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第59話 深部へ続く地図

 中央街路の先行確認から戻った翌朝、北岸の仮設本部では、地下街の地図がついに一枚の机へ収まりきらなくなっていた。


 最初の降下で確認した入口周辺から、第三循環炉の西側搬入口、岩甲牙獣の群れがいた区画、さらに中央圧力制御塔までを繋いだ結果、現在判明している範囲だけでも地下施設は南北に七百メートル近く伸びている。しかも左右へ分岐する街路や地下階段はほとんど手つかずのままであり、西側には湖底へ向かって上昇する経路まで見つかっているため、実際の規模はその何倍になるか分からなかった。


 エイルが地図台の横へ立つと、フィンが昨夜書き足したらしい線へ定規を当てていた。


「昨日の中央圧力制御塔をここに置いて、北岸の縦穴を基準に距離を合わせると、だいたいこの位置になる」


 示されたのは、現在のリューデ湖の中心より少し北東側だった。


「思ったより湖の中央に近いですね」


「うん。それで、もっと面白いのがこっち」


 フィンは中央圧力制御塔から西へ伸びる一本の線を指した。


「一昨日見つけた上り坂を延長すると、西部水上遺跡の三地点のうち、一番北にある遺跡のかなり近くまで行く。実際には曲がってるだろうけど、少なくとも別々の施設じゃない可能性は高くなった」


