6 死神勇者は鑑定を受ける
ハヤトはローラという名の彼女から、興味深い話をいくつも聞いていた。
鑑定士の場所を聞く前に、まずはこの世界の「スキル」に関する前提知識を叩き込まれる。スキルの仕組みを知らなければ、話にならないからだ。
スキルには大きく分けて常時発動型と任意発動型の二種類がある。
さらに発動には魔力を消費するタイプ、体力を消費するタイプ、あるいはその両方を併せ持つタイプが存在する。
中には、それらとは全く別の「代償」を支払うことで強力な効果を発揮するものまであるという。
要するに、一言でスキルといってもその性質は千差万別なのだ。
そしてスキルの獲得方法もまた一筋縄ではいかない。
基本的には研鑽あるのみ。
体力、経験、技量、戦闘力、魔力量、そして才能。
これらが複雑に絡み合った条件を満たした時、初めてスキルは宿る。
種族ごとに獲得しやすいスキルもあり、鍛え上げた業が、ある日突然「スキル」という形に昇華することもあるらしい。
「だから、自分の適正がある職業を選ばないと、スキルなんて一生身につかないわよ。あんた、そこもちゃんと考えた?」
「……いや、全く」
「はぁ……。自分の適正職業を正確に知るためには、あんたが探してる『鑑定士』の力を借りるしかないわ」
ローラは呆れ顔で溜息をついた。
「ついでに自分のスキルも調べてもらうつもりだけど、その鑑定士ってどこにいるか知ってる?」
ハヤトが尋ねると、ローラはあからさまに目を白黒させた。
「あんた、ほんっとに何も知らないのね! さっきあのデブに騙されかけたのも頷けるわ」
ローラは額に手を当ててしばらく考え込んでいたが、やがてふっと笑みを浮かべた。
「まあいいわ。あのデブを鮮やかにボコしてくれたお礼よ。特別に案内してあげる!」
「ついてきて!」
ローラが慌ただしくギルドを飛び出す。ハヤトは苦笑しつつ、その背中を追った。
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歩くこと数秒。なんと鑑定士の店はギルドのすぐ隣にあった。ギルドを出て右に折れるだけの距離だ。
「俺、こんなすぐ近くの店に金貨一枚払う所だったのか…」
「本当にね。カモにされるところだったわ」
「初めての鑑定だし、中までついてってあげようか? 私が心配だし」
「……いや、いいよ」
ーー嫌な予感するし。
「あらそう。なら私もう帰るからあとは頑張ってね〜!」
「おっけー。マジでありがとうなローラ」
「どういたしまして!」
ローラが「人助けしたわ!」と満足げな顔でブリージュへと溶けていく。
1人残ったハヤトは嫌な予感を感じていた。しかし、鑑定を受けなければ先に進めない。
覚悟を決めて、ドアをノックする。
「すいませーん。鑑定受けにきましーー
バァンッ!
