第48話「大騒動」
予想外の事態で騒然となった裁判。
全員の主張が終わり、裁判長が判決を下す時が来た。
「それでは、判決を言い渡す…」
裁判長が次の言葉を告げようとすると
「待って!!」
とすかさずアデリナが叫んだ。
「こうなったら、この場にいる全員を殺してやるわ!!そしたら私の過去を知る者は誰もいなくなり、何も無かったことにできる!」
無茶苦茶な話だが、血走ったその目は本気だった。
「出てきなさい!!」
アデリナが言うや否や、傍聴席から庶民に紛れていたガラの悪そうな男達が姿を現した。
凶器を持っているただならぬ雰囲気の者達の姿を見て、一同はパニックに陥った。
「アジトは押さえたと言っていたけど、甘かったようね!!他にもツテはあるのよ!!」
「さあ、まずはあのリーゼラとかいう女を殺しなさい!!それからあの生意気なローデリヒもね!!」
遂に本性を表したアデリナは、目を血走らせながら勝ち誇ったように笑った。
「ディルク!」
「はっ!」「お前達、来い!」
ローデリヒの命に応じて、ディルクがすぐさま合図を出し、隠れていた騎士達が姿を現した。
それを見たアデリナは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに自分達の方が数で優勢だと悟り、口の端を上げた。
ディルクから長剣を受け取ったローデリヒは素早く席を飛び越えて、傍聴席から向かってくる刺客達を次々と斬り倒していった。
ディルクはすぐさまリーゼラを守るように前に出て、「これを」とベルト付きの長剣を手渡した。
「ロー様から〝くれぐれも無茶はするな”とのことです!」
「ありがとう、ディルク!」
…でも約束はできない。と心の中で呟いた。
不意に傍聴席の方で叫び声が聞こえた。
なんと、王妃の放った刺客達が庶民にも手をかけているのだ。
!!
アデリナがここにいる全員を殺すと言った言葉を実践するつもりなのだ。
外の出口に繋がる通路の扉は、傍聴席側とリーゼラがいた弁護側の席の後ろにある。
弁護側の扉はディルクが手配した騎士達が控えていたので応戦しているが、傍聴席の扉からは外から続々と武器を所持した男達が入ってくる。
外に出ようとする庶民達がすれ違いざまに斬り付けられている。
あの様子では、外に出ても刺客達が待ち構えている可能性がある。
なんとかしなくては…!!
そう思ったリーゼラは、長剣を背中に背負い、「ディルクごめんなさい!」と言って応戦しているディルクの背中から抜け出し、柵を飛び越えて傍聴席へ走っていった。
「いけません!リーゼラ様!危険です!!」
ディルクが叫ぶ。
複数の男達を相手にしていたローデリヒが後ろから走ってくるリーゼラを見て目を見開く。
「何をしている!ディルクの所へ戻れ!!」
強い語調で止められるも、リーゼラは益々走る足を早めた。
リーゼラを見つけた男達は手間が省けたとばかりに笑って、剣を振り上げて向かってきた。
「リーゼラ!!」
ローデリヒが叫ぶ。
敵が勢いよく剣を振り下ろそうとするタイミングで地面を蹴って横に方向転換し、壁を走り上がってジャンプし、最初に国王達が観覧していた二階席の手すりに掴まった。
……っ!!?
一瞬何が起きたか分からずに静まり返る一同。
ローデリヒでさえ、目を見開いたまま少し固まっていた…
次の瞬間、手すりにぶら下がっているリーゼラを何とかして引きずり落とそうと、男達が声を上げる。
リーゼラは腕の力だけでなんとか手すりをよじ登り、見事二階へ移動することができた。
二階からローデリヒ達を見下ろして
「私は外へ出ます!」と宣言してからすぐに姿を消した。
「ディルク!」
「御意!」
振り返るローデリヒに命じられて、すぐさまディルクも敵を斬り倒しながら弁護側の扉からリーゼラを追った。
ローデリヒも男達を相手にしながらリーゼラが消えた方角を見遣った。
「………。」
そしてリーゼラの意図を汲んだローデリヒはすぐさま振り返って叫んだ。
「他の者は外へ逃げるな!部屋の奥へ避難しろ!ここは俺が守る!」
しかしローデリヒの声が耳に入らず慌てふためく者達は、尚も扉に押し寄せる。
人が入り乱れる中で、ローデリヒは敵味方を判断しながら剣を振るわねばならなかった。
「ちっ!」
煩わしげな顔をしながら敵に剣を振るいつつも、逃げ惑う者達の首根っこを捕まえては後方に投げ飛ばした。
一方、二階へ上がったリーゼラは、そこから出口への道を確認した。
下へ降りる階段は出口へ通ずる通路へ繋がっていた。あとは正面にバルコニーがあるだけだ。
階段下では騎士達が激しく応戦している。
バルコニーから外に出るには手すりから飛び降りなくてはならない。
どうする…!?
