表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を刻む  作者:
67/72

やっぱり君が好き

 気持ちが少し落ち着いてきた実咲は笑顔を取り戻した。


「ごめん……、この子の話になるとダメなんだ……。 私が妊娠した事も流産した事も誰も知らないから話す事もなかったけどね。 この写真は肌身離さず持ってたの。 だから、司のお母さんにも見せれたんだ……。 エコー写真ってね、時間が経つと消えてなくなるんだって。 だから写真に撮っておいたの。 消えたりしない。 この子と一緒にいてあげなきゃね……」



「それ、焼き増しできるの? 俺も持っておきたい」



「焼き増しはできるよ……。 ……持っててくれるの?」



「俺、その子の父親だよ。 当たり前でしょ」



「ありがとう……」


 実咲はまた泣き出した。



「何で泣くの……。 もう泣かないーー」



「司にそう言ってもらえると思ってなかったから……」


「私から聞いていい? 司は別れてから誰かと恋愛はしたの?」



「してない。 母さんの事しかなかった二十年だったよ。 三郷ちゃんがきっかけかな。 そういう気持ちを思い出したのは……」



「三郷?」



「三郷ちゃんのおかげて実咲を思い出した。 実咲を思い出さない様にしていたから。 実咲は誰かと恋愛した? この二十年で、誰かに恋焦がれたりした?」



「……私は恋愛はできなかったかな……。 誰かに恋愛感情を抱いたりとかはなかった。 一人が寂しいとも思わなかった。 一人でいいと思ってたかな。 だから今も一人なんだよ……。 仕事は転職しても楽しくやってたよ。 偶然にも司のお母さんのところにも行く事ができたし……」



「何で介護士になったの?」



「私ね、司の力になりたくて介護士の勉強ができる学校に通う手続きをしてたの。 仕事の後に通えるところだったからちょうどよくて……。 通い始めてすぐ妊娠に気付いて休学させてもらおうと思ったら流産しちゃって……。 バタバタだったけど、仕事も辞めたし、時間もあるから勉強ばかりしてたかな……。 それに勉強してる時だけは辛い気持ちを思い出さずにいれたから気が紛れてよかったかな……。 そんな感じかな?」


「きっかけは司だったけど、今の仕事は好きだよ」



 別れてもそこまで俺の事を考えてくれてたんだ……。

 こんなにも思ってもらってたなんて知らなかった……。

 抱きしめたい気持ちでいっぱいだった。



「俺の事を考えてくれてありがとう。 実咲を母さんに紹介したかったから、形は違うけど、母さんが実咲を知ってくれてよかったって思ってる……。 ヘルパーさんには感謝してたよ。 みんないい人だったみたいだから。 ムロカワさんっていない? 何かその人と話すのが楽しいって言ってたよ」


 実咲は懐かしそうに笑った。


「司、ムロカワさん、知ってるの? それ、私だよーー」



「え!! 何でムロカワさん?」



「それね、お母さんの勘違いなの。 ネーム付けて訪問するんだけど、文字が小さくてたぶん、【窓】を【室】でインプットされたんじゃないかな? 私もムロカワさんって呼ばれても訂正しなかったから。 だからずっとムロカワさん……。 司の事もあったからそれもいいかな……と思ってそのままムロカワさんになってたよ」



「そうなの!? 俺さ、そのムロカワさん、母さんに紹介されそうになった……。 いい人なんだよーって……」



「え? そうなの!? もしその話に乗ってたらどうなってたんだろうねーー?」



「やっぱり、母さんも実咲がよかったんだろうな……。 実咲とは不思議な縁を感じる……。 こんな事言っていいのかな……。 ずっと会いたかったんだ。 実咲はずっと忘れれない人だったよ。 今も変わらず好きだよ。 今日話してさ、実咲を手放しちゃダメだって思った。 二十年前、俺の都合で別れたのにこんな事言える立場にないかも知れないけど、付き合って欲しい。 俺の傍でいて欲しい」



「……嬉しい……」


 実咲は大粒の涙を流した。

 あふれる涙を覆い隠す様に小さな手で顔を隠した。



「実咲……今日泣いてばっかりだよ……」


 その実咲の涙にはいろんな意味が込められていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