内側からドアが勢いよく開かれた。死神の体は都合よく「すり抜け」を発動し、意識の外からの攻撃すら軽々と回避した。
中から現れたのは、青紫色のフードを深く被った若い女性だった。頭部には二つのとっかかりがあり、覗く八重歯が特徴的だ。猫の獣人らしい。
「あ、ええと。鑑定を受けにきました」
急に現れた女性に少し驚くも、目的はしっかりと伝える。
「...どうぞ。こちらへ」
ハヤトが動揺を隠し、目的を告げる。女性は黙って頷くと、ハヤトを奥の暗い部屋へ誘導した。そこには水晶玉が一つ、置かれている。
「本日は何を占いますか...?運命の人?将来の自分?自分の死因?」
「それも気になるけど!スキルと適正役職を調べて欲しいです」
「なんだつまんない。じゃあこちらの水晶に手をかざしてください」
ハヤトは、指先の骨が露見しないよう慎重に手をかざす。
次の瞬間。
薄暗い空間を塗り潰すような、凄まじい白光が放たれた。光が収まったあと、女性は言葉を失い、滝のような汗を流して立ち上がった。
彼女は傍らにあった分厚い本を、ハヤト目掛けて投げつける。
本はハヤトの体を幽霊のようにすり抜けた。
「し、死、死神...!?」
ーーやっぱバレたか。
ハヤトが感じていた嫌な予感は的中した。
鑑定を受ける以上、やはりバレた。
「死神は15年前、光の勇者の手によって封印された厄災...なんで私の店にいるの...」
ハヤトが補助腕輪で自分のステータスを確認する。???の部分とスキルの詳細が見れるようになっている。
ーーもうここに用はない。
「ギ、ギルドに行かないと...!」
女性が逃げ出そうとしたその時、ハヤトは彼女の腕を掴んだ。
「っ...!」
女性がナイフを取り出し、ハヤトの腕を刺そうとするがすり抜ける。一方、ハヤトは女性を腕を掴んだまま。一方的な干渉が可能なのだ。
ハヤトが頭からフードを外し、不気味な骨の顔を見せつける。
「ああ、そうだ。俺は死神だよ」
女性はもはや呼吸もままならない程のパニックを起こしている。
「でも勘違いしないでほしいな。俺はあんたら異世界人の想像ような殺戮者じゃない。人間を殺すつもりもないし、むしろ大好きだよ」
ーー元人間だし。
「でも、死神であることが広まったら不都合だ」
ハヤトが女性の額に指を当てる。
「だからあんたに"呪い"をかけた。もし俺が死神だったことを他の誰かにバラせば、お前は2度と人として扱われないだろうな」
ハヤトの脅しに、彼女は震えながらその場に崩れ落ちた。ハヤトは冷たい背中を向け、店を後にした。
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店の前で、ハヤトは頭を抱えて座り込んだ。
「……やばい、やりすぎたかもしれない」
ハヤトは正体がバレないよう、少しビビらせるつもりだった。
呪いなんてのももちろんハヤトのハッタリだ。死神の威光を使えば通用すると思ったが、効果は予想以上だった。
太陽は既に傾き、街は夕闇に包まれつつある。死神となったハヤトには、睡眠や食事は不要だ。
それでも、自分の身を落ち着けられる「居場所」が欲しかった。
それに、先ほど鑑定してもらった自分のステータスを、誰の目も気にせずに詳しく確認しておきたい。
とはいえ、この街の宿事情なんて何も知らない。
「仕方ない、聞くしかないか」
ハヤトは通りすがりの人影に目をつけ、軽く手を挙げて歩み寄った。
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ハヤトは通りすがりの男に声をかけ、安宿の場所を尋ねた。礼を言って教えてもらった通りに進むと、街の喧騒から少し離れた路地に、古びた宿屋がひっそりと佇んでいた。
宿の主人は無愛想だったが、金さえ払えば細かいことは聞かないタイプらしく、ハヤトはあっさりと一室を確保できた。
部屋に入り、扉に鍵をかける。ようやく訪れた一人の空間。ハヤトはベッドに腰を下ろすと、補助腕輪で自分のステータスを確認する。
???の部分が明かされた今、彼の役職は二つ。
転生の際、魂に刻まれた"光の勇者"と肉体の持つ"死霊術師"。
ネクロマンサーだ。
鏡に映るハヤトの顔は、相変わらず不気味な骨のままだ。しかし、その瞳の奥には、前世の自分が確かに宿っている。
死神という厄災の力を持つ自分。
光の勇者という人類を導く自分。
ハヤトは考えていた。この世界で、自分はどう生きるのか。
ハヤトは窓の外を見上げた。
ブリージュの街を見下ろす夜空には、見たこともない星々が瞬いている。その美しさに、ふと心が洗われるような気がした。
「……ま、なるようになるだろ」
ハヤトは窓を閉めると、フッと小さく笑った。
運命なんて、自分で切り開けばいい。死神だろうが勇者だろうが関係ない。俺はただ、この広い世界を遊び尽くすだけだ。
「明日はギルドで依頼を受けて、適当にお金を稼ごう」
死神の孤独な夜が明ければ、そこには新しい冒険の日々が待っている。
ハヤトの物語は、まだ始まったばかりだ。




