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第107話 剣だけで

 白陣営が中央拠点へ入り始めても、アルベルト・クライゼンは急いで前へ出ようとはしなかった。


 王国騎士団第3大隊副長という立場にありながら、その装備には目立つ意匠がほとんどなく、腰から抜いた長剣も一見すれば騎士団で広く使われている制式剣と大差がない。背丈もガルムのように際立って大きいわけではなく、周囲へ威圧するような魔力を放っている様子すらないため、表示された《剣術 Lv.78》を知らなければ、エイルも最初の一目だけでこれほど強く意識したかは分からなかった。


 ただ、歩き方がおかしい。


 右足を出しても身体が揺れず、左足へ重心を移しても肩の高さがほとんど変わらない。剣を持つ右腕にも余計な力が入っておらず、白陣営の兵士が左右を駆け抜ける中でも、その長剣だけがいつでも好きな方向へ動かせる場所へ収まっていた。


 エイルは思わず、自分の足元を見る。


「立ってるだけでも違うな」


「そこから見るのか」


 近くにいた第11席が呆れたように言った。


「剣を見るかと思った」


「剣も見てます。でも、あの人ずっと同じところに身体があります」


「同じところ?」


「重心が」


 第11席も改めてアルベルトを見るものの、すぐには分からなかったらしい。


 その間にも白陣営は前進し、中央拠点の北東側で青と赤の両陣営へ同時に圧力を掛け始めている。ただし、先ほどまで激しく潰し合っていた青と赤も白の接近を見て完全に無警戒ではなくなったため、戦場は一度広がり、3つの陣営が互いに距離を測るような形へ変わっていた。


 その均衡を最初に崩したのは第7席ハルドだった。


 遠距離から中央へ近づきながらも長弓を構え、走りの途中で矢を放つ。


 狙いはエイルではない。


 青陣営の旗を守る盾兵。


 エイルはアルベルトから目を離さないまま、《近域感知》へ入ってきた矢の位置だけを拾った。


 距離。


 角度。


 速度。


 その先にいる味方。


 剣を振るには遠い。


 なら地面。


 右足から《衝界》を1本だけ送り、盾兵が踏み込もうとしていた場所を僅かに隆起させる。


「うおっ?」


 本人が半歩前へ押し出される。


 直後、矢が背中側を抜けた。


「またお前か!」


 遠くから声が飛ぶ。


「すみません!」


 エイルは答えながらも、まだアルベルトを見ていた。


 騎士はその一連の動きを見たらしい。


 視線だけがエイルへ向く。


「君がエイル・アーネットか」


「はい」


「聞いていたより若いな」


「最近それよく言われます」


 アルベルトが少しだけ笑う。


 近くで見ると、年齢は40歳に届くかどうかというところだろう。長く実戦に身を置いてきた人間らしく目元には細い皺があるが、身体には年齢による衰えを感じさせる部分がほとんどない。


