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江戸戦場  作者: かわむら
6/9

反撃

江戸柳生下屋敷。

全国から流れ者の浪人が武功目当てに集まり、押すな押すなとあふれ返っている状況である。

屋敷に着いた茜は、浪人ふぜいにジロジロと見られた。

「私は見世物小屋の猿と同じですね」

「そう申すな。ここは女はお前一人しかおらん。奇異な目で見られても仕方あるまい」

庭を進む茜、十兵衛の前に握り飯を食べている太った浪人が立ち塞がった。

「やい、ここは女の出入りする所じゃねえんだ。とっとと帰んな」

茜はその浪人を、じっと見据えた。

「貴様、姉上に向かって!」

怒った又十郎が刀に手をかけたが、十兵衛が制止した。

「これは妹の茜と申す者。わしらの力だけでは妖怪退治も叶わなく、私が是非とも里から呼び寄せた。何か、御不満かな?」

「女がおる事自体、間違っておる。妹を死なせたくなければ、里に帰すこった」

又十郎がまた一歩踏み出したが、今度は兵庫ノ助が制止させた。

「では、こう致しましょう。そこもとが妹の茜と木刀で勝負し、勝ったならば潔く妹は里に帰します。

逆にそこもとが妹に負けたならば、屋敷より去って頂きます」

十兵衛の提案に茜が、「面白い!」と声を上げた。

周辺の浪人たちも、「面白え、やっちまえ!」とけしかけた。

もはや太った浪人と茜との全面対決は、避けられない格好になってしまった。

   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「では、勝負!」

審判の左門の合図で、茜と太った浪人は立ち上がった。

太った浪人は木刀を構えると、「それがし、作州浪人、田島安兵衛」と名乗りを上げた。

「女でも、一切手加減いたさぬ」

茜も、木刀を構える。

「柳生茜が相手。参る!」

取り囲んでいる浪人たちは、男対女の異色の対決に見入った。

誰もが、体格のゴツい浪人の方が勝つと思い込んでいるのだ。

茜はダッシュして、浪人の肩を狙った。

木刀は肩に、ほんの軽く当たった。

茜が手加減して、肩に当てたのだ。

真剣ならば、致命傷にはならないが、傷を負わせていただろう。

一本取られた浪人は、憤慨した。

茜の動きが、予想以上に速かったのだ。

女に負ければ、浪人衆に赤っ恥をさらすのは目に見えている。

「ぬうおお~!」

茜に向かって突きを入れたが、茜は微動しただけでかわし、浪人の腕を狙った。

木刀は腕に当たり、痛みで浪人は木刀を落としてしまった。

観戦している浪人衆は、茫然とした。

この茜という女は、女にしておくのはもったいないぐらいの力量を持っているからだ。

木刀を拾おうとする浪人の脳天目がけ、茜は木刀を振り下ろした。

木刀は浪人の脳天寸前で止まった。

「勝負あり!」

左門が判定を下すと、茜は木刀をしまい、一礼して下がった。

田島安兵衛は硬直したままである。

茜はさっぱりした顔で、十兵衛のもとに帰った。

「さすがは我が妹よ。そなたが負けるはずがないと、確信しておった」

「兄上もお人が悪い」

その場から去る茜と十兵衛。

「約束通り、柳生邸から退出していただこうか」

左門は、田島安兵衛に歩み寄った。

しかし女に負けて屈辱をさらした田島安兵衛の怒りは収まらない。

笑い者にされた礼を返すため、頭に血が昇った田島安兵衛は笑っている浪人の一人から隙をついて刀を奪い取った。

真剣を抜くと、背を見せている茜に斬りかかった。

「このアマ!」

茜は振り返り、木刀で真剣を弾き返した。

十兵衛は妹の危機に、余裕の態度で傍観している。

今度は茜が振り下ろしたが、かわされてしまった。

田島安兵衛は頭に血が昇り過ぎ、勝つことばかりに気をとられ、茜の冷静な動きについてこれなかった。

踏み出した田島安兵衛の懐に、茜は飛び込んだ。

近すぎて木刀で殴れないが、茜は木刀で田島安兵衛のアゴを強打した。

田島安兵衛はひっくり返り、頭を地面に打って昏睡状態になった。

「左門、又十郎、この男を屋敷から捨てておいで」

「はい!」

茜の指示に従い、左門と又十郎は田島安兵衛を道端に捨てに行った。

十兵衛は息の上がった茜の肩に手を置いた。

「余興が大変だったな、茜」

「いえ、それほどでも。いい汗をかく運動になったと思っております」

   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

兵庫ノ助、茜、伝之助は屋敷の奥の座敷に通された。

「長旅で疲れたろう。今日はゆっくり休んで静養するがよい」

座布団の上に正座した、柳生但馬守が言った。

「父上、そうもいきませぬ。我らははるばる柳生の里から、戦いの助勢に参ったのです。

明日にでも、その桃色の妖怪と一戦交えたく、血気にはやっておるのです。」

茜には戦いよりも、妖怪を見てみたいという好奇心もあった。

「ではその方らに、妖怪の説明をしておかなければなるまい」

柳生但馬守が又十郎に合図した。

又十郎は茜、兵庫ノ助、伝之助に描かれた妖怪の絵図を見せた。

「これが、人さらいの妖怪の絵です」

茜、兵庫ノ助、伝之助は身を乗り出してその絵を眺めた。

これが、妖怪というものなのか?

