イレギュラー
「あのさ、俺から提案があるんだけど……」
この提案を話す事にも慎重になる。
イレギュラー過ぎるでしょ……。
「提案ですか……?」
「三郷ちゃんが俺を思ってくれてるのはよくわかったんだけど、俺はやっぱり三郷ちゃんを恋愛対象には見れないんだ……。 それでも三郷ちゃんは毎週、俺と話に来てくれる訳じゃない? それってさ、三郷ちゃんの大事な時間を削ってる事には変わりなくて、俺自身が申し訳なくて仕方ないんだ……」
「それでさ……、期間限定で付き合ってみる形をとってみるのはどうかな……。 ちゃんとその間お互いを見て、その後ほんとに付き合うかどうかを決めるっていうのは……?」
「期間限定で付き合う……ですか? それってその期間内は彼として誰かに紹介してもいいって事ですか?」
「いいよ……。 その間は普通のカップルと一緒と思ってくれていい。 ただ、普通と違うのは俺と三郷ちゃんとの熱量が違うという事。 付き合うという形の中で俺の気持ちが変わったり、三郷ちゃんが思ってたのと違った……って事もあるかも知れない訳で、恋愛が手探りで進められていく……みたいな感じではあるし、付き合ってるとは言いにくいけど……。 もちろん、三郷ちゃんがよかったらっていうのが大前提だけど……」
「その間に曽根さんを本気にさせればいいんですよね?」
「俺の気持ちが変われば……そのまま……って感じかな……」
「期間限定って?」
「あまり短くても長くてもダメだと思うから3ヶ月という期間でどうかな……?」
三郷ちゃんは少し考えて、
「やります! 3ヶ月で私を好きにさせますから!」
そう言った。
同じ時間を費やすなら、こんな形の方がいい。
結果を出してもしダメならいち早く次に進んで欲しい……。
三郷ちゃんと細かいところまで話し合った。
期間は今日から3ヶ月、【付き合う】という形をとる。
その期間中は彼、彼女の認識であって誰かに紹介してもよい。
その他は普通のカップルと同じ。
3ヶ月後、恋愛感情がやはりなければそこで終わり、延長はなし。
「それって、エッチもありですよね?」
痛いところを突かれた……。
「三郷ちゃん……、それはできないよ……。 気持ちがないのにできない……。 三郷ちゃんにも失礼だよ」
「私はいいですよ!」
「そんな事は言わないの……」
「でも、曽根さんの温もりは感じたい。 手、繋いだり、抱きしめてもらったりはしたいです!」
散々考えて、『その時に必要なら……』という条件でその2つは了解した……。
木村さんの提案、ほぼそのままを三郷ちゃんに提案したが、本当にこれでよかったのかと考えたりもする。
始めてしまった恋愛とも言い難い関係をとりあえず3ヶ月間やり通してみて、その時になってまた考える事にした。
「今日から曽根さんは私の彼なんですね。 何だか嬉しいーー」
「三郷ちゃん……、とりあえずだからね……。 3ヶ月だけだからね……」
「曽根さん、最初に三郷【ちゃん】はやめません? 呼び捨てで呼んで欲しい」
「三郷ちゃんは三郷ちゃんだから……。 それは変えなくてもいい?」
「えーー、呼び捨てがいいのになぁーー」
三郷ちゃんは渋々了承してくれた。
呼び捨てで呼ぶ事はできなかった。
【音】が【実咲】に似てるから。
もう長い間、口にしていない【実咲】という名前。
自分が一番愛した大切な名前に間違いなかった。
同じ様な【音】を口にする事に抵抗があった。
【ちゃん】を付ける事で自分の中で全く別物と認識したかった。




