表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/75

第61話 逃げてくるもの

 中央街路へ向かって走り始めてから、エイルたちが最初の分岐へ到達するまで、それほど時間は掛からなかった。


 先頭を走るエイルは《身体強化》を脚と腰へ薄く流しながらも、速度を上げすぎて後続を引き離さない程度に抑え、石畳から伝わる振動へ意識の大半を向けていた。


 中央調査班は確実にこちらへ近づいている。


 十一人全員の位置を一人ずつ判別できるほどではないものの、まとまって走る足音の中に明らかに速度の遅い反応が二つあり、それを周囲の人間が支えていることまで、途切れがちな振動から読み取れた。


 その後ろには魔物の群れがいる。


 大型が六体、小型が十数体という伝令の報告から数はほとんど変わっていないが、問題は距離だった。


「追いつかれそうです」


 走りながらエイルが言うと、横に並んだ潜水班長が表情を引き締めた。


「あとどれくらいだ?」


「負傷者がいるせいで中央班が遅いです。このままだと、一分か二分くらいで後ろの大型が届くと思います」


「こっちから合流するまで?」


「今の速度なら三分くらいです」


 つまり、そのまま走っていては間に合わない。


 潜水班長も同じ結論へ達したらしく、すぐ後ろのボルクとセナへ振り返った。


「俺とボルクは隊列を維持して追う。セナは伝令と一緒に西部出口へ戻って、受け入れ準備を伝えろ」


「エイルは?」


 セナが聞く。


 一瞬だけ沈黙があった。


 潜水班長は前を走るエイルを見る。


「先に行けるか?」


「行けます」


「中央班と合流したら、足を止めずこっちへ向かわせろ。敵を全部倒す必要はないし、追跡が止まれば深追いするな」


「分かりました」


「それから、奥の大きな反応には絶対近づくな」


 その確認にだけ、エイルは少し間を置いてから頷いた。


「はい」


 許可が出た瞬間、《身体強化》の配分を変える。


 脚へ増やし、腰と背中へそれを支えられるだけの魔力を流す。


 さらに最初の一歩へ小さな《衝撃》を重ねた。


 石畳を蹴った音が一度響き、その直後には後ろの足音が急速に遠ざかっていった。


     ◇


 地下街の景色が左右へ流れていく。


 以前なら《衝撃》で無理やり身体を前へ押すような加速になっていたが、今は自分の脚力だけですでに高い速度へ到達し、その最後の不足分だけを魔法で補っているため、連続して使っても姿勢が崩れにくい。