「第7席の矢を落としていた少年だな」


「見てたんですか?」


「白陣営だからな」


 当然だった。


 その直後。


 アルベルトが1歩踏み込んだ。


     ◇


 速い。


 ただし、レオンのように突然身体が跳ねたわけでもなく、ジークの《歩法》のような分かりやすい加速もない。


 それなのに。


 気づいた時には剣が近かった。


 エイルは長剣を上げる。


 金属音。


 重くない。


 ガルムの戦斧とも、レオンの剣とも違う。


 アルベルトの剣は、エイルの刀身へ触れた瞬間にはすでに次の方向へ動き始めていた。


 受けた。


 そう思った時には、もう剣が下から戻ってくる。


 エイルは腰を引く。


 切っ先がコートの表面を掠める。


 演習魔道具は反応しない。


 浅すぎる。


「今の戻り……」


 片腕の老人に教わったものと同じ。


 いや。


 完成度が違う。


 剣を振ったあと、戻しているように見えない。


 最初の斬撃そのものが、次の斬撃へ入るための軌道になっている。


 アルベルトが右から振る。


 エイルは受ける。


 今度は剣の根元。


 接触した場所から力を流す。


 しかし。


「そこは駄目だ」


 アルベルトが剣を引く。


 エイルが流そうとした方向へ、最初から力を掛けない。


 接触時間が短い。


 剣が離れる。


 次。


 肩。


 避ける。


 そこから手首。


 エイルの《警戒圏》が連続して反応するが、危険を感じてから動いていては少しずつ遅れる。


「速いというより……止まってない」


 アルベルトの剣には、攻撃と攻撃の間がほとんど存在しない。


 振り切らない。


 無理に戻さない。


 相手へ触れなかった剣さえ、そのまま次の位置へ繋げる。


 エイルも同じことを意識し始めていた。


 ただ、《剣術 Lv.60》になった自分が数日前から掴み始めたものを、目の前の男は何十年も積み重ねている。


「見る余裕があるのか?」


「あります」


「なら、これも見ろ」


 アルベルトが踏み込む。


 今度は一撃が大きい。


 エイルは受けようとして。


 途中で止めた。


 違う。


 大きく見えるだけ。


 力が乗る前に軌道が変わる。


 横。


 エイルが剣を下げる。


 さらに変わる。


 突き。


 《近域感知》へ複数の可能性が広がる。


 右。


 左。


 突き。


 途中で止める。


 その中で最も濃かったのは突き。


 エイルは先に半歩ずれた。


 アルベルトの目が僅かに動く。


 突きは来ない。


「やっぱり」


 途中で変えた。


 レオンほど極端ではない。


 固有技能もない。


 それでも相手の反応を見て、自然に次の剣へ変えている。


 《剣術》だけで。


     ◇


 ハルドの矢がまた来た。


 2本。


 エイルはアルベルトと斬り合ったまま位置を拾う。


 1本は自分。


 もう1本は30メートル後方の青兵。


 自分へ向かう矢は剣で落とせる。


 問題は後ろ。


 地面へ《衝界》を送ろうとした瞬間、アルベルトの剣先が変わった。


「っ」


 魔力操作へ意識を割いた一瞬を狙われた。


 胸。


 エイルは身体を捻る。


 刃がコートへ触れ、演習魔道具が黄色く光る。


「有効打!」


 監視役の声。


 同時に後方。


 矢が青兵へ近づく。


 まだ間に合う。


 エイルは《衝界》を流した。


 足元がずれる。


 青兵が矢を避ける。


 成功。


 しかし、こちらは1発貰った。


「……こうなるか」


 アルベルトが剣を構え直す。


「君は周囲を見すぎる」


「さっきも似たこと言われました」


「悪いという意味ではない。集団戦ならむしろ恐ろしい能力だ」


 次の一撃。


 エイルは受ける。


「ただし、目の前の剣士がそれを許すとは思わない方がいい」


 また剣。


 早い。


 エイルは流す。


「覚えておきます」


「今覚えろ」


 アルベルトが低く踏み込む。


 エイルは一度距離を取ろうとした。


 しかし追われる。


 後ろへ下がるほど、剣先が伸びてくる。


 だったら。


 前。


 エイルは逆に踏み込んだ。


 身体が近づく。


 剣を振る空間が狭くなる。


 これまでなら膂力で押す場面。


 アルベルトはそこも予想していた。


 肩が触れる直前に身体を半身へし、エイルの右腕側へ滑り込む。


 長剣を持つ腕を内側から押さえられる。


「これでは振れない」


