第95話 鍛えた身体
ローデンの冒険者ギルドに併設された訓練場へ入ると、金属同士がぶつかる乾いた音に混じって、魔術が発動する時の低い響きや、踏み込みで地面を蹴る音が絶え間なく聞こえていた。
西境へ出る前にも何度か使った場所だが、こうして自分が訓練するのではなく、他人の動きを見るために訪れるのは初めてに近い。
屋外訓練場は大きく3つに分かれており、一番手前では新人らしい冒険者たちが基礎練習を行い、中央では数人単位の模擬戦、そのさらに奥にある厚い防護壁で囲まれた区画では、一定以上のランクを持つ冒険者が高威力の技能や魔術を使っている。
エイルは中央区画の端へ立ち、ちょうど始まろうとしていた2人の模擬戦へ視線を向けた。
片方は片手剣。
もう片方は短槍。
装備や立ち方から見る限り、どちらもC級か、その少し上だろう。
開始の合図と同時に剣士が前へ出る。
単純な突進ではない。
最初の2歩は普通に進み、槍使いが穂先を前へ向けた瞬間だけ、脚へ流れる魔力の密度が変わった。
「《歩法》か」
エイルが小さく呟く。
身体能力そのものを大きく引き上げているわけではなく、距離が切り替わる一瞬だけ踏み込みを鋭くする使い方らしい。
剣士は槍の射程へ入る直前に速度を変えた。
槍使いはその動きを読んでいたように穂先を下げ、胸ではなく太腿へ突きを送る。
剣士が剣の腹で穂先を外へ流し、そのまま懐へ入ろうとしたところで、今度は槍側が握る位置を一気に変えた。
前の手を下げ、後ろの手を滑らせる。
長かった間合いが急に縮まる。
石突きが剣士の脇腹へ向かった。
剣士は身体を捻って避けたものの、その回避先へ穂先がもう戻っている。
エイルは無意識に目で追った。
以前なら「槍を突いた」「避けた」としか見ていなかった場面でも、意識して見ると細部が違う。
穂先だけではない。
柄。
石突き。
握る位置。
腰の向き。
足の置き方。
槍使いは武器のほぼ全体を使っている。
対する剣士も同じだった。
刃だけでなく鍔で槍を引っ掛け、肩を入れて相手の体勢を崩し、近づきすぎれば柄頭まで使う。
「同じ武器技能でも、かなり違うな」
技能Lvという数字だけでは見えない部分だった。
戦闘が進むにつれ、双方が使う技能も増えていく。
槍使いが一度大きく後ろへ下がり、腰を落とした。
踏み込みと同時に、穂先へ細く魔力が集まる。
「《穿突》!」
放たれたのは直線的な一撃だったが、単純に腕だけで突いているわけではない。
後ろ脚で地面を押し、腰を前へ送り、胴体の回転を抑えながら肩から腕へ力を抜けなく繋ぎ、最後に槍へ魔力を通している。
剣士も真正面から受けなかった。
「《流剣》!」
接触する瞬間だけ剣へ魔力が流れ、槍の穂先が僅かに横へ外れる。
完全には流し切れず肩へ浅く触れたものの、その代わり槍使いの身体が前へ流れた。
そこへ剣士が1歩だけ入り込み、木剣の先を首元へ止める。
模擬戦は剣士の勝ちだった。
周囲から声が上がり、2人はすぐに武器を下ろして握手を交わした。
エイルはその様子を見ながら、少し考える。
「技能って、もっと使い方まで見た方がよさそうだな」
自分の場合、《衝撃》を覚えてから使い道を増やし続けた結果、最終的に《衝界》へ上位化した。
なら、他人も同じなのだろう。
《剣術》が同じLvでも、長年どんな戦い方をしてきたかによって中身は変わる。
《身体強化》も、常に全身へ均等に回す者と、攻撃の瞬間だけ腕へ寄せる者では、同じLvでも実戦での見え方はまるで違う。
今まで自分は、その違いをかなり見落としていたらしい。
◇
「珍しいな」
背後から聞き慣れた声がした。
振り返ると、大柄な男が訓練用の大剣を肩へ担いで立っていた。
「グランさん」
「お前が訓練場で人の戦い眺めてるとは思わなかった」
「最近、ちゃんと見てなかったなと思って」
「今更気づいたか」
笑われた。
グランは以前と変わらず大きな身体をしている。
ただ、最後に会った時より装備には新しい傷が増えており、本人も実戦を続けていることが分かる。
