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第47話「最後の裁定」

リーゼラによるマヌエラ毒殺疑惑についての裁判は、最初はマヌエラの独壇場だった。


自分は母親とカストランド公爵の家にやってきてからずっとリーゼラに虐げられていた。

自分の失敗を両親に言いつけてマヌエラの仕業に仕立てて幾度となくマヌエラを陥れてきたことなどを涙ながらに語った。

毒殺も自分のことが憎くて行ったのだろうと…


傍聴席の庶民達は、マヌエラの発言にどよめく。



リーゼラは予想通りの展開にため息をつく。


続いてローデリヒが発言する。


「先程マヌエラ嬢が自分のことが憎かったからリーゼラ嬢が毒殺を行ったと発言していましたが、こちらとしては真逆の見解で、今回のことは、マヌエラ嬢自身がリーゼラ嬢を陥れる為に行った可能性が高いと考えています。」


「まず先程のあなたの生い立ちですが、あれはあなたではなくリーゼラ嬢のお話ですよね?」

ローデリヒが促すと、証人として義母のマクダと父親が連れられてきた。


「カストランド公爵家へ後妻でやってきたマクダ夫人が、連れ子であるマヌエラ嬢と共にリーゼラを虐げてきた。そして、リーゼラ嬢が10才の時に屋敷から追い出し、薪小屋で暮らすことを命じた。父親のカストランド公爵もそれを黙認していた。違いますか?」


事実を突き付けられて顔を青くした義母のマクダ。


「そ、それは本人が薪小屋に住みたいと言ったから仕方なく…!私は反対したのよ!私もマヌエラも家族のようにリーゼラを可愛がっていたわ!そうでしょ、リーゼラ!?」


必死の形相でリーゼラに訴えかけるが、リーゼラは俯いて、マクダの問いかけには答えなかった。


続いてローデリヒはリーゼラの父親であるカストランド公爵へ語りかけた。


「マクダ夫人は往生際悪くあの様に申しておりますが、あなたはいかがですか?」

「ちなみにこの場で嘘の発言をした場合は、法律の定めにより処罰されることになりますが。」

隣に座るアドボケイトが第何条に書かれているかを補足して言う。


その言葉に顔を青くして、

「…ローデリヒ閣下の仰ることは全て事実です…」

と認めた。


「!!」 


再び傍聴席がざわめく。

マクダもマヌエラも目をあらん限りに見開いている。


ローデリヒは頷くと、今度はジーモが証人として呼ばれた。


久々に見たジーモは、痩せこけていた顔もすっかり丸みを帯びて血色がよくなり、元気そうな様子だった。


ああ、ジーモ!無事に回復できたのね…!

本当によかった…!

リーゼラはホッと安堵した。



ローデリヒは続ける。


「このジーモは、以前ロベール国王の相談役や第一王子の教育係として宮廷に仕えていた者です。この者が訳あって城を追放されてから、街で幼少期のリーゼラと出会っています。ジーモ、その時のリーゼラの様子を話してくれ。」


「はい…」


「私がリーゼラ様と出会った頃には、既に義理母によって薪小屋に住まわされていたようでした。よく一人で街に来ては義理母に鞭でぶたれたことや、食べ物が与えられずにお腹を空かせていることなどを話していました。」


「13才になっても身体中の鞭の跡を見せたくないという理由で、貴族学校を虚偽の理由で行かされなかったことも話していました。」


続いて証人としてやってきた貴族令嬢達は震えながらも、

マヌエラが最近の宮廷舞踏会でリーゼラにワインをかけていたことや、デビュタントやその後の夜会などで、リーゼラのドレスの一部を意図的に汚したり、引き裂いたりしたことを自ら周囲に話していたことなどを証言した。


