記憶
三郷ちゃんと過ごす様になって1ヶ月くらい経った。
相変わらずの関係だったが、三郷ちゃんがうちに来る事にも慣れ始めていた。
いつもの様に泊まりに来ていた三郷ちゃんから明日立ち寄りたい場所があると言われた。
明日は遠出がしたいと言った三郷ちゃんとドライブをする予定だった。
「どこに寄るの?」
「この前ね、お父さんと会った時カフェで待っててもらったでしょ? あの辺り」
「あ、あの辺り。 一緒に行った方がいい?」
「物を取りに行くだけですぐ終わるから私一人で行ってくる。 だから車で待ってていいよ」
近くにパーキングがあるからそこに停めて待ってよう……。
翌日は天気が良くてドライブに最適だった。
昨日言われたあのカフェの近くのパーキングに車を停めた。
「じゃあ、行ってくるね。 待ってて」
三郷ちゃんを送り出し、しばらく待った。
今日どこまで行こうかな……。
ドライブと言っても全く考えてなかった。
三郷ちゃんが行きたいところ、あるのかな……?
聞いてみて考えようかな……。
いや……でも、ノープランだと怒りそうだしある程度考えておこう……。
三郷ちゃんのいない間、ナビを使ったり、スマホで検索してみたりして行き先をリサーチした。
何箇所か候補を見つけたところで小さな紙袋を持って三郷ちゃんが帰ってきた。
「お待たせ! じゃあ、行こっか!」
「どこ行く?」
「考えたんだけどねーー、海沿いにある道の駅は? あそこさ、隣接してるカフェがリニューアルしたんだけど、有名な建築家さんが作ったんだって。 行ってみようよーー」
そのリニューアルしたカフェは知らなかったが、候補の一つだった。
「じゃあ、そこ行こうか」
目的地が決まり、その道の駅まで車を走らせた。
片道、1時間半くらい。
助手席に乗る三郷ちゃんはお団子ヘアでいつもと雰囲気が違う。
朝、支度する時にささっとやっていた。
そんなに簡単にできるもの?
男の俺にはわからないけど、でも、髪型が違うと雰囲気も全く違って女の子って凄いなと思った。
そんな話をしたら、
「女の子はみんなそうだよ。 だってデートでしょ? かわいくありたいのに決まってる」
そう言っていた。
自分の為にはもちろんだけど相手の為にも化粧をしたり、服を選んだり、髪型を変えたりデート一つに時間も手間もかけてくれるんだ。
そう思うと、甲斐甲斐しく思った。
目的地の道の駅までは海岸線沿いを走る。
今日は天気も良くて空も海も青い。
三郷ちゃんは終始何かを話していた。
会社の話、友だちの話、昨日見たテレビの話……。
1時間半の道のりは三郷ちゃんの話をたくさん聞いた。
道の駅に着くと何とか駐車場に車を停めれたものの、リニューアルしたカフェの影響もあってか人はいっぱいだった。
カフェに行くとカフェ待ちの人で列ができていて店員に聞くと、今の時間だと、1時間半から2時間待ちとの事だった。
名前を書いて予約だけ入れてその間、他を散策する事にした。
海に面した辺りにはデッキがあって海を見ながらゆっくり散歩ができた。
時間もあるし、端から端までを散歩する事にした。
「今日は気持ちいい天気だねー。 運転、ありがとうございます!」
「いえいえ。 まだ時間あるけどどうするの?」
「もう少し散策してからまたカフェに戻ってみよう。 お店いっぱい入ってるし見るところもあるから時間も潰せるね」
「ねぇねぇ、デートなのにさ、手繋ごうよ!」
「ダメです」
「えーー、じゃあ、このデッキを歩き終わるまで」
そう言ってスルっと俺の手を取った。
「お願い!」
無邪気にお願いする三郷ちゃんを突き放す事はできなかった。
「……じゃあ、歩き終わるまでね……」
三郷ちゃんにペースを崩される……。
「ほんとのカップルみたいーー。 早くそう言える様になるといいなーー。 少しは好きになってくれた?」
「前よりは三郷ちゃんを知れたかなとは思うけど……」
「じゃあ、もっと知ってもらったら好きが増える?」
「うーん……? ちゃんと知ろうとは思ってるけど……」
「もっと好きになって」
まっすぐな気持ちで俺に向かってくる三郷ちゃんはかわいいと思う。
……思うんだけど、その先をなかなか超える事ができないでいた。
三郷ちゃんとちゃんと向き合える日がくるのかな。
自分の気持ちの変化を少しずつ感じれるのかな。
その時の俺は、三郷ちゃんと過ごす時間が増えると気付いたら超える事ができなかった気持ちに辿り着いてた……なんて事があるかもな……と、そんな風に思っていた。
カフェに戻るともうすぐ予約の順番が回ってくる頃になっていた。
店先の椅子に座りまっていると10分もしないうちに名前を呼ばれた。
中に入ると凄い空間が広がっていた。
一面ガラス張りで、海の景色が見渡せる。
「景色いいねーー!!」
有名な建築家は知らないし、建築にも詳しくはないけれど、おしゃれな空間なのはわかる……。
綺麗な景色を見ながら食べるランチは格別においしかった。
ランチも終わり、席でゆっくりコーヒーを飲みながら景色を堪能していた。
今日は天気も良くて見晴らしもいい。
ずっと見ていられる気持ちのいい景色。
三郷ちゃんがスマホを取り出そうとバッグの中身を取り出した。
綺麗に折り畳まれた紙袋。
「これ、さっき寄ったところの紙袋?」
「あ、そうそう。 これね、お父さんから直しておいてって預かってたの。 それを取りに行ってきた」
そう言って見せてくれたのは古びた腕時計だった。
「これね、お父さんの誕生日にプレゼントしたの。 それを今も大事に使ってくれてるの。 優しいお父さんでしょ? もうボロボロなんだけどねーー。 今度はベルト変えなきゃねーー」
そう言ってみせてくれた腕時計。
何となく目に入った、時計の裏に彫られた【From Misato】の文字。
……ん……?
何だっけ……これ……?
何か……どこかで……。
え? 違うか……、気のせい……?
いや……でも……何か……。
自分の中で記憶を辿っていく。
思い出した……。
実咲だ……。