「そうですね」


 エイルは剣を手放した。


 アルベルトの表情が初めて大きく変わった。


 落ちる長剣。


 エイルは左手で掴む。


「左?」


「初めてです」


「初めてでやるな」


 左手で横薙ぎ。


 当然、右ほど上手くない。


 アルベルトは容易に避ける。


 だが目的は当てることではない。


 右腕を自由にする。


 エイルは離れながら剣を空中で右へ渡し直した。


 アルベルトが少し笑った。


「剣術とは言い難いな」


「でも使えました」


「それでいい」


 否定されなかった。


     ◇


 そこからアルベルトの攻撃はさらに厳しくなった。


 大技はない。


 派手な魔力もない。


 新しい技能名すら出ない。


 ただ剣。


 ひたすら剣。


 それだけなのに、エイルは今まで以上に剣そのものへ集中させられていた。


 切っ先。


 鍔元。


 柄。


 足。


 腰。


 肩。


 剣が動く前に身体を見る。


 身体が動く前に重心を見る。


 アルベルトの右足が僅かに沈む。


 上段。


 いや。


 その重心なら途中で横へ変えられる。


 エイルは最初から剣を中央へ置く。


 予想通り。


 刃が横へ。


 接触。


 流す。


 今度は振り切らない。


 自分の剣を次の位置へ。


 アルベルトが突く。


 その途中へ差し込む。


 金属音。


 初めて、アルベルトの剣が予定した軌道から外れた。


「今のはいい」


 褒められる。


 次は同じことをさせてもらえない。


 接触前に角度を変えられる。


 なら、その変化も見る。


 エイルの目が動く。


 淡い青灰色の瞳が剣だけでなく、アルベルトの身体全体を追う。


 剣。


 足。


 肩。


 重心。


 次。


 次。


 次。


 少しずつ。


 追いつく。


【《剣術 Lv.60 → Lv.61》】


 表示が入る。


 まだ足りない。


 アルベルトの剣が来る。


 エイルは受ける。


 先ほどより小さく。


 次の斬撃。


 今度は流す。


 剣先を戻さず、そのまま相手の手元へ。


 アルベルトが引く。


「もう直したか」


「見えたので」


「便利な身体だな」


「身体?」


「頭で理解しても、普通はすぐ動けん」


 それは《越境》の影響もあるのだろう。


 見る。


 理解する。


 試す。


 身体へ落とす。


 以前より、その間が明らかに短い。


     ◇


 また矢。


 今度は3本。


 ハルドもアルベルトとの戦闘中だからと遠慮する気はないらしい。


 エイルへ1本。


 青兵へ2本。


 アルベルトも矢の存在へ気づいている。


 それでも攻撃を止めない。


「どうする?」


「落とします」


「全部?」


「できれば」


 アルベルトが踏み込む。


 同時。


 1本目。


 自分へ。


 エイルは剣を上げる。


 アルベルトの斬撃もそこへ重なる。


 別々に受ける時間はない。


 なら。


 エイルはアルベルトの剣を正面から止めなかった。


 刃の腹へ自分の剣を当て、力が進む方向を僅かに上へ変える。


 アルベルトの長剣が浮く。


 そこへ。


 矢。


 騎士自身の剣が矢へ当たった。


 金属音。


「……俺を使ったか」


「ちょうどあったので」


「面白い」


 残り2本。


 後方。


 1人は地面をずらす。


 もう1人は。


 距離がある。


 《震圧》で矢を落とすことはできない。


 なら標的を動かす。


 足元へ短い振動。


 青兵が反射的に体勢を崩す。


 矢が外れる。


「また俺か!」


 先ほどと同じ兵士だった。


「ごめんなさい!」


「後で説明しろ!」


 アルベルトが笑った。


「君、随分嫌な戦い方をするな」


「助けてるだけなんですけど」


「相手からすれば、自分と戦っているのに別の場所へまで手を出される。十分嫌だ」


 レオンにも。


 第11席にも。


 似たことを言われた。


 エイルは少し考える。


 そしてアルベルトの剣を受けながら答えた。


「でも、さっき1回当てられました」


「そこを直すか?」


「はい」


「欲張りだな」


 そう言いながら、アルベルトの攻撃がさらに速くなった。


     ◇


 エイルは周囲への感知を切らなかった。


 それでは意味がない。


 目の前へ集中すればアルベルトとは戦いやすくなる。


