第90話 封鎖線の下
巨大鉱晶獣が倒れていた空洞の奥から続く裂け目は、最初こそ人1人が通れる程度の狭さだったが、50メートルほど進むと急に幅を広げ、そのまま緩い傾斜を描きながら地下深くへ伸びていた。
岩壁には旧鉱山時代のものと思われる削り跡が部分的に残っているものの、それを覆うように迷宮由来の結晶が成長しており、人工坑道と自然形成された迷宮が長い時間を掛けて混ざり合ったような景色になっている。
エイルは右手で壁へ触れ、新しく獲得した《衝界》を薄く流してみた。
以前の《衝撃》なら、壁へ力を入れればその地点から周囲へ振動が広がり、《振動感知》で返ってくる情報を読む必要があった。しかし《衝界》へ変わってからは、最初からどこまで通すかをある程度決められるため、表面から5メートル、そのさらに奥へ20メートルと、段階を分けながら岩盤の状態を確かめられる。
余計な方向へ力を逃がさなければ、同じ魔力量でも以前より遠くへ届く。
「探知にもかなり使えそうだな」
壁の向こうには細い空洞が2本あり、そのうち片方には小さな生物が複数動いていた。
危険な反応ではないため、《警戒圏》はほとんど反応しない。
エイルはそのまま傾斜を下り続けた。
途中から床面へ人工的な石板が増え始めたことで、現在いる場所が単なる迷宮の自然区画ではないことがより明確になった。
石板の幅は一定で、壁際には等間隔で細長い溝が走っている。その溝の中には朽ちた金属管のようなものが残り、ところどころで結晶に飲み込まれながらも、微弱な魔力を今なお通していた。
第7層の調査記録にも、こんな設備があるとは書かれていない。
「鉱山の設備にしては、まだ動きすぎてるな」
エイルはしゃがみ込み、金属管へ魔力を近づけた。
一定間隔。
弱い脈動。
昨日、空洞のさらに奥から感じていた、生物でも鉱石でもない反応と同じ周期だった。
つまり、この通路そのものが奥にある何かへ繋がっている。
好奇心がさらに強くなる。
◇
下り始めてから30分ほど経ったところで、《警戒圏》が別種の反応を拾った。
魔物ではない。
人間だった。
「……4人か」
距離は500メートルほどある。
そのうち3人は動いているが、1人だけほとんど位置を変えておらず、魔力反応も弱い。
さらに周囲には魔物らしい反応が7つあり、ゆっくり人間たちを囲むように移動している。
エイルは歩く速度を上げた。
ここは地図にない区画であり、正式な入口も確認できなかった場所だ。それにもかかわらず人がいるなら、第7層側から別の経路を通って迷い込んだ可能性が高い。
接近するにつれて状況が詳しく分かる。
人間側は広い部屋の一角へ固まっており、周囲の魔物は壁や天井を移動しながら、彼らが動こうとするたび進路を塞いでいる。
残り300メートル。
エイルは長剣を抜いた。
補修したばかりの刀身へ流す魔力は、ドルガンから言われた通り以前より薄く抑えている。必要な瞬間だけ密度を上げるよう意識すると、《衝界》へ進化したこともあって、以前より少ない負荷で力を通せた。
通路を2つ曲がった先から、金属同士がぶつかる音と人の声が聞こえてくる。
「右! また来るぞ!」
「分かってる!」
「ルッツを動かすな! 傷が開く!」
エイルが最後の角を抜けると、横幅30メートルほどの古い作業区画が見えた。
壁際には壊れた鉱石運搬用の軌道が残り、中央には朽ちた荷台が何台も転がっている。
人間は4人。
前に立つ2人が剣と盾で防ぎ、その後ろでは女性魔術師らしい人物が杖を構え、最奥には腹部を負傷した男が寝かされていた。
対して周囲にいる魔物は、天井と壁へ張り付く細長い6脚種だった。