 リサも隣で古い記録を開いている。


「それと昨日、第三循環炉って名前が出たでしょう。学院の古文書班が過去の文字資料を洗い直したら、百八十年前の渇水記録に似た表現が一つ見つかったの」


「どんな?」


「《三環鳴動》って書かれてる。前は祭事か何かだと思われてたんだけど、第三循環炉みたいな設備が実際にあるなら、施設の稼働記録だった可能性がある」


「三つの循環炉が動いた?」


「まだ断定はできないけどね。それに、その記録が残った年は湖面が大きく下がってる」


 エイルは地図へ目を戻した。


 水を管理する施設が湖底に存在し、複数の循環炉と水門、それらを繋ぐ地下街まで残っている。


 ここまでなら、巨大な古代水利施設という説明でも通る。


 ただ、問題はそれだけではない。


「奥の大きい反応については、何か分かりましたか?」


 エイルが聞くと、フィンとリサの表情が少し変わった。


「今のところ、分からない」


 答えたのはリサだった。


「中央圧力制御塔の振動記録と、エイルが最初に湖底で感じた大きな振動を比べても、周期が一致してない。制御塔もかなり大きく動いてるけど、あれとは別」


「それどころか」


 フィンが別の紙を出す。


「昨日エイルたちが帰ったあと、地上の観測器でも一度だけ揺れを拾った。北岸全体で弱い振動が出て、その直後に湖面が数センチだけ変動してる」


「数センチ?」


「湖全体で数センチなら、動いた水の量は相当だよ」


 エイルは少し考えた。


 地下にいる時、確かに巨大な反応は少しずつ位置を変えていた。


 それが湖そのものへ影響しているなら、単なる壊れかけの機械とは考えにくい。


「今日、また中央街路へ行きますか?」


「今日は二手に分かれる」


 後ろから声がして、レイアが本部へ入ってきた。


「中央街路の先へ進む班と、西側の上り坂を調べる班だ。ただし中央班も、昨日見つけた下り通路へは入らない」


「まだですか?」


「不満そうにするな。あそこから先は、地上の観測でも説明できない反応が出始めてる。退路を二本確保するまでは、主力を深部へ入れない」


 エイルは地図上の西側へ目を向けた。


「じゃあ今日は出口探しですか?」


「その予定だ。崩落した坂道の先が西部水上遺跡へ繋がっているなら、今後の調査がかなり楽になる。北岸の縦穴を毎回八十メートル潜る必要がなくなるからな」


 確かに、それは大きい。


 今のエイルにとって縦穴の潜水はもう大きな負担ではないが、学院研究者や地上戦主体の冒険者まで毎回同じ経路を通るとなれば話は別だった。


「エイルは西側班へ入ってもらう」


「中央じゃなくて?」


「地形探知が必要だ。崩落の向こうがどこへ繋がっているか、掘る前にある程度分かるのは今のところ君だけだからな」


「分かりました」


「それと、今日は戦闘より救助と経路確保が優先だ。西側は崩落区画だから、何かが動けば連鎖的に落ちる可能性がある」


「気をつけます」


 レイアは頷いたあと、地図の深部へ一度だけ視線を向けた。


「中央の反応は逃げない。先に戻れる道を作る」


 エイルもその言葉には素直に頷いた。


     ◇


 西側調査班は九人で編成された。


 水上隊の潜水員三人、工兵二人、学院研究者一人、冒険者はエイル、ボルク、セナの三人で、地下街へ到達した後は昨日までの中央街路へ入らず、三百メートルほど進んだ地点から西側へ分岐する経路を辿っていく。