「西から帰ってきたって聞いたぞ」
「昨日です」
「A級になったと思ったら、そのまま西へ消えるからな。ガレスが何回か話してたぞ」
「何をです?」
「次に帰ってきた時、どれだけおかしくなってるか分からんって」
「酷いですね」
「俺も同意してた」
「もっと酷い」
グランが笑う。
その視線がエイルの腰へ下がった。
「剣、変えたのか?」
「借り物です。本来の剣はグレイグに預けました」
「また壊したのか」
「まだ壊れてません」
「その答えだと壊れる寸前だったな」
最近、周囲の人間が妙に鋭い。
グランは借り物の長剣を見たあと、自分が持っている訓練用大剣を軽く持ち上げた。
「ちょうどいい。1本やるか」
「模擬戦ですか?」
「ああ。前に会った時からどれくらい変わったか気になる」
エイルは少し迷った。
本来の剣ではない。
《衝界》をまともに流せば、借り物の刀身が耐えられる保証もない。
「技能を抑えてもいいなら」
「当然だ。むしろその剣で妙なことするな」
グランは奥に積んである訓練用武器を指した。
「刃引きされたやつに変えろ。俺もそれ使う」
エイルは頷いた。
◇
模擬戦をすると分かった途端、近くにいた何人かが訓練を止めた。
グランはローデンではかなり知られているB級冒険者であり、対するエイルも今ではA級。
しかもC級から直接A級へ上がったという話は、この街の冒険者の間ではすでにかなり広まっているらしい。
「ルールどうする?」
訓練場の中央で、グランが大剣を肩へ乗せる。
「僕、《衝界》は使いません」
「助かる。地面ごとやられたら模擬戦にならん」
「魔力も使わないでやってみます」
グランの眉が動いた。
「《身体強化》も?」
「はい」
「俺は?」
「普通に使ってください」
「舐めてる?」
「そういうつもりじゃないです」
本当に違う。
ただ、今の自分の基礎能力がどこまで上がっているのか確認しておきたかった。
西境では《高密度強化》や《衝界》まで使わなければならない相手が多く、逆に純粋な身体だけで全力を出す機会は思っていた以上に少なかった。
さらにグレイグからも、現在の能力値を測ってこいと言われている。
なら、その前に感覚だけでも確かめておきたい。
「……まあいい」
グランが大剣を両手で握った。
「後悔するなよ。俺は普通に強化使うぞ」
「お願いします」
少し離れた場所で、訓練場の職員が片手を上げる。
合図が落ちた。
◇
グランが最初から前へ出た。
踏み込みと同時に《身体強化》が全身へ巡り、大柄な身体の筋肉が一段強く張る。
地面を蹴った足元から砂が散り、その体格から想像するよりずっと鋭い速度で距離が縮まった。
以前なら、エイルも《身体強化》を使わなければ正面から受けるのを避けていた速度だった。
グランが大剣を振り下ろす。
訓練用とは思えない勢いだった。
エイルは避けなかった。
両手で訓練剣を握り、斜めに構える。
大剣と長剣が衝突した瞬間、訓練場へ大きな金属音が響き、エイルの靴底が地面へ僅かに沈んだ。
腕へ重さが伝わる。
肩。
背中。
腰。
最後に足元まで。
ただし、剣は下がらない。
グランの大剣も、その位置で止まっていた。
「……は?」
声を漏らしたのはグランだった。
エイルは剣越しに相手を見た。
重い。
以前なら素の身体だけで受けること自体を避けていたはずだが、今は両腕へ強い負荷こそ掛かるものの、押し潰される感覚はない。
「これなら大丈夫ですね」
「何がだよ!」
グランがさらに力を込める。
《身体強化》によって増した腕力が大剣へ乗り、上から押し込んでくる。
エイルは魔力を使わない。
《高密度強化》も使わない。
《衝界》で衝撃を別方向へ逃がすこともしない。
足裏で地面を掴み、膝を僅かに曲げ、腰から背中へ繋げた力をそのまま両腕へ送る。
単純な力比べ。
数秒間、剣同士が押し合った。
そしてエイルが一歩前へ出た。
グランの目が見開かれる。
もう一歩。
大剣ごと押し返す。
「おい……待て!」
