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第119話 選んだ戦場

 エイルが東の第3輸送隊へ加わった時点で、青側14人に対して白側は19人まで増えており、さらに林道脇の岩上には地面への接触を極端に減らして動く曲剣使いがいる。その後方からは赤陣営のレオンまで追いつきつつあるため、単純に目の前の敵を順番に倒そうとすれば、物資車両はその間ずっと足止めされることになる。


 だからエイルは、曲剣使いへ剣を向けながらも相手を倒すことを最初の目的には置かなかった。


「名前、聞いてもいいですか?」


「今それ聞くのか?」


「戦うなら知ってた方がいいかなって」


 岩の上に立つ男は少し笑ったあと、曲剣を片手で回してから答えた。


「第12席、ルカン・フェルド。《飛枝》って呼ばれてる」


 公開情報として知られている主要技能も、近くに設置された演習用表示板へ反映される。


【《曲剣術 Lv.58》】


【《軽業 Lv.63》】


【《歩法 Lv.60》】


【《気配遮断 Lv.45》】


 剣技能だけを見れば現在のエイルよりかなり低いが、先ほどの移動を見れば、ルカンの強さが《曲剣術》だけで決まらないことはすぐに分かる。《軽業》と《歩法》を高い水準で組み合わせ、木の枝、倒木、岩、斜面といった普通なら移動を阻害する地形を、逆に自分だけが使える足場へ変えている。


 エイルが《振動感知》と地面を通した干渉によって戦場を広く使うなら、ルカンは地面から離れることで、その得意分野そのものを薄くしている。


「昨日の夜に考えたんですか?」


「俺だけじゃない。白は昨日のうちに、お前の地面対策をある程度共有してる」


「ちゃんと対策されてるなあ」


「嬉しそうに言うことじゃないだろ」


 ルカンが岩を蹴った。


 エイルへ真っ直ぐ来るように見えた身体は途中で木の幹へ足を掛け、その反発を使って方向を変えると、再び物資車両の御者役へ向かう。


 エイルは追うために地面を蹴ったが、ルカンの方が進路を自由に変えられる。普通に背中を追えば、その間に相手は木から岩、岩から倒木へ移り、自分だけが何度も方向転換を強いられることになる。


 そこでエイルは途中で追うのをやめた。


 代わりに、御者へ向かう最短経路へ先に剣を置く。


 ルカンが木から落ちてくる。


 そこへ長剣。


「追わないのか」


「アルベルトさんに、相手の行く場所を減らす方をかなり教わったので」


「俺、昨日あの人とも戦ってたの見たぞ」


「結構長く付き合ってもらいました」


「その結果を俺が食らうのかよ」


 ルカンは空中で曲剣を長剣へ当て、正面衝突する前に身体を捻った。そのままエイルの剣から逃げるように横へ着地しようとしたが、そこには地面がある。


 エイルは着地地点そのものを大きく揺らさず、土の表面だけを僅かに柔らかくした。


 片足を置いたルカンの踵が数センチ沈む。


 それだけで十分だった。


「うわ、細かいな!」


 完全に体勢を崩すほどではないものの、次の跳躍へ移るまでが一瞬遅れ、その間に青の盾兵2人が車両とルカンの間へ入った。


 エイルはそこから追撃せず、白側19人と青側14人がぶつかっている林道へ視線を移した。


 ルカンを止めるだけでは足りない。


 物資車両を前へ進めなければ意味がない。


     ◇


 青第3輸送隊は林道の狭さを利用して人数差を抑えていたものの、白側も正面だけへ集まっているわけではなかった。


 6人が正面から青の盾列を押し、4人が林道左側の斜面から回り込み、残りは車両の後方へ回るために散り始めている。ルカン自身も正面突破ではなく御者や車輪付近を狙っているため、青側がそのすべてへ対応すれば、護衛人数の少なさがそのまま負担として現れる。


 さらに後ろからレオンが近づいている。


 赤もこの車両を奪える以上、到着すれば青にとって敵がもう1つ増える。


「隊長!」


 第3輸送隊を率いる青の軍人がエイルを見る。


「何だ!」


「車両、止めたまま守るより進めた方がいいです! ここで囲まれると人数差がそのまま出ます!」


「前が塞がってる!」


「そこは開けます!」


 隊長はほんの一瞬だけ考えたあと、すぐ御者へ声を飛ばした。


「車両、前進準備! 道が開いたら止まるな!」


 エイルは正面へ向かった。


 白兵6人が盾と槍を組み合わせて林道を塞いでいるが、昨日までのように全員の足元をまとめて揺らす必要はない。


 最も重要なのは、車輪が通る中央の幅だけ。


 エイルは先頭の盾兵へ向かって走り、正面から大盾へ剣を叩きつけるのではなく、その外縁へ刀身を滑らせて盾の角度を外側へ向けた。


 相手はすぐに戻そうとするが、エイルの筋力は1526あり、さらに《身体強化》まで維持している。力の掛け方そのものでは盾専門の兵士に学ぶ余地があっても、いったん有利な角度を作ってしまえば、純粋な膂力差によって盾を元へ戻させないことはできる。