「してその妖怪、不死身なのですか?」

茜が十兵衛に問う。

「不死身ではないらしい。そのうちの一匹が刀で刺され、何やら緑色の血のような物を流して死んだとの報告が上がっておる」

「血が出るのなら、殺せるな」と兵庫ノ助。

「殺せる事は殺せるが、手ごわい奴らどもじゃ。鉄砲らしき物も持っておる。

その鉄砲の弾に当たれば、肉も衣服も焼け、骨だけになるのじゃ」と柳生但馬守。

「骨だけに・・・?奇怪な鉄砲ですね」

茜がそう言った時、何やら門の方からワイワイと騒ぐ声が聞こえた。

「通せ!」

「なりませぬ!」

「ええい、通せと申すに!」

言い争っている声の主は何者かと、十兵衛たちは柳生邸の門へ行った。

「何の騒ぎじゃ?」

十兵衛は若い女が叫んでいるのを見た。

その若い女は振り向いた。

駿府に避難したはずの徳川家綱の息女、千代姫だった。

十兵衛の顔を見た千代姫は、笑顔を出した。

「姫君、何ゆえにこんな場所に・・・?」

「決まっておるであろう。わらわは十兵衛らと共に、妖怪退治に繰り出すがためよ」

「それは無理でございます。ここは姫君のいるような場所ではありません。それに姫に何かあってはこの十兵衛、上様に合わせる顔がありませぬ」

「十兵衛、これは命令じゃ。わらわを姫と思うな、女と思うな。

兵士として、思う存分使ってくれるがいい」

「姫、何を申されますのじゃ。妖怪と戦うには我ら柳生勢二百で十分にございます」

「その妖怪とやらに、手込めにされ、ホウホウのていで逃げ出したのはそなた率いる柳生ではないか」

「今からでも遅くはありません。茜をお供させましょう。戻るのです」

「十兵衛、何度も同じ事を言わせるな。わらわは戻らぬぞ」

「死ぬ事になりましても、妖怪と戦うお覚悟がおありなのですか?」

「無論、我が命に替えても江戸を守りぬく所存じゃ」

「力ずくでも引き戻させて見せますぞ」

十兵衛が千代姫の腕をつかもうとした。

その瞬間千代姫は短刀を取り出し、刃を首につけた。

「断るなら、この場で首かっ斬って死のうぞ」

千代姫のそばにいた者は恐れをなし、遠ざかった。

十兵衛は千代姫の瞳を見つめた。

揺るぎがたい決心が、うかがえる。

この小娘に何を言ってもムダなだけだ。

「もうこの十兵衛、何も申しませぬ。姫、御一緒に妖怪を退治しに参りましょうぞ」

   ― ― ― ― ― ― ― ―

「旦那様、旦那様、しっかりして下さい」

名取新右衛門は直助に揺すぶられて、目を覚ました。

ゆっくりまぶたを開くと、直助や見知らぬ者たちが顔をのぞき混んでいるではないか。

意識が戻っても、新右衛門はしばらく何も言えなかった。

どうしてここに?何が起こったのだ?

