第50話 湖底遺構
翌朝、北岸の調査区域には日の出前から三隻の船が集まっていた。
中央に停泊しているのは領軍水上隊の潜水支援船で、その左右には学院の観測船と冒険者ギルドが用意した護衛船が並んでいる。昨日までの救助任務とは違い、今日は最初から湖底遺構へ入ることを前提としているため、甲板には予備の呼吸具や命綱だけでなく、負傷者を水中で固定する担架、照明用の魔道具、入口を確保するための杭まで積み込まれていた。
エイルは自分に割り当てられた潜水装備を身につけながら、その様子を静かに眺めていた。
呼吸具を背負い、腰の重りを調整したあと、長剣を左背側へ斜めに固定する。青鋼短剣は水中用の留め具へ付け替えて右腰へ移し、最後に命綱の金具を確かめると、昨日まで何度も繰り返したおかげで一連の準備にはほとんど迷いがなかった。
「本当に三日前まで潜水できなかったんだよな」
隣で装備を整えていたダリオが、呆れたように言った。
「泳ぐくらいならできましたよ」
「湖底遺跡へ入れるかって話だ。そこ誤魔化すな」
「三日前は無理でした」
「それが今日は俺より先に準備終わってるんだから、気味悪いんだよ」
ダリオも今回の調査へ参加することになっていたが、潜水専門ではないため装備の扱いには少し苦戦している。ミナとケインは船上支援に残り、水中へ入る冒険者はエイルとダリオ、それに別班から選ばれたC級二人だけだった。
「エイル」
レイアに呼ばれ、中央船へ移る。
甲板には簡易図が広げられ、その周囲へ軍の潜水班五人、学院から派遣された水域研究者二人、冒険者四人が集まっていた。
「今日の目的をもう一度確認する。第一空洞へ入り、人工壁周辺を確保した後、下層へ続く通路の存在だけを確認する。第二層への本格進入はしない」
レイアの指が湖底図の上を動く。
「昨日まで確認されていた爪潜りは数を減らしているが、全滅したわけではない。例の大型反応も現在位置が分からない以上、遭遇した場合は無理に討伐せず退路を優先する」
「遺物の回収は?」
学院側の男が聞く。
「安全が確保できた範囲だけだ。調査のために人員を失えば本末転倒になる」
軍らしい判断だった。
「エイルには前衛を任せない。潜水班中央に入り、周辺探知を担当してもらう。異常を感じたら、確証がなくても知らせろ」
「分かりました」
「それから」
レイアが少しだけ目を細めた。
「勝手に奥へ行くな」
「行きませんよ」
ダリオが横で咳払いした。
「昨日までのお前を見た奴は、全員同じこと言うと思うぞ」
「信用ないなあ」
「信用はある。行動力を信用してないだけだ」
妙な言い方だったが、何となく意味は分かった。
◇
最初に軍の潜水班が湖へ入り、その後を学院組、冒険者が続いた。
最後にエイルが水面へ身体を沈める。
呼吸具から一定の空気が入り、水中眼鏡越しに朝の光が揺れている。訓練槽とは違って湖は広く、数メートル下れば周囲は青緑色へ変わり、さらに深く潜るにつれて底から巻き上がった泥が視界へ混じり始めた。
それでも、昨日までのような不安はほとんどない。
十五メートルを越え、さらに下へ向かう。
周囲には十人以上の人間がいるが、それぞれの位置はかなり明確に分かっていた。呼吸具の小さな振動や、身体が水を押す動き、装備から漏れる魔力を《振動感知》と《魔力感知》で拾えば、視界の外へ出ても簡単には見失わない。
やがて湖底が見えた。
崩れた岩盤の中央に、黒い穴が口を開けている。
遠くから見た時より大きい。
人間が横に五人並んでも余裕があり、その縁には崩落した新しい岩と、明らかに古く加工された石材が混ざっていた。
潜水班長が手で合図を送る。
進入。
エイルたちは間隔を狭め、一列に近い形で穴へ入った。
数メートル進むと外からの光が急に弱くなり、軍兵が腰に下げていた照明石を起動する。淡い青白い光が周囲を照らし、そこに現れたのは自然洞窟とは明らかに違う壁だった。
