第7話 三つの気配
三体の魔物が、ほとんど同時に地面を蹴った。
正面、右、左後方。
エイルは剣を構えたまま一瞬だけ迷った。
一体なら斬れる。それは、さっきのやり取りで分かっている。
だが三体、それも同時となれば話は別だった。
全部を目で追うのは無理だ。
「……っ」
《危機感知》が強く反応する。
鎧猪の時のような一点へ突き刺さる危険ではない。複数の嫌な感覚が重なり、首筋から背中まで一気に粟立った。
エイルは後ろへ逃げるのではなく、正面へ踏み込んだ。
囲まれたまま受けるより、先に一方向を潰した方がいい。
正面の魔物も、それは予想していなかったらしい。僅かに動きが鈍った瞬間、エイルは右足の後ろへ魔力を集める。
「――《衝撃》」
低い破裂音とともに身体が前へ押し出された。
一気に間合いが縮まる。
魔物は牙を剥いたが、エイルはその下へ身体を沈めた。黒灰色の腹が頭上を抜けるのに合わせ、剣を横薙ぎに振る。
刃が腹を裂き、血が散った。
「ギャッ!」
悲鳴が上がる。
だが、倒れたかを確認している余裕はない。
背中が冷えた。
エイルは振り向かず、身体を左へずらす。
直後、肩のすぐ横を牙が通り過ぎた。
「近……!」
さらに前方。
三体目が来る。
剣を戻すには間に合わない。
咄嗟に左手を突き出し、
「《衝撃》!」
放った衝撃が魔物の顔を横から叩いた。
巨体を吹き飛ばせるほどの威力はない。それでも頭が僅かに逸れ、牙の軌道がエイルの脇腹から外れる。
魔物はそのまま横を抜けていった。
「……使える」
エイルはすぐに距離を取った。
三体のうち一体は腹を斬っている。浅くはないようで、他の二体より明らかに動きが鈍い。
なら、先にあれを落とす。
数を減らさない限り、いつか対応が遅れる。
負傷した個体へ意識を向けると、残った二体が左右へ広がった。
「賢いな……」
角兎とは違う。
こちらの視線や立ち位置を見ながら、挟み込むように動いている。
一方へ集中すれば、もう一方が来る。
エイルは後退しながら周囲を確かめた。
後ろに崩落地。
右に太い木が一本。
左には腰ほどの高さの岩。
開けた場所で三方向から来られるより、使えるものがある場所の方がいい。
エイルは木の方へ寄った。
「背中だけでも塞ぐか」
太い幹を背にする。
これなら少なくとも真後ろから飛び込まれることはない。
正面の一体が走り出した。
エイルが剣を上げる。
直後、《危機感知》が横から強く反応した。
「そっちか」
正面は囮。
本命は右。
木を蹴って横へ退くと、魔物の牙が目の前を通り過ぎる。エイルは剣を振ったが、相手も首を引いて浅く避けた。
「速い……!」
そこへ、最初の一体が飛び込んでくる。
今度は本当に正面。
剣を返す時間がない。
左腕を上げかけて、すぐにやめた。
あれを腕で受ければ、傷では済まない。
「《衝撃》!」
掌から放った衝撃が魔物の顔面へぶつかった。
頭は逸れたが、身体までは止まらない。
「ぐっ……!」
肩からぶつかられ、背中が木の幹へ叩きつけられた。
一瞬、息が消える。
「かっ……」
肺が上手く動かない。
まずい。
そう思うより早く、《危機感知》が鋭く反応した。
エイルはほとんど反射的に地面へ転がる。
次の瞬間、別の魔物が先ほどまでいた位置へ飛び込み、爪が木の表面を抉った。
エイルは転がった勢いのまま立ち上がる。
「……っ、は」
ようやく空気が戻った。
左肩と背中が鈍く痛むが、動けないほどではない。
鎧猪ほど一撃が重いわけではなかった。
「三体を全部見るのは、やっぱり無理だな……」
《危機感知》のおかげで、視界の外から来ても危険そのものは分かる。
だが、分かるだけだ。
どこから、どれくらいの速さで、どう攻撃してくるかまでは教えてくれない。
避けるためには、結局相手の位置を知る必要がある。