 ボルクは大盾を背負いながら、昨日よりさらに大きな工具袋を腰へ下げていた。


「今日は魔物より石が相手らしいぞ」


「ボルクさんも掘るんですか?」


「力仕事ならな。こう見えて昔は採石場の護衛もやってたから、崩れそうな壁くらいは多少分かる」


「僕もアルネアで採掘やりました」


「お前の多少は信用ならんが、採掘経験あるなら助かる」


 セナが横から笑う。


「エイルに掘らせたら、通路じゃなくて山ごと抜きそう」


「そんなに力入れませんよ」


「昨日五メートルの魔物を肩で飛ばした人が言ってもね」


「身体強化を使っただけです」


「その身体強化がもう普通じゃないんだって」


 湖へ入ってからは会話も途切れ、九人は慣れた手順で地下街へ向かった。


 エイルにとっては、もはや湖底までの移動そのものより、その先へ何があるかを考えている時間の方が長くなっている。


 縦穴を降り、逆さまの水面を抜け、地下街へ足をつける。


 装備を地上用に整えたところで、エイルは《振動感知》を広げた。


 今日は中央街路から届く巨大な反応を追わず、西側の崩落方向へ集中する。


 少なくとも入口周辺に大きな魔物はいない。


 小型の生物が建物内部を動いている程度だった。


 一行は前回記録した西側街路へ入り、しばらく進んだところで問題の坂道へ到着した。


 道幅は六メートルほど。


 緩やかに上へ向かっていたはずの通路が、途中から大量の石材で完全に埋まっている。


 天井の一部も崩れ、太い梁が斜めに倒れ込んでいた。


 工兵の一人が前へ出る。


「触る前に見たい。エイル、向こう分かるか?」


「やってみます」


 エイルは崩落した岩へ片手を置いた。


 《振動感知》を奥へ伸ばす。


 石。


 石。


 その向こうにも石材が続く。


 ただし、完全に詰まっている距離は長くない。


「十メートルくらい先に空間があります。その先は上へ続いてます」


「幅は?」


「今の通路と同じくらい。ただ、右側が少し崩れてて、左側の方が残ってます」


「水は?」


「もっと上です。今いる場所からだと……三十メートル以上先に感じます」


 工兵が頷く。


「なら掘る価値はある。右を触らず左側から抜くぞ」


     ◇


 崩落区画の作業は、戦闘よりずっと時間が掛かった。


 大きな石を一つ抜けば終わるわけではなく、その石が上の瓦礫を支えていないか確認し、必要なら木材や金属棒で仮支柱を入れてから動かす。


 エイルも《採掘》と《振動感知》を併用し、どの岩へ荷重が集中しているかを工兵へ伝えていった。


「この大きいのは動かさない方がいいです。上の三つと繋がってます」


「分かるのか?」


「叩くと返りが違います」


 工兵が小槌で石を叩き、しばらく音を聞いたあと感心したように頷く。


「確かに。じゃあ左の小さい方から抜く」


 作業そのものは慎重だが、エイルがいることで進む速度は明らかに速かった。


 どこが危ないか先に絞れるうえ、普通なら二人掛かりで運ぶ石材も、エイルなら一人で動かせる。


「これ、外へ出してください」


 工兵に言われ、腰ほどの大きさがある石塊へ両手を掛ける。


 見た目だけなら二百キロ以上ありそうだったが、エイルは少し腰を落としただけで持ち上げ、そのまま十メートルほど後ろまで運んだ。


 ボルクが別の石を二人で動かしながら、その様子を見る。


「身体強化使ってる?」


「使ってません」


「だよな。魔力動いてないもんな」


「これくらいなら普通に持てます」


「その普通が昨日よりまたおかしくなってるぞ」


 エイルは石を床へ置き、すぐ次の作業へ戻った。


 以前なら、周囲に驚かれるたび自分の状態板を確認したくなっていたが、今は毎回確かめる必要をあまり感じない。


 強くなっているのは分かっている。


 それが具体的にどれくらいかは、必要になった時に見ればいい。


 作業開始から二時間ほど経った頃、崩落の向こう側へ人一人が通れる程度の隙間ができた。


 工兵が照明石を差し込み、その奥を確認する。


「道は残ってるな」


「僕が先に見ます」


「待て」


 エイルが前へ出ようとすると、ボルクに肩を掴まれた。


「崩落区画で一番先に入るのは工兵だ。お前が強くても、天井が落ちるかどうかは別の話だからな」


「分かりました」


「素直だと逆に不安になるな」


「最近ずっとそれ言われます」


 工兵二人が先に隙間へ入り、壁と天井を確認する。


 しばらくして安全の合図が返ったため、エイルたちも順番に向こう側へ抜けた。


     ◇


 崩落の先は、これまでより狭い上り坂になっていた。


 壁には青緑色の灯りが残っているものの、半分近くは消えており、照明石がなければかなり暗い。


 空気は少し湿っている。


 上から水が近づいているためだろう。


 一行がさらに二十メートルほど進んだところで、エイルは足を止めた。


「上に大きな空間があります」


「どれくらい?」


「かなり広いです。あと、水が壁の向こうを流れてます」