どうするのが最善か…!
どうすれば被害が少なくて済む…!?
考えろ……っ!!
階段下の様子を見るに、そこからすぐ外には出られないだろう。
それどころか、私が姿を現すことで余計に場を混乱させてしまう可能性がある。
そう思ってリーゼラはバルコニーから外に出た。
外を見下ろすと、傍聴席にいた庶民達が逃げ惑う中、アデリナの放った刺客達に次々と斬り倒されているのが見えた。
!!!!
その光景を見た瞬間、血が煮えたぎるような怒りを覚えた。
「やめろーーっ!!!」
私は気付いたら大声で叫んでいた。
その声に、下にいる全員がこちらを振り向いた。
「私はここだ!狙うのは私だろう!!」
風で舞い上がった前髪から覗かせた赤い瞳は炎のように赤く、金色の輝きが強みを増してギラギラと光った。
刺客達が呼び寄せられるようにバルコニーに近づいて来た。
その隙に庶民達は一斉に逃げ出した。
そう…!
それでいいの…!
リーゼラはバルコニーの手すりの上に立ち上がった。
数はざっと15人ほど。
きっと今の私では、この人数に太刀打ちできない…
だけど、これ以上関係ない人達の血を流させる訳にはいかない…!
リーゼラは風にドレスのスカートをなびかせて朗々と声を上げた。
「私の名前はカストランド公爵令嬢のカストル・リーゼラだ。私の首をアデリナ王妃に手渡せば、相応の報酬が貰えるだろう。私の首を貰い受けるのは誰だ!?」
「この中で腕に自信のある者はいないか!?一騎打ちで私に勝った者にその首を捧げよう!」
一騎打ちなどという約束を守る訳がないといった無法者達は、リーゼラの青臭い提案にニヤリと笑みを浮かべた。
しかし
「この中で一番腕が立つ者は誰だ!?」
その言葉で、男達が周りを見回した。
「そこのお前か!?この中では一番ガタイがいいようだな!お前と一騎打ちをしてやろうか!?」
リーゼラの声で、「いや、俺だ!」「俺だ!!」と手柄を欲しがる者達の声が次々と上がった。
「この中で一番強い者は名乗りを上げろーっ!!」
その声に男達が熱くなり、それは自分だとお互いに主張し、しまいにはその場で殴り合いの喧嘩が始まった。
ひとたび誰かが剣で斬り付けると、他の者も同様に剣を持ち出し、あっという間に仲間内での斬り合いが始まった。
その様子をしばらく手すりの上から眺めていたら、不意に突風が吹いてバランスを崩した。
あっ…!落ちるっ!!
咄嗟に下に落ちる体勢を整えようとするも、次の瞬間、物凄い力で後ろに引っ張られてバルコニー側に倒れる。
「……っ!」
何かが下敷きになり、落ちた衝撃がなかった。
異常を感じて咄嗟に背中の剣に手を伸ばすと
「やれやれ、物騒な女だ。」
と真後ろで聞き慣れた声が聞こえて動きを止める…
「……ローデリヒ閣下!?」
にわかには信じがたい相手がそこにいた。
リーゼラが突風で手すりから下へ落ちそうになるところを、間一髪で自分の方に引き寄せ、リーゼラを抱えて一緒に倒れ込んだようだ。
気付けばローデリヒの右腕で抱えられ、ローデリヒの上に乗っかった状態になっていた。
「す、すみません!じゃなくて…ありがとうございました!!」
急いでローデリヒから離れる。
「危なっかしい女だな。」
そう言ってリーゼラを見据えて笑う。
ただでさえ、緊張で心臓がバクバク鳴っているのに、その笑顔を見て、余計に心臓がきゅっと痛む。
ローデリヒ閣下…無事で本当によかったわ…!
