第118話 使われる側から
合同演習2日目の朝、エイルは目を覚ますとすぐに右腕を軽く曲げ伸ばしし、昨夜試した新しい強化法の影響が残っていないかを確かめた。
《高密度強化》へ《魔力圧縮》を重ね、圧縮状態の魔力を身体内部で一瞬だけ解放したことで生じていた鈍い痛みは、眠っている間にほとんど消えている。拳を強く握っても筋肉や腱に引っ掛かる感覚はなく、魔力を薄く通してみても経路が詰まるような違和感は感じられなかった。
だからといって、昨日と同じ出力を朝から試すつもりはない。
宿舎裏の空き地へ出たエイルは、右腕へ通常の《身体強化》を通したあと、ごく低出力の《高密度強化》を重ね、その内部へ少量だけ圧縮魔力を保持した。
昨日は拳へ最大限の力を乗せることを先に考え、圧縮した魔力を一気に解放した結果、前腕から肩までへ急激な負担が集中していた。しかし、最初から爆発的な出力を求めず、前腕、上腕、肩という順番で圧縮を少しずつほどいていけば、同じ仕組みでも身体へ掛かる負担をかなり減らせる可能性がある。
エイルは右手を握りながら、圧縮魔力の一部だけを前腕で解放し、そこから時間差をつけて上腕、肩へ流した。
昨日のように一瞬だけ筋肉が跳ね上がる感覚はなく、その代わり、身体の内側へ何かを無理に押し込むような圧力もかなり弱い。
「こっちを先に覚えた方がよさそうだな」
高出力を一度出せたからといって、そこからさらに出力だけを上げていく必要はない。《衝界》も《魔力圧縮》も、最初から現在の精度で扱えたわけではなく、低出力で経路や感覚を覚えながら徐々に使える範囲を広げてきた。
今回の複合強化も同じでいい。
まずは身体を傷めずに圧縮魔力を保持できる量を増やし、解放する場所と順番を整え、その先に瞬間的な高出力を置く。
そこまで考えたところで、エイルは数回の確認だけで魔力を抜いた。今日は合同演習2日目が控えており、新しい切り札候補を朝から完成させようとするより、実際の戦場で今ある技能をどう使うかの方が重要だった。
◇
2日目の演習内容が発表されたのは、朝食を終えた参加者たちが西部第2演習場南側の広場へ集まってからだった。
青、赤、白の3陣営に分かれる形式は昨日と同じだが、固定された5ヶ所の拠点を奪い合った1日目とは違い、今日は戦場そのものが動き続ける形式になっている。
「本日の主目標は輸送、護衛、奪取、救助の4種とする。各陣営へ開始時点で3台の物資車両を配備し、指定された中継地点を経由して北部集積地まで運び切れば輸送得点が入る」
説明役の軍人が、昨日より広い演習区域を描いた大型地図へ指示棒を当てた。
「物資車両そのものへの破壊行為は禁止するが、護衛を排除したうえで車両へ30秒間接触し続ければ所有権を奪取できる。また、区域内には時間経過に応じて救助対象が出現し、救出成功、敵車両の奪取、敵指揮札の確保についても個別に加点する」
エイルは説明を聞きながら、地図に描かれた地形へ目を走らせた。
西側には緩やかな丘陵が続き、中央付近には乾いた河床が南北へ伸びている。東側は林が深く、北部へ近づくほど岩場や狭い峡路が増えるため、大人数で同じ経路を使えば簡単に渋滞が起きそうだった。
昨日のように「この拠点を守ればいい」と考えることはできない。
物資車両が動けば護衛も動き、敵もそれに合わせて位置を変える。1台へ戦力を集中させれば他の車両が薄くなり、逆に均等へ分ければ上位戦力を集中させられた場所から崩される可能性がある。
「昨日より面白そうですね」
エイルが地図を見ながら漏らすと、隣にいた青兵が苦笑した。
「昨日2点差で負けた奴の顔じゃないな」
「だから今日は勝ちたいんですよ」
「もう完全に青陣営の人間みたいになってるぞ」
「今日までですけどね」
会話を聞いていたのか、少し離れた場所からガルムが近づいてきた。巨大な戦斧は昨日と変わらないが、今日は背中へ折り畳んだ簡易地図まで括り付けている。
「エイル、説明が終わったら青の指揮所へ来い。今日は昨日と同じ使い方をするつもりはねえ」
「僕のですか?」
「他に誰がいる」
ガルムはそれだけ言うと先に歩き出したため、エイルも少し首を傾げながら後を追った。
◇
青陣営の仮設指揮所へ入ると、昨日より明らかに多くの人間が卓上地図を囲んでいた。
