第78話 退路の前に立つ者
第3前進砦を出発してから半日ほどは、昨日まで歩いていた旧測量路よりも穏やかな道が続いていた。
もっとも、それは道の状態が良いという意味ではない。第7前進観測所へ向かう軍用路は長く人の手が入っておらず、石畳の隙間から低木が伸び、斜面側から流れ込んだ土砂によって半分ほど埋まっている場所もある。ただ、左右を深い森に挟まれていた旧測量路と比べれば視界は広く、南側には岩肌の露出した低い山並みまで見渡せた。
ハインの指揮する一行は、兵士12名、測量要員3名、治療術師1名、それにエイルを含む冒険者4名という構成になっている。
リヴィアは先頭近くを歩き、古い軍用地図と現在の地形を何度も見比べていた。
「この先から地面の記録がおかしい」
昼休憩を終えて間もなく、リヴィアが地図を開いたまま声を上げた。
「おかしい?」
エイルが横から覗く。
「3か月前までは、この辺りの高低差はほとんど変わってない。でも最近の観測記録だけ、北側が少しずつ沈んでる」
「どれくらいですか?」
「最大で1.4メートル。ただし測定地点が少ないから、もっと広い範囲かもしれない」
エイルは歩きながら《振動感知》を地中へ伸ばした。
表層。
岩盤。
その下。
昨日まで何度も似た感覚はあったが、この辺りはさらに複雑だった。地中の硬い層が途中で切れ、その隙間へ大小の空洞が入り込んでいる。
しかも自然にできた洞窟とは少し違う。
空洞の壁が滑らかではなく、細く長い溝が何本も並んでいる。
「……掘られてる」
「何に?」
「分からない。でも自然に割れた感じじゃないです。地面の下を、何かが何度も通った跡に近い」
ハインがすぐ歩みを止めた。
「規模は?」
「かなり広いです。少なくとも僕が拾える範囲の外まで続いてます」
「昨日の地中個体か」
「可能性は高いと思います」
昨日エイルが単独で食い止めた魔物の中には、地中を高速で移動する6脚の個体が多数混じっていた。
大型の個体は全長4メートル前後で、細長い胴体の左右へ3対の脚を持ち、前脚だけが他より倍近く太い。地面を掘り進むためか、その先端には爪というより平たい掘削刃に近い黒い硬質部があり、土や岩を抱え込むように左右へ掻き分けていた。
頭部には目や鼻らしい器官がほとんど見当たらず、代わりに胴体の先端そのものが縦に裂けるような巨大な口になっている。
口の内側には細かな歯が何列も並んでおり、噛み付くというより、掘り崩した土や獲物をそのまま削り取って飲み込む構造に近かった。
さらに大型個体になると、背中から頭部へかけて黒い板状の甲殻が何枚も重なり、その隙間から灰色の皮膚が見えている。地中から浮上する時には甲殻同士が擦れ、石臼を回すような低い音まで出していた。
昨日は戦闘を優先したため、じっくり観察する余裕はなかった。
今になって考えれば、地面そのものを削りながら移動する魔物が大量に存在するのなら、この辺りの地盤が急速に変化していても不思議ではない。
「観測所まで急ごう」
ハインが決断する。
「記録が残っているなら、少なくとも何が起き始めたかは分かるかもしれん」
◇
第7前進観測所が見えたのは、日が西へ傾き始めた頃だった。
山肌の張り出した場所へ木と石で作られた小さな砦で、周囲には高さ3メートルほどの防柵が巡らされ、中央に2階建ての観測棟と倉庫、それに簡易兵舎が並んでいる。
遠目にはまだ形を保っていた。
ただし近づくほど、被害の大きさが分かる。
北側の防柵はほとんど残っていない。
太い丸太が外から押し倒されたのではなく、地面ごと内側へ落ち込み、何本もの柱が穴へ斜めに沈んでいた。
観測棟の壁には数ヶ所大きな亀裂が走り、倉庫の半分は崩れている。
そして地面には、昨日見た地中種が掘ったものと思われる穴が無数に開いていた。
直径は小さいものでも1メートル以上。
大きいものになると3メートル近い。
「昨日より酷くなってる」
