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第89話 響界

 巨大な鉱晶獣が前脚を床へ叩きつけた瞬間、空洞を埋め尽くす結晶群へ魔力が走った。


 床だけではない。


 壁面に突き出した結晶柱から天井に垂れ下がる細い晶石まで、目に見えるほぼすべてが1つの網として繋がっており、巨大個体から送り込まれた魔力が分岐しながら空洞全体へ広がっていく。


 《警戒圏》に浮かんだ危険の数は、それまでエイルが経験したどの戦場よりも多かった。


 右へ踏み込めば床から3本。


 左へ移れば壁から斜めに5本。


 前へ出れば巨大個体の前脚と、その踏み込みに連動して天井から落ちる結晶。


 後ろへ逃げても、数秒後には背後の地面そのものが隆起する。


 未来が見えているわけではない。


 それでも、現在の魔力の流れ、床に伝わる微細な振動、巨大個体が力を入れる場所、それらを《警戒圏》がまとめ上げることで、まだ発生していない攻撃の可能性が次々と意識へ浮かんでくる。


 エイルは最も危険の薄い隙間へ身体を滑り込ませた。


 数秒前までいた場所から太い結晶柱が突き上がり、直後には左側の壁から槍のような晶石が何本も伸びる。


 それらを避けながら前へ進むが、巨大個体との距離はほとんど縮まらない。


 相手は自身の周囲だけを守っているのではなく、空洞そのものを使ってエイルの移動経路を制限していた。


「正面から近づくのは面倒だな」


 独り言を漏らしながら、エイルは次の結晶群をかわした。


 ならば、まず網を崩す。


 床へ《震圧》を流すと、足元を中心に複数の衝撃点が開き、周囲へ伸びていた結晶の根元をまとめて揺さぶった。


 これまでの魔物なら、それだけで広い範囲の足場が崩れる。


 しかし今回は違った。


 《震圧》が結晶床へ入った直後、こちらの力まで網状の魔力路へ取り込まれ、20メートル以上先へ薄く散らされていく。


 床は割れたものの、狙っていた地点だけを深く崩すことができない。


「《震圧》まで散らすのか」


 鳴殻甲獣の甲殻に似ている。


 ただし規模がまるで違う。


 1枚の甲殻で力を逃がすのではなく、巨大な空洞全体へ負荷を分配している。


 もしこの構造を素材として武器へ落とし込めれば、高出力の《衝撃》を通した時に刀身へ掛かる負荷を大きく減らせるかもしれない。


 戦闘中だというのに、そんな考えが先に浮かぶ。


 巨大個体が再び前脚を上げた。


 今度は床へ叩きつけるのではなく、エイルへ向けて直接振り下ろしてくる。


 肩から先だけで数メートルあり、その先端には丸い骨質部が付いているため、形だけ見れば巨大な鎚そのものだった。


 まともに受ければ、今のエイルでも無事では済まない。


 《警戒圏》へ浮かぶ軌道を見ながら半歩だけ内側へ入り、骨質部が地面へ触れる直前に《高密度強化》を脚へ集中して加速する。


 巨大な前脚が背後へ落ちた。


 結晶床が大きく沈み、その衝撃へ反応して周囲の晶石が一斉に震える。


 エイルはその揺れを《振動感知》で追った。


「……今だけ流れが増えた」


 巨大個体が物理的に床へ触れた瞬間、身体と空洞を繋ぐ魔力路が一気に太くなる。


 普段も繋がってはいるが、大規模な攻撃を行う直前だけ、迷宮側へより多くの魔力を送り込むらしい。


 なら、その瞬間には逆方向から相手へ届く道も開いている。


 エイルは振り下ろされた前脚へ近づき、その横の床へ長剣を突き立てた。


 刀身から《振動感知》を流す。


 結晶床。


 壁面。


 巨大個体の前脚。


 背中の結晶群。


 数百本に分かれた流れが、1つの大きな網として繋がっている。


 ここへ普通の《衝撃》を撃てば散る。


 《震圧》を広げても同じ。


 だったら、散らされること自体を利用すればいい。


 エイルは一度だけ深く息を吸い、《魔力圧縮》を使わず、あえて広がりやすい状態の《衝撃》を床へ流した。


 巨大な威力はない。


 壊すための攻撃ですらない。