第9席ガルムのほか、昨日中央拠点で全体指揮を取っていた軍人や複数の小隊長が集まっており、さらに1日目の前半でレオンに敗れて戦闘不能となった第18席ジークも、今日は新しい演習日として復帰している。
ジークはエイルの姿を見るなり、長槍を肩へ乗せたまま少し嫌そうに笑った。
「昨日、俺が外から見てる間に随分好き勝手やったらしいな」
「好き勝手ではないと思いますけど」
「中央から南西へ手を出したと思ったら、西へ走って東へ移動して、最後は北西まで行った奴が言う台詞か?」
「必要だったので」
「その返しが一番怖いんだよな」
ジークが呆れたように息を吐く横で、青側の指揮官が卓上地図へ3台の青い車両駒を置いた。
「昨日はこちらも、お前を通常の遊撃戦力として扱っていた。強い敵が現れた場所へ送り、戦線が危なくなれば別の場所へ移すという考え方だ」
「今日は違うんですか?」
「ああ。今日は逆にする」
指揮官は第1輸送隊の駒へガルム、第2輸送隊へジークを示す札を置いたが、第3輸送隊とエイルの駒だけは離したままにした。
「第9席は第1輸送隊、第18席は第2輸送隊へ固定する。第3輸送隊には席次持ちを置かず、お前にも最初から守る車両は決めない。こちらから問題が起きるたびに指示を飛ばすのではなく、戦況を見たお前自身に、どこへ入るべきか選んでもらう」
「かなり自由ですね」
「自由だが、何でも助けに行けという意味ではない」
指揮官の指が昨日の最終得点表へ移る。
「昨日のお前は確かに複数地点へ影響を出したし、実際それで救われた戦線も多い。ただ、最後には北西を守っている間に中央を赤へ奪われた。北西へ残った判断が間違いだったと言うつもりはないが、どこかへ行くということは、その時間だけ別の場所へ行かないと決めることでもある」
エイルは昨日の最後を思い出しながら地図を見た。
北西を守ったからこそ、青はあの拠点を最後まで保持できた。
それでも中央は終了42秒前に赤へ奪われ、白が別目標で得点を積み上げたことで、最終順位は2点差の2位だった。
全部を見ることができても、全部を守ることはできない。
むしろ昨日の後半に覚え始めた「任せる」という判断を、今日は最初から求められている。
「今日は選ぶところまで僕に任せるんですね」
「そうだ。責任は軽くないが、お前なら戦場を見てから決めた方がこちらから細かく指示するより速い」
「やってみたいです」
エイルが即答すると、ガルムが予想していたように鼻を鳴らした。
「ただし、俺たちもお前が来る前提では戦わねえ。第1は俺、第2はジーク、第3にも隊長を置くし、どの隊も自力で目的地まで進むつもりで動く。昨日みたいにお前1人を基準へすると、お前がいない場所から弱くなるからな」
「その方が僕も動きやすいです」
昨日の終盤には、青兵たち自身が《地鳴り》の援護やエイルの警告へ合わせて動くようになっていた。
今日はさらにその先へ進めばいい。
エイルがいなければ何もできない部隊を3つ作るのではなく、それぞれが自力で戦える部隊を作り、その上で最も必要な場所へエイルが加わる。
その方が、1人の強さに頼るよりずっと厄介な集団になる。
◇
もちろん、昨日の内容を分析していたのは青陣営だけではなかった。
赤側の仮設指揮所では、レオンが卓上地図を前にして第11席の雷魔術剣士や第14席の双剣使い、複数の隊長へ昨日の反省を話していた。
「昨日みたいに、エイルを強い奴1人で長時間止め続けるやり方は、今日はあまり得策じゃないと思う」
第11席が露骨に眉を上げる。
「お前が言うと説得力あるな。最初に一番長くあいつ止めてたのお前だろ」
「実際、俺と戦ってる間は中央へ行かせなかったから、足止め自体は成功してる。ただ、その後あいつが抜けた途端、中央を立て直して東へ行って北西まで回っただろ」
「なら、今度はどうする?」
レオンは赤い駒を3方向へ大きく離して配置した。
「1ヶ所へ強い敵を置いて固定するんじゃなく、同時に複数ヶ所へ問題を作る。全部を助けなきゃいけない状態にすれば、どれかは必ず捨てることになる」
第11席が少し考えてから訊く。
「本人を倒すのは優先しないのか?」
