第108話 奪い返す側
中央拠点を示す旗が白へ変わった直後、戦場では奇妙な空白が生まれていた。
青陣営も赤陣営も、つい先ほどまで互いを押し退けるために戦力を使っていたため、中央広場の内側に残っている人数は白陣営より少ない。しかも白側は占領成立と同時に盾兵を旗の周囲へ集め、北東側から後続部隊まで流し込んでいるため、このまま時間を与えれば防御陣形まで完成する。
アルベルトの言った通り、エイルが剣に集中したせいだけで奪われたわけではない。
ハルドの遠距離支援を受けながら、ほとんど消耗していなかった白陣営が最も良い瞬間に入ってきた。それまで中央で削り合っていた青と赤が簡単に押し返せる状況ではなく、個人の強さだけでひっくり返そうとすれば、再びレオンに足止めされた時と似た失敗を繰り返すことになる。
だからエイルは、アルベルトへ向けていた剣をすぐには振らなかった。
代わりに《振動感知》を広げる。
中央旗の周囲に白が18人。
北東門から追加で9人。
ハルドは広場へ入らず、北側の崩れた壁の上へ移動しつつある。
青は東側に21人ほど残っており、ガルムを含む本隊がさらに後ろ。
赤は南西へ一度引き、第11席を中心に再編し始めている。
人数だけなら、まだ取り返せる。
「アルベルトさん」
「何だ」
「少しだけ待ってもらえます?」
「敵に頼むことではないな」
「ですよね」
エイルが踏み込む。
アルベルトも剣を上げた。
ただし、エイルが狙ったのは騎士本人ではなかった。
剣同士が接触する直前に身体を沈め、アルベルトの右側へ滑り込むように抜ける。騎士は当然追おうとしたが、その進路へエイルが剣を置いたため、ほんの一瞬だけ足を止めざるを得ない。
その一瞬で十分だった。
「ガルムさん!」
エイルの声が中央広場へ響く。
第9席がこちらを見る。
「東から入れます!」
「何を見た!」
「白の盾が北側へ寄ってます。東の内壁が薄いです!」
ガルムは質問を重ねなかった。
巨大な戦斧を担いだまま身体を反転させ、青陣営の兵士へ短く指示を飛ばす。
「東へ寄せろ! 旗はまだ狙うな、まず壁際を空ける!」
青兵が動く。
白側も気づく。
盾兵3人が東へ移ろうとした。
エイルはアルベルトの横薙ぎを受け流しながら、右足から《衝界》を地面へ通した。
狙うのは盾兵本人ではなく、その3人が次に踏み込む位置。
土が僅かに沈む。
先頭が一歩遅れた。
後ろの2人も詰まる。
その間に青側が東壁へ到達する。
「また同時にやるのか」
アルベルトの剣が肩へ迫る。
「そのために練習してます」
エイルは答えながら剣を返す。
受ける。
流す。
そこから終点を作らず、刃をそのまま次の位置へ。
アルベルトが踏み込むなら、その根元。
下がるなら、追うための斜め上。
どちらにも繋げられる位置へ剣を残す。
数分前までなら考えていた。
今は身体が勝手に選び始めている。
◇
北壁の上へ到達したハルドが弓を引いた。
エイルの《警戒圏》が反応する。
標的は自分ではない。
東へ回った青陣営の先頭。
3本。
それぞれ違う兵士。
アルベルトの剣を受けながら、エイルは矢の軌道を拾った。
1本目。
まだ遠い。
2本目も。
3本目だけ速い。
「右前、伏せて!」
叫ぶ。
青兵1人が反応する。
3本目が頭上を抜けた。
残り2本。
片方は盾で受けられる。
最後は。
間に合わない。
エイルはアルベルトへ剣を振る。
騎士が受ける。
ただし、今回は押し込まない。
接触した瞬間に力を斜め上へ逃がし、アルベルトの長剣を自分が望む方向へ僅かに持ち上げる。
そこへ飛来した矢が重なった。
金属音。
矢がアルベルトの剣で弾かれる。
「また私を使ったな」
「一番近かったので」
「2回目は偶然とは言わんぞ」
アルベルトの口元に薄い笑みが浮かぶ。
その直後には、エイルの喉元へ切っ先が迫っていた。
エイルは身体を捻る。
コートの襟が僅かに裂けた。
演習魔道具は黄色。
「有効打!」
