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第68話 深層を穿つ

 《越境》が一段階上がった直後、最初にエイルが感じた変化は、単純な力の増加よりも、自分の身体へ流している魔力が以前とは比較にならないほど素直に動くことだった。


 右脚へ圧縮した《身体強化》を送り込み、さらに足裏へ《衝撃》を重ねた瞬間、それまでなら踏み込みと同時に筋肉や関節へ返っていた強烈な負荷が完全に消えたわけではないものの、どこへ逃がせば身体を壊さず出力へ変えられるのかが感覚として分かり、エイルは石床を大きく陥没させながら一気に巨大個体の懐へ飛び込んだ。


 数瞬前までなら、相手の攻撃を見てから避け、その隙へこちらの攻撃を差し込むだけで精一杯だった。


 今は違う。


 巨大個体が頭部を下げ始める前から、《近域感知》へ流れ込んでくる筋肉と魔力の変化によって次の軌道が分かり、その攻撃が形になるより先にエイルの身体が動き始めている。


 長剣を下段から振り上げる。


 狙ったのは、すでに内部衝撃を受けて亀裂が広がっている腹部ではなく、右前脚と胴体を繋ぐ関節だった。


 外側を覆う甲殻は依然として分厚いが、脚を動かす以上、重なった甲殻の間には必ず可動域がある。


 そこへ刃を滑り込ませながら、エイルは腰と背中へ流していた強化魔力を一瞬だけ両腕へ圧縮し、身体全体で長剣を押し込んだ。


 これまでなら数センチで止まっていた刃が、一度硬い抵抗を受けながらもさらに深く入る。


「入るな」


 独り言が漏れた時には、もう次の動作へ移っていた。


 巨大個体が前脚を引いてエイルを振り払おうとするが、それを待たず長剣を抜き、甲殻を蹴って側面へ跳ぶ。


 直後に巨大な爪が横薙ぎに通過し、空気だけで外套が強く煽られたものの、刃先は身体へ届かない。


 着地。


 再加速。


 今度は後脚。


 同じ場所へ何度も攻撃する必要はない。


 首。


 腹部。


 前脚。


 すでに作った傷の一つひとつが、巨大個体の動きを僅かに制限している。


 その小さな差まで《近域感知》が拾えるようになったことで、エイルには三十メートル近い巨体が以前ほど圧倒的な一つの塊には見えなくなっていた。


【《近域感知 Lv.8 → Lv.9》】


【《剣術 Lv.20 → Lv.21》】


 巨大個体が咆哮し、背中を大きく捻る。


 次に来るのは脚ではない。


 長く太い尾が床を擦りながら横へ振られ、周囲の石柱と水路の縁をまとめて砕きながらエイルへ迫った。


 範囲が広い。


 速度もある。


 普通に後ろへ避ければ追いつかれる。


 なら、上だった。


 エイルは両脚へ《身体強化》を集中させたうえで、さらにその魔力を《魔力圧縮》によって筋肉の奥へ押し込み、踏み切る瞬間だけ出力を最大まで引き上げる。


 石床が爆ぜるように砕けた。


 身体が高く跳ね上がり、巨大な尾が足元を通過する。


 しかし、それで終わらせない。


 空中で長剣を両手へ持ち直し、落下先にある背中の甲殻へ狙いを定めると、着地ではなく攻撃へそのまま体重と強化を繋げた。


 刃が岩盤のような甲殻へ激突する。


 以前なら弾かれていた硬さだったが、《越境》後の筋力と高密度に圧縮した身体強化が重なった一撃は、表面へ浅い傷を作るだけでは終わらず、甲殻そのものへ長い亀裂を走らせた。