「倒せるなら当然狙う。ただ、あいつを倒すことだけに上位戦力を集中させると、昨日みたいに青の他の連中へ自由な時間を渡すことになる。今日の形式なら車両を1台通されるだけでも失点だから、本人を相手にすることが目的になった時点で危ない」
そこでレオンは一度言葉を切り、昨日何度も剣を交えた相手を思い出すように少し笑った。
「それに、多分今日のあいつは昨日より面倒になってる」
「たった1日で?」
「エイル相手にその台詞、昨日の記録を見たあとでも言えるか?」
第11席は何も返さなかった。
否定できる材料がなかったからだ。
◇
一方、白陣営でもエイルへの対策は話題になっていたが、アルベルトは最初から少し違う見方をしていた。
「エイル・アーネットだけを基準に戦術を組みすぎるな。昨日あれだけ目立ったから警戒したくなるのは分かるが、1人へ意識を寄せすぎれば第9席や第18席への対応が薄くなる」
長弓の弦を確かめていたハルドが横目を向ける。
「昨日、中央から北西まで散々邪魔されておいて、それ言う?」
「警戒するなとは言っていない。対策と執着は別だと言っている」
アルベルトは地図上の林道、木橋、岩盤の多い区画を順番に示した。
「土の上では足元への干渉が来る前提で動く。逆に木造足場や岩盤、根が露出した場所なら、あいつも土壌を通す時と同じ精度では触れない。特に遠距離干渉は地面の状態を把握できなければ粗くなるから、昨日と同じように何も考えず地面へ立つ必要はない」
「随分観察してたんだな」
「私も相手から学ぶ。あいつだけが試合中に成長するわけじゃない」
ハルドは少し笑い、弓を背負った。
「16歳のA級相手に、大人が朝から真面目に対策会議してるのは結構面白いけどな」
「昨日の記録票を見てから言え」
「見たから余計に面白いんだよ」
◇
開始を知らせる鐘が鳴ると、3陣営の物資車両がそれぞれ別方向へ動き始めた。
青の第1輸送隊はガルムと共に西側の丘陵路へ入り、第2輸送隊はジークを先頭に中央寄りの乾いた河床を北上する。第3輸送隊は席次持ちを伴わず東の林道へ進み、エイルだけはどの車両にも同行せず、3経路をしばらく感知しやすい低い丘へ向かった。
走りながら《警戒圏》と《振動感知》を広げるものの、昨日のように最初から最大に近い範囲へ高精度の感知を張ることはしない。
各輸送隊の大まかな位置、人数、進行速度だけを薄く保持し、異常が起きた場所へ必要になった時だけ感知の密度を寄せる。
第1輸送隊は丘陵路を予定通り進み、第2輸送隊も乾いた河床を問題なく北上している。林道へ入った第3輸送隊だけは地形の影響で少し速度が遅いものの、現時点では敵の接近反応はなかった。
エイルは丘の上へ着くと、すぐには動かず周囲へ意識を広げた。
「静かすぎるな」
開始直後から席次持ちをぶつけてくる展開も考えていたが、赤も白も大きな戦力を前へ見せていない。《魔力感知》にも強い魔力反応は少なく、むしろ何かを待っているような不自然さがある。
しばらくして最初の接敵が起きた。
第2輸送隊を進めるジークの前方へ赤兵5人が現れ、それとほとんど同時に、第1輸送隊の西側へ赤6人、第3輸送隊の東側へ白7人が近づき始める。
どの場所も今すぐ崩れる人数ではない。
特にジークのいる第2へ5人だけを当てたところで、本気で車両を奪えるとは次の話もお願い考えにくかった。
だからエイルは丘を降りず、敵兵だけではなく、そのさらに外側へ感知を伸ばした。
「僕を動かしたいのかな」
まだ確証はない。
だから動かない。
◇
第2輸送隊では、ジークも同じように敵の少なさを不審には思っていたが、目の前の5人をエイルへ任せる気など最初からなかった。
「エイル、来ると思うか?」
後ろの青兵が訊くと、ジークは長槍を構えながら即座に首を振った。
「来なくていい。5人くらい自分たちで処理できなきゃ、昨日レオンに負けたせいで第18席まで弱いと思われるだろ」
「そこ気にしてたのか」
「多少はな」
赤の盾兵が先頭で踏み込んできたため、ジークは槍を大きく振り回さず、相手が攻撃へ入る直前の位置へ穂先だけを置いた。
そのまま進めば胸元へ穂先が触れるため、盾兵は一度足を止めざるを得ない。