下からは相変わらず同士討ちの怒号が響いていた。
「あれはお前の案か?なかなかいい所を突く。」
「奴らは所詮烏合の衆…一度内部から壊してしまえば脆いものだ。」
「あ…そ、外に逃げた人達を守るのに必死で…」
ローデリヒに褒められて、おもわず赤くなって俯く。
ローデリヒはリーゼラを見遣ると
「部屋の中の者達は、扉を内側から施錠して匿い、アデリナは縛り上げて騎士達に見張らせている。扉の外側は騎士達が守っている。」
と告げた。
よかった…
とりあえず中のことは一安心だ…!
……
……ん?
…ということは、閣下はどうやってここに…?
ローデリヒは、リーゼラの心の声を読んだようにふっと笑った。
「俺もお前がやるようなことくらいできる。」
…つまり、一階から二階へ登ってきたと…
リーゼラは、先程は火事場の馬鹿力のような瞬発力で奇跡的に二階へ上がってくることができたが、きっとローデリヒはそれを易々とやってのけてしまうのだろう…
そんな余裕の表情が見受けられた…
「……。」
「…それで、この後はどうするつもりだったのだ?」
「……それが、何も考えていなくて…」
「……!?」
「下の彼らが思惑通り同士討ちをしてくれなければ、下に降りて応戦しなくちゃいけないかなとは思ってましたけど…応戦できる力もないですし、この後はどうしようかなと思っていたところでした…」
気まずそうに笑いながら頭をかくリーゼラ。
そんなリーゼラの答えが予想外だったようで、一瞬目を見開いて驚いた表情を見せたが、すぐに
「…はっ!豪傑だな!」
と笑い出した。
豪傑…?
豪傑って…!!
貴族令嬢に使うような言葉じゃないわよね…!?
途端に恥ずかしくなって、口を尖らせながらローデリヒを睨む。
ローデリヒは立ち上がって手すりに向かう。
「…だが、悪くない。」
振り返って魅惑的な笑みを浮かべた。
その顔にまたリーゼラはドキッとするが、そんなローデリヒはすぐさま前を向き、手すりに飛び乗った。
「!!」
「お前はここで高みの見物でもして大人しく待っていろ。」
そう告げると、手すりから飛び降りて目の前から姿を消してしまった。
びっくりしたリーゼラが手すりに駆け寄り、下を見下ろすと、軽やかに降り立ったローデリヒが男達の乱闘騒ぎに混じって集団の外側から斬りかかって行くのが見えた。
なんという身体能力…
そしてあの強さ…!
ローデリヒの能力の高さについて、改めて感心してしまった…
頭脳明晰で用意周到、民への思いやりもある。
彼が神から王たる資質をもたらされた者だというのは本当かもしれない…
次代の王には彼こそが相応しい…
そう思った瞬間であった。
私には彼のような能力は何もないけれど…
でも…
私も…行かなくては…
ローデリヒが来てくれた。
ならば私にもできることがある…
そう思って人気のないバルコニーの右側からそっと下に飛び降りた。
五点着地もなんとか無事成功。
軽々と行えるローデリヒに対して、リーゼラにはいつも命懸けの行為である。
身体の汚れを払いながら、身を低くして手負いの者達を速やかに彼らから離れた場所に運ぶ。
刺客達は、突然現れたただならぬ雰囲気のローデリヒに強い警戒を示していて、こちらには気付いていない様子だ。
今のうちに一人でも多くの人を安全な場所に移さなくては…!