 その横から槍が来たため、エイルは盾へ押し当てていた剣を一度離し、その戻りの軌道だけで穂先を流した。


 さらに2本目が脇腹へ向かうが、そちらへ剣を戻すより身体を前へ入れた方が早い。


 槍が十分な速度へ乗る前に間合いを潰し、柄へ左手を添えて外へ押しながら、右肩で盾兵の身体ではなく大盾そのものへ圧力を掛ける。


 盾が横へずれた。


 車両1台が通れるほどではない。


 そこでエイルは後ろの青兵へ叫んだ。


「今の盾、右へ押してください!」


「任せろ!」


 青の盾兵3人がすぐに加わり、エイルが作った角度をそのまま広げる。


 自分は次へ移る。


 中央に残った白の槍兵2人が前進を止めようとするため、エイルは片方の穂先を剣で外し、その刀身を戻さずもう一方の柄へ繋げた。


 2本の槍が同時に中央から外れる。


「車両、進め!」


 木製車輪が動き出した。


 白側もすぐに進路へ戻ろうとするが、エイルが全員を処理する必要はなく、青の護衛が空いた場所へ次々に入ることで中央の幅が維持される。


 物資車両がゆっくりと前へ進み始めた。


     ◇


「なるほどな」


 後方から聞こえた声に、エイルは振り返らなくても誰なのか分かった。


 レオンが林道へ到着している。


「今日は本当に戦うことより車両優先なんだな」


「そう言いましたよ」


「昨日なら俺か第12席のどっちかへ食いついてた気がする」


「昨日は昨日です」


 レオンは剣を抜いているが、すぐエイルへ飛び掛かってはこない。


 赤側の兵士も少数ながら後方から近づいており、目的はエイルを倒すことではなく、青の車両を止めることにあるらしい。


 つまり、前には白。


 後ろには赤。


 ここで立ち止まれば本当に挟まれる。


 エイルは第3輸送隊へ向かって声を上げた。


「速度上げられますか!」


「この道じゃ限界だ!」


「なら前だけ開けます。後ろは何人か残せます?」


 隊長が振り返り、レオンと赤兵の数を確認する。


「6人残す! 完全に止める必要はない、車両との距離だけ稼げ!」


 すぐに青兵6人が後衛へ回った。


 レオンを含む赤側を6人で倒せるわけではない。


 しかし、目的は撃破ではなく時間を稼ぐことだ。


 昨日までのエイルなら、レオンへ青兵6人を残すことに不安を覚え、自分も後ろへ戻る方法を考えたかもしれない。


 今回は戻らない。


 6人が引き受けた。


 なら、自分は前へ行く。


     ◇


 ルカンが再び車両の側面へ現れた。


 今度は木の上だけを使わず、青兵の盾の縁へ一瞬足を掛け、そこから御者台へ跳ぼうとしている。


 人間そのものまで足場にする軽業。


 エイルは直接追い掛ける代わりに、御者台の手前へ剣を振り上げた。


 斬るためではない。


 その軌道がある限り、ルカンは予定していた場所へ着地できない。


 曲剣が長剣へ触れ、ルカンは空中で進路を変える。


 着地点は倒木。


 地面ではない。


「これなら揺らせないだろ!」


「揺らさなくても大丈夫です」


「何?」


 エイルは倒木そのものへ《衝界》を通した。


 大きく吹き飛ばすのではなく、木の内部を通して端へ小さな衝撃を送る。


 倒木が僅かに転がった。


 足場が数センチ傾く。


 ルカンはそれでも転ばず、瞬時に重心を変えて別の枝へ跳んだ。


「木までやるのかよ!」


「地面じゃなくても、触れられるものなら多少は」


「聞いてた話より面倒なんだけど!」


 白側が地面対策をしたことで、エイルにも新しい課題ができた。


 土を通すのが最も得意だからといって、そこだけへ頼る必要はない。


 木。


 岩。


 武器。


 盾。


 衝撃が通る媒体は他にもある。


 ただし、どれも地面ほど広く繋がってはいないため、使える範囲は狭い。


 だからこそ、近距離では逆に精度を高めやすい。


 ルカンが木の幹を蹴った瞬間、エイルはその幹へ左手を触れ、《衝界》で内部を走る力を上方へ送った。


 蹴り返されるはずだった反力が僅かに横へ逃げる。


 跳躍方向がずれる。


 そこへ長剣。


 ルカンは曲剣で受けるものの、今度は空中で十分に姿勢を作れていない。


