第四百六十一話:問題発生
神代さんは実にノリよく竜達に挑んでくれた。ノリノリすぎてちょっと不自然に見えるくらいだったけど、その場にいた転生者達は皆神代さんの事を褒めたたえ、流石勇者だと賞賛していた。
この分なら停戦交渉もうまくいくだろう。そう思い、そろそろホムラに出張ってきてもらおうと通信魔法を飛ばしたのだが、少々面倒なことになってしまった。
「やっちゃえ勇者! 竜なんて血祭りにあげてしまえー!」
「あんたなら勝てる! 皆殺しだー!」
「世界の敵を打ち滅ぼせー!」
と、ホムラが出てきてもそう言った声が収まらず、なかなか交渉に移れないという事態に発展してしまったのだ。
まあ、転生者達は元々竜の大群相手に戦意喪失していたわけで、そんな大群を相手取っても優勢に事を運んでいる勇者を見れば、期待するのも無理はない気がする。
しかし、完全に傍観を決め込んでいるようだけどあなた達は戦わないんでしょうかね。ここまで出てきてるってことは攻撃系の能力を持っていると思うんだけど、手伝おうとか思わないんだろうか。
まあ、手を出してこないならそれはそれでありがたいんだけど、こうなると神代さんの方からいきなり交渉ってわけにもいかなくなる。
一応、ホムラの方から交渉を切り出してみたけど……。
「竜の言葉になんて耳を傾けるな!」
「奴らは敵だ! 勇者の務めを果たすんだ!」
「魔王の手先と交渉なんて後で絶対裏切られるわ!」
などなど、全く信用されていない様子。
いや、まあ、気持ちはわかるけどね? 聖教勇者連盟がそう言う教えをしてきたわけだし、転生者が竜に対して辛辣なのは今に始まったことじゃないから別にいい。
けど、そんなことを言われるもんだから神代さんが迷ってしまっている。
きょろきょろと視線をさ迷わせているのは私の事を探しているからだろう。
うーん、どうしようかな。ここはホムラと戦わせてみるべき?
転生者が押せ押せムードなのは勇者が思いの外強く、竜を圧倒できるだけの力を持っているからだよね。だったら、一度ホムラと戦ってもらい、適当に死なない程度に相打ちに持ち込んでくれたら勝てないことを悟って交渉を受け入れてくれたりしないだろうか。
今の神代さんなら火属性を吸収するし、火竜であるホムラとは相性がいい。そう考えると、普通にやってもホムラに勝てそうではあるけど、近くにはエリアスやライも来ているようだし流石に三体相手にしたら負けると思う。
神具の力を使ってぎりぎりの勝負ができた、次が来たら勝てない可能性がある、だから交渉で済ませよう、ってなってくれたらいいなぁ。
『神代さん、色々言われてますけどみんな勘違いしているだけですから惑わされないでくださいね』
「そ、そうは言っても、ドラゴンが味方っていうのは僕もちょっと納得いってないんだけど……」
事前に聖教勇者連盟の事は教えていたとはいえ、やはり人間と竜であれば竜の方が悪だという認識があるらしい。
まあ、戦争なんてどっちが悪かなんて誰にも決められないし、人間サイドから見たら竜が悪だってだけの話かもしれないけど、同じ人間としては人間側につきたいらしい。
まずいなぁ。このままだと神代さんが誑かされかねない。
『信じられないかもしれませんが、少なくとも聖教勇者連盟がこの星にとって悪影響を与えたのは事実です。その結果、あなたがここに無理やり連れてこられたのだということを忘れてはいけませんよ』
そもそもの原因は聖教勇者連盟が勇者召喚なんかしようとしたのが原因と言うことを説明して宥める。
それでも竜が味方である証拠にはならないかもしれないが、竜が味方であるという証拠を示すこともできない。
ここで撤退させることはできるけど、それでは竜が悪者のままだし、出来ればそのイメージは払拭したいところだから交渉はしたい。
聖教勇者連盟が竜脈をいじくったという事実も説明がしづらいし、仮にできたとしても転生者にはそれがどれほど深刻なことかは理解できないだろう。生贄をしていたという事実を聞けば多少は心動くかもしれないが、それでも罪人ならばとごり押す可能性はある。