カルド少尉から借りた観測所の見取り図を手に、リヴィアが低く呟いた。
「撤退した時は北柵が2ヶ所破られただけって記録だった」
「まだいるかな」
エイルは《振動感知》を広げる。
地上には大きな反応がない。
しかし地中には、遠くを移動しているものがいくつかある。
「すぐ下にはいません。少なくとも大きいのは」
「なら回収を優先する」
ハインの指示で、隊は3つに分かれた。
兵士と冒険者の半数が外周警戒。
残りが観測棟と倉庫の確認。
リヴィアを含む測量要員は、中央の記録室へ入る。
エイルは最初、外に残るつもりだった。
しかし観測棟の入口でリヴィアが振り返る。
「エイル、少し来て」
「僕ですか?」
「記録室の床、崩れてる。下の空洞がどこまで広がってるか見てほしい」
それなら自分の方が早い。
エイルはハインへ一度確認してから、観測棟へ入った。
◇
記録室は建物の奥にあった。
棚から落ちた紙束が床へ散らばり、机も1つ横倒しになっている。
部屋の中央には長さ2メートルほどの亀裂があり、その隙間から冷たい空気が上がっていた。
エイルは亀裂の横へしゃがみ、片手を床へ置く。
《振動感知》を集中する。
「下、かなり抜けてます」
「深さは?」
「最初の空洞まで8メートルくらい。その下にもあります」
「繋がってる?」
「多分。少し待ってください」
魔力をさらに細く流す。
1本。
2本。
3本。
地中を通る細い通路が、観測所の北側からさらに北西へ伸びている。
その一部は人間が通れるほど広い。
そして、もっと深い位置。
何かある。
動かない。
ただし魔力反応が大きい。
「……変なのがある」
リヴィアが顔を上げる。
「魔物?」
「分かりません。動いてないです。ただ、かなり大きい」
「場所は?」
地図を出され、エイルは現在地から北西へ少しずれた場所を指した。
リヴィアの表情が変わる。
「ここ、第7観測所が3か月前から振動を記録してた中心に近い」
「じゃあ、原因かもしれない?」
「可能性はある」
2人が話していると、測量兵の1人が奥の棚から木箱を引き出した。
「記録板ありました!」
箱の中には薄い金属板が何十枚も入っている。
魔力振動を刻む簡易記録器らしい。
リヴィアは最も新しいものから確認し始めた。
1枚目。
2枚目。
3枚目。
日付が新しくなるほど、刻まれている振幅が大きくなっている。
「これ……」
「何か分かりますか?」
「最初は1日に1回か2回。そこから少しずつ回数が増えて、撤退前日はほぼ1時間おきになってる」
最後の1枚。
そこだけ振幅が極端に大きい。
「昨日?」
「撤退の約30分前」
エイルは金属板を見る。
その時。
《危機感知》が反応した。
まだ弱い。
ただし遠くではない。
「外へ出ます」
返事を待たずに立ち上がる。
リヴィアもすぐ記録板を箱へ戻した。
「何か来る?」
「地中です。さっきより近い」
◇
観測棟の外へ出ると、兵士たちも異変へ気づき始めていた。
地面が小さく震えている。
最初は足の裏へ僅かに伝わる程度だった。
やがて、観測所の倒れかけた柵がかすかに揺れ始める。
ハインが全員へ集合を命じた。
「記録は?」
「確保しました!」
「なら撤収する! 地中反応が近い!」
全員が荷物をまとめ始める。
しかしエイルは北西を見ていた。
昨日までの地中種とは振動の質が違う。
細かく速いものが大量にある。
そのさらに奥から、もっと重いものが来ている。
「ハインさん」
「何だ?」
「小さいのがかなり多いです。その後ろに大きいのが3つ」
「3つ?」
「昨日の大型より大きいと思います」
その言葉が終わった直後、観測所の北側で地面が爆ぜた。
土と小石が高く吹き上がり、そこから最初の魔物が飛び出す。
昨日見た地中種より小さい。