監視役の声が響く。
「やっぱり、まだそっちへ意識を割く瞬間が甘いな」
「分かってます」
「なら直せ」
「今やってます」
アルベルトの剣を受ける。
次の矢も拾う。
さらに東側の盾列。
南では赤が動き出した。
情報が増える。
だから減らすのではなく。
処理を短くする。
剣について考える時間を、もっと減らす。
右から来る。
受ける。
それだけ。
次へ。
ハルド。
自分へ1本。
剣を戻す途中で落とす。
アルベルト。
突き。
身体が先にずれる。
東。
白盾兵が青兵を押す。
地面へ1本。
足場をずらす。
南。
赤の第11席が魔術を構築。
青へ撃つか。
白へ撃つか。
まだ分からない。
だから保留。
そのままアルベルトの次へ。
【《剣術 Lv.65 → Lv.66》】
表示が浮かんだが、エイルの目はもう別の場所を見ていた。
◇
青陣営が東側から中央広場へ入り直した。
ガルムは先頭には立たない。
むしろ少し後ろ。
大盾を並べた白兵が青側を止めようとした瞬間だけ、巨大な戦斧を振る。
1撃。
盾兵が吹き飛ぶ。
もちろん演習用に制御されているものの、純粋な衝撃で陣形そのものが後退する。
そこへ青兵が入る。
ガルムは全部倒さない。
穴を開ける。
エイルが今やっていることと似ていた。
「第9席も、ああいう戦いするんだ」
「席次持ちが毎回1人で全部倒していたら、部下は育たん」
アルベルトが答える。
会話しながら剣が来る。
エイルは流す。
「アルベルトさんも?」
「当然だ」
「でも今1人ですよね」
「君が離してくれないからな」
「僕のせいですか」
「今のところは」
アルベルトが踏み込む。
エイルは同時に前へ。
距離が潰れる。
前なら膂力で押していた。
今は剣を短く持ち替え、鍔に近い部分でアルベルトの剣を止める。
身体ごと押さず、右肩だけを僅かに前へ入れる。
支点がずれる。
アルベルトの剣先が外へ。
エイルはそのまま柄頭を胸へ入れようとする。
騎士が半歩ずれた。
「今のはジークか?」
「少し」
「混ざってきたな」
褒められた直後。
アルベルトの左手がエイルの剣を持つ手首へ近づく。
掴まれる前に剣を下げる。
そのまま下段。
アルベルトが避ける。
エイルは追わない。
振り上げた剣を。
上空。
矢。
金属音。
1本落ちる。
剣を下ろす途中で、今度はアルベルトの突きを弾いた。
1本の動き。
途中に3つの目的。
「……なるほど」
アルベルトの目が僅かに細くなる。
「矢を落とす動きまで剣術へ取り込む気か」
「別々にすると遅いので」
「正しい」
そう答えた騎士の剣が、今度はさらに小さく動いた。
エイルの剣が矢を落とした直後、その戻り道へ刃を置いている。
先回り。
剣同士がぶつかる。
「っ」
「ただし、同じ繋ぎを使えばそこも読める」
「はい」
エイルは嬉しそうに答えた。
「なら変えればいい」
「そう来ると思った」
◇
中央では白と青が再びぶつかり始めたが、今度は南から赤陣営も動いた。
第11席が先頭。
ただし、赤は白を攻撃するために青と共闘したわけではない。
中央旗を取るために、最も薄い場所を狙っただけだ。
「《雷走》!」
複数の雷球が白陣営の盾列へ飛ぶ。
盾兵たちが防御を上げる。
その背後へ赤の剣士が入る。
白側が東と南へ分かれる。
人数が散る。
「今」
エイルは小さく呟いた。
アルベルトの剣を受ける。
そのまま《振動感知》で中央広場の接地点を拾う。
青。
赤。
白。
全部混じっている。
前のように敵陣営だけ30人以上の足元を揺らすには、今は密集しすぎている。
なら。
人数ではなく。
場所。
旗の北側。
白陣営が占領判定を維持するため、4人の兵士が旗へ近い位置を守っている。
その周囲には味方が少ない。
エイルは剣を振る。
アルベルトが受ける。
接触した反力を《衝界》で地面へ。
普通なら自分の足元へ逃がすだけの力を、そのまま深い位置へ通していく。
距離。
40メートル。
50。
旗の北側。