 しかし、それはレオンに足止めされた時と同じ失敗を繰り返すことになる。


 なら。


 剣に使う意識を減らす。


 正確には。


 考えなくても剣が動くところまで持っていく。


 アルベルトが右から。


 受ける。


 考えない。


 次の軌道。


 左。


 身体が先に動く。


 遠方で盾列が押される。


 《衝界》。


 足場をずらす。


 その間もアルベルトの剣は来る。


 剣の根元へ当てる。


 流す。


 次。


 ハルドの矢。


 自分へ。


 振り終わった剣をそのまま上へ。


 落とす。


 アルベルトが突く。


 矢を落とした位置から、最短で剣先を下げる。


 間に合う。


 接触。


 次。


 左側で青兵が転倒。


 赤兵が近づく。


 地面。


 揺らす。


 足が止まる。


 その間にアルベルトが肩へ。


 エイルは半歩。


 避ける。


 そこから剣を返す。


 初めて。


 こちらの刃がアルベルトの袖へ触れた。


 黄色。


 演習魔道具が光る。


「有効打!」


 周囲から声が上がる。


 アルベルトが距離を取った。


「……なるほど」


 エイルも止まる。


「何です?」


「君は集中力を分散しているんじゃない」


 騎士が剣を軽く振る。


「処理そのものを並列化し始めている」


 エイルは少し首を傾げる。


「第11席ほどじゃないです」


「彼は術式を複数維持する。君は戦場を複数維持している。似ているようで違う」


 確かに。


 第11席は5つ、7つの魔術を同時に使う。


 エイルは。


 アルベルト。


 ハルド。


 周囲の兵士。


 中央旗。


 味方。


 敵。


 地面。


 それら全部へ意識を繋げている。


【複数戦況への並列処理精度が上昇しています】


【《近域感知 Lv.56 → Lv.58》】


【《魔力操作 Lv.82 → Lv.83》】


【《剣術 Lv.61 → Lv.62》】


 また。


 上がる。


 《剣術》が。


     ◇


 アルベルトが構えを変えた。


 今までより剣先が低い。


 重心も前。


「少し速くする」


「まだあったんですね」


「当然だ」


 騎士の脚へ《身体強化》が巡る。


 ここまで、ほとんど使っていなかったらしい。


 エイルの目が僅かに開く。


「アルベルトさんも?」


「剣だけを見たい顔をしていたからな」


「気づいてたんですか」


「見れば分かる」


 直後。


 距離が消えた。


 剣。


 速い。


 だが、先ほどまで見続けた軌道がある。


 身体能力が上がっても、積み重ねた剣そのものが別物になるわけではない。


 右。


 受ける。


 次。


 左。


 流す。


 突き。


 避ける。


 しかし4つ目が間に合わない。


 エイルの肩へ剣が近づく。


 《身体強化》の出力を上げる。


 速度で補う。


 避ける。


 アルベルトは追う。


 5つ目。


 6つ目。


 今までより明らかに密度が高い。


 それでも。


 見える。


 少しずつ。


 エイルは1歩下がる。


 アルベルトが追う。


 そこで踏み込み。


 戻るのではない。


 前。


 剣同士が接触する直前。


 ガルムから見たもの。


 相手の力が乗り切る前へ差し込む。


 アルベルトの剣が僅かに浮く。


 そのまま自分の剣を下へ戻さず、鍔元を通して横へ滑らせる。


 肩。


 アルベルトが避ける。


 逃げた位置へ。


 エイルはもう次の剣を置いている。


「――」


 騎士の目が開く。


 剣先が胸当てへ。


 寸前でアルベルトの長剣が間に入る。


 防がれた。


 しかし。


 今までとは違う。


 自分から、次の位置へ追い込んだ。


【《剣術 Lv.62 → Lv.63》】


 エイルの口元が僅かに上がった。


「今のいいな」


「自分で言うのか」


「ちょっと分かったので」


「なら続けろ」


 アルベルトの剣が来る。


     ◇


 そこからの数分間、エイルはほとんど技能表示を見る暇すらなくなった。


 ハルドの射撃は止まらない。


 アルベルトの剣速も上がったまま。


 さらに白陣営本隊が中央拠点へ突入したことで、戦況そのものが激しく動き始めている。


 右側では青と白。


 左では赤と白。


 中央旗周辺では3陣営すべてが入り乱れる。


 ガルムは第14席との戦闘を一度切り、第7席の射線を遮るために大きく位置を変えていた。