 角へ近づけば事前に速度を落とし、曲がり終えた瞬間に再加速する。


 床の起伏も、途中に落ちた石材も、《振動感知》で前もって把握できる。


 誰もいない中央街路を走りながら、エイルは自分が数週間前まで村の外を歩くことすらほとんどなかったことを、一瞬だけ思い出した。


 今では地下深くにある正体不明の都市を、人間とは思えない速度で駆けている。


 その変化について考えている暇はなかった。


 前方から金属音が聞こえた。


 続いて、人の声。


「来るぞ!」


「右、右を抑えろ!」


 中央調査班。


 エイルはさらに速度を上げた。


 角を抜けると、百メートルほど先に人影が見える。


 隊列はすでに崩れていた。


 前方に五人、中央に負傷者二人を抱える四人、その後ろで二人の兵士が追ってくる大型魔物を槍で牽制している。


 さらにその奥には、岩甲牙獣より一回り小さな四足獣が何体も走っていた。


 大型六体もすべて見える。


 そのうち一体が後衛の兵士へ飛びかかろうとしていた。


「前だけ見てください!」


 エイルが叫ぶ。


 中央班の何人かが振り向いた。


「エイル!?」


「西部出口が開いてます! そのまま西へ走ってください!」


 説明しながらも速度は落とさない。


 岩甲牙獣が兵士へ前脚を振り下ろす。


 エイルは二人の間へ入り、長剣を抜く動作と同時に身体を回した。


 刃の腹で前脚を受ける。


 強い衝撃が腕へ入ったものの、今さら体勢を崩されるほどではない。


 そのまま剣を外側へ押し、魔物の身体ごと横へ流すと、岩甲牙獣は石畳へ肩から叩きつけられた。


「行って!」


 後衛の二人が一瞬迷う。


「でも一人じゃ――」


「大丈夫です。もうすぐ援護も来ます」


 エイルは倒れた岩甲牙獣を見ず、次に来る個体へ身体を向けた。


「負傷者を先にお願いします」


 声は大きくなかった。


 それでも、二人はそれ以上言わなかった。


 隊列へ戻り、仲間を追って走り始める。


 エイルの前には、追跡してきた魔物だけが残った。


     ◇


 最初の一体が起き上がるより先に、左右から小型が三体飛び込んできた。


 地上種の岩牙獣に近いが、地下へ適応した個体らしく脚が長く、岩甲牙獣の群れに付き従うように動いている。


 エイルは一体目の牙を半歩だけ身体を引いて外し、すれ違いざまに首へ長剣を通す。


 続く二体目は剣を戻す途中だったため、左手で頭部を掴んだ。


 勢いのまま押し込まれてくるが、腕はほとんど動かない。


 そのまま身体を捻り、魔物の走る力まで利用して石畳へ叩きつけると、甲殻が割れる乾いた音が響いた。


 三体目はそこへ飛びかかってきた。


 エイルは長剣を片手で戻し、下から斬り上げる。


 胸から肩まで刃が抜け、魔物はその場で転がった。


 そこで最初に倒した岩甲牙獣が立ち上がる。


 さらに後ろから二体目と三体目が来ていた。


 エイルは息を整えながら、一歩前へ出た。


 これまでなら、大型三体が同時に来れば位置をずらし、一体ずつ戦える状況を作ったはずだった。


 その判断自体は今も間違っていない。


 ただ、今はそれ以外の選択肢もある。


 先頭の岩甲牙獣が突進する。


 エイルは避けず、長剣を低く構えた。


 正面で受ける。


 ぶつかった瞬間に身体強化を強め、相手の頭を剣の腹で押し上げる。


 巨大な前脚が浮く。


 エイルは腰を回し、その勢いのまま剣を横へ振った。


 首の甲殻へ刃が入り、半分ほどで止まる。


 そこへ《衝撃》を流す必要もなかった。


 さらに力を加えると、硬い外装が割れ、長剣が首を深く断った。


 一体目が崩れる。


 二体目がその死骸を越えて来る。


 振り下ろされた爪を剣で流しながら懐へ入り、胸部へ肩を当てる。


 今度は全力でぶつからない。


 それでも岩甲牙獣は大きく後ろへよろめいた。


 エイルは崩れた姿勢へ一歩だけ踏み込み、顎の下から剣を突き上げる。


 刃が頭部の奥まで届いた。


 引き抜く。


 三体目。


 エイルは飛びかかってきた巨体を見ながら、長剣を両手へ戻した。


 跳躍している以上、空中では進路を変えられない。


 落ちてくる場所へ先に入る。


 身体強化で踏み込みを強め、斜め上へ振る。


