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春の風

「実咲、もう泣かないで……」


 実咲は泣いてばかりでなかなか泣き止んでくれない。

 そんなにまで嬉しいと思ってくれたのかな……、そう思ってもらえたのなら嬉しいな……と思いながら実咲が泣き止むのを待った。


 春の柔らかい風がふわっと部屋にも入って、実咲の長い髪を優しく踊らせた。

 こんなにも気持ちの落ち着いた時間を過ごすのはいつぶりだろう……。

 泣き止むのを待っている時間も愛おしい気持ちでいっぱいになる。

 実咲の気持ちも落ち着き、ゆっくり話し始めた実咲の気持ちを聞いた。



「司……、付き合うのは辞めよう……」



 想定外の言葉に何も返せずにいた……。

 嬉しいと言ってくれたのにどうして……。

 実咲の言葉を理解しようにも全く頭が働かないのでない……。



「司がそう言ってくれた事は本当に嬉しい……。けど、友達に戻ろう……。 それがいいと思う……。 私たち、タイミングを逃しちゃったんだよ……」



 実咲がよく考えて出した結論なら仕方ない。

 実咲の気持ちは全て受け止めようと思っていたし、実咲の出した答えは大事にしてあげたかった。



「そっか……。 わかった。 ごめん、実咲……」


 友達に戻ろう……か……。

 たぶんもう友達にも戻れないんだろうな……。

 会う事もない気がしていた。

 実咲に会うのもこれが最後なのかな……。

 最後くらい笑って終わりたい……。



「実咲、そんな暗い顔しないで! 仕方ないよ。 俺、大丈夫だからさ。 また友達に戻ろう! 送るよ」



「司、いい人見つけてね。 残りの人生楽しくしなきゃ!」



「それは実咲も一緒!」



「……じゃあ、行こっか!」


 二人で家を出た……。

 実咲を乗せ、実咲の実家までの時間が実咲との最後の時間……。

 楽しく終わりたくていろいろ話だけど、何話したか正直覚えていない。

 待ち合わせのスーパーの駐車場には思った以上に早く着いた気がした。


「じゃあ、また!」


 【また】なんてないと思っていても、実咲を笑顔で送ってあげたい。



「うん……。 またね」


 そう言って別れた。



 実咲以外と恋などする気はない。


 一番好きだった人。

 やっぱり好きだった人。

 忘れれない大切な人。


 それはこれから死ぬまで変わらない人。




 さ!


 気持ち切り替えよう!

 実咲の全てを受け入れる。


 実咲も頑張ってるんだし、俺も頑張ろう!


 自分を奮い立たせるかの様に思う事で気持ちの切り替えをしようと思った。


 すぐに切り替わらないかも知れないけど、時間が何とかしてくれるだろう。



 これからの時間は自分の為に。



 母さんが亡くなった時、そう思った。

 自分が楽しいと思う事をやっていこう。

 そのうち、実咲の事もちゃんと思い出として思い出せる様になるだろう……。



 自分の人生で最後の失恋だった。





 実咲と会って一週間くらい経ってから、三郷ちゃんから連絡があった。

 ちょうど電車に乗る直前だったので、降りたら連絡するという事で一旦電話を切った。


 三郷ちゃんから電話か……。

 父さんに何かあったかな……?

 でも、そんな深刻そうじゃなかったかな……。


 電車を降り、三郷ちゃんに折り返し電話をするとすぐ出てくれた。



「ごめん、三郷ちゃん。 どうしたの?」



「こっちこそ、ごめんねー。 今、大丈夫? 時間、いいのかな?」



「あ、大丈夫。 どうしたの?」



「あの……、こんな事聞いていいかわからないけど……、話せる範囲でもいいよ……。 あのさ、お姉ちゃんと会った? 何かあった?」



「どうしたの? 会ったけど……」


 父さんの事じゃないんだ。

 でも、実咲の事?

 どうしたんだろう……??



「曽根さんと会った後だったのかなーー? お姉ちゃんさ、少し前に外出して帰ってからずっと自分の部屋にこもって泣いてるの。 どうしたの?って聞いても言わないの……。 そんな日が続いて少し落ち着いて来たのかな……話す様にはなったんだけど……」


 俺はあの時、自分が振られた事や友達に戻ろうと言われた事を話した。

 実咲、どうしたんだろう……。

 俺を振るくらいの事でそんなに泣かないだろう……。



「たぶん……、嫌々言ったんじゃない? 付き合わないって……。 前ね、私が曽根さんの事を好きだったって言ってた時にさ、お姉ちゃんにきつく当たる事があって、『曽根さんの事、お姉ちゃんだって好きなんでしょ!』って言った事があるの。 その時さ、『もう終わった事だし、私の歳、考えてみて。 もう子供も産めないし、曽根さんだってまだ結婚して子供持てるんだからそんな人が相手の方がいいに決まってるでしょ! 私はそんな恋愛する立場にはないの!』って言ってたんたよね……。 【好きじゃない】とは言わなかった。 あ、お姉ちゃん、まだ好きなんだな……ってその時思った……」


「具体的な理由って聞いた?」



「聞いてない……。 実咲が考えて出した答えは尊重したかったし、問いただしたとしても答えは変わらないと思ったから……」



「そうなんだ……。 今はいつもの感じに戻ってるけど……。 荷造りしてるから、それが忙しくて考えてる暇ないって感じかな……」



「荷造り?」



「え! 聞いてないの!? お姉ちゃん、京都に残るんだよ。 京都で働くんだって。 借りてたアパート、マンスリーだったから別のところ探してそこへ引っ越すの」



「何にも言ってなかったよ……。 何で言わなかったんだろう……」


 そんな事、話してもいいはずなのに……。



「お姉ちゃん、京都行き、言ってなかったの……? それ、普通話すでしょ? それもあって付き合わないって言ったんじゃないの……?」


「やっぱりお姉ちゃんも曽根さんと一緒じゃないのかな……。 未だにお互い想い合ってるのは凄いと思う……」


 実咲、本当はそうだったのかな……。

 何でそんなに泣いてたの?

 何で京都に行く事、話してくれなかったの?


 往生際が悪いと思われてもいい。

 時間を取り戻すかの様に気持ちが走り出した……。

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