父との再会
気付けばもうあたりも暗くなってきた。
「さぁ、もう帰らなきゃ。 明日も仕事でしょ?」
実咲と久しぶりに会ったのに、実咲の事をあまり聞く事ができなかった。
「仕事。 実咲は?」
「仕事だよ」
「泊まりもあるんでしょ?」
「あるよ。 けど明日は違うよ」
「大変だね」
「うん……。 でももう慣れたかなーー」
実咲と駐車場まで歩き出した。
実咲と久しぶりに会ったけど、昔の自分は全然残っててまた離れてしまうのかと思うと寂しくなった。
実咲の話、聞きたかったな……。
「ねぇ、実咲。 またLINEするから」
今の俺が言える精一杯だった。
彼氏がいるとかいないとか、好きな人がいるとかいないとか、そう言った瞬間は俺には関係なかった。
ただ、素直に思った事を伝えたかった。
「わかった……。 今日は会えてよかった。 元気そうでよかった……。 それがわかってよかった……」
「じゃあ、ここで……。 明日も仕事、頑張ってね……」
「実咲もね」
ここで離れるんだろうけど、俺は自分の車の方へ歩き出せずにいた。
実咲への気持ちは変わってなかった。
二十年分のブランクを埋めたかった。
でも、今の自分には何もできない。
三郷ちゃんの事をちゃんとしないと……。
「司? どうしたの?」
動かない俺を心配して声をかけてきた。
「あ、いや、何でもないよ。 実咲、また連絡するから!」
俺を忘れないで欲しい……。
少しでも俺をアピールしておきたかった。
「わかってるって……。 さっき聞いた! じゃあね」
笑ってそう言って自分から離れていく実咲を眺めた。
車の中でスマホを見ると、三郷ちゃんからLINEが来ていた。
家に来たけど不在だったから連絡したみたいだった。
折り返し、電話をかけた。
「今どこ? もう帰ってくるなら待ってるけど!」
話しながらも、この子は妹なんだ……という新しい気持ちが加わってしまった。
「ジムに寄ろうと思ってるからまた今度にしようか……」
とっさについた嘘だったが、三郷ちゃんは了解してくれた。
申し訳ない気持ちと早く話さないという気持ちでいっぱいで、父に早めに会おうと思った。
会うと言ってもどうしたらいいか考えていた。
あの集合団地で暮らしている事しかわからない。
部屋番号ももちろんわからない。
仕事を休んで張り込むか……。
刑事であるまいし、そんな事できない。
その前に社会人として無理な話だ……。
どうすれば会えるかを考えていた時、三郷ちゃんが話していた事を思い出した。
そうだ、料理教室に通ってるって言ってた……。
あれ、確か日曜日だったよな……。
日曜日の昼頃には料理教室に出るだろうからそのあたりの時間にあの集合団地へ行ってみようと思った。
次の日曜日。
あの集合団地近くへ行ってパーキングを探した。
すぐ近くに小さいながらにパーキングを見つけ、徒歩で近くの公園へ向かった。
見慣れないやつが公園に一人、何をする訳でもなく集合団地を眺めている様はとにかく不気味だろうなと思う。
俺からすると、父親に会いに来ただけなんだけど……。
まぁ、ずいぶん会ってないけど……。
しばらく公園のベンチに座って眺めていると、あのこの前見かけた父と思われる人が出てきた。
どうやら駅に向かうみたいだった。
俺は急いでその人の元へと向かい、勇気を出して声をかけた。
「すみません!」
その人は後ろから声をかけた俺にびっくりしながら振り向いた。
「父さん……だよね?」
勇気を出して声をかけた俺を見て一瞬びっくりしていたが、その人は笑顔になった。
「……司か!? え!? 司?」
その人はやっぱり父だった。
もう白髪で、格好も俺がよく見ていたシャツにネクタイでパリっとした格好ではなかった。
会社も退職してるから当たり前か……。
「司、元気だったか? どれくらいぶりだ? お前、当たり前だけど大人になったなぁ! 結婚は? 母さん、元気か? でもここがよくわかったな」
「父さんこそ元気なの? 母さん、死んだんだよ。 もうすぐ一年になるかな……。 今日は父さんに聞きたい事があって来たんだ……」
「母さん、死んだのか……。 そっか……、寂しくなったな……。 司、結婚は?」
「俺、まだしてない。 実家も売り払って今、マンションで一人で暮らしてる。 父さんも、ここで一人?」
「結婚してないのか……。 早くしろよ。 もういい歳だろ? 俺もここで一人。 でも何でここってわかったんだ?」
「父さん、今からどこ行くの? 俺、車だから送ってくよ。 ちょっと聞きたい事もあるし……。 よかったらだけど……」
「じゃあ、お願いしようか……」
父さんは少し嬉しそうだった。
俺自身、父さんとこんな事をできるなんて思ってなかった。
父子の久しぶりの時間。
父さんは本当の事を話してくれるのかな。
緊張が走る……。