新右衛門は妖怪に殴られ、気絶したのを思い出した。

そして、お喜乃とはぐれてしまった事も。

目が覚めても、地獄の状況は何一つ変わっていない。

新右衛門は、上半身を起こした。

「まだ横になっていた方がいいですぞ」

一緒に捕らえられた老人・太助がしゃべった。

新右衛門は攻撃を仕掛けた全員が、スモイダ星人の捕虜になっている事を理解した。

他にも江戸の町人が大勢、捕虜となっている。

周りを見ると、天井や壁は雷のような光が縦横に走り、牢屋の様に格子状になっている。

床は鉄で出来ていて、畳六畳分の広さだ。

周囲の景色がゆっくりとだが、動いている。

新右衛門には、今自分がいる全体像がつかめた。

自分を含め、ここにいる全員が妖怪に生け捕られ、連行されておるのだ。

鉄の床は板状になっており、地面から浮いている。

誰も引っ張る者がいないのに、意思を持っているかのように動いているのだ。

「どういう仕組みで動いておるのじゃ、この鉄の床は・・・」

新右衛門には不可解に感じた。

これも妖怪の持つ妖術のなせる技なのか・・・。

「こんな所にいてたまるか!」

新右衛門は立ち上がり、この移動式の牢屋から出ようとした。

皆が新右衛門の腕をつかみ、脱出を試みるのを止めさせた。

「お侍さん、やめた方がええ!あの光に触れると死ぬんじゃ!」

「もう何人かが、格子状の光に触れて死んでおるんです!」

新右衛門と一緒に連行されている、旅姿の男二人がしゃべった。

そいつらもスモイダ星人に生け捕りにされた、鉄蔵と五平である。

息をはずませていた新右衛門は冷静さを取り戻し、鉄の床に座った。

新右衛門が大人しくなると、立っていた全員が床に腰を下ろした。

改めて、新右衛門は捕らえられている全員を見た。

自分たちだけでなく、周囲の道には人間たちが生け捕りにされて、沢山の鉄の板に乗せられて運ばれて行っている。

鉄の板の周囲には、逃げられないよう、電流が格子状に流れている。

列の先端には、宙に浮かぶ鉄の板にスモイダ星人が乗っている。

当然だが、スモイダ星人の乗る板には、電流は流れていない。

「妖怪の奴ら、わしらを殺さずにどこへ連れていく気じゃ・・・?」

「奴隷にするつもりなのかも知れませんなあ・・・」

新右衛門のつぶやきに、太助が答えた。

「奴ら、人間を牛や馬のようにこき使うつもりかも」と鉄蔵。

「冗談じゃねえ、妖怪の家畜になるなんてよ」と五平。

誰もがこの先の運命に、言いようのない不安を覚えた。

   ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「鉄砲が到着しましたぞ!」

又十郎の声に、座敷にいた十兵衛、左門、茜は急いで庭に出てきた。

そにには木箱が搭載されている大八車が、十台到着していた。

大八車を押してきた人足たちは皆、疲れ切った顔である。

急いで木箱を開けると、火縄銃、火薬、銃弾が入っていた。

「しめて百五十丁、鉄砲が届いております!」

又十郎が嬉しそうに、叫んだ。

「これで、我らも妖怪どもに太刀打ち出来ようぞ」

柳生但馬守は、木箱から鉄砲を取り出した。

「十兵衛、茜、兵庫ノ助、準備は万全に整った。裏庭にいる者ども全員に伝えよ。総攻撃は明日、とな」

    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

名取新右衛門、直助を始め、捕らえられた江戸の町人は江戸郊外の荒れ地まで連行された。

見渡す限り、だだっ広いだけの何もない土地である。

「こんな僻地(へきち)まで連れてきて、何をするつもりなんじゃ~?!」

鉄蔵が不安がる。

急に乗っている鉄の板が、停止した。

スモイダ星人が鉄の板に触ると、今までバチバチ!と音を立てていた電流は消えてしまった。

スモイダ星人は手で降りろ、と合図してきた。

「妖怪め、降りろって言うのか?」

五平はスモイダ星人の口の裂けた顔を見て、吐き気をもよおした。