そこへ横から赤の剣士が入り込もうとしたが、ジークは槍を引いて構え直すのではなく、長い柄を回すように石突きを胸当てへ当て、黄色判定を取った。
さらに別の1人が後方へ回り込もうとする動きにも、身体ごと振り返るのではなく槍の中程を持ち替え、長い柄そのものを進路へ置くことで足を止めさせる。
「昨日は相手がレオンだったからな。あれだけ見て俺まで簡単に止められると思われると困る」
ジークは僅かに笑い、盾の外縁へ狙いを絞った。
「《穿点》」
細く鋭い刺突が盾そのものを破壊せず外側だけを正確に叩き、構えをずらされた赤兵へ青の剣士が横から入る。
エイルはいない。
それでも第2輸送隊は止まらず、車両は予定通り前へ進み続けた。
◇
第1輸送隊でもガルムが赤兵6人を正面から押し返し、第3輸送隊では隊長が林道の狭さを利用して、人数で僅かに劣る状況でも白7人を前へ出させていなかった。
3ヶ所の状況を丘から拾ったエイルは、助けに行けばそれぞれ早く片付けられると分かっていても、必要がない以上は動かなかった。
すると、その判断を待っていたかのように追加戦力が現れる。
第1輸送隊のさらに西から10人、第2輸送隊の北側から8人、第3輸送隊の東からは12人が近づき始め、今度はどの輸送隊も最初の敵と合わせれば無視できない人数になる。
それでもエイルは、反射的に最も近い場所へ走ることはしなかった。
追加された敵の足音から装備の重さを読み、《魔力感知》で大きな魔力反応が混じっていないかを確認し、さらに移動速度や隊列のまとまり方まで重ねて、それぞれがどの程度危険なのかを比べる。
第1へ向かう10人は一般兵が中心であり、ガルムを崩せるほどの強い反応はない。第2へ近づく8人も同様で、ジークと護衛隊がいればすぐに車両を奪われる状況ではなかった。
対して第3へ向かう12人の中には、周囲より明らかに速く、接地時間そのものが短い人間が1人混ざっている。
しかも、その足音は途中から何度も消えていた。
土から外れている。
木や岩を使って移動しているらしい。
「東かな」
エイルが第3輸送隊へ身体を向けた、その時だった。
丘の反対側から、人の声が聞こえた。
「正解」
振り返ると、そこにはいつの間にかレオンが立っていた。
エイルは《振動感知》を3方向へ広げていたにもかかわらず、すぐ近くまで来られるまで気づけなかったことに少し驚いた。
「いつからいました?」
「少し前からだ。お前が3ヶ所へ感知を広げて、どれを助けるか考え始めたあたり」
「全然気づかなかった」
「俺も昨日お前と散々戦ったからな。地面へ強く振動を残さず近づくくらいは考える」
レオンが剣を抜く。
昨日、長時間戦うほどエイルの動きへ適応していった《戦脈》の持ち主が、今日は自分から丘の上へ現れた。
赤側の追加戦力にS級級の反応が見つからなかった理由も、これで分かる。
レオン本人は輸送隊を攻めるのではなく、最初からエイルの選択を見に来ていた。
「僕を止める役ですか?」
「半分はな」
「残り半分は?」
「お前がどこを捨てるか見に来た。昨日みたいに全部へ行けると思ってるなら、今日はそう簡単にさせるつもりはない」
エイルはレオンを見ながらも、第3輸送隊へ感知を寄せた。
白の追加12人が林道へ近づき、その中の強い反応もさらに前へ出ている。
第1にはガルムがいる。
第2にはジークがいる。
2人とも、エイルが助けに来なくても自力で輸送を続ける前提で配置された。
ならば、今最も危険な第3へ行く。
昨日なら目の前にレオンが現れた時点で、この相手をどう突破するかだけではなく、第1や第2へ遠隔援護まで送りながら全部を維持する方法を考えていたかもしれない。
今日は違う。
「第1はガルムさんに任せますし、第2もジークさんがいます。僕は第3へ行きます」
「俺がここにいるのに?」
「いるから多少面倒ですけど、目的はレオンさんと戦うことじゃないので」
エイルも剣を抜いた。
正面から何度も斬り合えば、《戦脈》を持つレオンがこちらへ適応する時間を与える。
しかも昨日すでに長く戦ったため、相手はエイルの剣や身体強化について完全な初見ではない。
だから付き合わない。
エイルはレオンへ踏み込み、最初の一合だけ正面から剣を合わせた。
金属音が鳴った瞬間、力で押し切ろうとせず、接触しているレオンの刀身だけへ《衝界》を通す。
