感謝されること
ジョージに、ほら、お待ちかねだぞ、と繋がれた相談者は翔だった。
「こんばんは、お久しぶりですね」
私は、出来るだけ感情のない声を出した。しかし、画面の中の翔は少し疲れているようだ。
「……どうかされましたか?」
私が尋ねると、翔は照れくさそうに、
「彼女にふられちゃったんです」
と、言った。ふと、街で見たあの女の子の顔がよぎった。
「その人はきっと見る目がないんです。翔さんは、……優しくて、素敵な、人です」
私がそう言うと、翔は、
「はは、ありがとうございます。でもね、みんな、俺のことが好きなんじゃなくて、自分に優しい俺のことが好きなんです。告白されるから付き合ってはみるんだけど、いつも結局ふられてしまうんですよね」
と、切なそうに笑った。
……私はどうだろう? 翔が私に優しい言葉をかけてくれなかったら? 何の興味もなかったとしたら……?
答えがすぐに見つからなくて、胸が張り裂けるかと思った。
でも、私は違う! 強くそう思った。そして、気づくと、
「私は違います!」
と、声を上げていた。
すると翔は、一瞬驚いた顔をして、
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」
と、言うと、
「しょうがないんですよ! 俺だって、その子が好きだって言ってくれるから付き合ってただけだし。お互い様!」
と、また笑った。
苦しくて涙が出そうだった。違うよ、気休めで言ったんじゃない。気持ちが伝わらなくて、こんなに苦しいと思ったのは初めてだ。悔しくて、私は思わず俯いた。私自身も初めて気がついた感情だった。ねぇ、私は違うんだよ。翔が私に優しくしてくれるからじゃない。自分のことじゃなくて、いつも人の気持ちに寄り添える、翔自身の本当の優しさに私は……。
「あ、なんか、すみません! 暗い空気にしちゃいましたね!」
俯く私に、翔が声をかける。
「……いえ、違うんです」
私は、あなたのことが、好き――。
でも、私は今、ただの占い師。今の私に出来ることは――。
「あの! 翔さんのことを本当にいいって言ってくれる人が現れるか、見てみましょうか!?」
自分でも意外だった。いつもだったら、翔はここで何に気がつくべきかを言い放つはずなのに、なんとか翔が喜ぶことを言ってあげたいと思った。気持ちが救われれば、それでいいって。
だけど、翔は少し困ったような顔をした。
「……うーん、いや、俺はいいや! もし、今それを聞いて、やっぱりいませんなんて言われちゃったらへこむし、君にも、そんな嫌な役をさせたくないし。人のことは、どうしてもわからないことがあるけれど、俺、自分の人生は、自分で切り開きたいんです! だって、俺の人生の答えは、俺しか持っていないから!」
……あぁ、そうだった。私は何を勘違いしていたんだろう。私は人の人生に答えを与えてあげることはできない。なのに、私の答えを押し付けたり、勝手に助けようとしたり……。もしかして私は、ずっと意味のないことをしていたのだろうか。
「そうですか。わかりました!」
私は出来るだけ明るい声で必死に答えた。すると、翔は話題を変えるように、
「あ、今日連絡したのは、俺の話をするためじゃないんですよ!」
と、元気よく言った。
「やっと守とプールの約束をこぎつけたんです! アイツ、すげー渋って大変だったんだけど、怖いのかって聞いたら強がっちゃって。まんまと、俺の作戦にのってきました。明日、近所の温水プールで決行します! その報告をしようと思って。良かったら、見に来ませんか?」
「え?私!?」
突然の誘いに、私は驚きを隠せなかった。
「だって、この作戦のヒントをくれたのは、あなたじゃないですか? 俺、すごい感謝してるんです!」
感謝?
「あ、もしかして明日、忙しかったですか!?」
「え、あ、いや、明日は特に……」
「じゃあ、ぜひ!」
翔は温水プールの住所と決行の時間を告げると、じゃあ、明日!と言い、またさっさとスカイプを切ってしまった。
あっという間の出来事で、何が何だかよくわからなかった。でも、苦しかった心が、気づけば少し楽になっていた。
……私、感謝されてたんだ。嫌われることはあっても、感謝されるのは初めてだった。