全長は2メートルほどで、胴体は犬や狼のように細長いが、脚は6本あり、腹が地面へ擦れそうなほど低い。頭部には目がなく、代わりに口の周囲へ短い触角のような肉質器官が10本以上生え、それを絶えず震わせながら周囲の振動を拾っている。
灰白色の皮膚は柔らかそうに見えるものの、背中だけには三角形の硬い板が縦に連なり、地面へ潜る時にはそれが土を押し退ける。
1体目が出たあと、地面の穴から次々に同じ個体が溢れた。
10。
20。
30。
さらに観測所の左右からも地面が盛り上がる。
「包囲される!」
冒険者の1人が叫ぶ。
ハインがすぐ指示を飛ばした。
「南東へ抜ける! 記録と測量員を中央へ、盾持ちは左右!」
撤退が始まる。
エイルも列へ入った。
昨日のように1人で残るのではなく、まず全体を見ながら移動する。
小型種の動きは速い。
地上へ出ると6本の脚を細かく動かし、地面へ腹が付きそうな低い姿勢のまま滑るように走る。直線では人間より明らかに速く、障害物があっても身体を大きく曲げて横へ抜けるため、数が増えるほど厄介だった。
最初の5体が左側から入ってくる。
兵士が槍を向ける。
エイルはその手前へ《衝撃》を横向きに流した。
空気が低く鳴る。
先頭2体の身体が横へ弾かれ、後続とぶつかる。
そこへ槍兵が刺す。
右側では別の群れが来る。
エイルは走りながら長剣を抜き、1体目の背中を斬る。
硬質板を完全に割る必要はない。
隙間へ刃を入れ、《衝撃》を通す。
重い音が腹の底へ響いた。
魔物が崩れる。
さらに1体。
2体。
3体。
戦うたび、短い爆発音とは違う低い衝撃音が森へ響く。
足元にも小さな振動が返る。
隊列の中央にいる測量兵たちは、振り返らなくてもエイルがどの位置で戦っているのか、その音だけで分かるようになっていた。
「右から7!」
リヴィアの声が飛ぶ。
「見えてます!」
返しながら、エイルは列の右側へ移る。
1体を斬る。
2体目の頭部へ直接《衝撃》。
3体目は地面へ潜ろうとする。
その直前、足元へ小さく衝撃を流すと、潜りかけた身体が土ごと持ち上がる。
そこへ長剣を入れる。
低い音。
振動。
また次。
《地鳴り》と呼ばれるようになった理由を、エイル本人より周囲の方が先に実感していた。
◇
南東へ向かって400メートルほど進んだところで、前方の地面が大きく沈んだ。
リヴィアが止まる。
「道がない!」
昨日まで通れていたはずの軍用路が、幅20メートル以上にわたって崩落していた。
地面の下を大量の魔物が通った影響なのか、斜面ごと抉られ、その先には深い裂け目ができている。
「迂回は?」
ハインが尋ねる。
「北は戻ることになる! 南へ下りるなら最低でも30分!」
後方から地中種が来ている。
30分は長い。
さらに《振動感知》では、3つの巨大な反応がもうかなり近くまで来ていた。
エイルは崩落地点と周囲を見る。
右側は急斜面。
左は岩壁。
逃げ道はない。
なら。
「ここで止めましょう」
ハインが振り向く。
「全員でか?」
「いえ。道を作る間だけ、僕が前に出ます」
「また1人で残る気か」
「今度は離れません。ここなら皆も見えるので」
エイルは崩落地点の手前、道幅が最も狭くなる場所へ歩いた。
左右を岩と斜面に挟まれている。
敵が来られる方向は正面だけ。
守るなら、これ以上ない場所だった。
「リヴィアさん、南側の迂回路を作れますか?」
「作る。20分まで縮める」
「じゃあ20分ください」
「簡単に言うね」
「20分なら大丈夫です」
その言葉には、妙な自信も誇張もなかった。
ただ、本当にそう思っているだけだった。
ハインは数秒迷ったあと、兵士たちへ命じる。
「測量班は迂回路確保! 残りは崩落地点の手前で負傷者と記録を守れ! 前へ出るな!」
そしてエイルへ向く。
「無理になったら下がれ」
「はい」
「今回は本当にだぞ」
「分かってます」
◇
最初の群れが見えた。
小型地中種。
その後ろに、昨日見た4メートル級。
さらに奥。
木々の間から、それまでとは明らかに違う影が姿を見せる。
