父から告げられた真実
父さんを乗せ車を走らせた先は、やはり料理教室だった。
到着までは30分以内。
今日は本屋へ行こうと少し早めに家を出たらしい。
どこまで聞けるかわからないが父さんに話し始めた……。
「あのさ、【田所三郷さん】って知ってるよね?」
「……知ってるよ……」
父の気まずそうな雰囲気が感じ取れた。
「娘だよね?」
「……司、知ってたんだ……。 隠しててごめん……。 三郷の事、知ってるの?」
父さんの手首にはあの腕時計がつけてあった。
確信に変わった……。
やっぱりか……。
「いや、それをとがめに来た訳じゃないんだ。 俺さ、よくわからなくて……。 母さんと離婚したのって高校二年の冬だったと思うんだけど……。 離婚する前にもう三郷ちゃんは生まれてたって事?」
父さんはゆっくり話し始めた。
母さんと夫婦として破綻したと感じ始めた時に、会社に派遣社員としてやって来た女性がいた。
それが実咲の母親だった。
離婚して一人娘のために必死で働いていて、ひたむきに仕事に向かう姿に父さんは感心していたらしい。
ある時、自分の課の手伝いを実咲の母親がしてくれた事がきっかけで社内でもよく話す様になり、いつしか不倫関係になってしまった。
実咲の母親ももう結婚はしたくないと思っていたらしく、自分も結婚という形に執着してないというのもあってお互い後腐れのない関係であった事には間違いなかった。
そんな時、実咲の母親が妊娠した。
自分は妻とは夫婦として破綻してしまってはいたがまだ離婚もしてなかったし、どうしようかと悩んだ。
けれど、実咲の母親は父に、
「あなたには関係ない。 何かしてもらおうとか思ってないから。 でも、この子は生ませて」
そう言われ、三郷ちゃんが生まれた。
ちいさな赤ちゃんはとてもかわいくて、後腐れのない関係とはいっても、はやり我が子はかわいいらしく小さいうちはよく会いに行っていたらしい。
その頃の実咲は高校生の多感な時期で、会いに家に行っても挨拶する程度で、自分の部屋にいつも籠ってしまっていたらしい。
実咲とも交流を図ろうとしたが、高校生の女の子は難しかったと父は話していた。
それが父が今まで話さなかった真実だった。
「そっか……。 でもさ、母さん、その頃、父さんに『何かある』って気付いてたみたいだよ。 でももうどうでもよかったって……」
「気付いてたの? そうだったんだ……。 でも、離婚前の母さんならそうしただろうな……」
「三郷ちゃん、父さんの名前って知らないの? 俺の名字聞いても何も言わなかったよ。 普通、あ、父親と名字一緒だとか言う話になるでしょ?」
「たぶん、名前、三郷のお母さんにちゃんと教えてもらってないんじゃないかな……。 実咲ちゃんもよく知らないのかも知れないよ。 【父親】としか認識がないのか、自分で調べて知ってるけど言わないのかはわからないけど……」
俺は三郷ちゃんと自分の話、そして実咲との話を父さんに話した。
俺は三郷ちゃんに真実を伝えないといけない。
少なからず傷つけてしまう事を父に話しておきたかった。
「実咲ちゃんと付き合ってたんだ。 実咲ちゃんの妹は自分の妹でもあったって事か……。 そっか……。 ある意味縁があり過ぎだな……とは思うけど……三郷には言わなきゃな……。 仕方ない事もあるし……。 まぁ、言うしかないから。 その後の事は三郷の感じを見て考える他ないよ……」
「実咲ちゃん、元気か? もうずいぶん会ってないけど……」
「俺もこの前久しぶりに会ったけど、元気そうだったよ……」
「そうか……。 司はどうしたいの? 結婚まで考えた相手だろ? 三郷の事は気になるけど、お前だって幸せになる権利はあると思うけどな……」
「実咲の気持ちもあるから……。 そのあたりの話はしてない。 敢えてしなかったかな……」
今、そんな話を俺ができる状態じゃない……。
そもそも、実咲にとっては終わった話かも知れないし……。
実咲の今を全然知れていない。
二十年のブランクを埋めるのに、公園で二人で話した1時間ちょっとの時間では足らな過ぎた。
「そうか……。 少しずつだな……。 ごめんな。 母さんと別れなければ、お前が苦労しないで済んだのに……。 全部、背負わせた。 ごめんな……。 もっと俺に強く言っていいのに、言われても当然なのに……」
父さんは自分のせいでもあると思っているみたいだったが、そんな事思った事もなかった。
「別に父さんが悪い訳じゃないでしょ。 仕方なかったんじゃないの?」
「お前をそんな風に育てた母さんには感謝だ……。 ありがとう、母さんを最後まで看てくれて……」
別れた母さんの事を父さんが感謝していると言ってくれた事は物凄く嬉しかった。
母さんと父さんが繋がった様なそんな感覚になった。
だいたいの話を終えた時、父さんの目的地に着いた。
三郷ちゃんの事もあるし、連絡先を交換した。
「司、会いに来てくれてありがとう。 送ってくれてありがとう。 助かったよ。 今度は飲みに行くか? 実咲ちゃんにまた会うなら、よろしく伝えておいてくれよな」
父さんはそう言って人混みの中に紛れて行った。
家に戻り、実咲へLINEを送った。
『父に会ってきた。
やっぱり、三郷ちゃんの父親だったよ。
三郷ちゃんに父の事と俺と実咲との事、話すね。
三郷ちゃん、傷付けてしまうかも知れないけど……。
実咲が背中を押してくれたから父に会えた。
実咲のおかげ。
ありがとう。』