 ただし、広がっていく力へ《振動感知》を重ねる。


 自分が放った小さな衝撃が鉱晶網を伝わり、どこを通り、どこで分かれ、どこへ集まっているのか。


 それが一気に返ってきた。


 空洞の形が変わったように感じる。


 目では壁しか見えていない場所の向こうにある鉱脈。


 床下へ潜る魔力路。


 天井近くの結晶。


 そして、その中央にいる巨大個体。


「見えるな」


 魔力の流れではなく、振動の繋がりとして。


 巨大個体がもう1本の前脚を振るう。


 エイルは剣を抜いて回避しながら、それでも先ほど掴んだ網の感覚を手放さなかった。


 右側の壁から結晶が伸びる。


 出る前から分かる。


 床の後方が隆起する。


 そこへ魔力が集まる段階で分かる。


 天井から細い結晶弾が降る。


 発射点へ振動が集まった瞬間に軌道まで絞れる。


 《警戒圏》だけで予測していた時より、情報が明らかに多かった。


 相手の攻撃網そのものへ、自分の感覚を潜り込ませている。


     ◇


 巨大個体も、エイルの動きが変わったことへ気づいたらしい。


 先ほどまで結晶によって進路を狭められていたはずなのに、今は攻撃が発生するより少し早く、最初から安全な場所へ向かっている。


 魔物が大きく身体を持ち上げた。


 背中に生えた数十本の結晶柱が強く光る。


 今までで最大の魔力が床へ流れ込む。


 エイルの感知には、空洞全体が一斉に収縮したように感じられた。


「これは広いな」


 次に来るのは単発ではない。


 床のほぼ全域。


 壁。


 天井。


 避ける場所そのものを消すつもりだ。


 《警戒圏》へ浮かぶ可能性の大半が危険で埋まった。


 それでもエイルは出口へ走らなかった。


 この規模の攻撃を使うため、巨大個体から鉱晶網へ送られている魔力も今までで最も多い。


 つまり今なら、こちらから相手へ繋がる道も太い。


「だったら、先に使わせてもらう」


 エイルは床へ左手を触れた。


 長剣ではない。


 直接。


 《衝撃》を放つ。


 しかし今度は、広げるだけでは終わらせなかった。


 鉱晶網へ散っていく自分の力を《振動感知》で追いながら、《魔力操作》によって1つずつ方向を変えていく。


 最初は30ヶ所。


 そこから70。


 100を越える。


 《震圧》で複数の攻撃点を作る時とは逆だった。


 自分から100ヶ所へ攻撃を送るのではない。


 相手が作った100本以上の伝達路を借り、散っていった《衝撃》を最後に1ヶ所へ戻す。


 狙うのは巨大個体。


 正確には、その背中へ集まっている魔力路の中心だった。


 難しい。


 鉱晶網そのものが相手の魔力で満ちているため、少しでも制御を失えばこちらの《衝撃》まで別方向へ飲まれてしまう。


 それでも《越境》Lv.6になってから伸び続けている《魔力操作》と《振動感知》が、以前なら扱えなかった量の情報を無理やり繋いでいく。


 巨大個体の攻撃が発動する。


 床一面から結晶が生え始める。


 同時にエイルは収束を終えた。


「返す」


 空洞中へ散っていた自分の《衝撃》が、鉱晶網を逆流した。


 床。


 壁。


 天井。


 何十、何百という経路から小さな振動が中央へ集まり、そのすべてが巨大個体の脚を通って体内へ入り込む。


 最初の1つは弱い。


 2つ目も。


 10個程度なら、この巨体へ大きな影響はない。


 しかし数が増えるほど、同じ地点へ集まる力も大きくなる。


 巨大個体の背中にある結晶群が、突然不規則に震え始めた。


 それまで床から飛び出していた晶石の一部が途中で止まり、天井の攻撃も狙いを外す。


 エイルの周囲にも結晶柱は出たが、全域を埋めるはずだった攻撃に大きな穴が開いていた。


 そこを走る。


 巨大個体へ向かって。


【《振動感知 Lv.43 → Lv.46》】


【《魔力操作 Lv.52 → Lv.55》】


【《衝撃 Lv.65 → Lv.67》】