なら。
エイルは少しずつ呼吸を落ち着かせた。
目だけに頼らなければいい。
足音。
草が擦れる音。
喉の奥から漏れる唸り。
爪が地面を掻く微かな音。
森の中には音が多い。それでも、目の前の三体が発するものは少しずつ違った。
左。
一体。
正面。
もう一体。
負傷した個体は――。
見えない。
木の陰か。
エイルは首を動かさず、意識だけを広げる。
次の瞬間、ぞくりと背中が冷えた。
「左後ろ」
前へ身体を倒す。
ほぼ同時に、魔物が頭上を越えた。
「……!」
着地前。
背中が空いている。
エイルは振り向きざまに剣を突き出した。
ずぶり、と刃が脇腹へ沈む。
「ギャウッ!」
暴れる。
深く入った。
だが、剣が抜けない。
正面から別の一体が迫る。
「っ!」
手を離すか。
いや。
間に合う。
エイルは柄を握ったまま、剣へ魔力を流した。
「《衝撃》!」
ドンッ、と鈍い衝撃が走る。
刃がさらに奥へ食い込み、その反動で今度は逆に剣が抜けた。
「よし……!」
一体が地面へ崩れる。
だが、まだ二体。
目前まで迫っていた魔物と剣がぶつかった。
刃と爪が擦れ、硬い骨を叩くような音が響く。
エイルの腕が痺れた。
「重い……!」
それでも、押し潰されるほどではない。
受けられる。
その事実に気づき、エイルは一歩踏み込んだ。
鎧猪相手には絶対にできなかった距離だ。
魔物が牙を向ける。
エイルは剣先で口元を狙い、相手が首を引いた瞬間に足を踏み込んだ。
胸を蹴る。
魔物の体勢が少し崩れる。
今なら斬れる。
エイルが剣を振り上げた、その時。
《危機感知》が背後から鳴った。
「……っ!」
忘れかけていた。
三体が二体になっただけだ。
エイルは攻撃を捨て、横へ飛ぶ。
爪が背中を掠めた。
「くっ……!」
熱い。
服が裂け、その下の皮膚にも浅く三本の傷が走った。
今のは完全に意識から外していた。
《危機感知》がなければ、もっと深く食らっていた。
「駄目だ」
まだ一体ずつ見ようとしている。
だから視界から消えた方への意識が薄れる。
二体を二体のまま捉える。
エイルは再び距離を取り、木を間に挟んだ。
魔物たちも左右へ分かれる。
今度は焦って首を振らない。
耳を澄ませる。
右側で草が擦れた。
左から足音。
一歩。
二歩。
止まる。
次に地面を蹴ったのは左だった。
「来る」
エイルは相手が姿を見せる前に横へ動いた。
木陰から飛び出した魔物が、何もない場所へ牙を突き出す。
その横。
エイルは既に剣を振っていた。
首へ刃が食い込む。
「ギッ……!」
一撃では落ちない。
それでも深い。
魔物は地面へ転がった。
同時に、背後へ嫌な感覚。
エイルは今度こそ遅れなかった。
足音。
右斜め後ろ。
「そこ」
振り向く。
魔物と目が合った。
まるで不意を突いたはずの相手に見られていることが予想外だったように、一瞬だけ動きが止まる。
その隙を逃さない。
「――《衝撃》」
足元で魔力を弾かせる。
身体が前へ押し出され、瞬く間に間合いが縮まった。
剣を突き出す。
魔物は横へ飛んだ。
だが、その動きも見えている。
エイルは踏み込む方向を変え、その逃げ先へ剣を振った。
肩が裂ける。
血が飛ぶ。
魔物が吠え、前脚を薙ぎ払った。
エイルは身体を沈める。
爪が髪の上を通過した。
腹が空く。
「《衝撃》!」
剣を突き込むのと同時に、衝撃を重ねた。
抵抗を押し切るように刃が沈み、魔物の身体が大きく震える。
そのまま力が抜けた。
エイルはすぐに剣を引き抜き、振り向いた。
首を斬った個体が、まだ立とうとしている。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。
何度も《衝撃》を使ったせいで、頭も少し重くなってきた。
それでも、もう一対一だった。