全長は12メートル近い。
胴体は細長い地中種と同系統に見えるものの、前半身だけが異様に発達しており、6本ある脚のうち前2本は人間の胴ほど太い。
背中の甲殻も板状ではなく、岩盤のように厚い黒い殻が何層にも重なっている。
頭部の先端には口が2つあった。
左右へ裂ける巨大な主口の内側に、さらに筒状の小さな口器があり、その先端から粘ついた灰色の液体が垂れている。
地面へ落ちた液体が草へ触れると、数秒で葉が黒く縮れた。
昨日の巨大個体より、明らかに厄介そうだった。
それが3体。
後ろから来る。
「……あれはちょっと大きいな」
エイルは長剣を構えた。
背後には、兵士と測量員。
回収した記録。
迂回路を作っているリヴィアたち。
ここを通せば、全部へ届く。
なら1体も抜かせない。
最初の小型種が飛び込んできた。
エイルは前へ出る。
剣が走る。
内部へ《衝撃》。
低音。
次の1体へ足元から衝撃を当て、身体を浮かせたところへ斬撃を入れる。
3体目。
4体目。
5体目。
数十体がまとめて押し寄せても、エイルは道の中央からほとんど動かなかった。
左右へ半歩。
前へ1歩。
後ろへは下がらない。
《近域感知》が正面の敵を捉え、《振動感知》が地中へ潜っている個体まで拾い、《危機感知》が見えている攻撃より早く危険な軌道だけを選び出す。
それらすべてへ《衝撃》を合わせる。
斬るたびに、重い音が鳴る。
地面から。
敵の内部から。
刀身を通して。
何度も。
何度も。
後ろにいる兵士たちには、戦場の中心だけが絶えず低く鳴り続けているように聞こえた。
やがて大型1体が正面へ突っ込んでくる。
エイルは避けず、長剣を両手で持ち直した。
前脚が振り下ろされる。
《高密度強化》を脚、腰、背中、両腕へ繋げる。
受け止めるのではない。
斜めへ逸らす。
巨大な前脚が横へ滑り、その瞬間に生まれた首元の隙へエイルが入る。
剣を刺す。
圧縮。
《衝撃》。
地面が鳴った。
大型個体の身体が横へ崩れる。
その後ろから2体目。
さらに小型。
エイルは倒れた巨体を足場にして跳び、空中から2体目の頭部へ長剣を突き込んだ。
また低音が響く。
背後で誰かが息を呑む。
それでもエイルは止まらない。
20分。
その間、ここを通さなければいい。
◇
「迂回路、あと7分!」
遠くからリヴィアの声が聞こえる。
「分かりました!」
答えた直後、3体いた最大級の1体が動いた。
主口が大きく開く。
内部の筒状口器が伸び、灰色の液体を溜め始める。
後ろへ撃たせるわけにはいかない。
エイルは小型種の間を抜けて一気に距離を詰めた。
液体が放たれる。
横へ避けるだけなら簡単だ。
しかし背後へ飛ぶ。
なら正面から逸らす。
エイルは剣を振るのではなく、左手を前へ出した。
圧縮した《衝撃》を斜め上へ放つ。
空気が大きく歪み、飛来した灰色の液体の塊が上方へ押し上げられ、道の外側にある岩壁へ叩きつけられた。
岩の表面から白い煙が上がる。
そのまま走る。
巨大個体の前脚が来る。
エイルはその下へ入る。
腹側は甲殻が薄い。
ただし普通に届く位置ではない。
《衝撃》を足元へ。
跳ぶ。
さらに空中でもう1度。
身体がもう1段上がる。
腹部へ長剣を突き込む。
深く。
《振動感知》を流す。
内部に巨大な器官がある。
胸部の少し奥。
「そこか」
圧縮した魔力を刀身へ通す。
《衝撃》。
1度。
巨体が仰け反る。
まだ倒れない。
2度目。
さらに強く。
今度は低い音ではなく、腹の内側から岩を叩き割るような重音が響いた。
巨大個体の脚が止まる。
エイルは剣を抜き、落下しながらもう1度《衝撃》を足元へ使って着地位置をずらす。
その直後、巨体が前方へ倒れ込んだ。
地面が大きく揺れる。
後ろにいた小型種まで何体か巻き込まれた。
兵士たちが、その光景を見ていた。
1人。
道の中央。