 工兵が慎重に前へ進む。


 上り坂の終点には、古い金属扉があった。


 高さは三メートルほどあり、中央には円形の窪みがある。


 北岸で見つかった水門や、守衛機の部品と似た構造だった。


「また鍵か」


 セナが呟く。


 学院研究者が表面を調べる。


「文字があります。少し待ってください」


 泥を落とし、古代文字を一つずつ確認する。


「《西部取水路……第三保守口》、だと思います」


「保守口?」


「この先が西側の湖底設備へ繋がっているなら、ここは地下街側から入る点検口かもしれません」


 エイルは扉へ手を置いた。


 向こう側には水がある。


 ただし、扉のすぐ先ではない。


「扉の向こうに短い通路があって、その先が水です。多分、今の湖底に繋がってます」


「開けられれば第二の退路完成か」


 ボルクが言う。


「開け方は?」


「そこが問題ですね」


 研究者が円形の窪みを調べている。


 北岸の水門と同じなら、守衛機の認証部品を模倣した装置が使える可能性がある。


 ただし今日は試験器を持ってきていない。


「位置だけ確認して戻る?」


 セナが聞く。


「それが安全だな」


 工兵も頷く。


「無理に開ける理由はない。次に認証器を持ってくればいい」


 エイルも異論はなかった。


 扉を力で開けられるかどうかは少し気になったが、今ここで壊す必要はない。


「じゃあ位置を――」


 学院研究者が言いかけた瞬間、床の下から低い振動が来た。


 エイルの表情が変わる。


 中央街路の奥から届いていたものとは違う。


 もっと近い。


「止まって」


 全員が動きを止めた。


 エイルはしゃがみ込み、床へ手をつく。


 振動は一度だけではなかった。


 もう一度。


 今度は少し強い。


「何だ?」


 ボルクが盾へ手を掛ける。


「崩落した方からです」


「魔物?」


「違います。天井か壁が動いてます」


 エイルが立ち上がった直後、来た道の奥から石の砕ける音が響いた。


 全員が振り返る。


 先ほど抜けてきた崩落区画。


 そこから細かな砂埃が流れてきている。


「戻るぞ!」


 工兵が叫んだ。


 一行はすぐ坂道を下り始めた。


     ◇


 崩落区画へ戻った時には、通路の状態が明らかに変わっていた。


 さっきまで固定していた仮支柱の一本が傾き、天井から小さな石が断続的に落ちている。


「全員急げ! 抜けたら立ち止まるな!」


 工兵が先頭に入り、学院研究者、セナ、軍兵の順で狭い隙間を通していく。


 エイルは最後尾近くに残った。


 《振動感知》を広げる。


 危ない。


 崩落区画の右上。


 最初から触らなかった大きな岩。


 その支えがずれている。


「右上、来ます!」


 エイルが叫んだ直後、大きな音が響いた。


 天井近くの石材が沈み、仮支柱が一本折れる。


 さらに上に載っていた瓦礫がまとめて動き始めた。


「走れ!」


 ボルクが学院研究者を先へ押す。


 セナも隙間を抜ける。


 軍兵二人が続く。


 残ったのは工兵一人と、ボルク、エイル。


 その時、斜めに倒れていた巨大な梁がずれた。


 太さは人間の胴よりある。


 その上には大量の石材が乗っている。


 梁が落ちれば、通路そのものが塞がる。


「まずい!」


 工兵が叫ぶ。


 エイルは考えるより先に前へ出た。


 落ちてくる梁の下へ両手を入れる。


「エイル!」


 ボルクの声とほぼ同時に、重さが来た。


 水門の時より。


 重い。


 梁だけではない。


 その上にある瓦礫まで一緒に掛かっている。


 エイルの膝が大きく沈んだ。


 すぐ《身体強化》を全身へ回す。


 脚。


 腰。


 背中。


 肩。


 腕。


 今までよりずっと自然に力が繋がる。


 梁の下降が止まった。


「先に抜けてください!」


「馬鹿、三人で支える!」


「人数増やしたら通れなくなります! 僕が持ってる間に!」


 ボルクが一瞬迷った。


 工兵は先に判断した。


「行くぞ! 向こうから支柱持って戻る!」


 ボルクの腕を掴み、隙間へ押す。


「エイル、十秒持て!」


「大丈夫です!」


 二人が抜ける。


 エイルは梁の下で一人になる。


 重い。


 ただ。


 水門の時とは違う。


 あの時は押し潰されないよう耐えるだけで精一杯だった。


 今は、耐えられる。


 上から落ちてくる小さな石が肩へ当たる。


 それでも足は動かない。


 梁の向こう側からボルクたちが支柱を運んでくる音が聞こえる。


 数秒。


 まだいける。


 エイルは少しだけ姿勢を変え、梁を肩側へ移した。


 片腕が空く。


 右から崩れてきた石塊を、その片手で受ける。


 頭ほどの大きさがある石を横へ投げる。


 次。


 もう一つ落ちる。


 それも弾く。


 向こう側にいたセナが隙間越しにこちらを見ていた。