 巨大個体が激しく身体を振る。


 エイルは剣を抜きながら背中を蹴り、落下する途中で足元へ小さな《衝撃》を放って軌道を変え、安全な場所へ着地した。


 右脚へ痛みはある。


 筋肉が完全に回復したわけでもない。


 それでも先ほどまでのように、圧縮強化を使うたび身体が壊れていく感覚は弱くなっていた。


「使い方が変わっただけじゃないな」


 強くなっている。


 それも、一つの能力だけではない。


 《越境》が上がったことで身体そのものの余裕が増え、その上がった身体を基準として《身体強化》が働き、さらに《魔力圧縮》によって強化魔力の密度を上げることができる。


 一つ上がったものが、別の技能を押し上げる。


 そこで強くなった技能が、また次の使い方を生む。


 以前から始まっていた成長の循環が、ここへ来て目に見えて速くなっていた。


【《身体強化 Lv.20 → Lv.21》】


【《魔力圧縮 Lv.14 → Lv.15》】


 その表示とほぼ同時に、さらに別の文字が視界へ浮かぶ。


【《身体強化》と《魔力圧縮》の複合運用が一定域へ到達しました】


【派生技能《高密度強化 Lv.1》を獲得しました】


 エイルは一瞬だけ表示へ意識を向けた。


 これまで感覚で行っていたものに、技能として名前が付いたらしい。


 試す暇はある。


 目の前に、ちょうど相手もいる。


「なら、使うしかないか」


 巨大個体がこちらへ身体を向けた。


     ◇


 新しく得た《高密度強化》を発動した瞬間、エイルはこれまで自分で圧縮していた強化魔力が、より自然に必要な場所へ集まるのを感じた。


 全身を均等に強化するわけではなく、動く瞬間に使う筋肉と、それを支える骨や関節へ優先的に魔力が入り、出力を終えた場所からはすぐ薄くなって次の部位へ移る。


 手作業で一つずつ操作していたものを、身体側がある程度覚えたような感覚だった。


 その分だけ《魔力操作》へ割く意識を減らせる。


 空いた余裕は。


 攻撃へ回せる。


 巨大個体が前脚を振り下ろした。


 エイルは避けるのではなく、その爪の側面へ踏み込む。


 右脚へ高密度強化。


 腰へ移す。


 背中。


 肩。


 最後に両腕。


 流れが途切れない。


 長剣を横から叩き込む。


 硬い甲殻へ金属音が響き、その直後、先ほど傷を入れた関節部が大きく割れた。


 巨大個体の右前脚が沈む。


 完全に切断したわけではないものの、自重を支えきれず身体が傾いた。


「そこだ」


 エイルは止まらない。


 崩れた巨大個体の頭部へ向かい、床を蹴る。


 加速へ《衝撃》を一発。


 さらに途中でもう一発。


 以前なら二度目の衝撃で姿勢が乱れていた速度域でも、今は高密度強化で腰と脚を瞬間的に支えられる。


 巨大個体が頭を振って迎撃する。


 見える。


 長い牙の先端を紙一重で外し、その横を走り抜けるように首元へ入った。


 そこには、自分の長剣が長時間刺さっていた傷が残っている。


 エイルは同じ場所へ長剣を突き込んだ。


 今度は。


 前より深い。


 身体そのものの力が上がったうえ、高密度強化で突き込みに使う部位だけを限界近くまで引き上げている。


 刀身が半分を越えた。


 巨大個体が首を振ろうとする。


 その前に《振動感知》を剣から流す。


 内部が見える。


 骨。


 太い血管。


 魔力路。


 さらに。


 胸部へ続く巨大な流れ。


 先ほど腹部で切った供給路とは別に、首から頭部へ魔力を送る太い経路が存在している。


 そこを狙う。


 胸元へ魔力を集める。


 《魔力圧縮》で小さく。


 さらに小さく。


 刀身へ通せる限界まで密度を上げる。


 長剣が震えた。


 柄を握る手へ強烈な負荷が伝わる。


 それでもグレイグの剣は耐えている。


「まだいける」


 もう一段圧縮する。


【《魔力圧縮 Lv.15 → Lv.16》】