 表示が流れる。


 巨大個体が低い唸りを上げた。


 音ではなく、胸部から床を通して伝わる振動だった。


 背中の結晶柱が角度を変える。


 今度は鉱晶網を使わない。


 身体に蓄積した魔力を直接撃つつもりらしい。


 20本以上の結晶から、細い光がエイルへ向いた。


 《警戒圏》には複数の射線が浮かぶ。


 横へ走っても追われる。


 距離を取れば広げられる。


 なら近づく。


 エイルは《高密度強化》を両脚へ集中させ、足元へ《衝撃》を叩き込んだ。


 加速。


 結晶光が放たれる。


 最初の3本を身体の横へ流し、4本目が来る直前にはもう1度《衝撃》で進路を変える。


 空洞内を直線ではなく鋭角に切り返しながら、25メートル級の巨体へ一気に接近した。


 最後の数本は完全には避けきれない。


 1本がコートの裾を掠めて布を裂き、別の1本が右肩の外側へ触れて軽装甲の表面を削った。


 補修して数日しか経っていない装備へ再び傷が入る。


「また怒られるな」


 それでも今回は止まらない。


 巨大個体の前脚が横から迫るが、その軌道はすでに分かっている。


 前脚の内側へ潜り込み、肩の付け根へ長剣を突き立てた。


 硬い。


 鉱石を取り込み続けた皮膚と骨が、普通の大型種とは比較にならないほど密度を持っている。


 《高密度強化》を腕だけでなく背中、腰、脚へ繋ぎ、全身の力で剣を押し込む。


 刃が数センチ入った。


 そこから《振動感知》を通す。


 相手の身体の内部にも、外の鉱晶網と似た構造がある。


 背中の結晶を中心に何十本もの魔力路が走り、各部位へ力を分けている。


 普通に《衝撃》を通しても分散される。


「同じなら」


 外でやったことを、今度は体内でやる。


 エイルは《衝撃》を複数へ分けた。


 散らす。


 相手の内部構造に乗せる。


 そこから再び集める。


 巨大個体が身体を捻ったため、完全な制御はできない。


 それでも10本以上へ分かれた衝撃が、体内の魔力路を伝って肩よりさらに奥へ入り込む。


 最後に集めた場所は、胸部にある大きな魔力器官だった。


 収束。


 内部で重音が響く。


 巨体が大きく揺れた。


 エイルは剣を抜き、そのまま後ろへ跳ぶ。


 直後、巨大個体が身体ごと地面へ倒れ込んだ。


 床が沈み、結晶片が周囲へ飛び散る。


 完全には倒れていない。


 前脚へ力を入れ、すぐに立ち上がろうとしている。


 ただし、今の一撃で確実に内部へ届いた。


「外も中も、同じ構造なんだな」


 それが分かれば、もう最初ほど難しくはない。


     ◇


 戦いはそこからさらに続いた。


 巨大個体が背中の結晶群を使えば、エイルは鉱晶網へ自分の《衝撃》を混ぜて流れを乱し、直接接近してくれば《警戒圏》で軌道を読み、《震圧》を脚元へ集中して体勢を崩す。


 相手も単純ではなかった。


 何度か同じ方法を受けるうち、床へ流す魔力路を途中で切り替え始めたため、エイルが一度掴んだ経路が使えなくなる場面も増えていく。


 それならもう1度読む。


 変化した流れへ《振動感知》を合わせ直し、今度は別の経路を使って衝撃を戻す。


 戦闘そのものが、巨大な魔力網を奪い合うような形へ変わっていった。


 最初は巨大個体だけが支配していた空洞だった。


 しかし時間が経つにつれ、エイル側から流した振動も各所へ残り始める。


 どの結晶がどこへ繋がるか。


 どの床面から壁のどこへ力が抜けるか。


 どこへ《衝撃》を入れれば相手の足元へ届き、どこへ入れれば背中へ返るか。


 頭の中へ、空洞全体の構造が立体的に積み上がっていく。


 途中からエイルは、目で巨大個体を追う時間まで減らしていた。


 足元の振動で現在位置が分かる。


 背中の結晶がどこへ魔力を流しているかで次の攻撃方向も分かる。


 《警戒圏》が危険な可能性を選別し、《振動感知》が現在の情報を埋める。


 目の前だけを見て戦っていた頃とは、明らかに違う。