大きな石材が規則的に積まれている。
表面には長い年月で水垢や藻がこびりついているものの、部分的には直線的な溝まで残っていた。
エイルは泳ぎながら壁へ視線を向ける。
昨日まで図でしか見ていなかった場所。
今は自分がその中にいる。
胸の奥が少しだけ高鳴った。
けれど、周囲への警戒は緩めない。
壁。
水。
底。
人間の動き。
その向こうに、微かな反応がある。
エイルはすぐ手を上げた。
全員が止まる。
潜水班長がこちらを見る。
エイルは左前方を指してから、指を三本立てた。
三体。
おそらく爪潜り。
距離はまだあるが、こちらへ向かっている。
班長が短く指示を出し、前衛二人とダリオが武器を構える。学院組は中央へ寄り、冒険者の一人が後方を確認した。
数秒後、照明の外で細い影が動いた。
一体目が壁を這うように現れる。
灰白色の胴と六本の脚。
爪潜り。
昨日船へ上がってきた個体と同じ魔物だった。
ただし、今回は水中。
本来の場所にいる。
速さが違った。
一瞬で前衛との距離を詰め、最初の爪を振るう。
軍兵が盾で受けず、身体を横へ流しながら短槍で軌道を逸らし、隣の兵士がすぐ胴へ刺突を入れる。だが外殻で止まり、致命傷には届かない。
二体目が天井側から回り込む。
ダリオが気づき、長槍を突き上げた。
水中用に柄を短くしているとはいえ、動きにはまだ地上との差がある。それでもC級らしく判断は早く、一撃で倒そうとせず接近を止めることに徹していた。
エイルは三体目を追っていた。
まだ来ない。
右奥から大きく回り込み、学院組の背後を狙っている。
エイルは長剣の固定帯を外した。
右肩から引き抜き、身体ごと少し回して刃を前へ出す。
昨日何度も練習した動きが、ほとんど引っかからない。
三体目が視界へ入る。
狙いは学院研究者。
エイルは足元へ短い《衝撃》を入れ、身体を斜め前へ滑らせた。
水を強く弾くのではなく、泳ぐ速度へ一段だけ加える。
爪潜りが前脚を伸ばすより先に、その間へ入った。
正面から長剣を大きく振れば水の抵抗を受けるため、使うのは短い突きだけだった。狙う場所は昨日と同じ、脚と胴の境目にある外殻の薄い部分だが、今回は相手も水中で自由に動くため、狙いを決めてから刺すのでは遅い。
相手が動く前から、その先へ置く。
魔力の流れが脚へ集まり、次の一歩が来る場所を読む。
エイルは剣先を僅かに下げた。
そこへ爪潜り自身が入ってくる。
刃が隙間へ刺さった瞬間だけ《衝撃》を通すと、甲殻の内側で鈍い振動が走り、爪潜りの身体から力が抜けた。
そのまま水底へ沈んでいく。
昨日と同じ一撃。
しかし今回は、水中でほとんど止まらずできた。
エイル自身がその差を感じていた。
続けて一体目へ向かう。
軍兵二人が正面を抑え、脇へ開いたところへエイルが入ると、相手はすぐこちらへ爪を向けた。右、続けて左と振られた二撃を身体ごと後退して避けるのではなく、長剣で爪の先端だけを触って軌道を狭く変え、そのまま空いた胴の下へ潜り込む。
水中だから遅い。
そう思っていた数日前とは違う。
今は相手も、自分も、水の中でどう動くかが見える。
剣先を入れ、《衝撃》を一度だけ通す。
二体目。
残った一体はダリオと軍兵に挟まれ、最後は短槍が口の内側から貫いた。
戦闘が終わるまで、一分も掛かっていなかった。
ダリオが水中眼鏡越しにエイルを見る。
何か言いたそうだったが、水中なので口は動かさず、代わりに親指を立てたあと、すぐに前へ向き直った。
◇
第一空洞の人工壁周辺は、昨日の救助時よりかなり落ち着いていた。
爪潜りの死骸を脇へ寄せ、軍兵が退路へ目印となる魔導杭を打ち込んでいく。学院の研究者は壁面の文字を確認していたが、レイアの指示通りその場で長時間の調査は行わず、位置と状態だけ記録して進む。
エイルは周囲を警戒しながら、人工壁そのものへも意識を向けた。