人体へ衝撃を入れるのではなく、相手の剣へ横方向の力を流したことで、レオンの切っ先が予定していた位置から僅かに外れる。
その小さな隙間へエイルは身体を滑り込ませた。
「おっ、昨日より割り切ったな」
レオンはすぐに剣を返したが、エイルは2撃目を受けるために足を止めず、《高密度強化》を脚へ短く集中させることで一気に丘を下った。
「今日は戦わないのか!」
「昨日かなり戦ったので、今日はいいです!」
「そう来るか!」
後ろから楽しそうな声が聞こえた直後、レオンも当然のように追い始める。
それでもエイルは振り返らなかった。
自分で第3輸送隊を助けると決めた以上、第1と第2へ余計な遠隔援護を送るつもりもない。
ガルムとジークが任せろと言った。
なら任せる。
その代わり、自分が選んだ東側だけは確実に立て直す。
◇
東の林道へ近づくほど、第3輸送隊の状況が細かく分かるようになった。
青側は車両護衛を含めて14人。
白側は最初の7人へ追加12人が合流しつつあり、単純な人数だけでも19人まで増えている。
さらに問題なのは、追加部隊へ混じっていた強い反応だった。
その人物は他の白兵と一緒に林道を正面から押しておらず、何度も《振動感知》から消えながら、車両の側面へ回り込んでいる。
エイルは走りながら地面だけでなく周囲の木々へ目を向け、ようやく移動経路を捉えた。
男は土の上を長く走っていない。
露出した太い木の根を踏み、倒木の幹へ移り、そこから岩へ跳ぶことで、エイルが最も精密に振動を拾いやすい地面への接触時間を短くしている。
「昨日の対策か」
白側も、ただ同じ戦い方を繰り返しているわけではない。
地面越しに足運びを読まれ、《衝界》や《震圧》で踏み込みを崩されるなら、最初から土へ立つ時間を減らせばいい。
もちろん完全に感知を切れるわけではないが、少なくとも昨日のように足裏から重心移動まで細かく読まれることは防ぎやすくなる。
エイルがその工夫を面白いと感じた直後、上方の枝が僅かに揺れた。
細身の男が木の上から落下してくる。
狙われているのはエイルではなく、物資車両を操る御者役だった。
エイルは走る軌道を少しだけ変え、男が御者へ届くより先に落下地点へ入ると、振り下ろされた短い曲剣へ長剣を合わせた。
刃同士が触れた瞬間、男は正面から押し合わず、エイルの刀身を一瞬だけ足場のように利用して身体を捻り、そのまま横へ跳んだ。
着地したのは地面ではなく、林道脇から突き出した大きな岩の上だった。
「なるほど。そこまで地面を避けるんですね」
エイルが感心すると、男も曲剣を低く構えながら笑った。
「昨日あれだけ好き放題地面を揺らされたら、普通は何か考えるだろ」
装備や動きから見て、白側の戦技席次持ちである可能性は高い。
ただ、まだ名前を名乗るつもりはないらしい。
男はエイルだけを見続けず、その少し後方へ視線を向けた。
丘から追ってきたレオンが、すでに林道の入口まで近づいている。
「S級まで連れてきたのか?」
「僕が連れてきたわけじゃないです。勝手についてきました」
「前にお前、後ろにレオンか。こっちからすると随分嫌な配置だな」
「僕も少し困ってます」
実際、状況は簡単ではない。
正面には地面への対策まで用意してきた白の席次持ちらしき男がおり、後方からは昨日長く戦ったレオンが追いついてくる。林道では青第3輸送隊が人数差によって押され始め、物資車両を止めるために白兵が少しずつ側面へ回り込んでいる。
それでも、昨日のように第1輸送隊や第2輸送隊まで同時に気にする必要はなかった。
そこはガルムとジークへ任せると、自分で決めた。
だから今考えるべきなのは、目の前の2人を相手にしながら第3輸送隊をどう通すか、それだけでいい。
助ける場所を選んだからこそ、捨てた場所へ未練を残さず、選んだ戦場へ必要なだけ力を注げる。
エイルは長剣を握り直しながら、曲剣の男と、その後ろから近づくレオンを順番に見た。
昨日までのように、強い相手が2人いるから2人とも倒す方法を最初に考えるのではない。
この2人をどう動かせば、青の物資車両が先へ進めるのか。
今のエイルが考えていたのは、もうそこだった。