「…!!」

マヌエラはその女性達をすごい形相で睨みつけたが、令嬢達はそちらを見ることなく、そそくさと退出してしまった。


「このように、マヌエラ嬢とマクダ夫人はリーゼラ嬢を長年に渡り、虐げてきたことが分かります。」


「更にマヌエラ嬢にいたっては、王妃に取り入るために高額な宝石をたくさん買い付けて送っているという情報が入っています。」


証人として呼ばれた宮廷の宝石管理者と、マヌエラが買い付けた宝石店の者がそれぞれ呼ばれて、震えながらそれが事実であると証言した。


二階に座っていたアデリナ王妃は苦虫を噛み潰したような表情で下の様子を見ていた。


ローデリヒは顔を上げてアデリナに向かって言った。

「アデリナ王妃、聞きたいことがございますので、どうか証人席へ降りてきて頂けませんか?」


「どうして私が行かなければならないの!?私はこの裁判には関係がないわ!」

憎々しげな表情で断固として拒否する王妃。


「それが、この後リーゼラ嬢の潔白を証明するのに是非必要なのです。もし後ろ暗いことがないのであれば、降りてきて頂けますか?」

ローデリヒが優しげな笑みを浮かべる。


裁判長にも降りてくるように指示されると、


「黙りなさい!!私は王妃よ!!誰も私に命令なんてできないのよ!!」

と目の端を釣り上げて金切り声を上げた。


そんなアデリナに対し、ローデリヒは落ち着いた声で言った。


「今までは裁判長が国王や王妃に意見することは敵いませんでしたが、この度制度が変わり、裁判長は国王や王妃にも命令ができ、処罰できる権限をもてるようになったのです。新しい法案をご覧になっていませんでしたか?」


アデリナはぎりぎりと歯を食いしばり、ローデリヒを睨む。

なかなか降りてこないアデリナに対して、傍聴席からは不満の声が次々と上がった。


国王はそんな王妃の肩に手を置き、「後ろ暗いことがなければ、下でそれを証明すればいい」と説得した。


渋々下に降りてきたアデリナは早速、自分は何もしていない、宝石も受け取っていないと関与を否定した。


「そうなのですね。ですが私が手に入れた情報によれば、あの夜会で手に入れた毒は王妃からマヌエラ嬢へ譲り受けたと聞いているのですが。」


それを聞いたマヌエラは顔面蒼白になり、アデリナは

「うそよ!!」

と大声で叫んだ。


「失礼ですが、王妃様に加担し、毒を手配したという男を捕らえました。」


「!!」

ローデリヒにそう言われ、明らかに王妃の顔色が変わる。


「しかも口にしても死なずにすぐに回復する毒性の弱いものをあえてご所望なさったとか。これはリーゼラ嬢を陥れるために王妃とマヌエラ嬢が結託した証拠だと言えます。」


ローデリヒの合図で、縄で縛られた男が騎士達に連れられてやってきた。


「その男は他にも過去に猛毒の毒薬を何度か王妃に手配したことも白状しましたよ。その毒は猛毒のヘビから取られたものだとか。」


「私の元婚約者であるリーゼラも以前何者かに毒殺されかかったことがあるのですが、奇遇にもその毒も毒蛇によるものの可能性が高いのですよ。私の毒蛇に効果のある血清で治ったのが何よりの証拠です。これはただの偶然でしょうか…?」


ローデリヒが首を傾げてみせる。


「これはあくまでも仮説ですが、アデリナ王妃、あなたは何らかの理由でずっとリーゼラを殺したがっていた、違いますか?」


!?

思いもよらない方向に話が向かって驚く。


全員の視線がアデリナに向く。


「はっ…!まさか…そんな見窄らしい一公爵令嬢に、王妃である私がそんなことをする訳がないでしょう?」


鼻で笑うも、その表情に余裕はない。


「それはどうでしょう?あなたはこのリーゼラがロベール国王の娘であることを知っていたのでは?」


えっ……!!?


リーゼラを含むその場の全員がざわめいた。



…私が…国王の娘…!?



一瞬リーゼラに全員の視線が注がれた後、その説明を促すように、再びローデリヒに視線が移った。


「…このリーゼラは、亡きカストランド公爵夫人が女官として城勤めをしていた際にロベール国王との間に生まれた娘です。一部の王族にだけ現れると言われている私と同じ金色に輝く瞳が何よりの証拠です。」


周りが一層ざわめいた。

それを聞いたリーゼラもあまりの事実に呆然となった。


まさか…そんな…!

それでは私の父親は…ロベール国王だったというの…!?


ローデリヒはカストランド公爵へ向き直って続けた。


「あなたはリーゼラが自分の娘ではないことを知っていた。だから前公爵夫人が亡くなった後、再婚したマクダ夫人がリーゼラを虐げていても見て見ぬ振りができたのではないのですか…?」


リーゼラの父親…ではなく、育ての親であるカストランド公爵は項垂れたまま

「そうです…」と答えた。


「彼女は体調の異常を感じてすぐに女官をやめ、誰にも秘密を打ち明けられないまま家同士の取り決めにより、私と結婚しました。結婚後、彼女から既にお腹に国王との子どもがいることを打ち明けられましたが、これは二人だけの秘密でした…」


