あの頃の気持ち
季節は春になろうとしていた。
実咲が言っていた【半年】はもうすぐなんだと、今か今かと実咲からの連絡を待ち侘びていた。
京都で会ったあの日以来、実咲には連絡を取らなかった。
実咲は仕事をしつつ勉強し試験を受けないといけない。
その邪魔はしたくなかった。
実咲の今、挑戦している事を応援したかった。
きっと実咲から連絡が来る。
その日だけを考えていれば何でもなかった。
いつもの毎日を送り、ジムに行ったり、映画を観に行ったり、飲みに行ったり……。
そういえば、三郷ちゃんから一度だけLINEをもらった。
『最近、婚活パーティーに行きまくってます!
まだこの人!という人には巡り合ってません。
いろんな人と会ってみるのはいい事かな……。
曽根さん、心配しないでね。
そして兄よ、姉を頼む……!
聞いたよ、京都で会ったんだって?
いつでも相談に乗るよ!』
それぞれの時間が動き出した。
三郷ちゃんがいい人を見つけられると俺も嬉しいな……。
実咲から連絡が来たのは4月に入ってからだった。
優しい春の風が吹く土曜日、よく通った道を車で走る。
通る事をあえてしなかったその道を久しぶりに走る。
もうずっと走っていなくても行き先までの道のりは覚えていた。
ただ、前とは違って少し違ったとかもあって前と今とを照らし合わせながら進んでいくのも楽しかった。
二十年も経てば、その時あった店がなくなったり、新しい店ができていたりあって当然。
そんな中、最後の角を曲がるといつも待ち合わせたスーパーが見えてくる。
二十年経った今もそのスーパーはまだあった。
建物も外装を綺麗に塗り替えられているのか、古さを感じさせない。
いつも車を停めていた辺りに今日も車を停める。
ソワソワしているのがわかる。
自分の鼓動がいつもより強く感じ、音までも大きく感じる。
前ってどんな感じだったっけ?
こんなにドキドキしてたのかな……。
コンコン……
しばらく待っていると窓をノックする音がした。
音の方を見ると実咲が立っていた。
「久しぶり。 元気だった? ……乗っていい?」
半年ぶりの実咲は変わらず元気そうだった。
あの時は浴衣だったけど、今日は洋服。
この前は夜で今日は昼。
こんなに緊張したのは久しぶりだった。
実咲はゆっくりと車に乗り込んだ。
「久しぶりだね。 実咲、試験、終わったの?」
「終わったよ。 無事、合格しましたーー」
「よかったね! おめでとう。 仕事しながらって大変だったでしょ?」
「ありがとう。 でも、慣れればそれが普通になって大変と思わなくなってたよ」
「実咲、どうするの? いつまで実家にいるの?」
実咲は京都に行く時にアパートを引き払った。
一旦、実家に戻っていた。
「うーーん……。 実家も居心地はよくないからなぁ……。 もう何十年も一人暮らしだから……。 司は広い家に一人、寂しくないの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 実家、売りに出したんだ。 今、マンションで暮らしてる」
「そうだったんだ! 実家、なくなっちゃったんだね……」
「どこ行く? 行きたいところあるの?」
「特に考えてなかった……。 司は?」
「……俺も考えてなかった。 じゃあさ、うち来てみる?」
「え! いいの?」
「いいよ。 コーヒーくらいしかないけどいい?」
「うん。 じゃあ、お邪魔してみようかな……」
差し障りのない会話だけど、何も考えずにいれる居心地の良さを思い出しつつあった。
隣に座る実咲は自分の記憶と変わらず、二十年も会ってなかった様には思えない。
実咲の二十年……、俺が台無しにしてしまった二十年……、実咲は俺を恨んだりしてなかったのかな……。
今更な事も話してくれるかな……。
「実咲、俺さ、今日いろんな話聞きたいんだ。 京都で、頭の中を整理しておく、って言ってたよね? 実咲の中では整理できたの……? 俺、いろいろ聞いていいの?」
実咲は空を見ながらいろんな事を思い出している様だった。
「……私もね、話すかどうか迷った話もあったの。 さっきまで迷ってた……。 けど、司目の前にしたらやっぱり話そうと思った。 だから聞いていいよ。 司の家着いてからゆっくり話そっか……」
俺の家へ車を走らせる。
先走る気持ちを抑えながら家へと向かう。
そんな俺の気持ちを抑えようとしてか車は渋滞でゆっくりしか前に進まない。
もどかしさも感じるが、そんな時も実咲と一緒にいれる喜びを噛み締めていた。
こんなにまで会いたかった人。
その人が隣にいる。
実咲のどんな気持ちも受け入れようと思った。




