られるのじゃ?!」

「私にも分かりません!」

茜と千代姫を先頭に走る女たちは、薄暗い部屋の中を進んだ。

分けの分からぬ鉄で出来た道具類が並んでいる。

「置いていかないで!」

救いを求める声を聞き、皆が周りを見回した。

なんと、その部屋には首から上だけになった女たちがしゃべっていたのだ。

どれも、妖怪の子供を産んで死んだ、と思っていた女ばかりである。

「ひえっ!」

「きゃあぁぁぁ~!」

逃げる最中の女たちは悲鳴を上げた。

さらし首同然の女がしゃべるのだから、無理もない。

その首は何かの機械に固定され、取り外す事が出来ない。

「お前たち!?なぜそのような姿に!?」

千代姫はビックリ仰天した。

「首だけなのに・・・、何故生きてしゃべれる?!」

茜が生首の女たちに聞いた。

「どうして首から下はないのに生きてられるのかは、分かりません・・・。妖怪に、かような姿にされてしまったのです!」

もはや、首だけになった椿が返答した。

「椿?!」驚く千代姫。

「奴らは私たちの体を使って何やら実験を・・・。」

別の生首の女が答えた。

妖怪の足音が聞こえる。

マズい、早く逃げねば。

「すまぬ!助けようにも、どうお前たちの首を外せばよいか、分からぬ。それに外したら、お前たちの命があるか、どうか・・・」

千代姫には首だけの女たちを見捨てて逃げるしか、選択肢が無かった。

「待って!」

「私はまだ十九なのに!」

千代姫は泣いて叫ぶ女たちを捨てて、逃げた。

千代姫と茜たちは、捜索しているスモイダ星人が入ってくる前に実験室から脱出した。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