 エイルは剣先の向こうへある魔力路へ照準を合わせ、その一点だけを内部から吹き飛ばすつもりで《衝撃》を解放した。


 巨大個体の首が内側から膨れ上がった。


 甲殻の継ぎ目から黒い血と青白い魔力が噴出し、深層循環核から頭部へ伸びていた魔力反応が一気に薄くなる。


 咆哮が途中で掠れた。


 巨大個体の頭が床へ落ちる。


 その衝撃だけで周囲の石材が跳ねた。


 エイルは剣を抜き、巨体の上から飛び降りる。


 倒れた。


 そう見えた。


 だが、《危機感知》は消えない。


「まだか」


 エイルが距離を取った次の瞬間、巨大個体の背中に並ぶ甲殻が一斉に青白く発光した。


     ◇


 深層循環核が激しく明滅する。


 巨大個体の傷ついた身体へ魔力を送るのではなく、今度は残っているすべての魔力が背中の甲殻へ集まり始めていた。


 首と腹部の供給路を壊したことで、内部へ正常に循環させられなくなったのかもしれない。


 行き場を失った魔力が、別の場所へ偏っている。


 それが何を意味するのか、《魔力感知》を見るだけでも分かった。


「まずいな」


 背中の甲殻一枚一枚に、先ほど巨大個体が口から放った水圧とは比較にならないほどの魔力が集まっている。


 エイル自身を狙っているだけなら避ければいい。


 問題は方向だった。


 巨大個体の身体は。


 崩落通路側を向いている。


 その先にはグランたちがいる。


 瓦礫を抜けたとはいえ、まだ十分に距離を取れているとは限らない。


 しかも今の魔力量なら、第五管理区の入口どころか、その先の下り通路までまとめて吹き飛ばす可能性がある。


 逃げる選択肢が消えた。


 エイルは息を吐き、長剣を両手で握った。


 巨大個体の背中で、青白い光がさらに強くなる。


 時間は長くない。


 攻撃を止めるには、残った供給をもう一度切るだけでは間に合わない。


 ここで倒す。


 それしかない。


     ◇


 エイルは走った。


 高密度強化を脚へ。


 《衝撃》を足元へ。


 最初の一歩だけで石床が砕け、二歩目では巨大個体の前まで距離を詰める。


 相手も最後の力で頭部を持ち上げ、残った左前脚を振る。


 エイルにはその動きが始まる前から見えていた。


 《近域感知》へ《魔力圧縮》を重ね、周囲の感覚密度を限界まで引き上げると、巨大個体の筋肉が収縮するより前に魔力の偏りが変わる。


 左へ来る。


 エイルは右へ入る。


 爪が外れる。


 次に尾。


 それも床を擦り始めた時点で分かる。


 跳ばずに前へ。


 尾が背後を通過する。


 巨大個体の側面へ沿うように走りながら、エイルは腹部に残っている傷を確認した。


 短剣がまだ刺さっている。


 使える。


 エイルは長剣を左手へ持ち替え、走りながら青鋼の短剣を抜いた。


 刀身には乾き始めた黒い血がこびりついている。


 これまで何度も魔力を流してきたため、長剣以上に《衝撃》との相性を感じる武器でもある。


 ただし短い。


 今必要なのは。


 もっと深い場所だ。


 なら、最初に穴を作る。


 エイルは再び長剣を両手へ戻した。


 狙うのは胸部。


 深層循環核から残った魔力が集まり、そこから背中へ送られている中心。


 甲殻は分厚い。


 普通に斬っても届かない。


 エイルは一度大きく距離を取ると、脚、腰、背中へ《高密度強化》を順番に走らせた。


 さらに長剣そのものへ魔力を通す。


 《衝撃》はまだ放たない。


 刃の周囲へ圧縮した魔力を沿わせ、突き込む瞬間にだけ前方へ出す。


 身体の推進。


 剣の刺突。


 《衝撃》。


 全部を同じ一点へ重ねる。


 巨大個体の背中で光が完成へ近づいた。


 時間はもうほとんどない。


「これで開ける」


 地面を蹴った。


 踏み込みで《衝撃》を一度。


 途中でもう一度。