「……本当に一人で持ってる」


「見てないで支柱お願いします」


「分かってる!」


 ようやく一本目の支柱が入る。


 次いで二本目。


 工兵が角度を調整し、梁の荷重を分散させていく。


「エイル、少しずつ抜け!」


「はい」


 力を急に抜けば支柱へ負荷が集中するため、エイルは梁を支えたままゆっくり身体を下げ、重さが支柱へ移っていくのを確認する。


 完全に自分の腕から離れた。


 その瞬間。


 支柱が軋んだ。


 でも持つ。


「抜けろ!」


 エイルは狭い隙間へ身体を滑らせた。


 背中の長剣が岩へ触れそうになったため少し姿勢を捻り、最後に足を抜いた直後、後方でさらに大きな崩落音が響いた。


 通ってきた穴の半分が、新しい瓦礫で埋まる。


 全員。


 こちら側にいる。


 負傷者もいない。


 エイルは一度だけ深く息を吐いた。


     ◇


「腕見せろ」


 崩落区画から十分に離れたところで、ボルクに捕まった。


「大丈夫ですよ」


「いいから見せろ」


 両腕を確認される。


 少し赤くなっている程度で、動きに問題はない。


「肩は?」


「平気です」


「背中」


「痛くないです」


「……あれ何キロあったと思ってる?」


「分かりません」


「梁だけでも数百キロじゃ済まない。その上の石まで乗ってたんだぞ」


 工兵が後ろから口を挟む。


「正確には分からんが、一トン二トンの話でもないと思う。全部の重量を直接受けたわけじゃないにしても、人一人で支える荷重ではない」


 セナがエイルの腕を見る。


「水門の時より重かった?」


「重かったです。でも、水門の時よりは余裕ありました」


 全員が黙った。


 エイルは少し考えてから付け足す。


「前より力が増えたので」


「そこをそんな普通に言うな」


 ボルクが額を押さえる。


 エイル自身には、それほど不思議なことではなかった。


 水門を支えた時には、最後まで耐えるだけで全身が限界に近かった。


 今日は、もっと重いものを支えながら片手を離し、落ちてくる石まで払えた。


 あれから何日も経っていない。


 それでも、差は明確だった。


【《身体強化 Lv.11 → Lv.12》】


【筋力が成長しました】


【耐久が成長しました】


 視界へ浮かんだ表示を確認しても、エイルはそれ以上立ち止まらなかった。


「帰りましょう。もう一回崩れたら、こっちまで来るかもしれません」


 工兵が頷く。


「そうだな。西側保守口の位置は取れた。今日は十分だ」


     ◇


 地上へ戻ると、西側保守口の発見はすぐに大きな成果として扱われた。


 認証器を使って扉を開き、その先が本当に西部水上遺跡へ繋がっていれば、地下街には北岸以外の出入口ができる。


 次回の調査では、地上側から西部遺跡を確認する班と、地下側から保守口を開く班を同時に動かすことになった。


「これが繋がれば、深部へ進む準備も一気に進む」


 レイアが新しい線を地図へ書き足す。


「人員や物資を毎回縦穴から降ろさずに済むし、何か起きても二方向へ退避できる」


 エイルは中央圧力制御塔のさらに奥へ続く空白を見る。


「じゃあ、その次くらいには下り通路も?」


「順調ならな」


「分かりました」


 以前なら、もう少し食い下がったかもしれない。


 今は急ぐ必要がないことを分かっている。


 今日の崩落も、退路が一本しかない危険を改めて示していた。


 しかも、地下の奥にいる何かが動くたび、施設全体へ影響が出ている可能性まである。


 準備しておくに越したことはない。


「エイル」


 レイアに呼ばれ、振り向く。


「今日の崩落時の件、報告を読んだ」


「みんな無事でした」


「そこは本当に助かった。ただ、自分一人なら無理をしていいという意味には取るなよ」


「分かってます」


「それでも、ありがとう。あそこで梁が落ちていたら、最低でも三人は向こう側へ残された」


 真正面から礼を言われ、エイルは少しだけ言葉に詰まった。


「僕が一番近かっただけです」


「そういうことにしておく」


 レイアはそれ以上何も言わず、次の報告へ戻った。


 エイルも地図台から離れようとして、最後に一度だけ空白部分へ視線を向ける。


 今日、自分は崩落を止めた。


 以前なら全力でも支えきれなかった重さを、今は仲間が抜けるまで持ち続けられた。


 それでも地下のさらに奥には、今の自分でも正体すら掴めないほど大きな何かがいる。


 その事実は、不安よりもはっきりした目標に近かった。


 今の力で足りないなら、そこへ辿り着くまでにさらに強くなればいい。


 そして次に何かが仲間へ向かってきた時には、今日よりもっと余裕を持って止められる自分でいたい。


 エイルはそんなことを考えながら、また一つ線の増えた地下街の地図を眺めていた。


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