伝わらないもどかしさ
「……重っ。あーあ、ジョージ連れてくれば良かった」
買い物袋を5つもひっさげた私は一人で呟いた。友達もいない女子高生の楽しみなんて、買い物くらいしかない。今日は春物セール最終日だったので、久しぶりに街に繰り出している。さんざん歩き回った私の足は既にパンパンだ。
「カフェで休憩でもするかな……」
コーヒーの香ばしい匂いに誘われ、フラフラとコーヒーショップに向かおうとした時だった。
「あ、翔君」
向かいの通りの大きなモニュメントの前に翔の姿を見つけた。私の鼓動が急に早くなる。翔は小さな男の子、たぶん守君と一緒にモニュメントの前に立っていた。あの時以来、相談の連絡はまだない。……小学校の同級生なんだし、偶然を装って、声をかけようか。でも、相談中は私に気づいていなかったはずだし、もしかしたら私の事なんかとっくに忘れているかもしれない。……どうしよう。私はギュッとなる胸をそっと押さえた。なんだろう、この感覚。動悸? もうそんな年?
一人であれこれ問答した結果、翔の前をさりげなく通過する作戦に出てみることにした。私の顔を覚えてくれていたら、声をかけてくれるかもしれないから。ドキドキしながら横断歩道を渡り、翔の前をゆっくりと通過した。翔は私に気がつくだろうか、そっと翔の方に顔を向ける。翔も、こちらを見ているような気がする。予想以上に緊張して心臓が飛び出しそうだ。もう、こんな状態耐えられない。思い切って、声をかけよう。そう思った時だった。
「翔っ!」
駆け寄ってきた女の子が、翔の手を握った。同い年ぐらいの大きな瞳の女の子。翔はその子に優しく微笑みかけると、そのまま手を繋いで守と3人で歩いていってしまった。
なぜか心にポカンと穴があいた気分だった。彼女と待ち合わせしてたのか。……可愛い子。翔君、かっこいいし、優しいし、そりゃそうか。弟公認なんて、すごいなあの子。
……はは、どうしちゃったんだろう、私。私の事なんて覚えてるわけないのに、そわそわしちゃって、なんか、バカ。さ、家に帰ろう!
太陽が雲に隠れると、向かい風が頬に、急に冷たくぶつかった。
*
「ただいま!」
私は勢いよく玄関のドアを開けた。……誰もいない。やっぱり私は一人で生きていく運命なのだ。たまたまジョージが家にいなかっただけで、なんだか酷く心が塞いだ。
リビングに入ると、テーブルの上にお守りが3つ置いてあった。これはいつもジョージが営業のために配り歩いているお守りだ。その中の一つが、やけにボロボロだ。
「ずいぶん年季が入った子だな」
どこから出てきたんだろう。
私は荷物を床に置いて椅子に腰掛け、そのお守りを開けてみた。中に入っている紙を開くと、スカイプの番号、そして裏には小さく①の文字。……あ。これ、一番最初の……。
すべてのお守りにはナンバリングがしてある。すでに1000個以上配られているはずだから、この①の文字は私がこの仕事を始めた時、まさしく、一番初めに作られたという意味だ。
私が占い師のアルバイトを始めたのは、2年前、高校に入学してすぐのころだった。
「なんで私が占い師なんか!?」
「お前の得意分野なんてそれくらいしかねーだろ?」
ジョージが言った。
「別に、ただ見てればわかるだけで、私占いなんかやったことないし」
「じゃあ、勉強しろよ。似たようなもんじゃねーか。世の中にはな、お前にみたいにわかるヤツばっかりじゃねーんだ。でもな、悩んでるヤツはごまんといるのよ。そこで、需要と供給が一致する。これは儲かるぜ? 俺が客を捕まえてきてやるって言ってるんだ。こんないい話はねーぞ。義務教育は終わったんだ。テメーの小遣いぐらい、テメーで稼げよ。それともあれか? この俺に可愛くおねだりして、借金でもこしらえるか?」
「はぁ!!? ジョージに借金なんて、絶対にお断り!」
こいつにお金なんて借りたら、いくら利子が付けられるかわからないし、利子以外にも、あらゆる場面で恩を売られるに違いない。考えあぐねた結果、
「……お客がこなかったらジョージの責任だからね」
と、私が小さな声で言うと、ジョージはニヤリと笑った。
「俺を誰だと思ってんだ。この俺に不可能はない。じゃあ決まりだ。いろんな人の人生を見るんだ。人生を舐めてるお前にはピッタリの仕事だよ」
*
あれから3年、やっぱり人の悩みなんてくだらないと思う。でも最近は、みんな、一生懸命悩んるんだってことくらい気づいている。私は自分のホロスコープを眺めた。無心で人に尽くすことを考えなさい、か。わかってるよ。だからこうやって、毎日相談者と向き合って、正しい方向に向かって欲しいと願っているのに。
窓の外では雨の音がする。
何で伝わらないんだろう。もどかしさは募りばかりだ。