 エイルは力任せに吹き飛ばさず、相手の曲剣へ刀身を滑らせて着地予定地をさらに外側へずらした。


 ルカンは林道の外へ着地する。


 車両から離れた。


「……昨日より地面以外へ手を出すの早くないか?」


「対策されたので」


「対策したら成長材料になるの、本当に嫌だな」


 ルカンは苦笑しながらも、再び走り出した。


 エイルも追う。


 ただし今回はルカン本人ではなく、その先にある車両との間を保つように移動する。


     ◇


 白側の正面部隊が崩れ始めたことで、第3輸送隊は林道を抜けつつあった。


 この先には小さな石橋があり、それを渡れば最初の中継地点まで残り僅かになる。


 白側も当然そこを狙っている。


 橋幅は車両1台と人間2人ほどしか並べないため、入口を押さえられれば再び足止めされる。


 エイルは先に橋へ意識を伸ばした。


 岩盤。


 地面への細かな干渉は難しい。


 さらに白兵4人が橋の向こうへ先回りしている。


「橋の向こうに4人います!」


 隊長がすぐ応じる。


「こっちは前へ何人回せる!」


「5人!」


「エイル含めて6で開ける! 残りは車両を守れ!」


 青兵5人がエイルの後ろへ付く。


 昨日までなら、ここでも自分が先に突っ込んで4人を押し退けていたかもしれない。


 しかし今は、橋上という狭い場所なら青5人を使った方が早い。


「僕が中央の盾だけずらします。開いたら左右をお願いします」


「分かった!」


 橋の向こうにいる白兵4人のうち、中央は盾持ち2人、その後ろに槍兵2人。


 エイルは真正面から走る。


 白の盾兵も構える。


 接触直前。


 エイルは剣を振らず、左側の盾へ手を当てた。


 《衝界》は人体へ入れず、盾表面から縁へ。


 衝撃を横へ逃がす。


 盾の角度が一瞬だけ外側へ向いたところへ、エイル自身の膂力を重ねた。


 白兵が戻そうとするより早く、後ろの青兵2人がそこへ体重を掛ける。


 中央が開く。


 残った青3人が槍兵へ入る。


「進めます!」


 御者が鞭を鳴らし、車両が橋へ向かった。


 そこで。


 後方から強い衝撃音。


 レオン。


 青の後衛6人を抜け始めている。


「エイル!」


 後ろから声が飛ぶ。


 戻れば止められる。


 しかし橋は今、白側の抵抗を受けながら車両が渡り始めたばかりで、ここを離れれば再び塞がれる可能性がある。


 エイルは一瞬だけ後方へ《振動感知》を伸ばした。


 青の後衛6人は全滅していない。


 3人がまだ動いている。


 レオンも車両へ一直線ではなく、その3人に進路を削られている。


 なら。


「そのまま3人で遅らせてください! 橋を渡ったら僕が戻ります!」


「了解!」


 自分が戻らないという判断を、今度は迷わず出せた。


     ◇


 石橋の上でルカンが再び現れた。


 地面の干渉が効きづらい場所を、最初から狙っていたのだろう。


 橋の欄干へ片足を置き、そこから車両の荷台へ跳ぶ。


 エイルは長剣で進路を塞ぐが、ルカンは曲剣を当てて身体を反転させ、今度は荷台ではなく車輪側へ降りようとする。


 そこでエイルは、橋そのものではなく車両を見る。


 木製車輪。


 荷台。


 金属補強。


 全部が繋がっている。


「そっちも使えるか」


「何?」


 エイルは荷台の端へ左手を触れた。


 車両を壊すことは禁止。


 だから出力は小さく。


 木材内部へ《衝界》を通し、ルカンが足を掛けようとしている車輪上部へ僅かな振動だけを送る。


 足場が揺れた。


 ルカンの足が外れる。


 すぐに曲剣を荷台へ引っ掛けて落下は防いだものの、御者へ届く経路は消えた。


「お前、それ車両まで感知の延長にする気か?」


「今思いつきました」


「本当に今かよ!」


 ルカンが曲剣を支点に身体を持ち上げる。


 エイルはその腕へ攻撃せず、曲剣そのものへ自分の長剣を当てた。


 《衝界》。


 刀身へ横方向の衝撃。


 ルカンの曲剣が荷台から外れる。


 本人はすぐに橋の欄干へ着地したものの、車両からは完全に離れた。


 その間にも荷車は進み続ける。


 前輪。


 後輪。


 橋を抜ける。


「渡った!」


 青側から声が上がった。