《振動感知》を使う。
壁の向こう。
空洞。
全部が石で埋まっているわけではない。
「……」
エイルは潜水班長へ近づき、壁の一部を指してから、その向こうへ手を向けた。
空間がある。
班長が近づき、石材を確認する。
学院研究者も加わり、表面の藻を拭った。
そこには細い縦線があった。
自然な割れ目ではない。
扉の境目に近い。
研究者が目を見開き、すぐ記録板へ書き込む。
その時だった。
《危機感知》が反応した。
エイルは振り向く。
後方ではない。
下。
昨日見つかった、第二層へ続くと思われる縦穴の方角から、ゆっくりと何かが上がってきている。
大きい。
ただ、昨日感じた大型反応ほどではない。
エイルが警告すると、潜水班は即座に隊形を組み直した。
全員が縦穴から距離を取る。
数秒後。
暗い穴の中から、青黒い何かが現れた。
最初に見えたのは腕だった。
人間に似た五本指。
しかし大きさは人の倍近くあり、表面を石のような装甲が覆っている。
続いて頭。
顔はない。
ただ、中央に青白い光を放つ一本の線が走っていた。
全身が現れる。
身長は三メートルほど。
人型。
石と金属を組み合わせたような身体。
「魔物じゃない……?」
声には出せないが、エイルはそう思った。
学院研究者の反応も同じだった。
それは生き物の泳ぎ方をしなかった。
縦穴の壁へ片手を触れ、そのまま水中を重さも感じさせず上がってくる。
胸の中央には円形の部品。
内部を流れる魔力が見える。
人が作ったもの。
おそらく遺構の一部。
人型が第一空洞へ入った瞬間、青い線が明るくなった。
次いで右腕がこちらへ向く。
エイルの《危機感知》が一気に強くなった。
潜水班長も察し、全員へ散開を指示する。
直後、人型の掌から水が弾けた。
《衝撃》とは違う。
周囲の水そのものを圧縮し、一方向へ放っている。
軍兵二人が回避した後ろで、人工壁の一部が砕けた。
威力が高い。
「……まずいな」
ダリオの口が動く。
声は聞こえないが、多分そう言った。
人型が今度は前へ出る。
速い。
あの大きな身体で、水の抵抗をほとんど受けていない。
最初に狙われた軍兵が短槍を構える。
人型の拳と槍がぶつかり、槍の柄が大きくしなる。
軍兵が吹き飛ばされた。
隣の兵士が身体を受け止める。
ダリオが横から槍を突き込む。
胸。
硬い外装に当たり、先端が滑った。
人型はそちらへ腕を振る。
ダリオが避けきれず、肩へ掠っただけで大きく流された。
強い。
少なくとも爪潜りとは比較にならない。
エイルは《魔力感知》を広げる。
胸の円。
そこから腕、脚、頭部へ魔力が送られている。
ただし、流れが綺麗すぎる。
魔物のような脈動がない。
魔導具に近い。
なら。
どこかに制御点がある。
人型が二人目の軍兵へ向かう。
エイルは《衝撃》で加速し、その横へ入った。
長剣を斜めに突き出す。
狙いは肘。
関節。
刃が当たる。
硬い。
普通に斬っても通らない。
なら内部。
青鋼の通路へ魔力を送り、刃が関節へ触れた瞬間だけ狭い《衝撃》を通す。
石のような外装の奥で何かがずれた。
人型の右腕が一瞬だけ止まる。
「効く」
エイルは続けた。
今度は膝。
人型が振り向く。
攻撃が来る。
エイルには魔力が先に見えていた。
肩から腕へ流れる。
なら拳。
その前に身体を沈める。
拳が頭上を抜けたところで、人型の横を通過しながら膝裏へ短い突きを入れる。
《衝撃》。
今度は石材の欠片が剥がれた。
人型の姿勢が僅かに傾く。
その瞬間、ダリオが動いた。
さっき弾かれた場所ではなく、エイルが傷をつけた膝へ槍を叩き込む。
軍兵も続く。
二本。
三本。
同じ一点へ。
装甲が割れた。
人型が初めて大きく体勢を崩す。
そこから戦い方が変わった。
エイルが流れを読む。
次の攻撃箇所を避け、関節へ傷を作る。
ダリオと軍兵がそこを広げる。