新右衛門、直助、太助たちは日に日に殺された人間から血を集め、スモイダ星人の食料の肥料にしていた。

血を畑に撒けば、数分で芽が出て、わずか一日で収穫出来るのだ。

夕方にはスイカのような果実を収穫して、作業が終了する。

過酷な作業に反して、支給される食事はごくわずかだった。

作業に従事する者は皆、空腹を訴えたいが手を休めれば即、光線銃で焼き殺されるのだ。

汗をダラダラと流す作業者が怠けぬよう、今日もスモイダ星人は光線銃を手に監視していた。

そんな中で直助は鎌でスイカの果実を取りながら、新右衛門の隣にいた。

「旦那、太助さん、手を休めずに聞いておくんなさい」

「ん、何だ?」

「お心を確かに。今晩、脱走の計画を実行いたしやす」

「お前、本気か?!」

「しっ!声を下げて。妖怪に聞かれてもいいんですかい?」

新右衛門は黙った。

「完全に奴隷たちが寝静まった時に実行いたしやす。

よう、ございますね?」

「うむ。賭けてみるしかない」

新右衛門は鎌で刈るスピードを緩めず、直助の話を聞いた。

「こら、貴様ら!何を話していた?!」

怒り顔で、作業場を仕切っていた鉄蔵が飛んできた。

「作業中にしゃべる程、大事な話らしいな・・・」

鉄蔵は光線剣の柄を取り出すと、スイッチを入れた。

たちまち、柄から光線が伸びてきた。

「貴様らのうち、どちらかを殺してやる。さあ、どっちが先に話しかけた?!」

鉄蔵は光線剣の切っ先を、直助と新右衛門の二人に近づけた。

「お止め下さい!先に話しかけたのは、わしの方でございます!」

斬られようとする二人の前に立ちふさがり、太助が躍り出た。

「何だ、じじい、邪魔するな!」 

「斬るなら、この若造よりもわしを斬れ!わしはもう、老い先短い老いぼれだ!今さら死んでも後悔せん!」

「そうか、そんなに死にたいなら望み通りにしてやろう!」

慈悲は一切なく、一刀のもとに鉄蔵は光線剣で太助を斬り捨てた。

「思い知ったか、くそじじい・・・」

腹の虫が収まったらしく、光線を消すと鉄蔵は去った。

作業していた周辺の者が、倒れた太助のそばへ駆け寄った。

「ダメだ、じいさん!死ぬんじゃねえ!」

誰もが口々に叫んだが、太助の死は止められない。

直助は身代わりに斬られた太助の手を、しっかりと握った。

「直助さん・・・、いいんだ・・・、わしがこう望んだんだ・・・、これでゆっくり休めれるよ・・・」

握っていた太助の手の握力が弱くなっていき、ついに太助は死んだ。

「貴様ら、何を感傷的になっておる?!持ち場に戻れ!」

鉄蔵の怒号が飛ぶと、周囲のスモイダ星人が光線銃を向けた。

やるせない気持ちを抑え、各自が元の持ち場に戻り、作業を再開した。

震える直助と新右衛門は、もはや一刻も早くこの場から逃げるべきだと直感した。

ここにいても未来はなく、死しかあり得ないからだ。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

逃げる女めがけ、背後からスモイダ星人は気絶させる銃を撃った。

丸い光線が何重にも発射され、それに当たった女たちは次々に気絶し、床に倒れた。

茜と千代姫は無我夢中で走り、円盤内を駆け抜けた。

追っ手をかわすために開いている部屋に逃げ込むと、そこにはゾッとするような光景が広がっていた。

部屋にはもう死んだと見られる若い女の死体が、山のようにうず高く積み上げられていたからだ。

数百人の女の死体が、足の踏み場もない程、山盛りになっている。

女たちの腹はどれも、惨たらしく破裂していた。

どの女も、妖怪の子供を身ごもらせられ、腹を食い破られたのだ。

千代姫はその死体に混じり、死んだフリをした。

「そなたらも早く!」

茜が命令すると、女たちはすぐさま死体の仲間になり、目立たなくした。

スモイダ星人が追い付き、部屋に入る。

部屋にはゴミ同然に捨てられた女たちの死体しかない。

千代姫のすぐそばで、スモイダ星人が女たちを踏みつけて行った。

茜もじっと息を殺して、スモイダ星人が通りすぎるのを待っている。

全員の死んだフリは功を奏し、スモイダ星人は気づかずに部屋を出ていった。

逃亡している女たちはもっと遠くへ逃げたと、早合点したらしい。

千代姫は閉じていた片目を開けた。

「茜・・・」

呼ばれた茜も、片目を開けた。

千代姫は起き上がり、茜のそばに寄った。

女たちは一難が過ぎ去り、ホッと胸を撫で下ろして起き上がった。

「安心するのは、まだ早いぞ。まだ妖怪の御殿の外に出た分けではない」

千代姫は茜の手を握り、一心同体のようになって女たちを先導した。

どこへ行けば、この地獄から脱出出来るのだろうか?

死体が散らばっている部屋から抜け出し、女たちは不安な表情で出口を探した。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


今日の分の食料は収穫され、労働者たちには食事が与えられた。

焚き火を囲んで食事が済むと、就寝である。

皆が地べたに並んで寝る中で、新右衛門と直助だけは寝なかった。

新右衛門は、目を開けた。

こんな地獄からは早く逃れたいという気持ちだけが、はやる。

しかし事は慎重に進めねば、見つかって殺されるだけだ。

強制労働者を監視しているスモイダ星人は、グッスリ眠っていると思い、警戒を怠っていた。

直助と新右衛門はしゃべらず、身をかがめて就寝所から立ち去った。

高所からは、サーチライトのような物を使ってスモイダ星人が脱走者を警戒している。

「旦那、あの光に照されれれば見つかって終わりです」

「うむ、心得ておる」

二人はうまく照明光を避け、暗闇に溶け込んだ。

月は雲に隠れ、道を探すのも大変だが見えなくても行けるよう、直助は何度も往復して暗記していた。

この調子なら、なんとか脱走出来そうだ。

二人は光明を得た感じがした。

あの丘を越えれば、安全だ。

喜ぶ直助と新右衛門だったが、暗闇から何者かがフッと現れ、驚いた。

「このような夜更けに散歩か。勝手に就寝場所から出た罪は死をもって償ってもらおう」

突然に現れた人物は、鉄蔵だった。

鉄蔵は柄を出すと、光線剣を出した。

「二人まとめて、あの世に送ってやる!」

鉄蔵は逃げようとする、直助を斬った。

「ぐえぇぇぇ!」

倒れた直助を踏んで、鉄蔵は新右衛門に近づいた。

「逃げようとしてもムダだ。観念するがいい」

じわりじわり、と詰め寄る鉄蔵。

新右衛門は後ずさりをして、逃げ出す契機を伺っている。

「頼む、見逃してくれ!」

「問答無用!」

光線剣を振り上げ、新右衛門を斬ろうとした鉄蔵の足が止まった。

前に進めなくなった鉄蔵は、足元を見た。

足元には死んだと思っていた直助が最期の気力を振り絞り、鉄蔵の足首をつかんでいたのだ。

「旦那・・・、早く・・・」

新右衛門は恐ろしくなり、直助を残して一目散に逃げ出した。

「この、くたばり損いめ!」

鉄蔵は光線剣で、つかんでいる直助の腕を切断した。

ついに直助の意識は遠のき、息絶えた。

鉄蔵が周囲を見渡すと、新右衛門は見えなくなってしまっていた。

鉄蔵は手を振って、仲間のスモイダ星人に脱走者の逃げた方向を教えた。

数匹のスモイダ星人が光線銃を持ち、脱走した新右衛門を捜索しに森へ入って行った。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