エイルは剣を構える。
魔物もふらつきながら身体を起こした。
「一対一なら……」
怖くない。
そう思っている自分に、エイルは少し驚いた。
数日前なら、こんな魔物が森から出てきただけで相当緊張していたはずだ。
今は相手の傷、呼吸、脚の置き方、動く前の肩の揺れまで見える。
魔物が走った。
エイルは待つ。
近づいてくる。
一歩。
もう一歩。
牙が届く、その直前。
半歩だけ横へ。
魔物の身体が通り過ぎる。
そこへ剣を振った。
先ほどつけた首の傷へ、もう一度。
刃が深く入り、魔物はそのまま前へ崩れた。
地面を滑り、止まる。
エイルは剣を下ろさない。
数秒待った。
《危機感知》に反応はない。
耳を澄ませても、新しい足音は聞こえない。
「……終わったか」
ようやく肩から力が抜けた。
本当なら、その場に座り込みたかった。
だが、ここは崩落地の近くで、しかも知らない魔物の血が三体分も流れている。
長居する方が危ない。
「帰ろう」
エイルは剣を地面へ置き、まず背中の傷を確認した。
手が届きづらいため服を脱ぎ、身体を捻りながら触れてみる。爪で三本ほど切られているが、傷は思ったほど深くない。
持ってきた薬草を当て、少し苦労しながら布を巻く。
終わると、改めて倒した魔物を見た。
「……結局、何なんだろう」
狼によく似ているが、普通の狼ではない。
黒灰色の毛に、異様に長い前脚。
肩からは、骨がそのまま皮膚を突き破ったような突起が伸びている。
村の周辺では見たことがなく、ラグナの森について読んだ簡単な資料にも覚えがなかった。
エイルは少し考えた後、しゃがみ込んだ。
三体全部を持って帰るのは無理だ。
なら、証明になる部位だけ取る。
「魔石と……これかな」
肩の骨突起。
《解体》を意識しながら刃を入れると、どこを切れば外しやすいのかが以前より感覚的に分かった。
一体目。
魔石。
骨突起。
二体目。
三体目。
作業を終えて袋へ詰める。
予想以上に重い。
「……また荷物増えたな」
それでも、今度は置いていかない。
鎧猪で学んだ。
◇
来た道へ戻る前に、エイルは三つ目の道標を振り返った。
森の奥へ向いた、もう一つの矢印。
文字はほとんど読めず、その先の道も今の地図には載っていない。
さっきまで戦っていた魔物たちは、あちら側から現れた。
「……」
行きたい。
その気持ちは、戦う前よりむしろ強くなっていた。
けれど、同時に分かったこともある。
軽い気持ちで歩いていい場所ではない。
少なくとも、あの魔物が三体まとめて出る。
さらに奥へ行けば、もっと強いものがいてもおかしくなかった。
準備が必要だ。
装備も。
情報も。
できれば、あの魔物についても調べておきたい。
「今度だな」
今度は、言葉に迷いがなかった。
エイルは地図を開き、三つ目の道標から西へ引いた短い点線の横へ、新しく書き込む。
『未知の狼型魔物 三体』
少し考えてから、その下にもう一言。
『単独行動では注意』
「……僕が書くと説得力ないな」
自分で言って、少しだけ苦笑した。
それでも消さずに地図を閉じた。
◇
ローデンへ戻った頃には、空が橙色に染まり始めていた。
門を抜けると、そのまま冒険者ギルドへ向かう。
歩くたびに背中の傷が少し痛んだが、昨日ほどではない。
ギルドへ入り、依頼報告用の紙と地図、それから回収した素材を受付へ置いた。
今日いたのはミレイだった。
「おかえりなさい」
「戻りました」
「……怪我してません?」
エイルは少し黙った。
「少し」
ミレイの目が細くなる。
「少し?」
「昨日よりは少ないです」
「比較する相手を昨日の自分にしないでください」
「……はい」
それは確かにそうだった。
ミレイはため息をつきながら、まず依頼報告へ目を通す。
一つ目の道標は立っているが、根元に腐食。