その間にも瞬く間にローデリヒが敵を薙ぎ倒し、相手の数を減らしていく。
恐れをなして逃げ出そうとした者達が、後ろを振り返ってようやくリーゼラの存在に気付く。
「てめぇ!そんな所にいやがったのか…っ!」
「!!」
「ちょうどよかった!お前の首を手土産に持ち帰ってやる!!」
これ幸いと、下卑た笑いを浮かべた三人組の男達が一斉に襲いかかってきたので、リーゼラも素早く背中の剣を抜いた。
「もらったあっ!!」
一人目の大男が剣を勢いよく振り下ろす。
「ふんっ!!」
リーゼラも男の剣を受けた力を利用して剣を回転させ、うまく力を受け流す。
それだけでも手がビリビリと痺れるが、剣を落とさないように必死に握り、体勢を崩した大男の肩を素早く斬りつける。
「はああっ!!」
その隙にもう一人の痩せ型の男がリーゼラの右側から斬りかかってきたので、ギリギリのタイミングで下にしゃがみ込んだ。
リーゼラをかすった剣はそのまま大男を斬りつけ、大男は大声を上げた。
今度は後ろから三人目の男がしゃがんだ体勢のリーゼラに剣を振りかぶってきたので、リーゼラは身体を左に回転させて振り返った勢いで剣を力一杯振り払った。
相手の剣が宙に舞い、リーゼラは自分の剣を引き戻すように相手の脛を斬りつけた。
二人の男がリーゼラの攻撃に狼狽えているうちに間をすり抜けて距離を取るが、痩せ型の男がすぐさま回り込んできて執拗に剣を振り下ろしてくるので、リーゼラは後ろへ下がりながら剣を落とさないように必死に剣で受け流した。
「くっ…!おかしな動きばかりしやがって…!!」
相手も痺れを切らして、更に力を込めて剣を振るってくる。
…この攻撃が続けば長くはもたない…!
なんとかしなくては…!
そう思っていると、
「リーゼラ様!!」
と建物の扉からディルクが走ってくるのが見えた。
ディルク…!!
しかし激しい攻防で、もう手が限界だ…!
遂に男の一撃でリーゼラの剣が撥ね上げられた。
ああ…っ!!
この距離ではディルクが来るまで間に合わない…!
いつも表情変化の少ないディルクが、この時ばかりは顔を歪ませて叫んだ。
「リーゼラ様ぁぁ!!」
「くははは…っ!その首もらったぁあ!!」
そう言って男が真上から剣を振り下ろす。
「!!」
ザッ!!
すんでのところで右に避けるが、腕を少し斬られ、ドレスのスカートが引き裂かれた。
その反動で地面に倒れ込む。
男にスカートを踏まれて身動きが取れなくなった。
「はははっ!ようやく捕まえたぞ!覚悟ぉっ!!」
振り上げられた剣を見上げながらも、必死に逃げる方法を模索し続けた。
「………がっ!」
次の瞬間、男は動きを止めて膝から崩れ落ちた。
その後ろには、血塗られた剣を握るローデリヒの姿があった。
「…はぁ…はぁ…無事か?」
他の刺客達を相手にしていたはずだが、ここまで急いで駆けつけてくれたらしい。
相変わらずなんて速さだ…
思わぬ相手の登場に目を丸くするリーゼラは、ローデリヒの質問にコクコクと何度も頷いた。
「…こいつらで最後だ…」
そう言って、剣についた血を振り払って残りの男二人を気絶させると、リーゼラの前に跪いた。
「全く…大人しく待っていろと言っただろ。」
眉に皺を寄せてリーゼラを睨むが、その顔はどこか優しげにも見えた。
ローデリヒは自分のハンカチを取り出すと、先程斬りつけられたリーゼラの腕をきつく縛った。
「…いたっ!」
「我儘を言うな。」
「うぅ…はい……」
「…お前もあそこから飛び降りたのか…?」
「ええ、まぁはい…」
ローデリヒはそう尋ねるや否や、徐にリーゼラの手を掴んで、その掌を指でなぞった。
「!!」
驚いて心臓が跳ねると共に、優しいローデリヒの触り方に全身がこそばゆくなる。
「あ、あの…っ!ローデリヒ閣下!?」
戸惑った顔でローデリヒを見ると、ローデリヒは掌をじっと観察した後にこちらを見て深い笑みを浮かべた。
「どうやら、俺と会わない一月の間に随分と楽しいことをしていたようだな…?」
「!?」
リーゼラの手はこの短期間で、まるで騎士のようにマメだらけでゴツゴツした手に変わっていた。
元々平民暮らしが長かったので、そんな綺麗な手ではなかったが、それでも明らかに違っていることが分かる。
公爵令嬢らしからぬその手を見られて、おもわず手を引っ込めようとするが、その瞬間に手をぎゅっと握られて離してくれない。
間近でローデリヒの綺麗な青く輝く瞳と目が合い、おもわず頬を染める。
「お前は…あの金色の瞳の伝承は本当だと思うか?」
「……?」
そんなことは迷信だと言ったのはローデリヒではなかったか…
質問の意図が分からずに首を傾げると
「お前を見ていたら、もしかしたら伝承は本当なのじゃないかと思えてきたぞ。」
そう言って強い瞳の輝きを宿したまま笑った。
私…?