グランの靴が地面を擦った。
《身体強化》を使っている大柄な男が、剣を押し合ったまま後方へ下がっていく。
周囲から声が消えた。
エイル自身も少し驚いていた。
「思ったより上がってるな」
「今それ言う!?」
グランが大剣を横へ流し、無理やり押し合いを切った。
そのまま身体を回転させる。
大剣の重量を殺さず、横薙ぎへ繋ぐ。
「なら、これはどうだ!」
魔力が右腕と大剣へ集中する。
「《重撃》!」
さすがに普通の一撃とは違った。
《身体強化》で底上げされた膂力へ、《重撃》による瞬間的な出力が重なる。
訓練用大剣が低く唸った。
エイルは一瞬だけ考えた。
避けるのは簡単だ。
だが、それでは今の身体を測れない。
腰を落とす。
訓練剣を両手で持つ。
魔力は使わない。
真正面から受ける。
大剣が叩きつけられた瞬間、先ほどより遥かに大きな金属音が響き、足元から土が弾けた。
右足が数センチほど地面へ沈む。
腕にも今までより重い負荷が掛かり、肘から肩にかけて筋肉が強く引かれる。
それでも。
止めた。
グランの《身体強化》と技能を重ねた大剣を、何の技能も使わずに。
「……嘘だろ」
グランの声が低くなる。
エイルは呼吸を乱していなかった。
「かなり強いですね、これ」
「感想聞いてねえよ!」
グランが大剣を引く。
エイルも同時に前へ出た。
今度はこちらから振る。
技能は使わない。
剣へ魔力も流さない。
足で地面を押す。
腰を回す。
背中から肩へ力を繋げる。
最後に腕を振り抜く。
ただの横薙ぎ。
グランは大剣を縦に立て、盾のようにして受けた。
衝突した次の瞬間、大柄な身体が横へ滑った。
1メートル。
2メートル。
それでも止まらない。
グランが足へさらに魔力を回して踏ん張るものの、最終的には5メートル近く地面へ長い跡を残してからようやく停止した。
「ぐっ……!」
受けた大剣が細かく震えている。
両腕まで痺れているらしく、グランは一度握り直した。
エイルは追撃しなかった。
今の一撃には、《剣術》で覚えた身体の使い方こそ入っている。
ただし《身体強化》も魔力放出もしていない。
ほとんどが基礎筋力だった。
それだけで、《身体強化》中のB級冒険者を武器ごと押し飛ばした。
周囲が静まり返っていた。
◇
グランは痺れた腕を何度か振ったあと、顔を上げる。
「エイル」
「はい」
「本当に何も使ってない?」
「魔力は使ってません」
「《身体強化》も?」
「使ってないです」
「《衝界》も?」
「もちろん」
グランが大きく息を吐く。
「……前から力おかしかったけど、もうそういう話じゃないぞ」
「そうですか?」
「そうだよ」
それでもグランは大剣を構え直した。
終わるつもりはないらしい。
「もう一回だ」
「大丈夫です?」
「俺が言ったんだから最後までやる。ただ、今度は押し合わん」
目つきが変わった。
真正面から力で勝てないと分かった瞬間、戦い方を切り替えている。
エイルは少し嬉しくなった。
これも他人の強さだ。
グランが再び前へ出る。
しかし今度は、大剣を最後まで振り切らない。
途中で止める。
切り返す。
長い刀身を利用して距離を管理し、エイルが懐へ入ろうとすれば柄側まで使って押し返す。
さらに《身体強化》の使い方まで変わっていた。
常時全身へ同じ量を流すのではなく、斬撃時には腕と背中、後退時には脚、受ける瞬間には体幹へ寄せている。
魔力量そのものが増えたわけではない。
使う場所を絞ったことで、1つ1つの動作だけが先ほどより鋭くなっていた。
「なるほど」
「戦いながら感心すんな!」
斜めから大剣が入る。
エイルは訓練剣を当てた。
今度は受け止めない。
角度を変える。
力が流れる方向へ剣を僅かにずらす。
先ほど見ていた剣士の《流剣》ほど完成された技能ではないものの、考え方だけを真似してみる。
大剣が横へ逸れる。
グランは即座に柄を戻した。
その切り返しも先ほどより速い。
エイルは半歩だけ身体をずらし、柄頭を避けながら相手の内側へ入った。