【《警戒圏 Lv.18 → Lv.21》】


【《振動感知 Lv.46 → Lv.49》】


【《近域感知 Lv.41 → Lv.43》】


 巨大個体が4度目となる全域攻撃へ移る。


 今度はエイルも逃げなかった。


 すでに空洞の繋がりはほとんど掴んでいる。


 相手が送り込む魔力へ、自分の《衝撃》を重ねる。


 左右へ。


 天井へ。


 床下へ。


 数え切れないほど細かく分岐したあと、すべてを相手へ返す。


 それまでなら《震圧》として外側から範囲を押さえ込んでいた。


 今は空間全体へ力を通し、その中で望んだ地点だけを選んで揺らせる。


 床の10ヶ所。


 背後の壁から3ヶ所。


 巨大個体の左前脚の下。


 天井にある巨大結晶の根元。


 すべてをほぼ同時に鳴らした。


 重音が何層にも重なる。


 巨大個体が作ろうとしていた攻撃網が途中から崩れ、自分自身の周囲で結晶が暴発する。


 エイルはその中央へ駆け込んだ。


     ◇


 残る弱点は背中だった。


 そこにある最大の結晶柱が、空洞の鉱晶網と巨大個体自身を繋ぐ中心になっている。


 高さは3メートルを越え、根元の太さだけでもエイルの胴回りより大きい。


 もちろん簡単には届かない。


 巨大個体が前脚を振り回し、背中からも結晶光を放つ。


 しかし今は、それらが出る前から流れを読める。


 エイルは右前脚を《震圧》で沈ませ、その傾いた腕を足場に駆け上がった。


 肩。


 背中。


 林のように並ぶ結晶柱の間へ入る。


 巨大個体が身体を強く揺らすが、《振動感知》で動きが分かっているため、揺れと反対に踏ん張る必要はない。


 動く方向へ合わせ、自分の重心まで同じように流す。


 背中を走る。


 中心結晶まで残り10メートル。


 巨大個体が身体を岩壁へ叩きつけようとする。


 それも分かる。


 エイルは中心結晶の横へ到達したところで長剣を突き立て、柄を両手で握った。


 外殻は硬い。


 剣先が僅かに欠ける感触があった。


 それでも止めない。


 この戦闘でまた補修が必要になるとしても、今は素材を残して勝つことの方が先だった。


 長剣をさらに押し込む。


 結晶の内部へ《振動感知》が通った。


 想像以上だった。


 巨大個体自身。


 床。


 壁。


 天井。


 この中心結晶から、空洞全体へ数百本の経路が伸びている。


 エイルは一瞬だけ考えた。


 ここへ最大出力の《衝撃》を叩き込めば壊せる。


 しかし、それでは欲しい素材まで粉々になる可能性が高い。


 なら。


 壊す場所だけ選べばいい。


 《魔力圧縮》を高める。


 刀身の中を細く通す。


 中心結晶へ入ったところで広げる。


 ただし外へ向けてではない。


 結晶内部の流れを使い、巨大個体へ繋がる経路だけを拾う。


 100を越える分岐の中から、身体へ戻っているものだけを選ぶ。


 今までの《震圧》では難しい。


 単純な《衝撃》でも足りない。


 広げる。


 通す。


 曲げる。


 集める。


 止める。


 必要な場所だけへ伝える。


 エイルが長い間《衝撃》で試してきた使い方が、頭の中で1つへ繋がった。


 その瞬間。


【《衝撃》上位化条件を満たしました】


 表示を最後まで読む必要はなかった。


 エイル自身も、何が変わったのか分かっている。


 これまで《衝撃》は、力を生み出す技能だった。


 しかし自分が本当に使っていたのは、それだけではない。


 生み出した力をどこへ流し、どこで広げ、どこで止め、何へ伝えるか。


 衝撃そのものではなく。


 その伝わり方。


【《衝撃 Lv.67》が上位技能へ進化します】


【上位技能《衝界 Lv.1》を獲得しました】


 名前を認識した瞬間、刀身へ流していた感覚が一変した。


 新しい力が増えたわけではない。


 むしろ今までより静かだった。