その前には倒れた大型種と、まだ押し寄せる群れ。
後ろには、誰も傷ついていない。
「……あいつ、本当にここから1歩も下げてないぞ」
若い兵士が呟いた。
隣の者は答えなかった。
ただ、前を見ていた。
◇
「道、できた!」
リヴィアの声が届いた。
ハインが即座に撤退開始を命じる。
「測量班から移動! 負傷者を先に! 護衛は最後!」
人が動き始める。
エイルは戦いながら《近域感知》の後方側も薄く維持し、人数が少しずつ減っていくのを確認した。
あと14。
10。
7。
最後にハイン。
「エイル、下がるぞ!」
「先に行ってください!」
「今度はすぐ来い!」
「はい!」
最後の兵士が迂回路へ入る。
それを確認した瞬間、エイルは初めて守る位置を捨てた。
残る最大級は2体。
小型もまだ多い。
全部倒す必要はない。
時間は稼いだ。
なら帰る。
エイルは地面へ長剣を浅く刺し、《衝撃》を前方へ広げた。
圧縮。
解放。
重い音が地中を走る。
前方の地面が波打ち、押し寄せていた小型種がまとめて姿勢を崩した。
さらに大型2体の足元まで揺れ、進行が止まる。
その瞬間に長剣を抜き、《高密度強化》を両脚へ集中する。
走る。
足元へ《衝撃》。
加速。
もう1度。
岩と斜面の間を抜け、数十秒後には迂回路の最後尾へ追いついた。
後ろではまだ魔物の鳴き声が聞こえる。
ただし追いついてこない。
今の一撃で地面そのものを大きく崩しているため、少なくとも立て直すまで時間が掛かる。
「全員いますか?」
追いついたエイルが尋ねる。
ハインは一瞬何とも言えない顔をしたあと、前方へ声を飛ばして人数確認を始めた。
しばらくして返事が来る。
「全員いる!」
それを聞いて、エイルはようやく少し息を吐いた。
「よかった」
リヴィアが振り返る。
「……それだけ?」
「何がですか?」
「いや、もういい」
彼女は呆れたように言いながらも、少し笑っていた。
回収した記録も。
測量員も。
兵士も。
誰も失っていない。
その事実の方が、後ろにどれだけ魔物を倒してきたかよりエイルには重要だった。
◇
安全な岩場まで離れたところで短い休憩が入り、兵士たちは水を飲みながら先ほどの戦闘について話し始めた。
今回は、昨日と違って全員が近くで見ている。
1人で道を塞いだ。
小型種を通さなかった。
大型種を正面で崩した。
最大級まで倒した。
それより何より、戦いの間ずっと響き続けていた音を、全員が聞いている。
剣が入るたび。
敵の内部へ《衝撃》が通るたび。
地面へ力を流すたび。
腹の奥へ響くような低い音と振動が何度も続き、その向こう側から魔物が1体ずつ倒れていく。
「地鳴りって、こういう意味だったのか」
第3前進砦から参加していた兵士が呟く。
別の兵士が頷いた。
「昨日は噂だけ聞いてたけど、近いともっと分かるな。音が鳴った場所から敵が止まってく」
「魔法っていうより、何かで地面ごと殴ってるみたいだった」
エイルは少し離れた場所で《自己治癒》を左肩へ流していた。
最大級へ跳び込んだ時に筋肉へ少し負荷が残っている。
【《自己治癒 Lv.18 → Lv.20》】
【《衝撃 Lv.40 → Lv.42》】
【《近域感知 Lv.25 → Lv.27》】
【《高密度強化 Lv.14 → Lv.16》】
表示を見ている間にも、後ろで《地鳴り》という言葉が何度か聞こえた。
もう訂正する気もあまり起きない。
どうせ自分が言っても、呼ぶ側がやめないことは分かり始めている。
それよりエイルが気にしていたのは、観測所から回収した記録だった。
地中振動の増加。
地盤沈下。
地中種の大量発生。
そして、もっと深い場所に残っていた巨大な反応。
第7観測所で起きていたことは、昨日今日だけの異常ではない。
数か月前から、何かが少しずつ動いていた。
その事実を示す記録を抱えたまま、一行はさらに南へ下り、次の安全地点を目指して歩き始めた。