4つへ分岐。
身体ではない。
足元から少し外。
発動。
低い地鳴り。
旗の周囲だけ、石床が4方向へ僅かにずれた。
「っ!」
白兵の陣形が開く。
「青、旗へ!」
ガルムの声。
青側の軽装兵が3人、一気に中央へ走る。
白が止めようとする。
そこへ赤も入る。
「赤まで来るのか!」
「旗は誰のものでもないぞ!」
3陣営が同時に旗へ殺到する。
エイルは思わず笑いそうになった。
自分が作った穴なのに、青だけが使えるわけではない。
それも集団戦。
「考えなしに穴を開けると、敵も通る」
アルベルトが言う。
「はい。今分かりました」
「その速さで反省するのはいいが、剣を忘れるな」
斬撃。
エイルは受ける。
次。
流す。
そのまま半歩前へ。
アルベルトが下がる。
初めて。
エイルが明確に前へ押した。
◇
ハルドの射撃が変わった。
今までのように個別の標的を狙うのではなく、中央旗へ近づく者をまとめて止めるため、連続した矢で進路そのものを塞ぎ始める。
地面へ刺さる。
次。
左右。
さらに後方。
矢が壁になる。
「《連環射》!」
刺さった矢同士に魔力が走り、中央へ入ろうとした青兵と赤兵がまとめて足を止めた。
公開戦で見た技能。
地面へ先に矢を置き、後で使う。
今度は攻撃ではなく足止め。
「厄介だな」
エイルは矢を見る。
落とせる。
飛んでいる時なら。
では。
刺さったあとなら。
アルベルトの剣を2度受け、3度目を避けながら、エイルは最も近い矢へ《衝界》を通した。
直接ハルドへ届かせる必要はない。
矢だけ。
地面との接触点へ細い衝撃を入れる。
傾く。
魔力線が歪む。
「……切れる」
なら。
次。
5本。
10本。
一気に全部は狙わない。
魔力網の接続に重要な矢だけを《魔力感知》で探す。
3本。
そこへ衝撃。
1本目が傾く。
2本目。
浮く。
3本目。
地面から抜けた。
《連環射》の魔力が途切れる。
「今だ、入れ!」
青兵が走る。
赤兵も走る。
白が止める。
また混戦。
ハルドが北壁の上からエイルを見る。
距離はかなりある。
それでも。
明らかにこちらを見ていると分かった。
次に放たれた矢は、またエイルだった。
「怒ったかな」
「君は第7席の技能を遠くから潰したんだぞ」
アルベルトが答える。
「普通は嫌われる」
「アルベルトさんも嫌です?」
「私は楽しい」
「同じですね」
「君ほど顔には出していない」
エイルは一瞬だけ笑った。
汗で額へ張り付いた暗灰色の髪を振る暇もないまま、飛んできた矢へ剣を合わせる。
1本。
落とす。
アルベルト。
受ける。
2本目。
矢ではない。
途中で分裂した。
「え」
1本の矢から、魔力で形成された細い副矢が左右へ2本伸びる。
実体は中央だけ。
しかし副矢にも演習判定を出すだけの魔力がある。
3方向。
剣1本。
エイルは避けなかった。
中央の実矢を剣の根元で受け、弾く。
そのまま刀身へ薄く《衝界》。
外側へ力を広げる。
左右の副矢。
魔力構造そのものへ強く干渉するのではなく、接触した瞬間の圧力だけを散らす。
片方が崩れる。
もう片方は残った。
肩へ。
エイルが身体を捻る。
コートを掠める。
黄色。
「有効打!」
「1本残った」
「当然だ」
アルベルトが斬り込む。
「初見で全部落とされたら、第7席が泣く」
「じゃあ次ですね」
「本当にそう考えるんだな」
◇
次は4本。
そのうち2本が途中で副矢を作る。
合計。
8方向。
アルベルトもいる。
周囲もある。
エイルの《近域感知》へ情報が広がる。
以前なら、危険度の高いものだけを残した。
今は全部保持する。
ただし同じ重さでは扱わない。
中央実矢。
高。
副矢。
中。
アルベルト。
最優先。
遠方の味方。
2ヶ所。
地面援護で足りる。
旗。
青が接近中。
白盾2人。
進路をずらせば通る。
判断。
同時。
アルベルトの斬撃を流す。
剣を上へ。
1本目。
落とす。
腕を返す。
2本目。
斬る。