円盤内で女たちを発見出来ないスモイダ星人は、外へ逃げたと早合点し、唯一外へ通じる扉を開けた。

ステップを降り、数匹のスモイダ星人は外の地面に足を着けた。

手には光線銃を持ち、周辺の森を捜索している。

女たちがこの森へ逃げたと、勘違いしているのだ。


     ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


前がろくに見えない状況に関わらず、新右衛門は走りまくった。

後方からは、妖怪たちが走って追いかけてくる足音が響いている。

このままでは、追いつかれてしまう。

出し抜けに、新右衛門は前方にある大木に、頭をぶつけてしまった。

暗くて、前がよく見えなかったのだ。

早くしないと、追いつかれてしまうのは足音で分かる。

新右衛門は一計を案じ、木に登り始めた。

木登りは得意ではないが、今はそんな事言っていられる場合ではない。

ようやく登りきり、下を見た。

スモイダ星人たちが、上に新右衛門がいるとは知らずに駆けていく。

新右衛門は、安堵のため息をついた。

夜が明けるまで、この大木の上にいた方が安全だ。

日が登ったら降りて、妖怪のいない場所経行くしかないー。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


千代姫と茜を筆頭に逃げる女たちはまだ、円盤内で迷っている。

「あっ、姫!あれを!」

茜が指差すと、皆が指差している方向を見た。

妖怪の船から外へ出る扉が、開かれているではないか!

女たちには、希望の光が見えた感じがした。

一列になってステップを降り、円盤から外へ二十人の女たちが脱走に成功した。

しかし、これで逃げ切れた分けではない。

まだ円盤の周囲の森には、遠くには行っていないスモイダ星人が数匹いるのだ。

ワッと逃げ出す女たちを、まだ捜索中のスモイダ星人が気づいた。

幾人かは、スモイダ星人に捕らえられた。

スモイダ星人に腕を捕まれた女たちは、物凄い握力で腕の骨が骨折してしまった。

逃げようと、(あらが)えるものではない。

まだ捕まっていない女たちは、バラバラになって森を駆け抜けた。

固まって逃げるよりかは、妖怪に捕まる可能性が低いと思ったのだ。

茜と千代姫は、二人一緒に走っている。

何も食べておらず、走る気力も出ないが、今止まればまた地獄に引き戻されてしまう。

生きたければ、走るしかない。

逃げる女たちめがけ、スモイダ星人は光線銃を発射した。

もはや連れ戻す気はなく、殺す気なのだ。

次々にビームに当たり、女たちは焦げた骸骨になって森に散らばった。

まだ生き残って逃走中の女は、茜と千代姫の二人きりになってしまった。

逃げる茜めがけ、スモイダ星人が光線銃を放った。

光線は曲がりくねりながらも、茜に迫ってきている。

茜は光線が体に当たる直前で、身をかがめた。

光線は茜の体を直撃しなかったが、肩に当たった。

「あうっ!」

茜は草むらに倒れた。

肩が焼けるように痛い。

ものすごい激痛だ。

「うぐわあぁぁぁ~!」

茜は痛みに耐えきれず、叫んだ。

「茜!?」

千代姫は茜の悲鳴に気づき、引き返した。

千代姫は木の陰に隠れ、様子を伺った。

助けに行きたいが、今出て行けば二人とも殺されてしまうだけだ

スモイダ星人は隠れた二人を探して、草むらを進んでいる。

千代姫はそばにあった石ころをつかんだ。

妖怪の頭をかちわるには、手頃な大きさだ。

息を潜め、千代姫はスモイダ星人が近くまで通るのを待った。

木のそばまで来たのが、足音で分かる。

さんざん江戸の女を、もてあそんでくれた礼だ。

千代姫はワッと木陰から飛び出すと、スモイダ星人の前に躍り出た。

「妖怪め~、死ねえぇぇぇ!」

不意をついて、千代姫は拳大の石ころでスモイダ星人の頭を強打した。

一発では倒れない。

二発、三発、四発、と石ころで殴りまくった。

スモイダ星人の頭から緑色の血が噴き出し、地面に倒れた。

まだ生きているのかも知れない。

今度はもっと大きな石で、それをスモイダ星人の頭に落とした。

鈍い音が辺りに響くと、スモイダ星人の頭は潰されてしまった。

千代姫は放心状態になり、その場にうずくまった。

何とか妖怪を、倒す事が出来たのだ。

うつろな目の千代姫は、茜が地面に倒れているのを見つけた。

「茜、しっかり!」

茜は激痛で、うめき声を出している。

重傷の茜を置いて逃げるなど、出来るものか。

仲間のスモイダ星人が、近づいてきた。

徒手空拳で勝てる望みはない。

千代姫は茜の口をふさぎ、草むらに隠れた。

痛みで茜の体が、小刻みに震えているのを感じる。

スモイダ星人は周辺を歩き回ったが、結局二人を発見出来ずにあきらめて帰ってしまった。

もう遠くへ逃げたと、勘違いしたのだ。

千代姫は気絶した茜を背負い、ひたすら森を歩き続けた。

どの方角に行けばいいのかも、分からない。

しかしじっとしているよりか、歩いている方が助けてくれる者に会う可能性があるのだ。

千代姫はそのわずかな可能性に、賭けるしかなかった。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―







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