二つ目は倒壊。
三つ目も倒壊。
途中には大規模な崩落があり、旧道は通行不能。
北側からなら時間はかかるものの迂回可能。
「三つ目まで行ったんですね」
「はい」
「ここ、依頼範囲から少し外れてません?」
「崩落を迂回しただけです」
ミレイが顔を上げる。
「本当に?」
「本当にです」
今日に限っては、胸を張って言える。
その先へは行かなかった。
ミレイはまだ少し疑うような目をしていたが、続きを読み始めた。
そして最後の一文で止まる。
「未知の狼型魔物、三体?」
「多分、僕が知らないだけだと思います」
「素材は?」
「これです」
エイルが袋から魔石と骨突起を出す。
ミレイの表情が変わった。
「……少し待っていてください」
そう言い残して、受付の奥へ消える。
数分後、連れてきたのは五十代くらいの男だった。
白髪混じりの短い髪。
左目には古い傷。
ギルド職員の制服ではなく、厚手の革の前掛けをしている。
男は挨拶もそこそこに骨突起を持ち上げ、表面や断面を確認した。
「どこで見つけた」
「ラグナの森、西側旧道です」
「何体?」
「三体です」
「全部倒したのか」
「はい」
男はエイルを見る。
次に、受付台の上に置かれた冒険者証。
F級。
それから、もう一度エイルへ視線を戻した。
「……一人で?」
「はい」
最近、この質問をよくされる。
男は何も言わず、骨を机へ置いた。
「棘狼だ」
初めて聞く名前だった。
「ラグナの森にいる魔物なんですか?」
「いる。ただし、普通はもっと西だ」
「西?」
「山側だな。少なくとも、旧道のあの辺りまで来ることは多くない」
ミレイが眉を寄せる。
「生息域がずれている可能性がありますか?」
「あるかもしれん。何かに追われたか、餌場が変わったか、それとも群れそのものが移動しているか」
エイルは、森の奥へ向いていた古い道標を思い出した。
「西側って、何があるんですか?」
男が顔を上げる。
「森だ」
「その先は?」
「低山地帯」
「その先は?」
「……随分食いつくな」
「気になるので」
男は一瞬黙り、それから少し笑った。
「地図が好きか?」
「はい」
「なら、自分で調べた方が面白いだろうな」
「調べられるんですか?」
「ギルドの二階に資料室がある。一般公開されている古地図や周辺記録なら、F級でも見られる」
エイルの目が僅かに大きくなった。
「資料室?」
ミレイが呆れたように言う。
「登録時に説明しましたよ」
「聞いてません」
「言いました」
「多分……」
少し考える。
「地形情報にも報奨金が出るって聞いたところから、そっちを考えてたんだと思います」
「堂々と言わないでください」
「すみません」
男が喉の奥で笑った。
「古い地図の中には、今の地図から消えた道も残っている。暇なら見てみろ」
「明日行きます」
即答した。
ミレイがすぐ口を挟む。
「その前に傷を治してください」
「資料を見るだけですよ」
「その後、そのまま森へ行きそうなので言ってます」
「……」
「否定してください」
「今、行けるかなって考えてました」
「でしょうね」
エイルは少しだけ目を逸らした。
◇
依頼報酬は、当初の銀貨二枚より増えた。
崩落地の詳しい記録。
迂回できる経路。
さらに棘狼の出現報告と素材。
すべてを合わせ、銀貨七枚と銅貨数枚。
「調査って、結構もらえるんですね」
「毎回ではありません」
ミレイが硬貨を渡しながら答える。
「今回は棘狼の情報に価値があります。生息範囲の変化が本当なら、森へ入る人への注意も必要になりますから」
「なるほど」
魔物を倒すだけではない。
歩いて、見つけて、記録する。
それも冒険者の仕事になる。
エイルは、そういう仕事の方が自分には合っているかもしれないと思った。
◇
その夜。