 第3輸送隊の車両が石橋を越えた。


     ◇


 エイルはそこで初めて後ろへ向きを変えた。


 レオンがもう近い。


 青の後衛3人を完全には倒していないが、その間を抜けながら車両へ追いつこうとしている。


 橋を越えた第3輸送隊には、まだ白のルカンもいる。


 しかしルカンは青の隊長と護衛たちが見ている。


「第12席はお願いします!」


「こっちで止める!」


 隊長の返事を聞いたエイルは、レオンへ向かって走った。


 昨日とは逆。


 今度は自分から。


「やっと来たか!」


「橋を渡ったので!」


「本当に優先順位がはっきりしたな!」


 レオンの剣が来る。


 エイルは長剣で受ける。


 昨日すでに長く戦った相手だからこそ、《戦脈》による適応は最初からある程度進んでいる。


 エイルの剣の入り方。


 《身体強化》時の速度。


 《衝界》で刀身へ干渉する癖。


 レオンはそれらを覚えている。


 最初の接触でエイルが刀身へ《衝界》を流そうとした瞬間、レオンは接触を自分から切った。


「それは昨日とさっきで見た」


「ですよね」


 なら、同じものを通そうとしない。


 エイルは剣を戻す。


 レオンが次に来る。


 斬撃を受ける。


 今度は《衝界》なし。


 純粋な剣。


 レオンが対応を変える。


 そこへエイルは身体を入れる。


 相手は膂力差も知っているため、正面から押し合わず横へ流れる。


 その流れをエイルは追わず、車両とレオンの間へ自分の身体だけを置き続けた。


「俺を倒す気もないのか?」


「車両に近づけなければいいので」


「昨日から本当に変わったな」


「昨日いろいろ教えてもらったので」


「俺はそんなこと教えてないけどな!」


 レオンが笑いながら攻撃の角度を変える。


 それでもエイルは長期戦へ付き合わない。


 剣を受け、進路を塞ぎ、必要なら膂力で位置を戻す。


 レオンが右へ抜けるなら右へ、途中で左へ変えるなら中央へ戻れる余裕を残し、相手が自分を誘って車両から離そうとしても深追いしない。


 アルベルトとの戦いで覚えた剣。


 ローディンから見た身体の使い方。


 ルカンから今まさに学んでいる地形への適応。


 それらが少しずつ繋がっている。


【《剣術 Lv.79 → Lv.80》】


 表示が浮かんだ。


 エイルは一瞬だけ数字を見る。


 80。


 数日前まで52前後だった技能が、合同演習の中で30近く上がったことになる。


 異常な速度。


 自分でも分かる。


 しかし、それ以上に重要なのは、同じ「剣術」という技能の中へ入っているものが以前とは大きく変わったことだった。


 以前は剣を振る。


 斬る。


 受ける。


 そこが中心だった。


 今は相手を動かし、味方の通る場所を作り、自分が立つ位置によって目的を守るところまで剣の一部になり始めている。


     ◇


 第3輸送隊の車両が最初の中継地点へ入った時、演習用の鐘が1回鳴った。


「青第3輸送隊、第1中継地点通過!」


 青側から歓声が上がる。


 レオンがその音を聞いて剣を下げた。


「間に合わなかったか」


「通せました」


「俺が丘でお前を止め切らなかったのも失敗だな」


「止めに来たんじゃなかったんですか?」


「半分は選択を見に来たって言っただろ。お前が全部へ行こうとするなら、そこで捕まえるつもりだった」


 レオンは少し笑いながら、東ではない別方向へ視線を向けた。


「でも、本当に第1と第2を捨てたな」


「捨てたというか、任せました」


「結果、知りたいか?」


 エイルの《振動感知》では、ここまで離れると第1、第2の細かな状況はもう拾えない。


 だから少しだけ気になった。


「どうなってます?」


「第1はガルムがそのまま押し切って、中継地点へ先に入った。第2もジークが赤の追加8人を止めながら進んでる」


 エイルは少し目を見開いたあと、自然に笑った。


「じゃあ行かなくてよかったですね」


「そうなるな」


 それでいい。


 全部へ行かなかった。


 遠隔援護も送らなかった。


 それでも他の2隊は自分たちで進んだ。


 自分が選んだ第3も通した。