一人で倒す必要はない。
むしろ、この方が速い。
人型も学習するように動きを変え始め、エイルが関節へ回ると先に腕を引き、逆に水圧を放って距離を取ろうとした。
それを見た瞬間、エイルは一つ気づく。
水圧を撃つ直前。
胸の円形部へ魔力が集中する。
全部。
そこから右腕へ流れる。
「中心か」
次の一撃を待つ。
人型の掌がこちらへ向いた。
胸部へ魔力が集まる。
エイルは正面へ動いた。
潜水班長が止めようとしたが、もう遅い。
逃げるのではなく、射線の内側へ入る。
掌から水圧が放たれる直前、足元へ《衝撃》を二度続けて入れ、身体を一気に斜め下へ滑らせる。
水の塊が背中側を通過した。
距離が縮まる。
胸。
円形部品。
長剣を両手で持つ。
水中で大きく振りかぶらない。
最短の軌道で。
突く。
刃先が円形部へ当たる。
外装は硬い。
それでも。
今までの剣なら無理だった。
今の剣なら、魔力を一つの点まで運べる。
エイルは刀身内部へ一気に魔力を通した。
青鋼が導き。
魔鉄が受け止める。
そして刃先へ集める。
「――《衝撃》」
水中なので声は出ない。
ただ、頭の中で技能名を意識した瞬間、これまでより一段深く魔力が沈んだ。
外へ弾くのではなく。
円形部品の内側だけへ。
衝撃を押し込む。
人型の胸から、青白い光が漏れた。
亀裂。
次の瞬間。
内部で何かが砕けた。
人型の全身から力が抜ける。
腕が落ち。
脚が止まり。
青い線が消えた。
巨大な身体が、ゆっくりと水底へ沈んでいった。
◇
しばらく誰も動かなかった。
完全に停止したことを確認してから、潜水班長がようやく前へ出る。
胸部の亀裂を調べ、学院研究者も近づいた。
エイルは長剣を見た。
刃は無事。
ただ。
今の一撃は明らかにこれまでと違った。
《衝撃》を当てるのではなく、剣を通して敵の中へ送り込んだ感覚がある。
【《衝撃 Lv.15 → Lv.17》】
表示が浮かぶ。
一つ飛ばした。
続けて。
【《魔力操作 Lv.13 → Lv.15》】
【《剣術 Lv.13 → Lv.14》】
【《水中行動 Lv.7 → Lv.9》】
エイルは思わず目を細めた。
もう一段ずつではない。
一度の経験で二つ上がる技能が出始めている。
身体の中にも変化がある。
さっきまで戦っていた時より、水中で姿勢を変える動きが軽い。
剣を戻す。
その動作まで滑らかだった。
ダリオが近づいてきて、エイルの肩を叩く。
かなり強い。
水中眼鏡越しでも、言いたいことは分かった。
お前、本当にD級か。
多分そんなところだろう。
エイルは少しだけ肩をすくめた。
◇
人型の残骸はその場で回収できる大きさではなかったため、胸から割れ落ちた部品だけを学院側が持ち帰ることになった。
ただ、戦闘によって一つ重要な変化が起きていた。
人型が出てきた縦穴の側面。
そこにあった石扉のような部分が、停止と同時に僅かに開いていた。
潜水班長が近づく。
エイルも周囲を探知しながら同行する。
扉の向こう。
細長い通路。
人工物。
さらに。
その先から水が流れている。
自然な水流ではない。
一定。
まるで今も何かが動いているような流れだった。
学院研究者が照明を向ける。
扉の内側へ文字が刻まれている。
昨日解析されたものと似ている。
研究者が写し取る間、エイルはその下にある別の印へ目を止めた。
地図のようにも見えた。
円。
線。
小さな点が複数。
中央に一つ。
外周にいくつも。
研究者も気づき、急いで記録を始める。
しかしレイアから与えられた今日の目的は、第二層へ入ることではない。
潜水班長は迷わず撤収の合図を出した。
エイルも従う。
数日前なら、もう少しだけ先を見たいと思っていたかもしれない。
今も見たい。
けれど、無理に今日行く理由はない。
この場所は消えない。
準備して戻ればいい。
◇
水面へ戻った時、エイルは自分でも驚くほど疲れていなかった。
