第四百六十話:勇者の活躍のために
この剣、神具だけあってやたらと性能が高い。
付与されている効果としては、火属性の魔法を吸収、火を操る、所持者への火属性の攻撃を無効化など色々あるが、特殊効果として周囲数十メートルの大地を溶岩に変質させ、範囲内を炎の結界で囲むと言うものがある。
この溶岩と言うのはもちろん熱々の状態で、普通なら立っていられないほどの熱さになるが、所持者は火属性を無効化するので相手にだけ不利な状況を押し付けることができる。
その上、炎の結界で囲まれているから逃げることもできない。タイマンを挑むにはかなり強そうな能力だ。
また、鞘の方にも特殊な能力があり、周囲の温度が上昇するほど身体能力を上げるという効果があるらしい。
まるでゲームだが、神具はみんなそんな感じだからそう言うものなのだろう。どの神具でも強力なので神代さんがそれがいいというなら異論はない。
「それでは、手に取ってみてください。神具に選ばれれば、持ち上げられるはずですよ」
これだけの神具がありながら、勇者が使える神具はかなり少ないようだ。だから、これが気に入ったからと言って選ばれるかどうかはわからない。
しかし、その一方で私はあまり心配していなかったりもする。なぜなら、神代さんは見た目で選んだというよりは、心に従って選んだという風だったから。
神代さんがレーヴァテインに触れる。レーヴァテインはその手を拒絶することなく受け入れ、その身を神代さんへ委ねた。
剣を掲げる神代さん。無事に神具に選ばれたようだ。
「だいぶ軽いんだね。まるで羽根を持っているようだ」
「神具は所有者を選びますから、所有者に合わせて最適化しているのかもしれません」
実際どうかはわからないが、神具ならそれくらいの機能あってもよさそうだ。
さて、これで武器に関しては問題ないだろう。後はいい感じに竜と戦って勝ってくれればいいだけだ。
使い勝手を誤って竜を殺してしまわないかが少し心配だけど、ホムラならうまくやってくれることだろう。最悪、死んでいなければリヒトさんが治せる。
「では神代さん、準備はいいですか?」
「いよいよドラゴンと戦うんだね。ちょっと緊張するなぁ」
「大丈夫、間違っても神代さんが死ぬようなことはしませんし、たとえされたとしても神代さんの耐性なら余裕で耐えられます。勢い余って竜を殺さないようにだけ気を付けてください」
今回の作戦は勇者としての功績を立てさせるための戦いだ。
だから、出来れば多くの転生者に目撃してほしいところ。しっかり見てもらわないと意味がないからね。
「私は隠密魔法で身を隠して近くにいます。出来るだけ誘導しますので、うまく立ち回ってください」
「わかったよ」
さて、準備は整った。早速向かうとしよう。
私は囚われていた人達にここで待機するように言ってから、神代さんを伴って重要区画を脱する。
結界に遮音効果があったのか知らないが、外に出た瞬間数々の喧騒が耳に入ってきた。
空を見上げれば夥しい数の竜。それは空を埋め尽くさんばかりの数で、少なく見積もっても数十人はいるだろう。
一体どれだけの戦力を連れてきたんだ。これ、下手したら竜の谷の本隊が来ていてもおかしくないほどの規模じゃないか?
お父さんの気合の入りように少し苦笑する。まあ、それだけ聖教勇者連盟の行いは腹に据え兼ねていたということだろう。
思ったよりも攻撃の頻度が高そうなので急ぐことにする。再建するにしても、建物もできることなら再利用したいし。
『神代さん、あちらの方です』
「わっ、頭の中に声が?」
『これは【念話】と言うものです。他の人には聞こえませんので気を付けてください』
「何でもできるんだね。凄いや」
どこかのほほんとした雰囲気の神代さんに少し苦笑する。
ほんとに大丈夫かなぁ。これで上に立つことなんてできるんだろうか。
でも、今更計画を変更するのもあれだし、なんとかなると信じよう。
私は探知魔法で人が多く残っているエリアへと神代さんを誘導していく。近づいていくにつれて、戦闘している人が何人か見えてきた。
「なんて数なの! 竜がここまでの力を持っていただなんて……」
「俺達は何もしてないぞ! やったのは対竜グループの奴らだ! 俺達は悪くない!」
「ああ、なんでこんなところ来ちゃったんだろう。こんなことなら素直に逃げておけばよかった!」
恐らく転生者だと思われるが、なんだかだいぶ弱腰になっている様子。
まあ、今まで魔物相手に無双してきたのにいきなり魔王クラスの竜が大量に押し寄せてきてるんだから自信喪失してもおかしくはないか。
一対一ならともかく、ここまで大量だと多勢に無勢もいいところ。相手がただの魔物ならまだ何とかなるかもしれないが、竜とあっては逆転の目もない。
てっきり竜相手でも好戦的な態度を崩さないと思っていたけど、やっぱりそこは人間と言うことか。とはいえ、この状況はある意味チャンスでもある。
ここで勇者が颯爽登場し、竜を撃退してやれば神代さんの信頼も鰻登りになることだろう。
『神代さん、合図したらあそこの竜達を退けてください。なるべく派手に』
「わ、わかった」
私はホムラに連絡を取り、タイミングを計る。
どうやらホムラは転生者を無視するのではなく適度に脅して逃げられなくしていたらしい。
確かに、こうして戦意喪失してきている以上は逃げてもおかしくはない。でも、それだと目撃者がいなくなってしまって困る。
それを見越してある程度一か所に集めるように誘導した上でこの場に縛り付けたようだ。
ホムラはやはり頭が回る。あんまり仕事はしてないけどやる時はやるんだよね。
『……今です。行ってください』
「……よし、行くぞ!」
フレーバーでレーヴァテインの効果で背中に炎のマントをたなびかせ、颯爽と転生者と竜の間に割って入る神代さん。
事前に報告を受けていた竜は演技だが、両者突然の闖入者に驚いている様子だった。
「その服装、まさか勇者?」
「よかった! 勇者召喚が間に合ったんだ!」
「やっちゃえ勇者! 竜を蹴散らせ!」
勇者が来た途端、転生者は光明が差したと言わんばかりに歓声を上げる。
やはり、転生者達にとって勇者は特別な存在らしい。元々転生者達は勇者の補佐として教育されているわけだし、当然と言えば当然かもしれないが。
「ええと……この場は勇者神代ヒナタが請け負った! かかってこいドラゴン、成敗してくれる!」
若干戸惑っていたようだったが、すぐに調子を取り戻すと神代さんは竜に向かって剣を振るう。
空を飛ぶ竜に対してただの剣では太刀打ちできないが、レーヴァテインであればその射程を伸ばすことも可能だ。
刀身に炎が纏い、その長さを伸ばす。それは瞬く間に成長を遂げ、やがて数メートルはあろうかと言う大剣へと変化を遂げた。
「せやー!」
剣から迸る炎が竜達を襲う。絡みつくように飛び交う炎は瞬く間に竜達の自由を奪い、その場にくぎ付けにする。
まあ、これはもちろん演技だ。水竜ならともかく、その他の属性竜だったら多少の炎ではびくともしない。
……まあ、レーヴァテインの炎が凄いのか、一部は本気で嫌がってそうだけど。
ごめんね、後でお詫びするから許して。
「これでどうだー!」
ノリノリで剣を振るい続ける神代さん。
その華麗なる炎舞はしばらくの間続いた。
感想ありがとうございます。