全員が降りて、地面の上に立った。

地面に降りたのは新右衛門、直助たちばかりではない。

江戸中からさらって来た男たちが、百数十人ぐらいが一斉に地面に並んだのだ。

「こんな人数集めてどうするんじゃ~?」

「食われるんじゃねえのか?」

「そうだ、そうに違えねえ」

「五臓六腑を引きずり出されるんじゃ~!」

「脳ミソをいじくられるに決まってる!」

皆、口々にどうなるかを予想している。

新右衛門も直助も、殺されるのかと考えると脂汗がにじみ出た。

野原に一ヶ所に集められた捕虜の前に、一匹のスモイダ星人が歩み出た。

そのスモイダ星人がどんどん近づく度、全員が足を後退させた。

スモイダ星人は歩くのをやめると、腕を前に出してきた。

皆、スモイダ星人が次に何をするのか、見当もつかない。

スモイダ星人の指は、三本しかない。

三本のうちの一本が、鉄蔵を指差した。

「鉄蔵さん、あんたを指差しとるんと違うか?」と太助。

「妖怪に指名されとるんじゃないか」と五平。

「何で、おいらが?」

首をかしげる鉄蔵は、突然頭を抱えて苦しみ出した。

頭の中から、キーンという金属音が鳴り響いているのだ。

「うぐぇぇぇ!」

鉄蔵は地面に倒れ、頭を押さえて七転八倒している。

とにかく、ものすごい苦しみようだ。

「どうしたってんだよ、鉄蔵さん!?」

五平はしゃがみ込んで、鉄蔵の顔をのぞき込んだ。

鉄蔵の目は白目になっており、息がまともに出来ていない。

あれほど苦しみもがいて鉄蔵が、ピクリとも動かなくなった。

「おい、どうしたんだ?」

周囲にいる者たちが、鉄蔵に群がった。

突如気を失った鉄蔵が意識を取り戻し、立ち上がった。

「良かった、鉄蔵さん!死んだかと思ったぜ!」

目を開けた鉄蔵の目は、赤色になっていた。

皆が鉄蔵の目を見て、悲鳴を上げた。

「騒ぐな、下賤(げせん)の者どもよ。貴様らは我々の支配下にある。生かすも殺すも、我々次第」

鉄蔵の声色ではないが、しゃべっているのは鉄蔵だ。

「何だよ、分けの分からん事を!妖怪に頭を狂わされたのか!?」

「黙れ、下等生物が!」

近づく五平を、鉄蔵は殴った。

五平は気絶し、地面に倒れた。

鉄蔵は妖怪に頭を洗脳された、と誰もが思い込んだ。

「貴様らを殺さずにここに連れてきた理由を説明してやろう。貴様らは我々の食料を育て、刈り入れるのだ」

スモイダ星人に洗脳されてしまった鉄蔵は、野原の一点を指差した。

「あの赤い(つた)がみえるか?あれが我々の食料じゃ」

鉄蔵の言う通り、赤い蔦のような植物が、地面から育っていた。

その赤いツタには、赤くて丸い果実が、いくつもぶら下がっていた。

まるで、赤いスイカだ。

鉄蔵は赤いツタまで歩くと、その内の赤いスイカを取って、皆に見せた。

「この実を集めるのが、お前らの仕事じゃ」

鉄蔵は赤いスイカを、放り投げた。

赤いスイカがコロコロと転がり、直助の足元に当たって止まった。

「貴様らはまず、この土地を開墾し、種をまく。そして肥料をまき、芽をいぶかせる。

実が熟れたら、収穫する。指示はすべてこの私が出す。

命令に従わず逃げる者は、容赦なく殺す。

種はあの箱に入っておる。地面を耕す道具は、揃えてある。早速、耕しにかかるが良い」

鉄蔵が言い終わると、皆がざわついた。

「わしらは妖怪の食料を収穫するために、連れてこられたのかよ?」

「妖怪の言いなりには、ならん!」

「腕ずくでやらせてみろ!」

どうやら、捕虜たちは強制労働に反対のようだ。

スモイダ星人たちは、反対する連中に光線銃を向けた。

銃から青色のビームが発射され、反対勢力の者は皆、一瞬で骨だけになった。

周りには、焦げた臭いを放つ骸骨の山が出来た。

「死にたければ、好きにするが良い。断るなら、待っているのは死しかない」

冷酷にも、鉄蔵は行ってのけた。

残りの者は皆、妖怪の命令通りに動くしか助かる道はなかった。

  