 高密度強化を受けた身体が二段の加速を無理なく繋ぎ、エイルは長剣の切っ先を真正面から巨大個体の胸部へ叩き込んだ。


 甲殻へ接触した瞬間に、剣先から前方へ極端に絞った《衝撃》を放つ。


 亀裂。


 さらに身体ごと押す。


 硬い甲殻が割れた。


 長剣が根元近くまで沈む。


 エイルはそのまま柄を握り続け、刀身を通して《振動感知》を流した。


 深い。


 もっと奥。


 魔力の中心。


 見つけた。


 巨大個体の胸部には、心臓とは別に巨大な魔力の塊が存在しており、その中心から背部甲殻へ幾本もの経路が伸びている。


 ここを。


 全部。


 消す。


 エイルは《魔力圧縮》を始めた。


 今まで一度も集めたことがない量。


 残っている魔力を惜しまない。


 胸の奥へ集めるほど身体内部へ強い圧迫感が生まれ、魔力回路そのものが焼けるように熱を持ち始める。


 それでも止めない。


【《魔力圧縮 Lv.16 → Lv.17》】


 さらに。


【《魔力圧縮 Lv.17 → Lv.18》】


 刀身から返る振動まで激しくなる。


 長剣が耐えられるか分からない。


 自分の腕が反動へ耐えられるかも分からない。


 それでも、剣を抜いてやり直す時間はない。


 なら一回で終わらせる。


 高密度強化を両腕と背中へ集中させる。


 足を石床へ食い込ませる。


 反動を逃がすためではない。


 逃がさず。


 全部、前へ。


【《高密度強化 Lv.1 → Lv.3》】


 巨大個体の背中が光った。


 放たれる。


 その直前。


 エイルも圧縮していたすべてを長剣へ流した。


「《衝撃(インパクト)》!」


 刀身の先。


 巨大個体の胸の奥。


 そこだけで、圧縮した魔力が解放された。


     ◇


 最初に響いたのは、爆発音ではなかった。


 地下のさらに奥から何か巨大なものを叩いたような、低く重い衝撃が第五管理区全体へ伝わり、その直後に巨大個体の胸部が大きく膨らんだ。


 背中へ集まっていた青白い光が一斉に消える。


 次いで甲殻の隙間から魔力が噴き出し、身体内部を走る青白い線が胸から外側へ向かって一本ずつ途切れていった。


 巨大個体の口が開く。


 声は出ない。


 エイルが握っている長剣の柄へ、凄まじい反動が返ってくる。


 両腕の筋肉が裂けそうになる。


 肩が軋む。


 それでも離さない。


 まだ魔力の塊が残っている。


「足りないなら、もう一回だ」


 独り言と同時に、残った魔力を集める。


 量はさっきほど多くない。


 それでも《越境》を越えた今のエイルなら、先ほどまでより速く、深く圧縮できる。


【《衝撃 Lv.25 → Lv.26》】


【《魔力操作 Lv.23 → Lv.24》】


 巨大個体が最後の力で身体を起こそうとする。


 胸の奥に残った魔力も動く。


 エイルは剣をさらに押し込んだ。


「終わらせる」


 二度目の《衝撃》を内部へ叩き込む。


 今度は大きな音がした。


 巨大個体の胸部甲殻が内側から砕け、長剣を刺した場所を中心に巨大な亀裂が一気に広がる。


 黒い血が噴き出し、エイルの外套と腕を濡らした。


 青白かった両目から光が失われる。


 前脚が床へ沈んだ。


 次いで頭部。


 最後に巨体全体が傾き、第五管理区の石床を揺らしながら横倒しになった。


 エイルは長剣を抜いて数歩後ろへ下がり、なお《危機感知》を切らず巨大個体を見続けた。


 反応は。


 戻らない。


 《魔力感知》でも、身体内部にあった巨大な魔力の流れが急速に消えていく。


 深層循環核から伸びていた供給も切れている。


 ようやく。


 終わった。


     ◇


【強大な敵対存在を単独撃破しました】


【経験値を獲得しました】


【Lv.37 → Lv.41】


【筋力が大きく成長しました】


【耐久が大きく成長しました】


【敏捷が大きく成長しました】


【感知が大きく成長しました】