むやみに堕ろすこともできず、彼女も私もどうすることもできなかった…と付け足した。


ローデリヒが国王を見遣ると、ロベール国王は黙って認めた。



「それがリーゼラが16歳のデビュタントの謁見で国王の知るところとなった。リーゼラは母親と瓜二つだったらしいですからね。リーゼラを社交界へ引っ張り出す為、王室主催の年に2回の夜会には出るようにカストランド公爵家へ命じた。恐らくその際に王妃にも勘付かれたのでしょう。」


「17才の時に参加した宮廷舞踏会でリーゼラが公衆の面前でラッツに婚約破棄をされたと知り、すぐさま国王は王族であるアルトラント公爵の私とリーゼラを婚約させるために極秘の王命を出した。次代の王位継承者を産ませるために。

…あなたはデニスに跡を継がせたくなかった、違いますか?」


「なんですって!?」

アデリナが国王を睨み付ける。


ローデリヒが続けようとすると、「ちょっと待ってちょうだい!」とアデリナが口を挟んだ。


「ロベール国王にそんな思惑があったなんて、私は全く知らなかったわ!そもそも、金色の瞳の伝承は王族でも一部の者しか知らぬ事実、それを外から嫁いできた私が知るはずないでしょう?」


「それをどなたかから聞いたのではないですか?」

ローデリヒは暗い笑みを浮かべた。


「!!」


「失礼ですが、私の弟のフォルカーが数年前…リーゼラが社交界にデビューするよりも前の宮廷舞踏会で、偶然中庭で王妃が国王の弟君と逢い引きしていたのを見かけましてね、その際にフォルカーがその瞳にまつわる話を聞いたそうですよ。」


「!!」


会場が再びざわめく。

裁判員達にも動揺が広がっている。


リーゼラは以前、フォルカーが偶然金色の瞳に関する話を耳にしたと言っていたことを思い出した。


…というか、そもそもフォルカーこそ、人気のない中庭で何をしていたのか…

リーゼラは深く考えるのをやめた。


衝撃の事実が立て続けに露呈して、動揺を隠せない様子の裁判長が切り出した。


「金色の瞳に関する話は私も初めて聞きました…。しかし、王族がこれまで隠してきた秘密をこんな公衆の面前で話してしまってよかったのですか…?」


ローデリヒは僅かに笑って答えた。


「金色の瞳に関する話が今まで秘匿にされてきたのは、古代帝国の聖典に〝瞳に金色の輝きを宿す者は、神より王たる資質を認められた証”と書かれていることが原因です。」


「この伝承により、過去の歴史で第一王子以外にその輝きが現れてしまい、後継者争いの火種となることがあったため、今では王族の一部にだけその伝承を伝えることとなっておりました。」


「だが、いまはそういう時代でもなくなりました。そんな迷信に頼らずとも自分達で王を選べばいい。そう考え、敢えて王家の秘密を打ち明けることにしたのです。事前に国王の許可は頂いております。何より、リーゼラの潔白を証明するためには話さざるを得ないことでしたので。」


ローデリヒがわざとらしく首をすくめる。



……

………嘘だ…


むしろ、閣下はその秘密を暴露する為に、私を利用したんだ!


私の潔白を証明するフリをして、王妃の悪事を暴いているんだ…!


リーゼラはローデリヒを恨めしげに見つめた。



「私とリーゼラにだけその輝きが現れたのは、恐らくただの偶然でしょう。」


ローデリヒはそう付け加えたが、傍聴席の庶民達はそうは思っていない様子で、まるで神々しい相手を見るように二人を見ていた…




「…まあつまりは、リーゼラが金色の輝く瞳をもつロベール国王の娘であると知った王妃が、息子デニスの即位をより堅固なものにするためにリーゼラを殺そうとしたというのが事の顛末でしょうか。」


「なにせあなたは自らが王妃になるために前王妃を毒殺し、自分の子どもを次代の王にするために賢王と謳われた第一王子をも手にかけた方だ、今さら手を汚すことに何もためらいはないでしょう。」


「!!!」


まさかの前王妃と第一王子の殺害にも関わっていたとあって、その場は騒然となった。


真っ青になったアデリナはいよいよ身体を震わせて

「ち、違うっ!!私はそんなことはしていない!!」

と力一杯叫んだ!


