恋の予感
「あーー、おいしかった!! ありがとうございます!」
「いえいえ! こちらこそ、窓川さんの分が減っちゃってごめんね」
「とんでもない! このチョコレートのおいしさを共有できてよかったです」
「ねぇ、窓川さん。 敬語やめない?」
「あ、敬語ね……。 気付いてた? どうしようか考えてて……。 何か急に敬語やめちゃうのも馴れ馴れしくて失礼かな……とか思ったり……」
「そんな事考えてたの!? 同期だし同い年だしもういいんじゃない?」
「じゃあ……、やめるね」
窓川さんともっと距離を縮めたかった。
まずは敬語はなしがいい。
とっさにそう思ってそう言った。
「暗くなってきたなーー。 みんな帰って行ってる……。 さぁ、帰ろっか!」
「そうだねーー。 帰ろうーー」
ほんとに短い時間だったけど、楽しい時間だった。
終わりの時間が気になったのはいつぶりだろう?
「窓川さん、またみんなで飲みに行こうね」
「そうだね。 行こうね」
【みんな】を付けなければ言えなかった。
それが今の精一杯だった。
車に乗り込み別々の方向へ向かった。
明日も仕事頑張ろう……。
これが男の単純さかも知れない……。
またみんなで……と言ったものの飲み会は開催されずにいた。
社内で会って話すくらい。
でも少しずつ窓川さんを知りつつあった。
字がうまい事、高校の時は弓道部だった事、買い物が好きな事。
次に会ったら何聞こう……?
それを考えるのが楽しかった。
でもほとんどが外での仕事の俺はタイミングが合わない時はほんとに合わなかった。
窓川さんの総務課は営業の俺とは階が違う。
合わない時はほんとに合わない。
そんな事もあるよな……と思っていた。
定時前に会社に帰り、パソコンに届いたメールチェックをしていた。
客先からの見積もり依頼や修理依頼、納期の確認など数十件。
一つ一つ確認して処理していく。
そのメールの山の中に見慣れない差出人が表示されていた。
よく見ると窓川さんからだった。
俺はすぐに開いた。
「お疲れさま。
忙しいのに社内メールしてごめんなさい。
実はお願いがあって……。
この週末、空いてない?
買い物に付き合って欲しい。
男の人の意見を聞きたいの。」
空いてるけど……。
男の意見を聞きたい? どういう意味だろう……?
気になったけど、俺に頼ってくれた事は嬉しかった。
「お疲れさま。
土日、空いてるよ。
いいよ、付き合うよ。
どこで待ち合わせる?
あと、ネクタイありがとう。
実は昨日つけてたんだ。
窓川さんに会わなかったけど……」
そう送っていたら、翌日返信が来た。
「おはよう。
ありがとう!
助かる!
じゃあ、土曜日に駅前のコンビニで待ち合わせでもいい?
時間、12時でもいい?
ネクタイ、つけてくれてたんだ!
またつけてくれている曽根くんに遭遇できる事を期待しておきます!」
俺はOKの返信をした。
けど……男の俺に意見を聞きたいって何だろう?
それに引っかかった。
社内で会ったら聞いてみようと思っていたが、結局会わずに土曜日を迎える事になった。
気持ちいい天気になった土曜日。
立駐に車を停めて駅前のコンビニへ急いだ。
まだ窓川さんは着いてなかった。
店内でウロウロしていると、窓川さんが入ってきたが俺に全く気付いてなかった。
「窓川さん?」
そう呼ぶとびっくりしていた。
「あ! そうか! スーツじゃないんだ! 雰囲気違うね! わからなかった!」
スーツの俺しか見た事ないからイメージが湧かなかったのかな。
「で、どこ行くの?」
「お腹空かない? ごはん、食べにいかない?」
窓川さんはイタリアンの店を予約してくれていた。
「ごめん……、勝手にこのお店にしちゃったけど良かった?」
「全然! むしろ、昼時だから予約してくれててありがたいよ。 何食べる?」
お互い、パスタランチを注文した。
店内は満席。
店の入り口で待ってる人の横を通って中に入るのは申し訳なかったけど、窓川さんのおかげで待たなくて済んでよかった。
「今日買いたいものって? 俺で参考になるのかな……?」
「参考になるよ! 男の人の趣味とかわからないから……。 うち、母と妹だから……」
男の人に何か贈るんだな、とわかった。
その男の人って誰だろう……?
付き合ってる人なのかな……?
「誰かにプレゼント?」
俺は勇気を出して聞いてみた。
すると予想外の回答が返ってきた。
「父に。 母と別れてから私は会ってないんだけど、妹はたまに会ってて父の誕生日か近いから何か買ってきて欲しいとお願いされちゃって……」
お父さんと聞いて安心した自分がいる。
お父さんに……。 何がいいかな……。
「そっかーー。 何がいいかなぁ……。 妹さんの希望とかはないの?」
「お父さんに似合うものって言われた……」
「身に付けるものって事?」
「そうなのかなぁ……。 難しいよねーー」
「まぁ、いろいろ見てみたら?」
運ばれてきたパスタランチ。
窓川さんはやっぱりおいしそうに食べていた。
知らない人から見ると俺たちってカップルに見えてるんだろうな……。
話をしながら食べたけど、結構ささっと食べ終えた。
俺に合わせて早く食べたのかな……。
早く買い物に行きたかったのかな……。
「じゃあ、行こっかーー」
そう言ってお会計へ行くと、
「今日は私に奢らせて下さい! 付き合ってもらうし」
そう言われた。
そんなのいいよーー! と言って断ったが、
「今度、お願いしてもいい? 今日はそのつもりだったから」
と、【今度】という言葉に負けて今回はお願いする事にした……。
店の外に出て、買い物ができるエリアへ歩き出した。
土曜日なのでいつもよりやはり人が多い。
「ごちそうさまでした! でも、ほんとによかったのに……」
「いえいえーー! それにしても急いで食べるとしんどいね……」
やっぱり急いで食べたんだ。
「ゆっくり食べればよかったんじゃないの?」
「でも、たくさん外で待ってたから……」
そう思って急いで食べてたんだ……。
やっぱり優しい子……。
「また今度来てゆっくり食べればいいかな! それに買い物中に悩む時間も確保できたしよかったかも知れないね」
優しくてポジティブな窓川さんにまた惹かれた。