全長は3メートル前後で、身体の幅は人間より少し太い程度しかない。節の長い6本脚を左右へ広げることで壁面へ密着し、脚先に付いた半円形の吸着器官を使って逆さまのまま天井まで移動している。
頭部は三角形に尖り、目に当たる小さな器官が左右へ6個ずつ並んでいた。口自体は小さいものの、胸部から前方へ長さ1メートルほどの棘が2本伸びており、その先端には淡い液体が滴っている。
毒だろう。
さらに身体の側面には薄い結晶膜が何枚も並び、魔術が近づくたび僅かに角度を変えていた。
女性魔術師が火球を放つ。
直撃する寸前、結晶膜が淡く光り、火球を構成する魔力の一部が表面から削り取られるように散った。
威力を半分近く失った火球が魔物へ命中するものの、外皮を焦がしただけで終わる。
「魔術減衰か」
エイルが呟いたことで、前衛の男が初めてこちらに気づいた。
「誰だ!?」
「冒険者です」
「見れば分かる! 何でそっちから来た!?」
「奥からです」
「奥!?」
説明している場合ではない。
天井の2体が動いた。
《警戒圏》へ、負傷者へ向かう軌道が先に浮かぶ。
「上、2体来ます」
「何――」
エイルは長剣を横へ振った。
刃そのものは届かない。
しかし《衝界》を刀身から空気へ通し、2本の経路へ分ける。
以前なら遠距離へ飛ばした《衝撃》は距離が伸びるほど広がっていたが、今は必要な範囲へ細く固定できた。
ほとんど同時に、天井から降りようとしていた2体の胸部が大きく揺れる。
1体は脚を外して床へ落ち、もう1体も姿勢を崩して壁へ衝突した。
「今、何をした?」
盾持ちの男が驚いた。
「後で」
エイルは落ちた1体へ踏み込み、胸部の棘を避けながら首の後ろへ長剣を差し込んだ。
内部へ《衝界》を通す。
《衝撃》だった頃は生物の内部へ入った力が多少なりとも周囲へ逃げていたが、今は臓器へ届くまで細い経路を維持し、その先で初めて力を広げられる。
外側には大きな傷を残さないまま、魔物の身体が内側から強く跳ねた。
そのまま沈む。
残り6体。
壁面から3体が同時に動く。
エイルは《近域感知》と《警戒圏》を重ね、それぞれが誰を狙っているのかを拾った。
2体はこちら。
1体だけ負傷者。
そちらへは行かせない。
床へ《衝界》を流す。
力を広範囲には拡散させず、負傷者の前方3メートルだけへ半円状の経路を作り、その内側へ踏み込んだ魔物の足元で複数の衝撃を起こした。
床が低く鳴る。
壁から跳び移ってきた魔物だけが横へ弾かれ、すぐ隣に立っている冒険者たちの足元にはほとんど振動が届かない。
「……地面を使ったのに、こっちは揺れてない?」
魔術師の女性が呟いた。
エイル自身も少しだけ驚いていた。
《衝界》はまだLv.7になったばかりだ。
それでも、すでにここまで対象を分けられる。
なら育てていけば、《震圧》を大人数の中で使う際に最大の問題だった巻き込みまで大きく減らせる可能性があった。
残る魔物が一斉に動く。
エイルは前衛2人よりさらに前へ出た。
「少し下がっていてください」
「1人でやる気か?」
「すぐ終わると思います」
男が何か言おうとしたが、その前に最初の魔物が飛びかかってきた。
エイルは真正面から突っ込まず、胸部の棘が通過する位置を《警戒圏》で読んで半歩だけずらし、そのまま脚の付け根へ刃を滑らせる。
内部へ《衝界》。
次の1体には遠隔。
3体目は床面から進路だけを崩し、姿勢が浮いたところへ踏み込んで首を断つ。
4体目だけは天井を高速で移動したため、《衝撃》から引き継いだ加速を使って壁へ一度足を掛け、そのまま通常なら届かない高さまで身体を押し上げて斬った。
数十秒後。
作業区画に動いている魔物はいなくなった。
◇
「……A級か?」
盾を持った男が、エイルの腰に下がる冒険者証へ気づいた。
「はい」