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


十兵衛と茜は、裏庭まで歩いた。

柳生勢に、攻撃の決定の開始を伝えるためにだ。

「親父の命令が出た。明日明朝、我々柳生勢二百と浪人たちとで、妖怪どもを迎え撃つ」

十兵衛が言うと、皆が「お~!」と歓声を上げた。

「いよいよ、決戦でござりますね」

左門が嬉しそうに笑った。

「しかし十兵衛兄ぃ、妖怪を倒すには我ら柳生だけで十分でございます。浪人どもの手を借りると言うのは納得いきません」

「浪人どもは合戦にうまく利用するのじゃ。妖怪どもは奇怪な鉄砲を所持しておる。

まず血気にはやる浪人勢に先陣を切らせ、骨だけにされた頃合いを見計らい、柳生が斬り込む。そういう算段じゃ」

「なるほど、浪人どもは使い捨てですね」

「十兵衛兄ぃ、私も!」

又十郎が意気込む。

「お前は本陣に残り、司令塔になって後続隊に指図しろ」

十兵衛ははやる又十郎を、思いとどまらせた。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

寺の地下での2日目の夜・・・。

音を立ててはいけない生活にも、少しは慣れた。

昼間寝すぎたせいで、誰もが暗闇でも目がパッチリと開いている。

「お喜乃さん・・・」

隣のお藤がヒソヒソと、話しかけてきた。

「なんだい?」

「外からは音がしないけど、もうよそへ行ってしまったんじゃないのかい?」

「かも知れないねえ」

「誰かが外へ出て確かめるしか・・・」

お藤がそう言った途端、暗闇にも関わらず、皆がお藤の方を見た。

そんな勇気のある奴など、誰もいない。

「もし見つかったら、どうするんだい?」

「でも確かめなきゃ。いつまでも、こんな穴蔵にいるつもりかい?」

「そんなに確かめたければ、お前が行け」

お藤の隣にいる町人が言った。

「そーだよ、あんたが行きなよ」

「そーだ、そーだ」

皆が外に出るのはお藤がいいと、連呼した。

お藤はしぶしぶ階段を上がり、床の扉を開けた。

お堂の中は、真っ暗で静まり返っている。

お藤は扉を開けて、堂宇の外に出てみた。

月明かりぐらいしか視覚の頼りになるものがなく、手探り状態でお藤は周囲を歩いた。

あまり遠くに行きすぎると、帰り道が分からなくなる。

お藤はほどほどに周囲の捜索をやめると、堂宇に戻った。

扉ではお喜乃やその他大勢が、

固唾を飲んで帰りを待っていた。

「大丈夫だよ、周りには妖怪はいないよ」

「じゃあ、ここから脱出しようぜ」

数人が堂宇から出ようとした。

「待ちなよ、出るのは朝になってからにおし。今出て行ったら、危険だよ」

お喜乃は出ようとする連中を、制止した。

「お喜乃さんの言う通りじゃ。

日が昇るまで、地下豪に戻った方がええ」

坊さんが皆を床下に戻そうとした時、何者かが坊さんの首をつかんだ。

「うぐえええ!」

一瞬で坊さんの首の骨はへし折られ、床に倒れた。

皆、暗くて誰が坊さんの首の骨を折ったのか、分からなかった。

月光がそいつを照らし、判別した。

世間を騒がす、桃色の妖怪だ。

お喜乃はスモイダ星人が、お藤の後をつけてきたのだと、瞬時に理解した。

「わあぁぁあ!」

「ひええぇぇ!」

全員が一目散に、逃げ出した。

五人はからくも、堂宇の外に出るのに成功した。

堂宇に残っているのは、お喜乃とお藤だけだ。

「たたた助けて~!」

腰が抜けたお藤は、床を這ってスモイダ星人から逃げようとした。

お喜乃は逃げようとしない。

恨み重なる妖怪には逃げるのではなく、一矢報いたかった。

お喜乃は堂宇にあった刀をつかむと、無我夢中でスモイダ星人を打ち続けた。

手加減をするつもりはなかった。

「くたばれ~、化け物~!」

ついにスモイダ星人の頭部から、緑色の血が噴出した。

お喜乃の顔は、返り血で緑色に染まった。

それでもお喜乃は打つ手を休めず、殴り続けた。

噴水のように勢いよく出た緑色の血が止まると、スモイダ星人はピクリとも動かなくなった。

これで、お喜乃の腹は決まった。

こんな薄汚い穴蔵で、いつまでもコソコソ隠れているものか。

生きて必ず、夫の新右衛文門と直助に会うのだ。

「お喜乃さん、どこへ行くんだい?!」

「生まれ育った生家に戻りに」

「気は確かかい?!妖怪がウロウロしてるって言うのに!」

お藤がどうこう言おうと、お喜乃は帰るつもりだった。

名取邸に戻れば、夫に会えるかも知れない。

逆に、夫も同じ事を考えているはずだ。

妻に会うには、自宅に戻るしかないと・・・。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―


スモイダ星人と柳生一族との決戦前夜・・・。

皆が明日の決戦に向け、用意周到に準備していた。

明日は妖怪を撃滅し、勇猛果敢な柳生の名を天下にとどろかせる、と皆意気込んでいる。

そんな最中、茜は又十郎から兄の十兵衛が呼んでいる、との知らせを聞いた。

「十兵衛兄さま、お呼びでございましょうか?」

縁側に片ヒザを落としてしゃがみ、茜は兄を見た。

妹に背を見せている十兵衛は、満月を見ている。

「姫が駿府にお戻りあそばさぬ事は、そなたも存じておろう」

「はっ、姫のご決心、山のごとき揺るぎがたい物とこの茜、見受けました」

「明日は姫も我々と共に、戦いなさる。その真摯な心がけ、この十兵衛でさえも止める気にはなれんかった。

よいか茜、常に姫の息のかかる所におり、己が命に替えても姫を守るのじゃ」

「はっ、この茜、身命を賭してでも姫の(おん)命を守ります」

茜はしゃがんだまま、頭を下げた。

「うむ、任せたぞ。下がってよい」

終始、茜に背を向けていた十兵衛は、足音で茜が去ったのを感じた。


    ― ― ― ― ― ― ― ― ―

翌朝。柳生勢二百と浪人勢三百が、柳生邸から出発した。

目指すはスモイダ星人の円盤が着陸した雑木林一帯だ。

先頭には柳生但馬守、柳生十兵衛、柳生左門の三人が馬に乗って誘導している。

雑木林に着くと、柳生但馬守は手を上げ、列を停止させた。

雑木林の手前の草原には、巨大なスモイダ星人の円盤があるだけではない。

草原にはスモイダ星人の大軍団が、人間の襲撃を待ち受けていたかのように並んでいたのだ。

「あれが、妖怪か・・・」

草原の浪人勢は奇怪なるスモイダ星人の姿を見て、ざわめき立った。

柳生勢も妖怪ごときに負けてなるものか、と全員の士気は上がっている。

たすき掛けをしている千代姫はこれからいくさが始まるのか、と思うと身震いした。

千代姫は横目でチラッと、後方を見た。

斜め後ろには、茜が刀の柄に手をかけ、いつでも抜刀出来る体勢だ。

「茜、そちは下がっておれ」

「なりませぬ。いつ何時も姫様のおそばにいるよう、兄上からの命令にございます」

「チッ、十兵衛め、余計な事を・・・」

自分を子供扱いする十兵衛には、腹が立った。

「茜、決戦が始まれば、そちの援護など不要になるという事を見せてやろう」

「随分と剣の腕に自信がおありのようですね、姫様。

ですが、ご安心下さい。姫にはこの柳生茜の名にかけて、妖怪に指一本触れさせはいたしませぬ」

「大した自信じゃのう、茜」

   

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

馬に乗った柳生十兵衛は、草原に横一列に並んだ柳生勢の前を駆けて行った。

これから柳生一族の歴史にとどまる、一大決戦が始まろうとしているのだ。

「これより我ら、柳生の真価が問われるであろう一世一代の戦いに突入する!」

柳生の志士たちの勇む心を鼓舞するために、十兵衛は戦いの前の訓示を始めた。

「この戦い、源平の頃からの昔ながらの合戦とは一味違い、日本合戦史上、異色の戦いとなろう!我らの相手は同じ人間ではなく、妖怪である!