訓練剣の先が肩へ止まる。
決着。
職員の声が響いた。
グランは数秒その姿勢のまま止まり、それから大剣を下ろした。
「最後まで魔力なし?」
「はい」
「……嫌になるな」
「でも、最後の方かなりやりにくかったです」
「それで慰められると思うか?」
「駄目ですか」
「駄目だ」
そう言いながらも、グランは笑っていた。
◇
模擬戦が終わると、周囲にいた冒険者たちからかなりの視線が集まった。
特に最初の押し合いを見ていた者たちは、エイルよりグランへ確認するように視線を向けている。
「グラン、本当に強化してたよな?」
「してた」
「《重撃》も?」
「使った」
「それを素で止めた?」
「俺に聞くな。俺が一番聞きたい」
エイルは少し居心地が悪くなった。
目立つつもりはなかった。
ただ自分の筋力を確認したかっただけなのだが、やり方を少し間違えたかもしれない。
訓練剣を返そうとしたところで、グランが腕を揉みながら近づいてくる。
「お前、今からギルドで能力測るんだろ?」
「そのつもりです」
「俺も行く」
「何でです?」
「気になる」
「見せるとは言ってないです」
「そこをなんとか」
「嫌です」
「即答かよ」
結局、グランは測定室の外までついてきた。
◇
能力測定はギルド奥の個室で行われた。
エイルはもともと数値を他人へ公開することを好まないため、今回も測定担当者とガレスだけが立ち会う。
測定用の大型魔道具へ手を置き、魔力を流した。
以前も何度か使った装置だった。
しかし今回は反応が少し遅い。
「故障ですか?」
「黙って待て」
ガレスに止められる。
測定官も画面を見ながら眉を寄せていた。
数秒後。
数字が表示される。
【エイル・アーネット】
【Lv.104】
【生命力 1392】
【魔力 1718】
【筋力 1526】
【耐久 1437】
【敏捷 1734】
【器用 1498】
【感知 2216】
エイルは並んだ数字を眺めた。
「やっぱり結構上がってるな」
返事がない。
横を見ると、測定官が画面を見たまま止まっていた。
ガレスも同じだった。
「何か変ですか?」
「お前が聞くな」
ガレスが低い声で返した。
「前回、正式に残っている測定値はLv41の時だ」
「そうでしたっけ」
「筋力349。敏捷374。感知も当時から異常に高かったが、それでも今とは比較にならん」
エイルも改めて数字を見る。
筋力は1500を越えた。
敏捷は1700台。
感知に至っては2200を越えている。
西境へ出る前とは、確かに別物だった。
「これってどのくらいですか?」
「項目による」
ガレスは少し考えてから答えた。
「少なくとも、一般的なA級の範囲という言い方はもうできん。筋力や敏捷だけを見るなら、中央記録に残っているS級や軍上位戦闘員の数値へ届いている項目もある」
「S級」
「だからって、お前が今すぐS級って話じゃないぞ」
「分かってます」
エイル自身、ランクにはそれほど興味がない。
純粋な能力値だけでランクが決まらないことも知っている。
依頼実績。
判断。
指揮。
特殊状況への対応。
そして人間同士なら、技能の完成度や経験が大きく影響する。
ガレスも続ける。
「数字が高くても、戦闘全体の完成度は別だ。お前はそこを今から合同演習で見ることになるだろう」
「ちょうど気になってました」
「何がだ」
「他の人の技能です」
エイルは訓練場で見た戦いを思い出す。
「僕、今まで自分が戦ってることが多くて、人がどう戦ってるかちゃんと見てなかったので」
「……今頃気づいたか」
「グランさんにも言われました」
「なら正しい」
今日2回目だった。
◇
「次、技能の測定だ」
測定官が別の項目へ切り替える。
すべての技能が出るわけではない。
本人が普段から使い、外部測定で安定して判別できるものだけが対象になる。
表示が順に並んでいく。
【《剣術 Lv.52》】
【《身体強化 Lv.46》】
【《魔力操作 Lv.72》】
【《魔力圧縮 Lv.62》】