「それにしたって……いや、今はいい。助かった」
彼らは4人組の冒険者だった。
リーダーらしい盾剣使いがカイル。
細身の長剣を使う女性がフィーネ。
魔術師がノア。
負傷している男がルッツで、斥候と罠解除を担当しているらしい。
全員がB級。
第7層で見つかった新しい横穴を調査するギルド依頼を受けていたが、途中で地面が崩れ、4人まとめて下層へ落ちたという。
「下層って言っても、ここが何層か分からないんだ」
カイルが簡易地図を広げる。
「落ちた場所は第7層北側の新通路だ。そこから3時間くらい戻ろうとしたが、通路が何ヶ所も変わっていて現在地を失った。ルッツがあいつらの棘を腹に受けてから、まともに動けなくなってな」
エイルは寝かされているルッツの横へ座った。
傷には応急処置が施されている。
ただし皮膚の周囲が暗い紫色へ変わり、呼吸も浅い。
「毒ですか?」
「解毒薬は使った。ただ、完全には抜けない。地上へ戻れれば治療所で何とかなると思う」
「ここから入口までなら、僕が来た道で戻れます」
3人の顔が一斉にエイルへ向いた。
「入口?」
「第6層に繋がっています。地図にはない通路ですけど、帰り道は記録してあります」
カイルがしばらく黙る。
「お前、本当にどこから来たんだ?」
「第6層です」
「いや、それは今聞いた」
妙な顔をされた。
とにかく出口が分かっているなら話は早い。
ルッツを担架代わりの布へ固定し、4人を第6層側まで案内することになった。
エイルとしては、さらに奥へ行きたい。
ただ、重傷者をこのまま放置して先へ進むほど急いでもいなかった。
◇
帰路は予想より楽だった。
魔物が近づけば《警戒圏》で先に分かるため、戦闘そのものを避けられる場面が多く、どうしても通路上で遭遇する場合だけエイルが先行して処理する。
途中、カイルが何度か周囲を確認しながら尋ねた。
「さっきから、何で曲がる前に敵の数まで分かるんだ?」
「探知です」
「それは分かる。俺も《危機感知》は持ってる」
「なら似たような感じだと思います」
「絶対違う」
横を歩くフィーネが小さく笑った。
「カイルの《危機感知》、Lv.8だったよね」
「ああ。近接戦なら十分役に立つ。けど、壁を何枚も挟んで200メートル先に何体いるかなんて分からん」
技能Lvの話が自然に出たことで、エイルは少し興味を持った。
これまで他人のステータスを見たり聞いたりする機会はあっても、技能Lvまで細かく比べたことはあまりない。
「《剣術》はどれくらいですか?」
「俺か?」
「はい」
「《剣術 Lv.16》。《盾術 Lv.21》。《身体強化 Lv.13》だ。盾役だから、剣より盾の方を使ってる時間が長い」
エイルは思っていたより低い数字に少し驚いた。
ただ、カイルの動きそのものが未熟に見えたわけではない。
先ほどの戦闘でも、負傷者を背後へ置きながら魔物の棘を確実に盾へ流し、フィーネが攻撃できる空間を作っていた。
《剣術 Lv.16》でも、何年も実戦の中で身につけた連携や判断まで消えるわけではない。
「フィーネさんは?」
「私は《剣術 Lv.22》。《身体強化 Lv.17》と《歩法 Lv.20》。剣だけなら、この4人では私が一番かな」
B級の中でも、かなり剣寄りの構成らしい。
それでもエイルの《剣術 Lv.46》とは倍以上の差がある。
Lvの数字だけ見れば、思っていた以上に離れていた。
ノアも会話へ入った。
「私は《火炎魔術 Lv.21》《魔力操作 Lv.19》。あとは《魔力感知 Lv.14》くらい。さっきの相手みたいに魔術そのものを減衰されると、かなり厳しい」
「結晶膜が削ってましたね」