副矢1本を無視。
身体を傾けて避ける。
3本目を剣の腹で外へ。
4本目。
そのまま次の軌道へ。
副矢。
剣先だけ。
1本消す。
残りは避ける。
同時に右足。
《震圧》。
旗近くの白盾兵2人の前だけ地面が鳴る。
踏み込みが止まる。
青兵が間を抜ける。
さらに。
アルベルト。
もう来ている。
エイルは振り終わった剣を戻さず、身体を1回転させながらそのまま下から合わせた。
金属音。
今までより強い。
アルベルトの剣が僅かに浮く。
エイルはそこで力を押し込まず、刀身を滑らせて切っ先を騎士の胸へ向けた。
アルベルトが身体を開く。
剣先が胸当てへ触れる。
黄色。
「有効打!」
2度目。
しかも今度は。
矢を処理し。
味方へ援護し。
その途中で。
アルベルトへ届かせた。
【《剣術 Lv.66 → Lv.68》】
【《近域感知 Lv.58 → Lv.60》】
【《魔力操作 Lv.83 → Lv.85》】
2つ上がった《剣術》の表示を見て、エイル自身が僅かに目を見開く。
「2つ」
「何がだ?」
「いえ」
言わない。
アルベルトの剣が来る。
まだ。
続けられる。
◇
中央旗周辺で青い光が強くなった。
青陣営の兵士が占領圏内へ入り、白側と人数が拮抗したため占領判定が停止したらしい。
まだ奪還ではない。
ただ、白の得点加算は止まった。
「止めたぞ!」
青兵の声が上がる。
ガルムも中央へ近づく。
白側は盾を寄せる。
赤も旗へ。
そこでエイルは別の反応を拾った。
西。
中央から離れる。
青兵5人。
何をしている。
その先。
赤陣営の物資集積所。
「……あ」
エイルが少し笑う。
中央で全員が旗を見ている間に、青の別働隊が赤の物資を狙っている。
ガルムの指示か。
誰か別の判断か。
分からない。
しかし面白い。
全部が中央だけで決まっているわけではない。
「また別の場所を見ているな」
アルベルトが言う。
「ちょっと」
「今度は何をする?」
「何もしません」
エイルは剣を受ける。
「そっちは任せます」
アルベルトの表情が少し変わった。
「それも覚えたか」
「僕が触らない方がよさそうなので」
「いい判断だ」
全部見える。
だから全部へ手を出す。
それではない。
見えていても。
任せる。
必要な場所だけ。
その選択も戦場を扱う力なのだろう。
◇
エイルは中央へ意識を戻した。
旗。
白。
青。
赤。
ハルド。
アルベルト。
今、自分が一番大きく影響できる場所。
「アルベルトさん」
「何だ」
「ちょっと速くします」
「まだ速くなるのか?」
「身体強化、少し上げます」
《身体強化》の出力を一段上げる。
全身を極端に強化するわけではない。
まだ《高密度強化》も使わない。
ただ、これまで維持していた出力より少しだけ深く。
筋肉。
関節。
脚。
肩。
魔力が巡る。
アルベルトの目が変わる。
「来い」
エイルが踏み込んだ。
速い。
だが。
目的は騎士を倒すことではない。
アルベルトが受ける。
エイルは剣を押し込む。
途中で抜く。
もう1度。
今度は逆。
アルベルトが流す。
追う。
3合。
4合。
5合。
速度を上げるほど、アルベルトの《剣術》Lv78が際立つ。
身体能力の差だけでは押し切れない。
剣が最短で戻る。
エイルの強化後の速度に、技術で追いついてくる。
だからこそ。
もっと見える。
どこが違うか。
自分の剣に余る数センチ。
肩が僅かに上がる瞬間。
戻り過ぎる手首。
力で補っていた場所。
1つずつ削る。
アルベルトが受ける。
エイルは振り切らない。
次。
止める。
次。
受け流す。
そこから。
ハルドの矢。
1本。
剣を上へ。
落とす。
戻すのではなく、落とした位置からそのままアルベルトの剣へ。
接触。
騎士の刃が横へ流れる。
その瞬間。
エイルが踏み込んだ。
肩。
剣先。
アルベルトの胸。
騎士が回避。
だが。
回避先も見えている。
複数の可能性。
右。
後ろ。
剣で受ける。