まだ妖怪の弱点すら分かっておらず、奴らの手の内も不明である!だが我々は妖怪を恐れない!死を恐れない!

必ずや妖怪を撃滅し、日本国を奴らの魔手から奪回するのだ!

日頃から鍛えた剣の腕を今日は存分にふるえ!天下に柳生の名を響かせるのだ!」

十兵衛が刀を高く上げると、柳生勢も「おお~!」と刀を天高く上げた。

   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「鉄砲隊に準備させろ」

柳生但馬守が左門に言うと、左門は馬を駆けて鉄砲を持つ浪人たちへ向かった。

「鉄砲隊、前へ~!」

左門が叫ぶと、鉄砲を担いだ浪人たちが前へ進み出た。

「構え~!」

鉄砲隊の半数がしゃがみ、発砲する準備を始めた。

残りの半数は間隔を開けて、途切れずに撃つためだ。

「放て~!」

左門の号令で、鉄砲隊第一波は一斉に発砲した。

鉄砲玉は勢いよく、スモイダ星人の大軍団に飛んでいく。

スモイダ星人は、物体を通さぬバリアーの操作ボタンを押した。

するとバリアーは天空から地面に広がり、スモイダ星人の大軍団を取り囲んだ。

「何じゃ、あれは~!?」

柳生の者は皆、妖怪どもがシャボン玉に包まれたのかと思った。

半透明のバリアーは一発の銃弾も通さず、跳ね返した。

「何を驚いておる!もう一度!」

左門は準備している、もう半数の鉄砲隊に命令した。

後方にいた第二波は、いつでも発砲出来る態勢になった。

「放て~!」

撃っても虚しく、銃弾はさっきと同様、バリアーに跳ね返された。

「おのれ、妖怪め、妖術を使いおって!」

怒る千代姫は、バリアーに守られているスモイダ星人が今度は得体の知れない大砲のような物を運んできたのを見た。

「あ、あれは大砲じゃ!」

皆が、大砲だと叫んだ。

大砲と言っても車輪はなく、砲座が地面に浮いているのだ。

宙に浮かぶ大砲、である。

スモイダ星人たちは数十門ある宙に浮かぶ大砲を、一斉に砲撃した。

大砲からのプラズマ弾はバリアーを通過し、浪人勢に飛んでいく。

バリアーは外からの物体は通さないが、内側からは通過出来るのだ。 

プラズマ弾が着弾し、数人がフッ飛ばされた。

たちまち、悲鳴があちらこちらから聞こえる。

バリアー内から、次々にプラズマ弾が連続で飛んできた。

飛来するプラズマ弾を避けようと、全員が散り散りになった。

それでも、数十人が爆風で吹き飛ばされた。

半死半生の姿になった浪人たちが、草原に散らばった。

「おのれらの好き勝手にさせるものか~!」

抜刀した千代姫は走って、スモイダ星人に突進して行った。

「姫、お待ちを!」

千代姫に遅れじと、茜も走った。

柳生勢と浪人勢は走って、スモイダ星人に突進した。

スモイダ星人もバリアーを消し、人間どもに向かって行く。

人間とスモイダ星人との、大乱闘になった。

しかし刀で応戦する人間よりも、光線銃を持つスモイダ星人の方が優勢だ。

草原には、骨だけにされた酷い死体だらけになった。

そんな中、千代姫は曲がりながら迫る光線をうまくよけ、スモイダ星人に突進した。

走りつつ、見事にスモイダ星人たちを斬り殺していく。

茜は走り回る千代姫を、夢中で追いかけた。 

草原は光線が辺りを焦がし、砂塵で前がうまく見えない状況だ。

「姫様?!」

茜は砂塵でうまく目が開けられず、姫を見失ってしまった。

「どこに行かれたのですか、千代姫様!?」

叫ぶ茜の周りは、砂塵でモウモウとしている。

鼻と口を覆う茜は、突如目の前にスモイダ星人が現れたのを見て驚いた。

砂塵で前方がよく見えなかったからだ。

至近距離から、スモイダ星人は茜を捕らえようとしてきた。

「きええーい!」

茜は咄嗟に、スモイダ星人を斬り殺した。

スモイダ星人は、地面に倒れた。

意外に妖怪を倒すのは簡単だと、茜は自信をつけた。

後ろに誰かいるのが、気配で分かった。

茜が振り向くと、後ろにいたのは味方の柳生ではなく、スモイダ星人だった。

スモイダ星人は茜を殺そうとせず、両腕で茜を抱えこむと、

持ち上げた。

宙に持ち上げられた茜は、間近でスモイダ星人の桃色の顔を見た。

目や牙の生えている口はあるのに、鼻がない。

「汚え顔近づけるな、妖怪!」

茜は握り拳で、スモイダ星人の顔を殴った。

刀を使うには、近すぎるからだ。

スモイダ星人の顔はのけ反り、茜から手を放した。

地面に転がる茜。

すぐに起き上がると、茜は突進してスモイダ星人を斬り殺した。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