宿へ戻ったエイルは背中の傷を手当てし直し、寝台へ腰を下ろした。
昼間の戦いを思い返す。
三体。
最初は完全に振り回されていた。
目で全部追おうとして、何度も対応が遅れた。
途中から音や《危機感知》を合わせて使い始めると、少しずつ相手の位置が分かるようになった。
「……あれ」
エイルは眉を寄せる。
最後の方。
何となく。
見ていない相手がどこにいるのか分かった瞬間があった。
ただ音を聞いたというだけではない。
もっと曖昧な。
そこに何かいる、と感じるような感覚。
気になって状態板を開いた。
【エイル・アーネット】
【Lv.9】
【生命 65】
【魔力 53】
【筋力 43】
【耐久 41】
【敏捷 61】
【器用 56】
【感知 78】
【技能】
《剣術 Lv.4》
《危機感知 Lv.7》
《野営 Lv.4》
《追跡 Lv.3》
《解体 Lv.4》
《採取 Lv.2》
《衝撃 Lv.3》
《魔力操作 Lv.2》
《気配感知 Lv.1》
【固有技能】
《越境 Lv.2》
「……九」
昨日は七。
今日だけで二つ上がっている。
鎧猪の時は三。
棘狼三体では二。
危険の大きさと成長量に、ある程度の関係があるように思えた。
だが、エイルが今一番気になったのはそこではない。
「《気配感知》……」
見覚えのない技能が増えている。
意識を向ける。
【《気配感知 Lv.1》】
【周囲に存在する生物の気配を知覚する】
「やっぱり」
戦闘中に感じていたものは、これだったらしい。
エイルは目を閉じた。
意識を周囲へ向けてみる。
最初は何も分からない。
廊下を歩く音。
一階から聞こえる話し声。
窓の外の馬車。
そういう普通の音ばかりが耳に入る。
しばらくじっとしていると。
「……?」
廊下。
少し離れた場所。
誰かいる。
そんな気がした。
直後、足音が聞こえた。
「これか」
まだ、先に位置が分かるというほどではない。
音とほとんど同時。
それでも、何かがいるという感覚は確かにあった。
育てれば。
森の中。
背後。
視界の外。
そういう場所にいる相手も、もっと早く見つけられるかもしれない。
エイルは状態板へ視線を戻した。
そこで改めて、能力値の変化を見る。
感知、七十八。
昨日は六十四だった。
「……十四も?」
さすがに大きい。
敏捷も五十一から六十一。
器用は四十八から五十六。
魔力も増えている。
技能についても、《剣術》《危機感知》《追跡》《解体》《衝撃》《魔力操作》と、使ったものの多くが上昇していた。
強くなっている。
それ自体は嬉しい。
昨日までより遠くへ行ける。
できることが増える。
ただ。
「これ、本当に普通じゃないな……」
今まで比較対象がなかったから、よく分からなかった。
だが、自分でもさすがに早いと感じ始めている。
《越境》へ目を向ける。
Lv.2。
表示そのものは変わっていない。
それでも、この技能が何かをしているのはほぼ間違いないように思えた。
「明日、調べてみよう」
資料室。
一般的なレベルの上がり方。
能力値の伸び。
技能について書かれた本があれば、それも読みたい。
そして。
古い地図。
「……」
数秒黙る。
「技能からだな」
自分へ言い聞かせる。
古地図は、その後。
多分。
エイルは状態板を閉じ、窓の外へ目を向けた。
夜のローデン。
その向こうには、今日歩いたラグナの森が広がっている。
さらに西。
今持っている地図では道が途切れている場所。
古い道標だけが指していた、その先。
知らない場所がある。
けれど、今日のエイルはそこへ急ごうとは思わなかった。
知らないからこそ、調べる。
準備する。
それから、自分の足で確かめに行く。
その方がきっと、長く歩ける。
「……楽しみだな」
小さく呟いて、エイルは寝台へ身体を預けた。




