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5 死神勇者は冒険者になる

ハヤトは街の景色に目を奪われていた。


 異世界に来て初めて目にする本格的な石造りの建物、活気に満ちた人々の声、そして溢れかえる人間の波。


前世ではお目にかかれない派手な髪色や、ケモミミと尻尾を携えた人々。見渡す限りの美男美女。

まるでファンタジー映画の中に迷い込んだかのような光景に、ハヤトの心は躍る。


 道沿いには多くの店が軒を連ねていた。看板の文字は読めないが、武器や防具の意匠が描かれており、何を取り扱っているのかは一目でわかる。


「……最高だ。ここに住もう、絶対!」


 ハヤトは心の中で固く決意した。


「でも、まずはギルドだな」


 テンションは最高潮だが、目的を見失ってはいけない。ギルドで情報収集をし、冒険者として登録するのだ。


 ───────

 大通りを抜けると、他の建物とは一線を画す重厚な構えの建物が現れた。

文字は読めないが、中から漏れ聞こえる騒がしい熱気は、間違いなく「冒険者ギルド」のものだ。


 ワイバーンを倒したハヤトだが、この入りにくい雰囲気には少し気後れする。しかし、ここで立ち止まっては目的が果たせない。

 ハヤトは意を決して、重厚な扉を力強く押し開いた。


ギルドの中はやはりたくさんの人がいた。皆が皆武器と装備を整えている。いかにも冒険者の風貌。酒を酌み交わしている。


中に入り、受付に向かう。そこでハヤトは冒険者達の視線が自分に向けられていることに気がつく。

まるで目利きをしてるような、そんな視線だ。


ハヤトが受付嬢に声をかける。


「すいません、冒険者になりたいんですけど...」


「あ、ああ!冒険者登録ですね!で、ではこちらの書類にご記入をお願いします!」


ハヤトが一枚の紙と羽ペンを受け取る。しかしハヤトは文字が読めない。


「あのーすいません。俺、文字がわかんなくて...口頭でもいいですか?」


そう伝えると、それを聞いた冒険者達が大声で笑う。ギルド内に笑い声が響く。


「ギャハハ!おいおい!あいつ文字も読めないんだとよ!」


「ただの浮浪者じゃねえか!」


「ホームレスだホームレス!」


ハヤトは何故視線を向けられていたのか理解した。ただ単純に、見た目が怪し過ぎたのだ。受付嬢もたどたどしかったのは同じ原因だろう。


ーー先に服を買いに行けばよかった...!


内心で後悔した。


「口頭でも大丈夫です!ではまず、お名前と種族、希望の役職を教えて下さい!」


「...ええと名前は『ハヤト』で。種族は、人間です!」


大嘘である。正直に伝えればここの冒険者全てと戦う羽目になるリスクを考えれば当然だが。


「希望の役職は特にないんですけど、何がおすすめですかね?」


「初心者におすすめなのは剣士、戦士、盗賊、僧侶ですね!魔法使い希望者も多いのですが、やはり基礎知識がないと習得は難しいですね」


「なるほど...じゃ剣士で」


「了解です!では冒険者登録料として銅貨一枚頂きます!」


ハヤトは村人から受け取った報酬袋から、銀貨を二枚取り出して渡した。村人の依頼を受けておいて本当に良かった。内心で胸を撫で下ろす。


「ありがとうございます!ではこちらがハヤトさんの冒険者カードになります!」


受け取ったカードには、当然ながら何が書いてあるのか読めない。ハヤトの希望が刻まれているのだろう。


「最初はFランクですが、依頼をたくさん受ければ評価に伴いランクも上がっていくのでファイトです!」


受付嬢のエールを背に、ハヤトは近くの椅子に倒れ込んだ。

意外と簡単に冒険者になれた安堵感で、深く背もたれに体重を預ける。死神であることがバレないかと、結構神経を尖られせていたのだ。


だがハヤトの目的はまだある。情報収集だ。

鑑定士の居場所を聞き出さなくてはならない。


座ったばかりだが、ハヤトは気力を振り絞って立ち上がり、近くで酒を煽っていたガタイのいい冒険者に声をかけた。


「なぁあんた。ちょっと教えて欲しいことがあってさ」


「ああッ!?テメェオレのジョッキが見えてねぇのか!?酒飲んでんだよ!話かけんじゃねぇ!」


ーーこっわ!?


あまりの威勢の良さにハヤトが一歩引いたその時、男の視線がハヤトの腰にある袋に向けられた。硬貨の触れ合う音に気づいたのだろう、男がニヤリと笑みを浮かべる。


「...嘘だよ!悪りぃなビビらせちまってよ!で、何が知りたいんだ?」


「あ、ああ。鑑定士がどこにいるか聞きたくてさ」


「鑑定士か!そりゃ超重要案件だな!教えてやってもいいがその前に渡すものがあるんじゃねぇか?オレだってただで情報をやるつもりはねぇぞ?」


「それもそうか」


ハヤトが袋を手を入れ、一枚の銀貨を取り出す。


「これでいいか?」


「全っ然足りないな!」


「じゃあこれで頼む。俺にはどうしても必要な情報なんだ」


ハヤトが一枚の金貨を取り出した瞬間、男の目が欲に染まった。男が金貨に手を伸ばそうとした、その時だ。


「ちょっと待ったぁぁ!!」


ある女性が鈍臭い走りで駆け寄って来た。

長い金髪で、魔法使いって風貌だ。右手に杖を持っている。



「そいつに金渡しちゃダメ!」


「ああ!?誰だテメェは!?」


男が怒り狂って立ち上がる。


「うっさいわデブ!たかが鑑定士の情報で金貨なんてあり得ないでしょ!初心者からせしめるなんて、私が許せん!」


「クソアマが!」


ガタイのいい冒険者が女性に拳を振りかざす。瞬間、ハヤトが間に割り込み拳を受け止める。ワイバーンの爪とは違い、浅はかな攻撃。わざわざすり抜ける必要もない。


握った拳を半回転させ、手首の関節を外す。


「グオおおお...!」


ガタイのいい冒険者が地面に伏せて悶え苦しむ。それを見た周りの冒険者が酒を片手に盛り上がる。


「おお!よくやった浮浪者!あのデブすぐ癇癪起こすからウザかったんだよ!」


「受付嬢ちゃんにもセクハラするしな!」


「てかあいつ片手で受け止めてなかった?気のせい?」


ハヤトが女性に振り返り、軽く礼を言う。


「ありがとう。なんか騙されそうだったみたいだね」


「そうよ!私、騙される方が悪い派だけど金貨は流石に度が超えてるわよ!あとあのデブ嫌いだし」


「お礼は酒でいいわよ!」


「...」


「何よ。私のおかげで金貨取られなかったんだし。いいじゃないのよ」


「わかったよ。お礼はさせてくれ」


席に座り、酒を一つ注文する。

ハヤトは今知ったが、金貨、銀貨、銅貨はかなりの差があるらしい。酒二杯で銅貨1枚であった。


「それで、鑑定士のことが知りたいんだっけ?」


「そう。教えて欲しい」


「ふっ。いいわよ……もう一杯奢ってくれたらね!」


「...」


ハヤトは溜息をつきつつ、店員に手を上げた。



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