「そう。全部無効なら他の手段へ切り替えやすいんだけど、中途半端に効くから魔力だけ持っていかれる。あなたが来なかったら、たぶん撤退も難しかった」
エイルは3人の話を聞きながら歩いた。
自分の《剣術》は46。
《魔力操作》は59。
《警戒圏》は24。
《振動感知》は52。
単純に数字だけ並べれば、B級冒険者たちとはかなり大きな差ができている。
しかも自分は16歳。
冒険者になってからの期間も、目の前の3人より遥かに短い。
以前から成長がおかしいことは理解していたが、他人の技能Lvを基準にすると、その異常さがまた違って見えた。
「……《剣術》って、20を越えたら結構高いんですか?」
エイルが尋ねると、フィーネが少し怪訝そうな顔をした。
「普通に高いよ。戦闘職でも10台で止まる人は多いし、20を越えたら相当使い込んでる。30なんて私はまだ周りでほとんど見たことない」
「そうなんですね」
「何その反応」
「僕、基準あんまり知らなくて」
嘘ではない。
自分の周囲ではグランやミレア、軍人たちのような強者と接する機会が増えているうえ、《越境》のせいで自身の技能Lvも急速に上がり続けている。
いつの間にか、一般的な成長速度の感覚がかなり薄れていた。
「ちなみに、エイルは?」
フィーネが軽い調子で聞いた。
「《剣術》ですか?」
「うん」
エイルは少し迷った。
正確に隠す理由もない。
「46です」
3人の足が止まりかけた。
「……何?」
「《剣術 Lv.46》です」
「聞こえてた」
フィーネが妙な顔をする。
ノアもこちらを見た。
「A級ってみんなそんななの?」
「いや」
カイルが即座に否定した。
「俺が知ってるA級でも、主技能が20台後半から30台って話は聞く。40台なんて、相当上の連中だろ」
「そうなんですか」
「だから何でお前が驚いてるんだ」
エイルは返事に少し困った。
最近、自分の基準がずれてきている自覚はあった。
ただ、ここまでとは思っていなかった。
そして同時に、少し興味も湧く。
B級でこのくらい。
A級上位なら。
軍の戦技席次なら。
S級なら。
さらにその上にいると言われる者たちは、どの程度の技能を持っているのだろう。
単純な筋力や敏捷だけではない。
何十年と使い続けた剣術。
完成された身体強化。
魔力操作。
感知。
固有技能。
人間同士で比べた時、自分がまだ持っていないものがどれだけあるのか。
合同演習へ行く理由が、また1つ増えた。
◇
第6層へ戻る裂け目まであと数百メートルというところで、エイルは突然足を止めた。
後ろを歩いていたカイルも、すぐ剣へ手を掛ける。
「敵か?」
「違います」
《警戒圏》は強く反応していない。
しかし《衝界》を薄く床へ流したことで、以前なら拾えなかったものが見えた。
地下。
さらに下。
ずっと追っていた、人工的な一定周期の魔力脈動。
それが急に強くなっている。
1回。
2回。
3回。
そのたび、周囲の壁に埋まっている古い金属管へ微弱な魔力が走る。
「これ……起動してる?」
「何がだ?」
「分かりません。でも、さっきまでより強いです」
エイルは壁へ手を触れ、《衝界》を金属管に沿わせた。
ここから先の経路だけを見る。
通路を戻る。
分岐を越える。
巨大鉱晶獣がいた空洞のさらに下へ。
もっと深い。
そこで何か大きな構造物へ繋がっている。
同時に、別のものも感じた。
迷宮内部の魔力が、僅かにそちらへ引かれている。
昨日まで戦っていた魔物たち。
高純度の鉱脈。
異常に発達した結晶。
それらが偶然同じ場所へ集まったのではなく、下にある何かから長期間影響を受けている可能性がある。
「行きたい顔してるな」
カイルに言われた。
「分かります?」
「分かる」
「でも先に戻ります」
「そこは助かる」
負傷者がいる。
