第五話 今日は、許します
ヴィオレットの最後の贈り物は、蟄居が決まった後に届いた。
大きな箱を開けると、両手で抱えるほどの水晶が現れた。
内側に私の肖像が刻まれていて、台座に触れると婚礼の祝婚曲を奏でながらゆっくりと回り始めた。
「……重い。呪具ではないのか」
「魔術師に確認させましたが、効果はないそうです」
「では、何のために」
「さあ」
曲はもう四巡目に入っていた。
「壊そう」
「証拠品ですので」
「封印庫か」
「呪具の可能性をご心配でしたから」
胃の辺りを押さえた夫が、深いため息をついた。
「エレオノーラ」
「何でしょう」
「君は今、わたくしと一緒にいることを、どう思っている」
水晶が回り続ける。婚礼の曲が静かに部屋に満ちていた。
「あの日の前と同じ気持ちに戻ることは不可能です」
「……ああ」
「あなたも、戻れないことはわかっているでしょう。その上で——お互いが選ぶなら、それでいいと思っています」
長い沈黙の後、夫は口を開いた。
「今の言葉をもう一度言ってくれないか」
「どの部分をですか」
「『お互いが選ぶなら』のところを」
「…………」
言葉を探しているうちに笑えてきた。
「それでいいと、言いましたよ」
顔が明るくなる。あの朝食の席で、こんな顔をする人が卵料理の向こうに浮気を告げたのだ。
台座の突起を押すと、ようやく水晶が止まった。静寂が部屋に戻る。
「明日の夕食も、一緒に取れないだろうか」
「昨日も一緒に取りました」
「明後日も?」
「まずは明日だけにしてください」
「わかった。ただし、明日の夕食が終わったら、明後日を訊いていいか」
「……お好きにどうぞ」
笑みが溢れる。
側室の問題で散々な思いをして、権限を奪い、仕事を片付けて、結果として手に入れたのが——毎朝執務室についてくる夫と、廊下を十一分ごとに戻ってくる夫と、夕食のたびに翌朝の朝食まで尋ねてくる夫だった。
以前に悩まされていた問題が、別の問題に変わっただけかもしれない。
でも、今度の問題は。
「触れても?」
また聞いてくる。
「……今日は、許します」
おそるおそる伸びてきた手が、私の手を包む。
強く握らず、逃げられる余地を残したまま。
以前と同じ気持ちには戻れないかもしれない。
それでも、また新しい気持ちをこの人に抱けるかもしれない。そんな予感がほんの少しだけした。
最後までお付き合いありがとうございました。
やばい女に手を出してしまった、ちゃんと後悔した王太子のお話しでした。
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