 刃と甲殻がぶつかった瞬間だけ《衝撃》を重ねると、巨体そのものが軌道を変え、横の建物へ激突した。


 壁が大きく陥没する。


 岩甲牙獣が立ち上がるより早く近づき、胸元へ剣を入れる。


 そこでようやく、エイルは後ろから近づいてくる足音に気づいた。


「……もう三体かよ」


 ボルクだった。


 潜水班長と軍兵二人も追いついている。


「残り三体です。小さいのが十体くらい」


「一分も経ってないぞ」


「中央班に追いつかれたくないので、早めに減らします」


 ボルクは何か言いかけたものの、目の前から来る四体目を見てすぐ大盾を構えた。


「分かった。じゃあ残りは俺たちも働かせろ」


     ◇


 四人が加わってからは、戦闘というより追撃を止める作業に近かった。


 ボルクが大型の進路を大盾で限定し、潜水班長と軍兵が横から槍を入れる。その間にエイルが外殻の薄い場所へ長剣を通せば、一体を倒すまでにほとんど時間は掛からない。


 小型の群れも同じだった。


 エイルが街路の中央へ立つだけで、正面から来た個体は一撃か二撃で倒され、左右へ抜けようとすれば軍兵に止められる。


 途中で一体だけがエイルを避け、逃げていった中央班を追おうとした。


 《危機感知》が反応するより早く、《振動感知》で向きが分かる。


 エイルは振り返らず、左足で地面を踏んだ。


 小さな《衝撃》が石畳を走り、魔物の前脚が着く直前の床を僅かに弾く。


 着地がずれた。


 体勢を崩して横へ転がる。


 そこへ潜水班長の槍が入る。


「今の、後ろ見てなかっただろ」


「振動で分かりました」


「その技能、もう目より便利なんじゃないか?」


「見える方が細かいところは分かりますよ」


「そういう問題じゃないんだがな」


 最後の岩甲牙獣が倒れた頃には、街路に二十体近い魔物の死骸が残っていた。


 エイルは呼吸を整えながら刃を確認する。


 多少血は付いているものの、欠けはない。


 魔力にもかなり余裕がある。


 昨日までなら大型を複数相手にした後には、もう少し身体へ疲労が残っていたはずだった。


 今は戦闘直後でも走れる。


【《剣術 Lv.19 → Lv.20》】


【《身体強化 Lv.12 → Lv.13》】


【《危機感知 Lv.18 → Lv.19》】


 さらに少し遅れて、《振動感知》も一段上がった。


【《振動感知 Lv.12 → Lv.13》】


 技能の二十台が見え始めている。


 少し前まで十へ届くだけでも高いと思っていた剣術が、もう二十になった。


 それでも、エイルが表示を見ていたのは数秒だけだった。


「中央班、かなり離れました。西側出口まで行けそうです」


 潜水班長が頷く。


「なら俺たちも戻る。ただし、奥の様子を一度だけ確認する」


 エイルも振り返った。


 魔物たちが逃げてきた方向。


 そこには血も、追跡してくる足音もない。


 代わりに。


 巨大な振動が近づいていた。


     ◇


 最初に異常を感じたのは足裏だった。


 ドン、と地面が一度だけ震え、街路沿いの古い窓枠から砂埃が落ちる。


 その数秒後、もう一度。


 今度は少し大きい。


 ボルクも感じたらしく、盾を背負わず手に持ったまま奥を見る。


「これが例のやつか?」


「はい。でも、今までで一番近いです」


「距離は?」


 エイルは石畳へ手を触れた。


 意識を広げる。


 大きすぎる。


 以前より近づいたことで、逆に全体を掴みにくい。


 足のようなものがある。


 少なくとも、接地する場所が複数ある。


 一つが動くたび、街路の広い範囲へ振動が走る。


 巨大な機械が部品を動かす振動とは違う。


 もっと不規則で。


 重い。


「生き物かもしれません」


 その言葉に、全員が黙った。


「大きさは?」


「分からないです。でも……」


 エイルはさらに集中する。


 前脚らしき接地。


 次に別の場所。


 その間隔。


 比較する。


「岩甲牙獣より、ずっと大きいです」


「それは最初から分かってる」


「多分、十メートルとかじゃ足りません」


 ボルクの表情が固くなった。


 また振動が来る。


 今度は地面だけではなく、遠くから何かが崩れる音まで聞こえた。


「戻るぞ」


 潜水班長が即座に言った。