草原の小高い丘の上では、司令管である柳生但馬守と次男の柳生左門が戦況を見守っていた。

柳生但馬守は遠メガネと呼ばれる、筒型の望遠鏡で合戦の行方を見た。

今の所、戦いは妖怪の方が優勢だ。

奴らの銃の威力は凄まじい。

「親父殿、いかがです、合戦の様子は?」

「見る限りは、妖怪の方が上じゃ」

「退却のお考えは?」

「ならぬ!二度も退却は許されん!今度こそは、妖怪の息の根を止めるのだ!」

柳生但馬守はいきなり馬に乗ると、本陣から戦場へ向かった。

「父上、指揮者が前線へ向かってはなりませぬ!」

左門は馬に乗って、父を追いかけた。

「父上にもしもの事あらば、誰がこの合戦の指揮を取るのです!?」 

「左門、貴様が取れ!関ヶ原以来の合戦で、このわしの血が騒いできよったわ!」

馬で戦地に向かう父親のため、左門も必死で馬で追った。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

刀を抜いて突っ込んできた浪人たちを、スモイダ星人は光線銃で骨だけにしていく。

「こっちへきたぞ!」

柳生十兵衛は、スモイダ星人の銃の光線が飛んできたのを見た。

十兵衛と兵庫ノ助はうまくかわしたが、柳生伝之助はまともに光線に当たった。

伝之助は腹から肉が溶けて骨だけになり、地面に倒れた。

「そんなあ、お頭?!」

もはや骨だけになった伝之助の遺骨を拾い、小四郎は涙を流した。

柳生十兵衛は光線を避けるために地面に身を伏せ、腹這いになった。

前方からはものすごい数の光線が飛んできている。

あれに当たれば、すべて終わりだ。

光線の数があまりにも多くて、近づけない状況だ。

十兵衛は横で泣きながら、骨を拾う小四郎を見た。

「小四郎!伝之助の骨など拾っている場合か!?」

しかし小四郎には十兵衛の声は聞こえないらしく、一心不乱に骨を集めている。

「身をかがめて、妖怪の銃弾から逃れるのじゃ!」

十兵衛の言う事に耳を傾けない小四郎は、骨を集めている最中に光線に当たり、自分自身も骨だけになってしまった。

「小四郎ぉ~!」

十兵衛は歯を食いしばって、柳生の若者が死んだ事実に耐えるしかなかった。

「行け、止まるな!妖怪の(ふところ)に飛び込むのだ!」

兵庫ノ助が号令し、浪人どもに突入させている。

しかしそれも空しく、スモイダ星人に近づく前に、浪人勢の誰もが光線銃で骨だけにされている状況だ。

「うわああ~!あんな手ごわい妖怪に勝てるもんか~!」

一人の浪人が恐れをなし、逃げ出した。

「おのれ~、敵前逃亡は死罪であるぞ!」

兵庫ノ助は逃げる浪人を、斬り殺した。

何人かの浪人はスモイダ星人に恐怖を感じ、我も我もと逃げ始めた。

「死にたくねぇ~!」

逃げる浪人たちは、柳生一族の手によって一人残らず斬り捨てられた。

腹這いのまま前に進む十兵衛の隣に、甥の兵庫ノ助が飛び込んできた。 

「十兵衛、このままでは全滅するぞ!」

「うろたえるな!どうにかして、奴らの懐に飛び込むのだ!」

怒涛(どとう)のような光線の嵐が、ピタッと止まった。

「どうしたのだ、あれほど撃ちまくっていたのに・・・?」

「きっと妖怪の鉄砲も、弾薬が尽きたに相違ない」

柳生兵庫ノ助の直感通り、スモイダ星人の銃の光線の容量が尽きたのだ。

スモイダ星人は、光線銃を地面に捨てた。

今度は光線銃の代わりに、怪しげな()を取り出した。

十兵衛にはそれが武器だとは、到底思えなかった。

スモイダ星人が柄のボタンを押すと、柄から赤いビームが照射した。

まるで、光る刀だ。

「妖怪め、次は光りものの刀か!」

十兵衛はスモイダ星人が光る刀で、次々に浪人たちを斬っていくのを見た。

「兵庫ノ助、刀対銃ならともかく、刀対刀なら我ら人間にも勝ち目はあるぞ!」

十兵衛は、立ち上がった。

「わしに続けい!」

十兵衛を筆頭に、人間たちがスモイダ星人に突っ込んでいく。

刀を振るう人間たちを相手に、スモイダ星人も光線剣で応戦した。

刀と刀の勝負なら、五分五分の戦いになった。

十兵衛も兵庫ノ助も、刀で次々にスモイダ星人を斬っていった。

二匹のスモイダ星人が、十兵衛に向かってきた。

スモイダ星人二匹同時に相手では、十兵衛も手こずった。

スモイダ星人の中でも、この二匹は刀の扱いの腕がいい。

防御ばかりで、十兵衛は次第に後退していく。

一匹を斬り倒した十兵衛は、突然激痛と共に片眼が見えなくなった。

妖怪の光る刀が、目に当たったのか。

目から生温かい血が、とめどなく流れ出した。

流れ出る血を押さえた十兵衛は、地面に膝をついた。

何とか片目だけで、周囲の状況を推し量っている。

片手で片目を押さえたまま、十兵衛は立ち上がった。