マジでどうすればいいんだ。頭痛くなってきた。
『おいハク、どうすりゃいいんだ?』
『今考えてる。取り敢えず適当に戦ってて』
ホムラもどうすればいいか困惑しているようだ。ただ、私にも解決策は浮かばない。
適当に戦わせて時間を稼いでいるけど、流石に時間が経てばおかしいって気づくだろうし、早いとこ策を思い浮かばないといけない。
不自然にならないように交渉に持ち込み、それを信じてもらうにはどうすればいいんだろうか。
「あなた達、何やってるの?」
「お、コノハ! ちょうどいいところに!」
そんな時、転生者の下にやってきたのはコノハさんだった。
相変わらずロケランを片手に持ち、けだるそうな顔で歩いている。
こんな戦場には似つかわしくないが、転生者にとっては光明だったらしい。皆口々に状況を説明し、勇者に助力するように言い含めている。
「俺のブラッドマジックでも歯が立たなかったが、お前の現代兵器なら火力は随一だろ? 勇者を誑かそうとしてるあの竜を撃ち落としてくれ!」
「うっさい」
言い寄ってくる男性に対してコノハさんはロケランを振るい薙ぎ払う。
あんなもんで殴ったらたんこぶどころでは済まなそうだが、そこは加減したのか男性は尻餅をついて痛そうに額を押さえていた。
「あのさ、私言ったよね? 逃げろって。それでも突っ込んでいった挙句返り討ちになって、せっかく竜の方から交渉しようって言われてるのに断るってあなた馬鹿なの?」
「いってえな! 当たり前だろ! 竜は世界の敵だと教えられただろうが!」
「じゃあ言うけどさ。あなたは世界の平和のためなら喜んで死を選ぶわけ?」
「そ、それは……」
男性は口ごもる。
確かに、いくら聖教勇者連盟に恩があるとは言っても、それで命すらかけてまで戦おうとする人はいないだろう。なにせ根っこが日本人なのだ、いくらこの世界に染まっても、死にたくないという気持ちは強いはず。
もちろん、日本人でも死など怖くもなんともないと思う人もいるかもしれないが、転生者が全員そんな思考と言うわけはないだろう。少なくとも、この男性は死にたくないと思っているようだった。
その反応に、他の転生者達も顔を見合わせてもごもごと口を動かしている。死にたくないという気持ちは同じらしい。
「自分が死ぬ勇気もないくせに他人に期待を押し付けて、死ぬまで戦わせようとしてるのが今のあなた達だよ。勇者とやらが強いのはわかるけど、だからと言って交渉に応じるかどうかを決めるのはあなた達じゃない。実際に戦ってる勇者だよ」
「で、でも、あの勇者は強い。あの強さがあればあんな竜くらいどうとでも……」
「だーかーらー、それが押し付けだって言ってるの。見て見なさいよ。どうしていいかわからなくて混乱しちゃってるじゃない」
実際、神代さんは適度に戦ってはくれているが、私に倒さないように言われていることもあってどうしていいかわからない様子。
流れではこの後交渉してお帰りいただく予定になっていたのに、それがいつまで経ってもできないから困ってしまっているのだ。
「それに、今回の竜の襲来の件はある人から教えてもらったの。みんながちゃんと逃げられるようにわざわざね。この意味がわかる?」
「竜の襲来を知る奴……それってまさか竜を従えるっていうあの少女の事か?」
「そうだよ。濡れ衣着せられて茶番裁判で処刑されそうになってるあの子だよ」
「な、ならそいつが竜を呼び寄せたんじゃないのか? 竜に与する悪党め!」
「なんでそういう発想になっちゃうのかな」
なぜかコノハさんは私のことを話題に出した。
いやまあ、別にいいけど、何で急に? そんなことを言えば私と繋がっていると思われて敵対する可能性もあるのに。
コノハさんが何を考えているのかわからず、私はその行く末をはらはらしながら見守るしかなかった。
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