最も濃いのは右。
エイルはそこへ先に剣を置いた。
アルベルトが止まる。
予測を外すため、後ろへ切り替えた。
そこまで。
エイルの感覚へ入る。
剣先を返す。
寸前。
アルベルトが長剣を挟む。
金属音。
今度は有効打にならない。
それでも騎士の表情が変わった。
「……今、2つ先を見たか」
「多分」
「多分か」
「まだ確実じゃないです」
アルベルトが一度距離を取る。
「厄介な少年だ」
エイルの呼吸は少しだけ深くなっている。
暗灰色の髪は汗と風で乱れ、まだ幼さの残る整った顔にも土埃が薄く付いていたが、その目だけは戦い始めた時より遥かに冴えていた。
16歳。
《剣術》は数日前まで52。
今は。
【《剣術 Lv.68 → Lv.69》】
また1つ。
◇
「青陣営、中央占領圏内優勢!」
監視役の声が響いた。
旗の周囲。
青が白を上回る。
あと少し。
白は増援を入れようとする。
北門。
8人。
エイルは感知する。
止める。
いや。
自分で全部止める必要はない。
「ガルムさん! 北から8人!」
第9席がすぐに反応する。
「聞いたか! 槍隊、北を塞げ!」
青の槍兵6人が動く。
それでいい。
ハルドが旗へ狙いを変える。
矢。
4本。
エイルが剣を上げる。
アルベルトがその前へ。
妨害。
「私を忘れるな」
「忘れてません」
なら。
剣でハルドの矢を全部落とすのは無理。
1本目。
アルベルトの剣を受ける。
2本目。
旗へ。
地面。
エイルは《震圧》を旗の手前へ入れる。
石片が跳ねる。
矢が接触。
僅かに逸れる。
3本目。
青兵。
声。
「左!」
避ける。
4本目。
今度は自分。
これは剣。
アルベルトの斬撃を流したその軌道から、振り上げる。
金属音。
落とす。
すべて処理。
アルベルトが笑った。
「本当に忙しい戦い方をする」
「慣れてきました」
「それが怖いと言っている」
その直後。
中央旗が光った。
白。
揺らぐ。
無色。
さらに。
青。
鐘。
1回。
2回。
「中央拠点――青陣営が再占領!」
歓声が上がった。
青兵が剣や槍を掲げる。
ガルムは叫ばない。
すぐに次の指示。
「守りに入るな! 白を北へ押せ! 赤にも旗へ触らせるな!」
奪ったら終わりではない。
維持する。
エイルも剣を下ろさない。
アルベルトがこちらを見る。
「取り返したな」
「はい」
「今度は剣だけ見ていたわけでもない」
「少し分かってきたので」
「それでも私へ有効打を取って、《剣術》まで伸ばした顔をしている」
エイルが少しだけ目を逸らす。
「顔で分かります?」
「分かりやすい」
「そうかな」
「16歳だからな」
アルベルトが笑う。
エイルも僅かに笑った。
そして。
北壁の上。
ハルドが長弓を下ろしていた。
代わりに。
腰から短い片手剣を抜く。
「……弓、やめた」
エイルがそちらを見る。
第7席は北壁から飛び降りる。
《歩法》Lv56。
軽い着地。
そして。
中央へ向かって走り出した。
第11席が遠くで嫌そうな声を上げる。
「第7席が近接に来るぞ!」
エイルは少し驚いた。
「剣も使うんだ」
アルベルトが答える。
「《弓術》67だけ見て、近づけば弱いと思うな」
「《剣術》いくつです?」
「確か40台後半だったはずだ」
「じゃあ結構高い」
「君の基準がおかしくなってきてるぞ」
ハルドが近づく。
アルベルトもいる。
中央拠点は取り返した。
しかし白陣営はまだ撤退していない。
むしろ。
遠距離でエイルへ矢を落とされ続けた第7席本人が、今度は自分から剣の届く距離へ入ってくる。
エイルは新しい長剣を握り直した。
《剣術 Lv.69》。
数日前なら考えられなかった数字。
それでも。
目の前にはLv78の騎士がいて、向こうからは弓だけで戦技席次第7位まで登った男が近づいてくる。
まだ演習初日。
まだ《高密度強化》すら使っていない。
そしてエイル自身も、今の成長速度がこの先どこまで続くのか分かっていなかった。