【魔力が大きく成長しました】


【《剣術 Lv.21 → Lv.23》】


【《身体強化 Lv.21 → Lv.23》】


【《衝撃 Lv.26 → Lv.28》】


【《危機感知 Lv.22 → Lv.23》】


【《振動感知 Lv.14 → Lv.15》】


【《近域感知 Lv.9 → Lv.10》】


【《魔力圧縮 Lv.18 → Lv.20》】


【《高密度強化 Lv.3 → Lv.5》】


 いくつもの表示が視界へ重なった。


 普段なら一つずつ確かめていたかもしれないが、今はそんな余裕より先に全身の力が抜け、エイルは長剣を床へ突いて身体を支えた。


「……さすがに、きついな」


 右脚は痛み、肩も肋骨も無事ではない。


 魔力もほとんど使い切った。


 それでも立てる。


 そして何より、巨大個体はもう動かない。


 エイルは荒い呼吸を整えながら、崩落通路の方向へ《振動感知》を伸ばした。


 人の足音がある。


 遠ざかってはいない。


 むしろ。


 近づいてくる。


「……戻ってくるなって言ったのに」


 そう呟いた声には、もう怒りはなかった。


     ◇


 瓦礫の隙間から最初に姿を現したのはグランだった。


 その後ろからボルクとレイアも続き、第五管理区へ足を踏み入れたところで三人とも止まる。


 目の前には、横倒しになった三十メートル近い巨体がある。


 胸部は内側から大きく破裂し、首と腹部にも深い傷が残り、周囲の床や壁は何度も《衝撃》と水圧を受けたことで原形を失っていた。


 その少し手前で、エイルが長剣を杖代わりに立っている。


 グランはしばらく何も言わなかった。


 やがて巨大個体を見てからエイルへ視線を戻し、信じられないものを見るように眉を寄せた。


「……倒したのか?」


「はい」


「一人で?」


「途中までは皆さんもいましたよ」


「そういう意味で聞いてねえ」


 エイルは少しだけ笑った。


 そこで膝から力が抜ける。


 完全に倒れる前にグランが駆け寄り、肩を支えた。


「おい!」


「大丈夫です。ちょっと力が抜けただけなので」


「その血まみれで大丈夫って言うな!」


「半分くらいはあいつの血です」


「残り半分がお前の血なら十分駄目だ!」


 後ろからレイアも近づき、すぐエイルの傷を確認し始める。


 ボルクはそれより少し離れた場所に立ち、巨大個体の死骸と、胸部に残された破壊痕を何度も見比べていた。


「……これ、本当にC級がやった跡か?」


「本人の前で言うことじゃないですよ」


「だからお前のC級はもう信用してねえんだよ」


 いつものような返事が聞こえたことで、ようやく場の緊張が少しだけ緩んだ。


 ただし、誰も巨大個体の死骸から完全には目を離せなかった。


 B級冒険者の全力を一撃で弾き飛ばし、深層循環核から魔力を受け続け、岩甲牙獣の群れすら恐れて逃げるほどの存在を、最後には十六歳のC級冒険者が一人で倒している。


 しかもグランは知っている。


 崩落通路のこちら側へ退避する直前と。


 今のエイルでは。


 明らかに強さが違っている。


「……お前、また強くなっただろ」


 グランが低い声で聞いた。


 エイルは一瞬だけ考えたあと、いつものように詳細を隠したまま答える。


「かなり、上がったと思います」


「かなり、ねえ……」


 グランはそれ以上聞かなかった。


 今は傷の手当てが先だった。


 ただ、エイルを支えながら第五管理区を見回したその目には、もはや単純なC級冒険者を見る色は残っていなかった。


 深層の巨大個体を倒したことで、リューデ湖の地下にあった大きな危険は一つ消えた。


 その一方で、エイル自身の強さは、この湖へ来た時とは比べものにならない場所まで伸びており、その成長がここで止まる気配もなかった。


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