突然のデート
京都の街を実咲と歩きながら、祭りを楽しんだ。
笛や太鼓の音、神輿の掛け声やたくさんの人の話す声で実咲の言っている事を聞き取りにくかった。
顔を近付け聞こうとする俺と背伸びして何とか話している事を伝えようとする実咲との距離がドキドキさせる。
ふと実咲を見て気が付いた。
「実咲、それって……」
実咲の髪に挿してあったかんざし。
「あ、覚えてる? これ、司が買ってくれたかんざし。 あの時、もっと女の子らしいの選べば?って言ってくれたけど、ずっと使いたいからって落ち着いたのを選んだんだよね。 もうそのかんざしが似合う歳になっちゃった……」
忘れる訳ない。
そんなやりとりがあった事も覚えていた。
「実咲は全然若いよ。 それにそれ、似合ってる。 それにしてよかったね。 ずっと大事に持ってくれてたんだね……」
「司が買ってくれたんだよ。 私の宝物だから。 けど、なかなかかんざしを挿す事がなくて……」
「そうだよね、そんなにないよね……」
自然と人混みからほんの少し離れた。
話したいのに声が届かない。
ようやく声が聞こえる様になった。
「今日は挿してきてよかった。 どうしようか迷ったんだよね。 すぐ帰ろうと思ってたし……。 でも、司に会えたから挿してきてよかったーーって今は思ってる。 挿してるの見てもらえてよかった。 ちゃんと持ってるのわかってもらえた」
そう言って楽しそうに笑う実咲。
「あのさ、今日、俺がいて嫌じゃなかった?」
今日一番気になった事を聞いてみた。
「びっくりはしたけど嫌じゃないよ。 どうして?」
「実咲さ、あんまり俺と話したくないのかな……避けられてるのかなって思っててさ。 今日もまさか会えると思ってなかったけど京都まで来たって聞いて嫌って思ってないかな……って思って……」
思っていた事を実咲に話した。
実咲は言葉を選びながら俺が思っていた事に答えてくれた。
「話したくないとかそんなんじゃないんだよ……。 何か迷ってて返信できなかったりはしたけど……。 また帰ったらゆっくり話そうか……。 それまでには私も整理しとく……」
話したくなかった訳じゃなくてよかった。
けど、実咲は何に迷ってたんだろう……。
遠くで聞こえる笛や太鼓の音。
このまま同じ時間を過ごしたい俺の気持ちを引き戻す。
「司、もう帰らなきゃいけないんじゃないの? 車でしょ?」
「実咲は? 老人ホームの近くに住んでるの? 送るよ。 夜だし危ないし……」
「うん、でも大丈夫だよ。 一人でここまで来たし、歩いて10分くらいだから……」
「いや、やっぱ送る……。 送らさせて」
実咲は笑った。
「司、心配してくれるの変わらないね……。 じゃあ、送ってもらおうかな……。 でも車だと3分くらいだよ。 いいの?」
「いいよ。 一緒に帰ろう」
車でほんとに3分の送るだけのドライブだった。
それでも助手席に乗る実咲を感じながらの運転は幸せそのものだった。
こんなにも会いたかった人が隣にいる。
「ありがとう。 この道真っ直ぐ行ったら大通りに抜けるからそのまま高速乗れるからね。 今日、ほんとに楽しかった。 気を付けて帰ってね!」
「ありがとう。 実咲も仕事と試験、両立大変だけど頑張って。 半年だよね。 俺、待ってるから。 また連絡する」
実咲は笑顔で頷いた。
【好き】という言葉は使ってないが、俺の気持ちは伝わっているはず……。
相変わらず実咲の気持ちはわからなかったが、嫌われてはない事だけはわかった。
半年……。
長い様な短い様な……。
ゆっくり話できるその日が楽しみになった。




