本当の事
月曜日。
週明けは何となくバタバタする。
と言っても俺の所属する人事課は午前中に集中して忙しくなる事が多く、残業は数える程しかない。
今日も定時で帰ってジムに行こうと思っていた。
今日の夜、三郷ちゃんは来るのかな……。
突然やってくる三郷ちゃんに話をしてもいいのかな……、いや、話しなきゃいけないよな……。
やっぱりジムは行くのやめよう……。
行ったところで集中できないし、家で三郷ちゃんが来るのを待つ事にした。
実咲へLINEを送った後、折り返しの返事が来た。
『お父さんと話せてよかったね。
けど、三郷は私の妹でもあるし、司の妹でもあるんだね……。
そんな事ってあるんだ……って思う。
司、大丈夫?
ちゃんと話せる?
三郷も理解するのに時間がかかるかも知れないけど……。
たぶん私のところにも連絡があると思う……。
私からもわかる様には話しておくね。』
LINEの文面だけでも実咲だと安心する。
実咲、何やってるんだろう……?
仕事かな……。
今日は泊まりなのかな……。
また会いたいな……。
自然とそう思っていた。
リビングの窓際に1つ椅子が置いてある。
そこに座り景色を見ながらコーヒーを飲むのが好きで何も考えずぼんやり過ごす事もよくあった。
今はそこに座り景色を見ながら実咲の事を思う。
二十年経った今も大事な人に変わりなかった。
チャイムが鳴った。
三郷ちゃんだ……。
いつもの様に遊びに来た、いつも通りの三郷ちゃんだったが、伝えなきゃと思った。
「三郷ちゃん、ちょっと話があるんだ。 ちょっと座って待ってて……」
顔がこわばるのがわかる。
コーヒーを作りにキッチンに立ったが、普段通りの段取りでコーヒーが作れない。
何から話せばいい?
傷付ける事になるけど大丈夫かな……。
三郷ちゃん、わかってくれるかな……。
三郷ちゃんはいつもと違う雰囲気を察している様だった。
コーヒーを何とか作り、テーブルに置き自分も席に着いた。
「何? どうしたの?」
「三郷ちゃん、今日は真剣な話ね……。 三郷ちゃん、お父さんの腕時計直してあげたよね? あの腕時計、俺知ってるんだ……」
「え? どういう意味……?」
「あの腕時計、お姉さんに買って来てもらったって言ってたよね? お姉さんって【窓川実咲さん】だよね? 俺、お姉さんと付き合っててその腕時計買った時、一緒にいたんだ……」
「……え……? 曽根さん、お姉ちゃんの元カレなの……」
「そうなんだ。 俺の都合で別れなきゃいけなくなったけど……。 あの腕時計を見た時、一緒に買った事を思い出したんだ。 まさかと思ったけど……会って聞いたんだ……」
「お姉ちゃんに会ったの……?」
「先週、会った」
三郷ちゃんは黙ったまま俺を見ていた。
「俺ね、もう恋愛はしないって決めてたのは知ってるよね? あれは実咲の事が忘れられないからなんだ……」
「実咲なんて言わないで!」
三郷ちゃんは声が荒がった。
初めて見る三郷ちゃんだった。
「ごめん……、三郷ちゃん、最後まで聞いて欲しい。 俺はね、その気持ちを思い出さない様に生きてきたんだ。 けどね、三郷ちゃんと会ってその気持ちを思い出してしまったんだ……。 ごめん……」
「お姉ちゃんに会ってやっばりお姉ちゃんと付き合いたくなった?」
「実咲がどう思ってるかは知らないけど俺自身の問題で実咲は関係ないんだ。 その気持ちをやっぱり忘れなかった事に気付いた以上、三郷ちゃんとはやっぱり付き合えないと思ったんだ……」
「何でよりによってお姉ちゃんなの……」
三郷ちゃんは天井を見上げて大きなため息をついた。
「まだ半分は残ってる。 その半分で曽根さんの気持ちを変える事はもうできないの?」
3ヶ月……その期間の話だった。
その期間を待たずに答えを出した理由がもう一つある。
それも話す時が来てしまった……。
「三郷ちゃん……、もう一つ話さなきゃいけない事があるんだ……」
「え……、何……? お姉ちゃんの事の他に何かあるの……?」
「俺と三郷ちゃんはきょうだいなんだ……」
「何……? 言ってる意味がわからないんだけど……」
そうだよな……。
でも、話さなきゃ……。
知らなきゃいけない本当の事を少しずつ話し始めた。




