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 それは突然だった。

 私の所属している国の王が隣国に模擬戦を申し込んだのだ。内容としては国境付近の荒地で行う戦争形式の団体戦、負けた方は勝った方に金銭を支払う、なるべく不殺生である、というものであった。

 これは政治のほとんどの事を決めている宰相殿にも相談すらせずにやった事らしく、さらに申し込むだけ申し込んであとは宰相殿に丸投げしたため宰相殿が頭を悩ませていた。宰相殿の事はよく知らないが少しかわいそうだった。

 なぜ模擬戦なのに不殺生であるという条件があるかというといくら模擬戦とはいえそれは戦争を模した戦であるため事故などで死者が出る可能性があるらしいし、その隣国が排他的であり他の基本的に他の種族を下に見ている者が多いと言われる人間が統治している国であり、さらに昔のいざこざで特定の種族は魔人もしくは魔族と呼ばれ人間からは良く思われていないことも相まって効果は薄いだろうがないよりはましになるそうだ。私は人間に会ったことがないのでそのあたりはよく分からない。

 しかしどうして王は急にそんなことをしたのだろうか。王も私と同じで体を動かすのが好きらしいのでよく兵と一緒に鍛えてたし兵の中でも強かった私ともたまに模擬戦をしていたけどそれだけだと飽きてしまったのだろうか。王はもともと寡黙な人であり結局なぜそんな事をしたのかを聞くことは出来なかった。


 それから時が経ち、模擬戦が始まった。

 最初こそおたがい小手調べのようなもので勢いがなく、剣や槍などは刃が落としてあるためまだ安全だったが、時間が経つにつれ激化し、相手に大槌のような重量のある武器を持った者がいたり途中から魔法の威力もどんどん高くなっていったので運が悪かった者もいるだろう。さらに数は少ないが明らかに悪意をもって攻撃してくる者もいたので見た目だけでいえば模擬戦というよりももはや戦争といってもいいだろう。


 戦の終盤、王も相手側の大将も前に出るタイプだったので決着は一騎打ちとなった。

 少しのあいだ見つめ合ったあと、剣戟の音が響き始めた。王は竜人という他の種族とは一線を画している力をもった種族で苦戦はしないだろうと思っていたのだが、相手も人間でありながらなかなかの強さがあり互角に渡り合っていた。

 それから長い間剣で打ち合い、両者がぼろぼろの状態でそろそろ決着がつくと思われたとき、相手が魔法の準備を始め、それに合わせて王も魔法を使おうとしていた。

 観戦していた者たちも巻き添えを食わないようにそれに合わせて離れていき、二人の後ろには立たないようにしていた。おそらくこれで決着がつくだろう。


 魔法が同時に発動した。王が使ったのは魔力を炎に変換しただけの魔法、竜人は体だけでなく魔法もかなり強く、ただ魔力を炎に変換するだけでもかなりの威力になる。それが人間のほうへと向かっていく。

 それに対して相手が使ったのは王と似たようなもので高圧の水を放つ魔法、こちらも負けず劣らずの威力だ。

 ほぼ同時に放たれた魔法は凄まじい轟音とともにぶつかり合い、蒸発した水が白い蒸気となって煙のように立ちのぼってゆく。

 あの金髪の人間が特別なだけかもしれないが少なくとも人間は話に聞いていたよりも強い者がいるようだ、あの人間は剣だけでなく魔法でも竜人である王と互角に戦えている。


 いくら二人が強くてもそんな大きな魔法を継続的に使い続けることなんて出来ず、少し時間がたち、両者とも魔法の威力が落ちてきた、そろそろ戦いが終わりそうだ。

 相手の魔法がひときわ強くなった。後先考えず最後の力を振り絞っているのだろう。王もそれに合わせて威力をあげる。


 ほんの数秒後、王が放った炎が消えていき、相手の放った水が王を吹き飛ばした。

 立ち昇る蒸気、膝をついている金髪の人間、倒れている王、ついに決着がついたのだ。少しの静寂のあと相手側から歓声があがった。


 しかしそれはすぐにおさまった。薄くなってきた蒸気の煙の中に何か、いや、誰かがいる。

 さっきまであんな衝撃があった場所に人がいるはずがない、いたとしても無事ではないだろう。

 少しづつ蒸気が晴れていき姿が見えてくる。


 女の子だ、どうしてこんなところに現れたのだろうか。

 ほんの少しだけ銀色が混じった少し長めの白髪、深い青色の瞳、あんな場所にいたら無傷では済まないはずなのに一糸纏わぬ姿で傷一つない綺麗な白い肌。頭の上の耳と尻尾をみるかぎり魔人か獣人なのだろう。

 ここにいるということは魔人の兵士である可能性があるが少なくとも私は見た覚えがない、私も兵士全員を把握しているわけではないので見た事がないだけかもしれないが。一瞬人間側の兵士なのかもしれないと思ったが人間が他種族を兵士にすることはないだろうしその可能性はないだろう。


 ……じぶんが何も着ていないことに気づいたのかその場で蹲った。

 さすがにあれはかわいそうなので近くにいるマントをつけた兵士にマントをもらい持っていく。土などで汚れているが他に何もないのでしかたがない。


 近づいてくる足音に気づいたのかその女の子が顔をあげる。


「大丈夫か」


 ……うまく聞き取れなかったのだろうか、反応が無い。


「とりあえずこれを」


 手に持っているマントを差し出すと目の前の女の子はそれを受け取って身にまとい、立ち上がってその場を離れようとするがバランスを崩して私のほうに倒れこんできた。


「おっと、大丈夫か?うまく歩けるか?」


 自分で歩こうとしているのだろうがうまくバランスがとれないのかふらふらしている。


 ……このまま大勢に見られるのも良くないだろうから一思いに抱きかかえる。ちゃんと立てていないのもあって足が簡単に地面から離れた。

 突然の事に女の子は少し驚いた顔をしたがすぐに考え込む顔になり、そのまま少しするとマントで顔を隠した。

 私はその後知り合いに一足先に戻ることを伝え、その場をあとにする。

 人混みを抜けて少しするとかかえている女の子の力が抜けていく、寝息をたてはじめたのでどうやら眠ってしまったようだ。

 こんな姿勢でも寝られるならそうそう起きないだろうけどできるだけ起こさないように歩きながら今回の模擬戦用に設置された拠点へと向かった。

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