動き出した時間
少しずつ知る、三郷ちゃんの【お姉さん】の事。
「老人ホームって不規則なの?」
「夜勤があるんだって。 月3回くらいあるみたい」
「そうなんだ。 夜勤、大変だね……」
「お姉ちゃん、前は普通の会社に勤めてたんだって。 転職したみたいだよ。 私が小さい頃の話だからよく知らないんだけど……。 私が小学生の頃にはもう働いてたの」
「そっか……」
実咲だよね……?
たぶん、実咲だよね……。
本当はもっと知りたかった。
実咲だと確信したかった。
決定的な事を聞けずにいたが、今日はこれ以上はもう聞けないと思った。
実咲、結婚してないの?
一人暮らししてるの?
でも結婚してないだけで付き合ってる彼がいるかも知れない……。
実咲の今を知りたかった。
いろんな事が消化不良な感じで気持ち悪さしかなかった。
ずっと閉じ込めていた感情。
急に開けてしまった箱から飛び出した気持ちが一気に加速する。
どこか冷静でいられない自分にも気付いていた。
何がどう変わらずとも、実咲を知りたいと思っている自分が存在する事も……。
今、三郷ちゃんに話す事も難しい……。
ちゃんとした事を知って、それから話をした方がいいと思った。
けど、だからといって長引かす訳にもいかない。
三郷ちゃんの気持ちもある……。
この俺が提案して始まった関係も……。
三郷ちゃんの中で実咲の面影を探す。
こんな事してていいのか……という気持ちにもなる……。
いけない事をしている感でいっぱいだった。
スマホで市内の老人ホームを探してみる。
老人ホームだけで凄い数がある。
【老人ホーム】という名前じゃない施設も含めるともっとになる……。
これだけじゃ実咲がどこに勤めてるのかはわからない……。
実咲の情報は三郷ちゃんに聞くしかなかった。
でもなかなか聞き出せない。
未確定だけど、話して聞いてみた方がいいか……。
でも、急に姉と付き合ってた彼氏だったって衝撃過ぎじゃないかな……。
いや、でもいつかは伝えないといけない事実だし……。
いろんな葛藤がありながら、三郷ちゃんに聞けずじまいだった……。
どうしていいかわからず困った俺はある夜、木村さんに電話をかけた。
「お! どうしたの? 電話なんて珍しい!」
「ごめん、今いい?」
「あ、いいよ! どうしたの?」
木村さんに現状を話した。
「……そんな事ってあるんだ……。 でも、やっぱりそれ、窓川さんだと思うな……。 その前に、私がプレゼンしたやつ、実行してたんだね!」
そう言って笑っていた。
「だってさ、このまま向こうが引く気ないのにズルズルするのも良くないと思ってさ、木村さんが言ってた事をすれば期間内に白黒はっきりすると思って……。 あ、手は何にも出してないよ!」
「わかってるって……。 曽根くんはそういうのちゃんとしてる人って知ってるから。 で、勝ち気なあの子に向き合おうとしたら、窓川さんの話が浮上した……と……。 凄いタイミングだね。 で、曽根くんはその【お姉さん】を知りたい訳だよね?」
「もしさ、その【お姉さん】が窓川さんじゃなかったらどうするの?」
「三郷ちゃんとは付き合えない……。 今回の事でわかった……。 窓川さんじゃなくても、窓川さんだったとして自分とどうこうならなくても、付き合えない……」
「そこまで自分の気持ちがわかってるなら、ちゃんと話すべきだよね。 現状、【たぶん窓川さん】でも、勝ち気女子とは付き合えないと思うならもう答え出てる。 【窓川さん】って確定させるまで待つ必要はない」
「そっか……そうだよね……」
確かにそうだ。
付き合えないと思った理由にも気付いた。
「窓川さんの連絡先って知らないの?」
「知らないんだ……。 変わってないのかな……?」
「曽根くんさ、LINE、始めたじゃない? 見てみた?」
「見る? 何を?」
「知り合いかも?のとこ」
そんなところがあるのも知らない……。
相手が自分をLINEで登録していたらその欄に名前が上がってくるらしい。
「この電話切った後、見てみたら? あったら曽根くんが自分のLINEに登録したら私たちみたいに窓川さんともLINEできる様になるから」
「結婚してないんでしょ? 彼がいるかどうかはわからないけど、連絡くらいいいんじゃない? 気になるんでしょ? もう曽根くんはいろんな事を我慢しなくていいんだよ」
木村さんに鼓舞され電話を切った後、LINEを開いた。
教えてもらったところを押してみると、何人も名前が上がっていた。
中学や高校、大学の友達、営業当時に知り合った得意先の家業さんや地方の営業所の同期の名前……。
その中をひとつひとつ探してみる……。
【Misaki Madokawa】
実咲のLINEだ……。