今は地上へ帰す方が先だった。
エイルは一度だけ奥を振り返り、その位置を地図へ追加した。
戻ってくればいい。
◇
第6層へ出ると、そこから先は正式な地図がある。
安全区域まで辿り着いたところで別の冒険者一行と遭遇し、事情を説明すると、負傷したルッツを地上まで運ぶための協力を得ることができた。
「エイルは?」
フィーネが尋ねる。
「戻ります」
「今から?」
「はい」
「地下へ?」
「まだ気になる場所があるので」
カイルは予想していたらしく、特に驚かなかった。
「助けてもらった側が言うのもなんだが、気をつけろよ。第7層の新通路、明らかに何か変だった。俺たちが落ちたのも普通の崩落じゃないと思う」
「分かりました」
「あと、地上へ戻ったらお前のことも報告する。地図にない第6層への通路を見つけたA級がいたってな」
「別に大丈夫です」
「名前も?」
「必要なら」
本当に気にしていないらしいことが伝わったのか、カイルは少し笑った。
「変わったA級だな」
それから4人と別れた。
エイルは休憩所で水と食料を補給し、装備を簡単に確認する。
剣先には前回の戦闘で生じた小さな欠け。
コートにも薄い裂け。
ただし行動へ支障が出るほどではない。
素材袋には《響殻》と高純度《脈晶鉄》、結晶器官、巨大鉱晶獣から採取した中心結晶と網状器官がある。
すでに装備更新へ使えそうなものはかなり集まった。
それでも奥には、まだ何かある。
エイルは再び地図にない裂け目へ戻った。
◇
今度は迷わなかった。
通路の形は地図へ記録済み。
《衝界》で壁と床を通して先まで確認できるため、往路より遥かに速く進める。
途中に現れた結晶背の8脚種も、すでに構造を理解している。
遠隔射撃が始まる前に懐へ入り、体内の魔力器官へ《衝界》を直接通す。
2体。
続いてもう1体。
いずれも足を止めるほどではなかった。
【Lv.87 → Lv.89】
【《衝界 Lv.4 → Lv.7》】
【《警戒圏 Lv.23 → Lv.24》】
以前なら強敵として慎重に戦っていたかもしれない相手を、今は移動の途中で処理している。
エイル本人はその変化を深く意識していなかった。
ただ、少し前に初めて会った相手へ2度目に遭遇した時には、すでに戦い方がほぼ完成していることが増えている。
適応する速度そのものが上がっている。
第6層の地図外区画を抜け、巨大鉱晶獣の死骸が残る空洞へ戻った。
そこから先。
昨日見つけた下り道へ入る。
人工的な脈動は、さらに強くなっていた。
古い金属管に淡い光が流れ始めている。
数百年止まっていた設備が、少しずつ目を覚ましているようにも見えた。
そしてエイルが地下へ降りるほど、《警戒圏》に入る生物反応が減っていく。
魔物がいない。
逃げたのか。
最初から近づかないのか。
どちらかは分からない。
やがて階段状の岩盤が終わり、正面へ巨大な金属扉が現れた。
高さは15メートル以上。
横幅も同じくらいある。
扉の中央には、今の王国文字とは異なる古い文字列と、円を何重にも重ねた紋様が刻まれていた。
そして、その下。
かろうじて読める部分がある。
《第3深鉱循環区》
さらにもう1行。
《圧力上限――》
そこから先は結晶に覆われて読めない。
エイルは巨大な扉を見上げた。
以前、深層循環獣と戦った施設で見た《深層圧力》《生体調整》という言葉が頭をよぎる。
同じものなのか。
全く別なのか。
まだ分からない。
ただ、この迷宮の地下には、迷宮が生まれるより前から何かがあった。
そして今。
扉の向こうから、一定周期の脈動が続いている。
エイルが近づいた。
その瞬間、長い間動いていなかったはずの金属扉の内部から、重い駆動音が響き始めた。