潜水時間はこれまでで最も長く、その途中では爪潜り三体と、正体不明の人型まで相手にしている。それなのに呼吸は安定しており、装備を外して船へ上がった後も、すぐ立ち上がれる程度には余力が残っていた。
「お前、平気なのか?」
先に上がっていたダリオは肩で息をしている。
「少し疲れました」
「少し?」
「前よりは」
「俺、途中からお前についてくの諦めたぞ」
「でも最後まで戦ってたじゃないですか」
「そういう意味じゃねえ」
ダリオは頭を掻き、水上隊の兵士たちを見た。
何人かがエイルを見ている。
特に、最初の爪潜り戦から一緒だった潜水兵たちの視線には、もう「新人のD級を見る」ような軽さがなかった。
「三日前まで潜れなかった奴が、今日あれ倒すのはおかしいだろ」
ダリオの言葉に、近くにいた潜水兵が普通に頷いた。
「俺もそう思う」
「ですよね」
「お前が同意するな」
エイルは少し笑った。
◇
その日の夕方、調査結果をまとめる会議が開かれた。
人型について学院側は《水門守衛機》という仮称をつけた。魔物ではなく、古い魔導機械である可能性が高く、胸部から回収された部品にも人工的な魔力回路が残っていたらしい。
そして、扉の内側から見つかった図。
それが会議室の机へ大きく書き写されていた。
「湖の形に似てる」
エイルが言うと、フィンが頷いた。
「俺たちもそう思ってる」
円形に近い大きな輪郭。
中央から伸びる複数の線。
外周に配置された小さな印。
「この北側の印が、今日入った《第二管理区》だと仮定する」
学院教授が指を置く。
「西側の三点は、現在確認されている西部水上遺跡の位置と近い。そして、ここ」
東側。
今の地図では普通の湖面しかない場所に、もう一つ大きな印がある。
「未発見?」
「可能性がある」
エイルは地図を見る。
湖の下には。
今日入った場所だけではなく。
もっと広い何かがある。
「湖全体が施設だった、とか?」
フィンが半分冗談のように言ったが、教授は笑わなかった。
「まだ否定できん」
会議室が少し静かになった。
エイルだけは。
その地図を見ながら、目を輝かせていた。
◇
宿へ戻った後、状態板を開く。
【エイル・アーネット】
【Lv.32】
エイルの指が止まる。
昨日は二十九。
一度の調査で三つ。
しかも。
技能の伸び方も明らかに以前とは違う。
【《剣術 Lv.14》】
【《危機感知 Lv.18》】
【《衝撃 Lv.17》】
【《魔力操作 Lv.15》】
【《魔力感知 Lv.14》】
【《振動感知 Lv.10》】
【《水泳 Lv.9》】
【《水中行動 Lv.9》】
数日前に覚えたばかりの《振動感知》が、もう十へ届いた。
感知系の複数技能も上がり続けている。
そして能力値。
【生命 181】
【魔力 216】
【筋力 129】
【耐久 125】
【敏捷 207】
【器用 195】
【感知 289】
敏捷が二百を越えた。
魔力も。
感知は三百が見える位置まで来ている。
数日前、C級冒険者の能力と比べた時には、まだ筋力や耐久で明確に下だった。
今は。
そこまでの差すら、急速に縮まっていた。
エイルはしばらく状態板を見た後、静かに閉じた。
驚きはある。
けれど。
以前ほど長くは止まらない。
今日、湖底で一番強く感じたのは数字ではなかった。
昨日まで難しかった動きが、戦いの途中で急に自然になり、その直後にはさらに次の動きまでできるようになる。
強くなるたび、次に強くなるまでの時間が短くなっている。
なら。
もっと遠くへ行けばいい。
湖底の第二層。
まだ見つかっていない水門。
西部水上遺跡。
その先には、天嶺山脈よりもっと遠い場所だってある。
エイルは机の上へ広げた湖の地図を眺めながら、今日見つかった東側の印へ小さく丸をつけた。
また一つ。
行ってみたい場所が増えた。