「確認は十分だ。中央班を追う」


 誰も反対しない。


 エイルも立ち上がり、来た道へ身体を向けた。


 そこで《危機感知》が、今までにない強さで反応した。


「待って!」


 全員が止まる。


 エイルは奥を見る。


 何かが来る。


 足音。


 重い振動。


 それだけではない。


 空気が僅かに動いた。


「伏せて!」


 叫んだ直後、エイルは一番近くにいた軍兵の肩を掴み、横へ引いた。


 全員が反射的に姿勢を落とす。


 数秒後。


 暗い街路の奥から、黒い何かが飛んできた。


 岩。


 いや。


 建物の一部だった。


 人間より大きな石材が凄まじい速度で街路を飛び、さっきまで全員が立っていた場所を通過する。


 さらに後ろの壁へ激突し、石材ごと砕け散った。


 破片が雨のように散る。


 ボルクが盾を上げ、他の三人を守る。


 エイルも長剣で大きな破片だけを弾いた。


「何だ今の……」


 軍兵の声が震えている。


 投げた。


 おそらく。


 奥にいる何かが、建物の一部をこちらへ。


「走ってください」


 エイルは低い声で言った。


 潜水班長が頷く。


「全員西へ! 止まるな!」


 四人が走り始める。


 エイルも最後尾へ入った。


 ただ、少しだけ遅い位置を取る。


 後ろを見るためだ。


     ◇


 百メートルほど走ったところで、もう一度大きな衝撃が届いた。


 今度は飛来物ではない。


 後方で建物そのものが崩れた。


 青緑の灯りが何本も消え、暗闇の中で巨大な影が動く。


 まだ遠い。


 全身は見えない。


 それでも。


 高さだけなら。


 街路沿いの三階建ての建物を越えていた。


 何かが前へ出る。


 柱のような脚が石畳を踏む。


 地面が沈む。


 その動きだけで、周囲の壁が揺れた。


「……あれか」


 ボルクが走りながら一度だけ振り返り、声を失った。


 エイルも見ている。


 暗闇の中に。


 巨大な輪郭。


 四足。


 背中には、岩とも甲殻ともつかない巨大な突起がいくつも並んでいる。


 頭部は低い。


 その奥で。


 青白い光が二つ開いた。


 目。


 こちらを見ていた。


 《危機感知》が痛いほど強くなる。


 今まで戦ったどの魔物とも違う。


 深湖甲獣ですら。


 これより小さい。


 エイルは長剣の柄へ触れた。


 戦いたいからではない。


 今、あれが走ってきたら。


 自分たちの速度で逃げ切れるのかを考えた。


「エイル!」


 潜水班長の声が飛ぶ。


「止まるな!」


「はい!」


 エイルも前へ向き直った。


 巨大な魔物は追ってこない。


 少なくとも、今は。


 ただ、低く頭を上げ、逃げていく人間たちを見ている。


 そして次の瞬間。


 腹の底へ響くような低い咆哮が、地下街全体を揺らした。


     ◇


 西部保守口へ到達した時、中央調査班の負傷者はすでに水上隊へ引き渡されていた。


 セナが地上側との連絡を続け、魔導技師たちは扉を完全開放した状態へ固定している。


「全員戻った?」


 セナが人数を数える。


「こっちは大丈夫! 中央班も十一人全員いる!」


 潜水班長が息を整えながら頷いた。


「扉を閉める準備をしろ。向こうから何か来る可能性がある」


「何がいたの?」


 セナが聞く。


 ボルクが答えようとして、一度口を閉じた。


「……でかい」


「どれくらい?」


「俺が説明するより、後でエイルに聞いた方がいい。ただ、岩甲牙獣の群れが逃げる理由は分かった」


 エイルは保守口の向こう、地下街側を見ていた。


 ここまで離れても。


 まだ分かる。


 巨大な振動が。


 ゆっくり。


 移動している。


「こっちへ来てる?」


 セナがエイルの視線に気づく。


「今は、真っ直ぐじゃないです」


「今は?」


「さっきより南に動いてます。でも、あれが本気でこっちへ来たら、多分この扉だけじゃ止まりません」


 魔導技師の顔が引きつる。


 潜水班長も否定しなかった。


「今日は全員地上へ戻る。保守口の地下側に観測器だけ置いて、警戒班は西岸へ配置する」


 命令が飛び、全員が動き始める。


 エイルも呼吸具を装着した。