 ただし、自分が生み出した衝撃がどこへ伝わっているのか、その境界を以前とは比較にならないほど明確に感じ取れる。


 ここから先は通す。


 こちらへは逃がさない。


 ここで分ける。


 この3本だけ残す。


 エイルは無数の経路の中から、巨大個体の体内へ戻るものだけを選び取った。


「これなら素材を壊さなくて済む」


 最大の理由がそれなのは、少し変かもしれない。


 それでも今は都合がよかった。


 《衝界》を流す。


 中心結晶そのものにはほとんど力を入れない。


 その奥。


 巨大個体の身体へ繋がる魔力路へ入った瞬間にだけ衝撃を増幅し、さらに内部で分岐させる。


 胸。


 腹。


 前脚の付け根。


 背中の深部。


 魔力器官。


 20。


 30。


 50を越える。


 巨大個体が暴れる。


 岩壁へ身体を叩きつけようとするが、エイルはもう止めなかった。


 その直前に剣を抜き、《衝界》を最後まで通す。


 外側の結晶には傷を残さず。


 身体内部の魔力路だけへ。


「沈め」


 低い音が1度だけ鳴った。


 今までのような谷を震わせる轟音ではない。


 むしろ拍子抜けするほど小さい。


 しかし巨大個体の身体の中では、選ばれた数十ヶ所へほぼ同時に衝撃が発生していた。


 前脚から力が抜ける。


 続いて後脚。


 背中の結晶群から光が消え、空洞中へ流れていた魔力網も一斉に静まっていく。


 25メートルの巨体がゆっくり傾いた。


 エイルは背中から跳び降り、《衝界》を足元へ流して着地の衝撃だけを横へ逃がす。


 今までなら《衝撃》を下へ放って落下速度を殺していた。


 今回は地面へ着いた瞬間に生じた力そのものを、左右へ流した。


 膝へ掛かる負担が明らかに少ない。


「……便利だな、これ」


 背後で巨大個体が完全に倒れる。


 それでも中心結晶は折れていない。


 欲しかった素材も、ほとんど無傷だった。


     ◇


【Lv.81 → Lv.87】


【《衝界 Lv.1 → Lv.4》】


【《震圧 Lv.18 → Lv.21》】


【《剣術 Lv.43 → Lv.46》】


【《振動感知 Lv.49 → Lv.52》】


【《近域感知 Lv.43 → Lv.46》】


【《警戒圏 Lv.21 → Lv.23》】


【《魔力操作 Lv.55 → Lv.59》】


【《魔力圧縮 Lv.52 → Lv.56》】


【《高密度強化 Lv.30 → Lv.33》】


【《自己治癒 Lv.31 → Lv.33》】


 数字の伸びも大きい。


 しかしエイルは、今回はLvより《衝界》の方を長く見ていた。


 試しに床へ軽く力を流す。


 以前の《衝撃》のように単純な押し返しとして使うこともできる。


 足元へ使えば加速も可能。


 内部へ通すことも、離れた場所へ飛ばすこともできる。


 つまり《衝撃》で覚えてきた使い方は消えていない。


 その上で、伝播する範囲と経路を以前より遥かに細かく決められる。


 《震圧》とも相性がいい。


 今までの《震圧》は広い地面へ複数の衝撃点を作る技能だったが、《衝界》で経路を整理すれば、味方がいる場所だけを避けて発生地点を置くことも将来的にはできそうだった。


「これなら範囲攻撃もかなり変わりそうだな」


 まだLv.4。


 使い慣れてもいない。


 それでも伸びる方向は見える。


     ◇


 巨大個体の解体を始める前に、エイルは長剣を確認した。


 思った通り、無傷ではない。


 中心結晶へ突き立てた時に刃先へ小さな欠けが入り、刀身中央にも細い傷が増えている。


 内部伝導路はドルガンの補強が効いており、以前のような目立った乱れはまだない。


 ただ、《衝界》へ進化したことで、今後流せる力はさらに増える可能性が高い。


「本当に次は作り直さないと駄目かもな」


 グレイグへ持っていく素材は十分集まり始めている。


 高純度の《脈晶鉄》。


 鳴殻甲獣の《響殻》。


 収束性に優れた結晶器官。