 第11席は白陣営の魔術師2人を相手にしている。


 エイルはそれらを感知しながら、アルベルトと剣を交える。


 味方が押される。


 地面へ1本。


 援護。


 矢。


 剣で落とす。


 アルベルト。


 受ける。


 別地点。


 魔法陣。


 接続点へ《震圧》。


 崩す。


 戻る。


 アルベルトの突き。


 流す。


 次。


 考える前に身体が動く。


 剣を振る。


 その終点に、次の始点がある。


 そして。


 気づけば。


【《剣術 Lv.63 → Lv.64》】


 さらに。


【《剣術 Lv.64 → Lv.65》】


 短時間で5Lv。


 しかも60を越えてから。


 普通なら異常という言葉でも足りない。


 しかしエイルは、そこに驚くより先にアルベルトの次の剣を見ていた。


 まだ。


 届かない部分がある。


 Lv78。


 数字だけで13差。


 けれど最初に見た時より。


 距離は確実に縮まっている。


     ◇


 アルベルトが突然剣を止めた。


 エイルも追わない。


 周囲では戦闘が続いている。


「どうしました?」


「確認したい」


「何をです?」


「君、《剣術》はいくつだ」


 エイルは少し迷った。


 公開して困るほどではない。


「今65です」


 アルベルトの顔が止まった。


「今?」


「あ」


 言い方を間違えた。


「始まる前は?」


「この演習ですか?」


「今日じゃない。数日前だ」


 エイルは思い出す。


 ローデンへ戻った時。


「52でした」


 アルベルトが何も言わなくなった。


「アルベルトさん?」


「何日だ」


「ちゃんと人の戦いを見るようになってからなら、5日くらい?」


「……5日」


 騎士が初めて、明確に理解できないものを見る顔をした。


「13上がったのか?」


「そうなりますね」


「《剣術》が?」


「はい」


「50台から?」


「はい」


 しばらく沈黙。


 その横を、第7席の矢が飛ぶ。


 エイルは反射的に剣を振った。


 金属音。


 矢が落ちる。


 アルベルトの視線が、その剣へ移る。


「それも、数日前にはできなかったのか」


「多分。こんな数飛んでくることなかったので」


「……そうか」


 アルベルトが長く息を吐いた。


 そして。


 少し笑った。


「なら、まだ教える意味があるな」


「教えてくれるんですか?」


「今は敵だ」


「ですよね」


「だから剣で見ろ」


 構える。


 エイルも構える。


 その時。


 遠くで大きな鐘が鳴った。


 1回。


 2回。


 中央旗の上に白い光が上がる。


「拠点判定!」


 監視役の声。


「中央拠点――白陣営が占領!」


 3陣営の戦闘が一瞬だけ止まる。


 白が取った。


 青と赤が争っていたところへ入り、最後に旗を奪った。


「取られた」


 エイルが呟く。


 アルベルトは剣を下げない。


「君が剣に夢中になった分だな」


「……またやった」


「いや」


 騎士が首を振る。


「今回は違う。君は周囲へ十分手を出していた。それでも取られた」


 エイルが中央を見る。


 白陣営。


 旗。


 ハルド。


 周囲の兵士。


 自分1人が複数の場所へ介入しても、全部を支配できるわけではない。


「これが集団戦だ」


 アルベルトが言う。


「1人で何でもできると思うな。どれだけ強くなってもな」


 エイルはしばらく中央旗を見た。


 そして。


 少し笑った。


「じゃあ取り返します」


「そう来るか」


「演習なので」


 長剣を握り直す。


 髪は汗で少し乱れ、コートにも土が付いている。それでも淡い青灰色の目には疲労よりも、次に何をするか考える時の光の方が強かった。


 アルベルトはその顔を見て、僅かに肩を竦める。


「16歳は元気だな」


「まだ動けます」


「そういう意味じゃない」


 中央拠点は白。


 赤も青もまだ戦力を残している。


 そしてエイルの《剣術》は、わずか数日の間に52から65まで上がった。


 それでも目の前にはLv78がいる。


 まだ上がある。


 まだ知らない。


 だから。


 エイルは再び剣を上げた。


 今度はただ戦うためではなく、奪われた中央拠点を取り返すために。


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