「言ったでしょう、毒を手配した者が白状したと。」


ローデリヒがあくまで落ち着いた様子で答える。

「なあ?」と尋ねられた証人の男は、ひどく怯えた様子で「は、はいっ!仰る通りでございます!」

と何度もぺこぺこと頷いた。



あんなに怯えて…

絶対法律スレスレな拷問的な何かをしたでしょう…

とリーゼラは思ってローデリヒを見た。

ローデリヒは涼しい顔をして立っている。



アデリナは取り乱したように

「う、嘘よ!デタラメだわ!私はそんな男なんて知らない!!」と叫んだ。


証人の男は

「そんな…アデリナ…」

と彼女に見捨てられたショックで、膝から崩れ落ちている。

どうやら二人は唯ならぬ仲だったようだ。


あの王妃は一体何人の男性を誘惑してきたのだろうか…

マヌエラ顔負けの悪女である。


そのマヌエラと言ったら、自分への矛先が別のところに向けられて安心したのも束の間、思わぬ事実が次々と発覚して、顎が外れそうなくらい大きな口を開いて驚いている。あれではせっかくの美人も台無しだ…


ローデリヒは暴動が起きかねない程の庶民達の怒りの声を手で制してから続けた。


「残念ながら、あなたの罪はまだありますよ。国王が命じた私とリーゼラの結婚を阻止する為に、我が弟のエックハルトまでをも巻き込みましたね。」


「まずうちの執事と使用人を使って弟を毒殺し、リーゼラの仕業に見せかけた。その後は私の怒りをリーゼラに向けさせて婚約破棄をさせ、地下牢へ閉じ込めている間に使用人の仕業に見せかけて毒殺するという計画だったのでしょう。恐らくその時に利用した使用人を後に自害させたのもあなたでしょうね。」


「その後、婚約破棄と毒殺が失敗したとあって、今度は盗賊や暗殺者を雇ってリーゼラを襲わせましたね。」


最早ローデリヒとアデリナの独壇場になっていた。

全員が二人の会話に注目していた。


王妃は

「違う!私は盗賊や暗殺者なんて知らない!」

「全部デラタメだわ!私がやったっていう証拠なんてどこにもないじゃない!!」

と尚もシラを切り通す。



「そうですか…」

ローデリヒはひと息ついて長いまつ毛をふせる。


「余談ですが、実は私も外出先で奇遇にも似たような盗賊や暗殺者に襲われましてね、心当たりが一人しかいなかったので、国王の許可をいただいて、部屋を調べさせてもらったところ、見つかったんですよ、その証拠となる手紙が。」

そう言って手紙を提示する。

それを見て、アデリナの顔が益々青くなる。


「あなたは随分と親バカなようだ。」


「ここに第二王子のデニスの名前が書いてあります。」


「恐らくあなたは夜会の際に私に侮辱されたデニスに泣きつかれ、私を始末するために、自分が利用していた盗賊と暗殺者に声をかけたのでしょう。そして、あなたと繋がっていたうちの執事のオルゲンを通じて私の外出の情報を得て盗賊や暗殺者に襲撃させたと…。残念ながらどちらも失敗に終わってしまったようですが…」


ローデリヒは残酷な笑みを浮かべてアデリナを見た。



…あれは、この証拠を掴むためだったのね…!!


リーゼラはようやくすべてが繋がり、納得した。


だからわざわざ前もってオルゲンに予定を教えていたんだ!

盗賊や暗殺者を準備させるために。

護衛をつけないことまでご丁寧に伝えて油断させて。


何か怪しいとは思っていたが、そんな壮大な計画に利用されていたなんて、二人きりのデートにドキドキしていた自分がバカみたいではないか…!


非難の目でローデリヒを見ると、こちらを見てニヤッと笑い返してきた。

その笑顔に思わずドキッとしてしまう。

そんな悪戯げな顔にすらときめいてしまうのだから、どうしようもない…リーゼラは慌てて目を逸らした。


ローデリヒは、そこからそれぞれのアジトを突き止め、デニスだけでなく、王妃からの依頼状も手に入れたことを明かした。仲介役を頼んでいた貴族の男も見つかり、その男も証人として呼ばれていたが、先程の男と同じように怯えた目で全ての罪を洗いざらい白状した。


ローデリヒは最後に裁判長に向き直って言った。


「話が長くなってしまいましたが、つまり今回使用された毒はマヌエラ嬢が王妃に手配してもらい、リーゼラ嬢を陥れる為に意図的に毒をあおったと言えます。以上が弁護側の主張です。」


そう言って、優雅にボウ・アンド・スクレイプをして見せた。


ローデリヒが話し終わる頃には、観衆はすっかり静まり返っていた…










いつもお読みいただきありがとうございます!

ひとまず一番ベビーな裁判話が終わりました!長々とお読みいただきありがとうございました。

話も残り僅かですが、最後までお付き合い頂けたらと思います。

よかったら☆評価していただけたら幸いです。

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