私が……!?
こんなに不完全な私に王たる資質なんてあるわけがない…
ローデリヒの予想外な言葉にびっくりしてしまった。
…でも、ローデリヒなりの「よくやった」という言葉なのかと思い、素直に受け取ることにした。
「…ありがとうございます。」
リーゼラの笑顔につられて、ローデリヒも柔らかく微笑む。
ああ…なんて美しいお顔…
やっぱり私はこのお方が好きなんだわ…
胸のときめきすら心地良く感じてしまうほど、目の前にローデリヒがいる今この瞬間が幸せだと感じられた…
ゴホンッ!
「あ〜、そろそろお邪魔してもいいですか?」
「!!?」
「いや、ダメだ。」
いつの間にかローデリヒの後ろに立っていたディルクにおもわずリーゼラは飛び上がったが、一方のローデリヒは驚くこともなく返事をした。
「えぇ〜!ディルクもリーゼラ様に触りたいぃ〜!」
首を振って駄々をこねるディルク。
「気色悪いことを言うな。」
そう言うと、握っていたリーゼラの手をそっと離した。
立ち上がるローデリヒと入れ替わりにディルクが抱きついてきた。
「ちょっと、ディルク…!」
「リーゼラ様ぁ!無事でよかった…!!」
「もう正直、あの時はダメかと思いましたよー!!」
ディルクが身体が軋むほど強く抱きしめてくる。
でもその手は僅かに震えていた。
ディルク…あなた…
「…心配かけてごめんなさい…そして今回も守ってくれてありがとう…」
私もディルクを抱きしめ返す。
ローデリヒは腕を組んで周りを見回しながら横目で二人の様子を見ていた。
ーーー
「…はあ。」
ようやく落ち着いたらしいディルクが腕をゆっくり緩めてくれた。
「…それにしても、今日のリーゼラ様の姿は最高ですね。」
「…へ…?」
「土埃で乱れたドレスに、引き裂かれて露わになった御御足…まるで男性に乱暴されたかのようで、実に興ふぐはっ!!」
後ろからローデリヒに蹴りを入れられる。
「その辺にしておけ。もうそいつはお前が気安く触れていい相手ではないのだぞ。」
「……!?」
ローデリヒの発言に驚いておもわず顔を見上げる。
「お前はこれから国王の娘として認められ、宮殿に住むことになるだろう。…もはや婚約は破棄され、俺の婚約者でもなくなったからな。」
ローデリヒの言葉にリーゼラはショックを受けた。
久々にローデリヒやディルクと再会し、また今までのような暮らしができると、心のどこかで思っていた…
…確かに…私はもうローデリヒの婚約者ではないのだ…
でも…
「事務員として雇ってくださるって、仰っていたじゃありませんか…」
涙を溜めてローデリヒに訴える。
「…そうだったな…」
ローデリヒは再びリーゼラの前に跪いて、優しげな顔でリーゼラの溢れ落ちた涙を拭う。
「お前がそんなに仕事熱心だったとは思わなかったぞ。」
「そんなんじゃ…」
「ただ、あの場所に戻りたいんです…何もかもすべて今まで通りになればいいのに…」
ただ、居心地の良かったあの場所に帰りたい…
ローデリヒの元に…
フォルカーとディルクのいるあの場所に…
気付けば、あそこが自分の居場所になっていた…
今さら宮殿になんて住みたくない…!
子どものように泣きじゃくるリーゼラの背中をローデリヒは優しく撫でた。
「…お前の気持ちは分かった…」
そう言って自分の黒い上着をそっと肩にかけてくれた。
「お前との約束は必ず守ってやる。それまでは宮殿で待っていろ。」
子どもを諭すように目を見つめながら優しく頭を撫でた。
「…はい…」
騎士達がローデリヒの指示を仰ぐために、こちらに走ってくるのが見えた。
ローデリヒはもうこちらを振り返ることなく去って行った…
そんなローデリヒの背中を見ると、胸が軋むように痛んだのだった…
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