 そして目の前には、それらすべてを上回る可能性のある巨大鉱晶獣がいる。


 背中の中心結晶を近くで確認すると、ただ魔力を通すだけではない。


 複数の経路へ分散された力を受け止め、必要に応じて再びまとめる性質が残っている。


 エイルが先ほど戦闘中に行ったことを、素材そのものがある程度自然に行っている。


「これ、絶対使えるだろ」


 慎重に切り出す。


 中心結晶を根元から全部持っていくのは大きすぎるため、特に魔力密度の高い中央部分だけを1メートルほど切り取った。


 さらに身体内部からは、結晶と肉体を繋いでいた網状の薄い器官が見つかった。


 金属糸の束にも見える半透明の組織で、引っ張れば柔らかく伸びるのに、剣で切ろうとするとかなり強い抵抗を返す。


 防具向けかもしれない。


 コートの補強。


 軽装甲の内側。


 あるいは靴。


 エイルは持ち運べるだけ採取した。


 全部を持ち帰れないのが惜しい。


 そのため死骸の位置と、周囲に残る高純度鉱脈まで地図へ細かく書き込んでおく。


 あとで専門の回収隊を連れてくれば、さらに大量に確保できるだろう。


     ◇


 作業を終えた頃には、かなり時間が経っていた。


 エイルは空洞の壁際へ腰を下ろし、食事を取りながら新しい《衝界》を何度か試した。


 小石を押す。


 地面へ流す。


 壁へ当て、途中で止める。


 壁の向こうへだけ通す。


 最初は意識して経路を作らなければならなかったが、数回使うだけでも少しずつ感覚が馴染んでいく。


 特に面白いのは、自分へ返ってくる力まである程度扱えることだった。


 剣を強く振れば、手や腕へ反動が返る。


 地面を蹴れば脚へ。


 巨大なものを殴れば全身へ。


 今まで《高密度強化》や単純な耐久力で受け止めていた負荷の一部を、別方向へ流せるかもしれない。


 それができれば、身体にも。


 剣にも。


 今まで以上の出力を通せる。


 エイルはそこで少しだけ止まった。


「……また装備が先に壊れそうだな」


 補修してもらったばかりなのに、上限を上げる方法を考えている。


 ドルガンが聞けば、本気で怒るかもしれない。


 ただ、次の装備更新へ使えそうな素材は、すでに背負い袋の中へいくつも入っている。


 あとはもっと集める。


 必要なら、もっと深く潜る。


     ◇


 翌朝。


 エイルは巨大鉱晶獣の空洞から戻らず、その先へ続く道を探していた。


 普通なら、この時点で一度地上へ戻る選択もある。


 高価そうな素材をかなり抱えている。


 新技能も獲得した。


 目的だった《脈晶鉄》と《響殻》も手に入った。


 十分な成果だ。


 しかし《振動感知》を空洞の奥へ流した時、さらに下へ伸びる大きな空間が見つかった。


 地図には当然ない。


 正式な第7層へ繋がっているのか、それともまったく別の深部なのかも分からない。


 そこから返ってくる魔力反応は、昨日の巨大鉱晶獣ほど大きくない。


 ただし1つだけ、妙なものが混じっていた。


 生物ではない。


 鉱石とも違う。


 一定間隔で魔力が脈打っている。


 古い人工物。


 あるいは迷宮そのものに関係する何か。


 エイルは荷物の重さを確認した。


 まだ持てる。


 食料も残っている。


 合同演習までも余裕がある。


「もう少しだけ行くか」


 おそらく、それを何度も繰り返して予定より深くなるのだろう。


 自分でも分かっていた。


 それでも地図へ存在しない下り道を見つけて、戻るという選択は最初からかなり難しかった。


 エイルは新しく進化した《衝界》を薄く周囲へ流しながら、巨大空洞のさらに奥へ続く裂け目へ足を踏み入れた。


 その頃にはまだ知らなかった。


 地上のギルドでは、この迷宮の第7層で起きた異変を受け、翌朝から深層への立ち入りを一時制限する話が進んでいた。


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