     ◇


 地上へ戻った後、中央調査班から詳しい報告が集められた。


 彼らは中央圧力制御塔からさらに四百メートルほど先まで進み、第四区画と記された広場を発見した。


 そこで岩甲牙獣の群れを確認し、戦闘を避けて迂回しようとした直後、深部から大きな振動が発生したという。


 最初に逃げ出したのは魔物だった。


 岩甲牙獣も、小型種も、互いを押し退けるように中央街路へ向かって走り、その中へ調査班が巻き込まれた。


 その後。


 遠くで。


 巨大な影が建物を押し倒した。


「見えたのは一部だけです」


 負傷した軍兵が治療を受けながら言った。


「脚だけで……家くらいありました。あれが歩いたら、周りの魔物が全部逃げた」


 会議室が静まる。


 レイアがエイルを見る。


「君はもう少し近くで見たそうだな」


「はい」


「形は?」


「四足です。高さは建物より上でした。背中に大きい甲殻か岩みたいなものが並んでて、目が青白く光ってました」


「既知種に似ているものは?」


 学院側の魔物研究者が何枚か図を見せる。


 大型地竜。


 甲殻獣。


 地下巨亀。


 どれも違う。


 エイルは首を振った。


「これより大きいです。あと、歩き方が普通の四足獣より重いというか、身体の一部が地面の下まであるような振動でした」


「地面の下?」


「足だけじゃない何かが、ずっと床に触れてる感じです」


 研究者たちが顔を見合わせる。


 答えは出なかった。


 ただ一つ。


 名前だけは仮に付けられた。


【深層巨大個体】


 まだ魔物なのか、遺構と関係する生物なのかすら分からないため、分類ではなく単なる呼称だった。


「当面、中央深部への調査は停止する」


 レイアが決定を告げる。


「西部出口を使った物資搬入と、入口周辺の防衛設備構築を優先する。深層巨大個体が移動する範囲を最低でも数日観測し、そのうえで次の行動を決める」


 今度は誰も異論を出さなかった。


 エイルも同じだった。


 あれは。


 今すぐ追いかける相手ではない。


     ◇


 会議が終わり、エイルは一人で宿へ戻った。


 部屋へ入ると、長剣を壁へ立て掛け、椅子へ座って状態板を開く。


 今日の戦闘で、レベルも上がっていた。


【Lv.34 → Lv.37】


 一度の救助戦で三つ。


 以前なら、大きな事件を乗り越えた時にようやく得られる伸びだった。


 技能も確認する。


【《剣術 Lv.20》】


【《危機感知 Lv.19》】


【《衝撃 Lv.20》】


【《身体強化 Lv.13》】


【《魔力操作 Lv.17》】


【《魔力感知 Lv.16》】


【《振動感知 Lv.13》】


【《地形把握 Lv.9》】


 筋力も。


 以前の百七十一から、さらに大きく伸びていた。


【筋力 203】


【耐久 179】


【敏捷 238】


【器用 221】


【感知 337】


【魔力 251】


 筋力が二百を越えた。


 数日前まで、エイルの身体能力は敏捷と感知だけが明らかに突出していた。


 今はそこへ筋力が急速に追いつき始めている。


 しかも《身体強化》まで加わった。


 今日の岩甲牙獣も、もう一体ずつなら強敵とは感じなかった。


 それでも。


 エイルの頭に残っていたのは、倒した二十体近い魔物ではない。


 暗闇の中で見た。


 巨大な影。


 あれを見た瞬間、《危機感知》が全力で逃げろと告げていた。


 今の自分より。


 明らかに強い。


 エイルは状態板を閉じた。


 怖くないわけではない。


 もし今日。


 あれが本気で追ってきていたら。


 中央班の負傷者を連れたまま全員が逃げ切れたかは分からなかった。


 自分が止めることになったとしても、どれだけ持つか分からない。


 その現実を理解したうえで、エイルは壁へ立て掛けた長剣を見た。


 今は届かない。


 なら、届くところまで強くなる。


 地下街の奥へ進むまでに。


 あれと向き合わなければならない時が来るまでに。


 少なくとも、後ろに誰かがいる状況で、自分だけ逃げるしかないような強さのままではいたくなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