 昨日までの「1人で何ヶ所も戦っている」状態とは違う。


 今日は、自分がいない場所まで味方が勝手に進んでいる。


 その方がずっと強い。


     ◇


「で、もう俺と戦う理由なくなったけど、どうする?」


 レオンが剣を軽く持ち上げる。


 エイルは少し考えた。


 強い相手。


 《戦脈》。


 昨日より自分の《剣術》も大きく伸びている。


 本音を言えば、もう一度まともに戦ってみたい。


 ただし、まだ演習は続いている。


「今日はやめときます」


「成長したなあ」


「別に戦いたくないわけじゃないですよ」


「分かってる。それが顔に出てる」


 レオンは笑いながら剣を鞘へ戻した。


 赤陣営の車両も別の場所で動いている以上、ここでエイルと遊び続ける理由はレオン側にもない。


「次は演習じゃない時にやろうぜ」


「その時はちゃんと最後までやりたいです」


「言ったな」


 レオンが赤兵を連れて林道から離れていく。


 白側のルカンも、第3輸送隊が中継地点へ入った時点で無理な追撃をやめ、少し離れた木の上からエイルを見ていた。


「お前、地面以外も使い始めたな」


「まだ全然ですけど」


「次会う時には木の上まで地鳴りさせそうで嫌だな」


「それは地鳴りじゃない気がします」


「細かいことはいい」


 ルカンも白側へ戻っていく。


 東の戦闘が終わった。


     ◇


 その後の2日目は、初日のようにエイルがすべての主要戦場へ駆け回る展開にはならなかった。


 第1輸送隊はガルムを中心に西側を押し切り、第2輸送隊もジークと護衛隊が自力で中央経路を維持し、第3輸送隊だけはエイルが途中から加わって最初の危機を抜けたものの、その後は隊長の判断で経路を変更しながら北へ進んだ。


 エイル自身も、救助目標が近くへ出れば向かい、赤の遊撃が第2輸送隊へ大きく寄った時には一度だけ合流したが、昨日のように「見えたから全部触る」という動き方はしなかった。


 その結果、本人の戦闘回数は1日目より少ない。


 それでも青陣営全体の進行は、昨日より安定していた。


 夕方。


 演習終了を告げる鐘が鳴り、全陣営の得点が集計される。


【合同演習・第2実戦日 最終得点】


【第1位 青陣営 148】


【第2位 赤陣営 139】


【第3位 白陣営 136】


 表示を見た青兵たちから、昨日とは違う歓声が上がった。


「勝った!」


「9点差!」


「第3通したの大きかったぞ!」


 エイルも表示を見上げる。


 昨日は2点足りなかった。


 今日は9点上。


 しかも昨日より、自分が全部をやった感覚は薄い。


「こういう方が勝てるんだな」


 隣にいたジークが聞きつけて笑った。


「お前、ようやく集団戦の結論がそこに来たのか」


「1人の時は全部自分でやるので」


「それはそうだろ」


 少し離れた場所ではガルムも青兵たちに囲まれており、昨日より賑やかな空気が広がっている。


 エイルはその様子を見ながら、ふと空へ視線を上げた。


 演習は終わった。


 軍の高位者。


 戦技席次持ち。


 S級冒険者。


 普段なら簡単には戦えない人間と何度も剣を交え、剣術も感知も戦場の見方も大きく変わった。


 面白かった。


 かなり。


 ただ。


 そろそろ。


 地図を見たい。


 知らない道を歩きたい。


 決められた演習区域ではなく、自分がどこへ行くかも分からない場所へ進みたい。


「どうした?」


 ジークが訊く。


「次、どこ行こうかなって考えてました」


「演習終わった瞬間に?」


「はい」


「中央から呼ばれたりするんじゃないのか?」


「呼ばれるんですか?」


「これだけやったら普通はな」


 エイルは少し考えたあと、遠くに続く西の山並みを見た。


「その前に出たら駄目ですかね」


「……お前、本当にそういう奴なんだな」


 ジークが呆れたように笑う。


 エイル自身には、特別なことを言ったつもりはなかった。


 演習へ参加した。


 終わった。


 なら、また旅へ戻る。


 ただそれだけだった。


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