応戦しなければ、片目どころか命を失う。

「ぬうおお~!」

気力を振り絞り、十兵衛は片目だけでスモイダ星人を斬り倒した。

血が出るのが、止まらない。

十兵衛は左手で片目を押さえ、右手で刀を振った。

足がふらついている十兵衛の前に、一匹のスモイダ星人が立ちふさがった。

踏み込もうとした十兵衛の足が、よろけて前に進まない。

スモイダ星人はその隙に、光線剣で十兵衛の脇腹をえぐった。

しかし深くはえぐられていなかったので、致命傷にはならなかった。

そのまま十兵衛は意識を失い、地面に倒れた。

うつ伏せになっている十兵衛の背中を、何人かが踏んで逃げていく。

早くもこの戦い、スモイダ星人の勝利が確定してしまった。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「左門、あれを見ろ!」

馬で駆ける柳生但馬守は、前方の円盤を指差した。

円盤はスモイダ星人が出ていったまま、扉が開いているではないか。

柳生但馬守と次男の左門は、円盤の入り口まで辿り着いた。

二人とも刀を抜き、階段を上がって行った。

「中には妖怪どもの指揮司令者がおるだろう。そいつを何としても斬るのだ」

「はっ、父上」

柳生但馬守と左門は、薄暗い円盤の内部を歩いて行った。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「姫!」

茜ははぐれてしまった千代姫を発見した。

千代姫はたった一人で、迫りくるスモイダ星人を片っ端から斬っていた最中だった。

「茜!」

忙しく斬っていた姫は、茜に気づいた。

千代姫の周りには、斬られたスモイダ星人の死体が散乱している。

しかしいくら千代姫の剣の腕が達者であろうとも、スモイダ星人の数には勝てなかった。

あまりにも、数が多すぎた。

じわり、じわり、とだが千代姫は後退して行っている。

茜が助太刀に加勢したが、状況は大して変わらない。

茜と千代姫の周りには、スモイダ星人がどんどん増えていったのである。

絶体絶命とは、この事か。

もはや茜と千代姫は東西南北すべてを、スモイダ星人の大群に囲まれていたのだ。

茜と千代姫は背中を合わせ、スモイダ星人に刃を向けている。

「茜、わらわを助けろ!」

「この数では、太刀打ち出来ません!」

スモイダ星人の一匹は、人間を骨だけに焼く光線銃を捨て、代わりに気絶させる銃を取り出した。

その銃を撃つと、円形の青白い光線が茜と千代姫に直撃した。

茜と千代姫は即座に気絶し、地面に倒れた。

気絶した茜と千代姫は、スモイダ星人に半重力作用で浮かぶ鉄板の上に乗せた。

二人を乗せたまま、誰も操作する者もいないのに勝手に進み、鉄板は円盤内へ入って行った。

この女二人には、やってもらう事があるからだ。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


スモイダ星人を斬りまくる兵庫ノ助は、いつの間にか十兵衛とはぐれてしまっているのに気づいた。

兵庫ノ助の衣服はスモイダ星人からの返り血で、緑色に染まっている。

前方を見るとスモイダ星人の大群が、こっちに向かって走っているのが見えた。

こちらの軍勢は浪人たちを含め、わずかになってしまった。

兵庫ノ助は無念断腸の思いで、退却を決めた。

朝までにはあれほど妖怪どもを蹴散らそうと意気込んでいたのに、このザマは何だ。

「兵庫ノ助様、逃げましょう!」

柳生の者たちが、呆然と立ちすくむ兵庫ノ助の腕をつかんだ。

甥の十兵衛の安否が気になるが、まごまごしてはこちらが妖怪にやられてしまう。

体制を立て直し、妖怪どもと再度決戦すればよい。

泣く泣く、兵庫ノ助はスモイダ星人に背を向けて逃げた。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

柳生一族や浪人たちが完全に退却してしまった後の草原・・・。

逃げ遅れた三十数人ほどの浪人は、武士の命と言える刀を捨て、降参した。

地面に座りこみ、ひとかたまりになっている。

捕虜など取るつもりはなく、スモイダ星人は命を惜しむ浪人たちめがけ、光線銃で一まとめに射殺した。

草原には三百人を超える死体が散乱した。

どの死体もむごたらしく、人としての原形をとどめていない。

その死体の中で、ただ一人、手を動かして生きようともがいている男がいた。

片目を失った、柳生十兵衛である。

スモイダ星人たちはまだ十兵衛が生きている事に気づかず、円盤内へと戻ってしまった。


   ― ― ― ― ― ― ― ― ―







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