【《振動感知 Lv.61》】
【《近域感知 Lv.51》】
【《危機感知 Lv.29》】
【《警戒圏 Lv.31》】
【《高密度強化 Lv.38》】
【《自己治癒 Lv.38》】
【《震圧 Lv.26》】
【《衝界 Lv.27》】
そこまで表示されたところで、測定は終了した。
エイルは内心だけで少し息をつく。
固有技能についての表示はない。
以前から同じだった。
通常の測定魔道具で拾われるのは、外へ現れている能力や継続的に使用される技能が中心であり、本人の深い部分に結びついた固有技能までは読み取れない。
《越境》について、エイルが他人へ話したこともない。
それでいいと思っている。
ガレスは並んだ技能を見ながら、しばらく黙っていた。
基礎能力値だけでも大きい。
しかし技能まで並べると、また違って見える。
特に《魔力操作》72。
《魔力圧縮》62。
《振動感知》61。
最近知った一般的な技能Lvの感覚を考えると、かなり高い。
「……《剣術》より《魔力操作》の方が20も高いんだな」
エイルが言う。
「そこに驚くのか」
「剣士のつもりなので」
「お前の場合、剣を振りながら変なことしすぎなんだ」
それは否定できなかった。
《衝撃》を覚えてから、移動、探知、内部破壊、遠隔攻撃、範囲制圧、反動制御と、《魔力操作》を必要としない戦闘の方が少ない。
むしろ《剣術》だけを純粋に伸ばす時間は、それほど長くなかった。
「合同演習でちゃんと剣士を見るといい」
ガレスが言う。
「軍の席次上位や騎士団には、お前より基礎能力が低くても、《剣術》や《槍術》の完成度だけで化け物みたいな連中がいる」
「技能Lvも分かります?」
「公開されている範囲ならな。全部晒す奴はまずいないが、席次持ちや有名冒険者なら主技能くらい記録が残っている場合もある」
それは見たい。
数日前なら、強い人間と戦えることの方に興味があった。
今は少し違う。
戦うだけではない。
見る。
比べる。
使い方を知る。
今日の短い時間だけでも、自分にはなかった剣の受け方や、槍の間合いの使い方がいくつも見つかった。
合同演習へ行けば、それより遥かに完成された技術を持つ人間が何人も集まる。
自分がどこまで通じるのか。
それとは別に。
どれだけ盗めるのか。
少し楽しみになってきた。
◇
測定を終えて個室から出ると、壁際でグランが待っていた。
「どうだった?」
「教えません」
「筋力だけ!」
「嫌です」
「さっき俺を吹っ飛ばした責任あるだろ!」
「何の責任ですか」
その横を通り過ぎようとすると、グランが追ってくる。
「1000越えた?」
エイルは少しだけ黙った。
その一瞬で察したらしい。
「……越えてんの?」
「さあ」
「お前、今絶対顔に出たぞ」
そこへガレスが部屋から出てきた。
「グラン」
「はい?」
「聞くな」
「やっぱりヤバいんじゃないですか!」
「聞くな」
強く止められた。
エイルは少し笑いながらギルドの受付側へ戻る。
能力値は確認できた。
純粋な膂力も、以前とは比較にならないところまで来ている。
ただ、それだけで世界の上へ届いたとは思わない。
むしろ今日、普通の冒険者たちの戦いをじっくり見たことで、数値だけでは埋まらない部分があることを以前より強く感じていた。
グランもそうだった。
力比べだけなら圧倒できた。
しかし、途中から押し合いを捨てて距離と技能の使い分けへ切り替えたことで、明らかに最初より攻めづらくなった。
なら、もっと上の人間なら。
自分より長く剣を振り続けた者なら。
軍の席次上位なら。
固有技能を持つS級なら。
どんな戦い方をするのだろう。
ギルドを出たところで、エイルは借り物の長剣へ手を置いた。
グレイグの新しい剣が完成するまで、まだ数日ある。
その間に見るものは、思っていたより多そうだった。
そして合同演習まで、残り12日。
西部方面軍の《戦技席次》上位者たちも、すでに少しずつレグノアへ集まり始めていた。




