第四百五十九話:勇者の神具
しばらく考えてみたけど、ここは竜と聖教勇者連盟が和解した、と言う体で進めるのはどうだろうかと言う結論に至った。
どういうことかと言うと、まず竜が人死を出さない程度に建物を破壊するなどして暴れまわる。抵抗する転生者はなるべく無視し、被害が大きくなっていくように演出する。そこに勇者である神代さんが登場、竜と戦い、これを退ける。そして、さらなる戦闘に発展する前に神代さんの方から竜の方に停戦交渉を持ちかける。今後竜には手を出さないと約束をし、和解して竜は去る、と言う流れだ。
神代さんは勇者ではあるが、その存在はまだ私とエルしか認知していない。その見た目を見れば転生者なら勇者とわかるだろうが、まだ何の実績もない勇者に付き従うかは微妙なところだ。
そこで、神代さんにある程度勇者としての活躍をさせることで信頼を確保し、そこで竜を攻撃しないと約束すれば、勇者が召喚されたばかりでも手を貸してくれた上に自分達を守るために竜を退けてくれた、と思うことだろう。
竜としては聖教勇者連盟の許せないところは竜脈を勝手にいじくっていることであり、それらをやった奴らを粛正した後は竜の悪評を流すのをやめてくれさえすれば後はどうでもいい。竜人への被害も減って一石二鳥だろう。
神代さんが勇者として認められさえすれば、聖教勇者連盟を立て直すのも容易い。後は、じっくりと竜のイメージを変えて行き、勇者召喚と言う忌々しい儀式をなくしてしまえばすべて丸く収まる。
うん、この方法で行こう。そうと決まれば、ホムラ達に連絡をしないといけないね。
『風竜の誰か、ホムラに取り次いでくれる?』
『この声はハク様! はい、すぐにお取次ぎします』
誰が通信魔法をしているのかわからなかったので適当に風を飛ばすと、すぐに返事が返ってきた。
どうやら、ホムラは常に近くに風竜を置いているらしく、すぐにホムラに繋がった。
『ハク、今どこにいるんだ? もう結構経ってるが見当たらないぞ』
『あ、うん、ごめんね、ちょっと立て込んでて……』
そういえば、外に出ていて欲しいと言われてからすでに結構な時間が経ってしまっている。
ここは不可視の結界が張ってあるようだし、直接見ることはできないのだろう。気配は感じれども姿が見えずではホムラが心配に思うのも無理はない。
私は軽く説明をした後、今回の作戦について話した。
『……なるほど。後始末を付けるための下準備ってところか?』
『そんなところ。ホムラには竜達の誘導と神代さんとの交渉役を担ってほしいんだけど、出来る?』
『おう、任せとけ。思いっきり暴れられないのは残念だが、ハクの頼みとあっちゃあ断れねぇ』
ホムラは二つ返事で了承してくれた。
これで竜の動向は大丈夫。後は神代さんの方を何とかしないとだね。
『そういえば、アリアはきた?』
『ああ、来たぜ。大丈夫、心配しなくても神官っぽい奴以外は殺さねぇよ』
『いや、出来れば神官の人達も殺さないでほしいんだけど……』
確かに幹部達は皆神官服だから粛清対象ではあるけど、それ以外の位の低い者だっているはずだ。
教会なのだから、単に宗教上の理由で神官になった人もいるだろう。聖教勇者連盟の黒い部分に加担していない人もいるかもしれない。
だから、神官だからと言ってむやみに殺してほしくはないんだけど……。
『なら誰なら殺していいんだよ?』
『出来る限り殺さないで。後で粛清しなきゃいけない人は選別するだろうけど、今のところは』
まあ、正直ここでやってしまった方が後腐れはない気もするけど、出来る限り助けたいと思うのは私の癖みたいなものだ。
手加減を強いられる竜には申し訳ないと思うけど、再建するためにもある程度の人員は必要だし、出来る限り殺さないようにするに越したことはない。
『んー、わかったよ。んじゃあ、他の竜共にも連絡してくるから切るな』
『うん、我儘言ってごめんね』
『気にすんな。んじゃな』
そう言って通信が切れる。
さっきの竜脈の魔力を使う魔法陣を見た直後だったら勢いに任せて皆殺しにしろと言ってしまったかもしれないけど、神代さんと話したことで少し落ち着いたようだ。
勇者召喚自体は忌むべきものだけど、来たのが神代さんのような人畜無害そうな青年でよかった。
「……さて、神代さん」
「方針は決まったかい?」
「はい。取り合ず、こんな風に行こうと思います」
私は神代さんにも作戦を説明する。
いきなり竜と言うワードが出てきたことに驚いたようだが、すでに話はつけたというともっと驚いていた。
多分、神代さんは私の事をただの人間の子供とでも思っていたんだろう。確かに今は翼とかも出していないしね。
怯えられるかとも思ったが、それよりも竜を見られるということに興味を引かれたようだ。
きちんと戦えるかどうかはともかく、竜と会うこと自体に忌避感はなさそうで安心する。
下手をしたら怖がって戦ってくれなかったかもしれなかったしね。ある意味単純でよかった。
「でも、僕なんかがドラゴンの相手をできるのかな? 武器もないし」
「確かに、それらしい武器は必要かもしれませんね」
耐性を含め、身体能力がずば抜けているとしても流石に武器なしでは格好がつかない。
私が武器を貸してあげてもいいけど、今回の場合はもっと適した武器があるだろう。
そう、神具だ。
聖教勇者連盟は数多くの神具を保有している。そして、それらは皆勇者のために使われるのだ。であれば、神具を持つのは勇者としての証でもある。
問題は神具がどこに保管されているかだが、神具と言う重要性を考えても、恐らくこの重要区画に保管されていると思う。
確か、大神殿の周囲にはいくつか塔が建っていたはずだ。この大神殿にないのなら、そこが一番怪しいだろう。
「神具を探してみます。ついてきてください」
「わかった」
神代さんを伴って外に出る。
外には解放した人達が不安げな顔でその場に固まっていたが、軽く勇者について説明をして、今から戦いを終わらせると安心させる。
手加減するように言ったし、ここは結界に守られているから多少攻撃が当たっても大丈夫だろう。もし、結界が破壊されたならその時は私が結界を張り直せばいいだけだ。
ということで、勇者には神具が必要だということで塔を探すことになった。
塔は大神殿を囲うように等間隔に建てられている。入ってみれば、中はがらんどうで、どうやら神具を祀るためだけに作られた空間だということがわかった。
部屋の中央に鎮座する台座の上に置かれた神具。それは塔ごとに一つあるようで、それぞれ見て回るのは少し時間がかかった。
確か、神具は所有者を選ぶみたいなことを言っていた気がするが、神代さんはちゃんと選ばれることができるだろうか。少し心配ではある。
「神代さん、どれがいいと思いますか?」
「そうだね……今まで見てきた中だったら、やっぱりあれかな」
神代さんが示したのはひときわ厳重に結界がかけられていた剣だった。
常に陽光のような輝きを放ち、いかなる邪悪をも寄せ付けないであろう穢れなき剣。傍らには武骨な鞘が置かれているが、鞘自体も特殊な加工が施されていることがよくわかった。
【鑑定】でそれを確認してみる。
その剣の名はレーヴァテイン。ヒヒイロカネを使って作られた炎の剣だった。
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