表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/13

2 死神勇者は依頼を受ける。

ゴブリンと対峙してから訳2日、ハヤトは疲れていた。身体的疲労はゼロだが、問題は精神的疲労。

休む必要も補給する必要とないので、ノンストップで歩き続ける。森の中をただ一人。心細さで人間を探し回ってるハヤト、ストレスが溜まるのは当然とも言える。


「食べたり寝たりのチルタイムが無い分、かなりキツいぞ...」


不便ゆえの楽しみ方があったことを理解する。

それでも西へ歩き続ける。全ては『人間に会うため』に!

───────


さらに5日後、幾千のも山と川を越え、ハヤトはついに発見した。人間の集落を──!


点々と建てられた木造の家、管理が行き届いた畑。

知識がないハヤトにも、ここは辺境の村であることは理解できた。もしかしたらここに鑑定士がいるかもしれない。


「よっしゃ行くぜ!」


早速乗り込もうとしたハヤトだが、棚に上げていた特大の懸念事項を思い出す。今の彼は明らかな人外。魔物と人間が友好的なタイプの異世界の可能性もあるが、ギャンブルはしたくない。できれば人間のていでいきたい。


「これで行くしかないか」


ゴブリンからもらった(カツアゲ)した黒い布切れ。彼の服であり、唯一の所持品。鏡はないが、怪しすぎる見た目なのはわかっている。


ーーそれでも行くしかない!


顔を見られぬようフードを深く被り、ハヤトは意を決して村へ足を踏み入れた。しかし、村に足を踏み入れた瞬間、異様な静けさに気づく。


「誰もいない…?」


1人もいないのだ。廃村ってことはないだろう。畑は手入れされており、家々の窓も開いている。ついさっきまで誰かが生活していたような、そんな生活の匂いすら感じる。


「何が起きてるんだ……?」


不穏な静けさに疑問を感じながら周囲を見渡すと、ハヤトは教会の影に一人の少年を発見した。


……彼、『梶海ハヤト』は、ついに人間を発見したのだ!


異世界でたった一人は孤独そのものだった。

嬉しさのあまり、もし涙腺があれば涙が溢れそうになっていただろう。ハヤトは死神に、しかも勇者として転生したが、中身はただの寂しがりやな男子高校生なのだ。

声をかけようと、ハヤトは布切れの下で腕を広げた。「感動の初対面」という名の抱擁を交わすつもりで。しかし、その少年が木刀を振り上げ、自分に向かって猛然と突進してくることに気づく。


「……え?」


少年は走りの勢いをそのままに、ハヤトの脳天目掛けて木刀を振り下ろした。

ハヤトはそれを、間一髪で、全力で避けた。

もしゴブリンの時のように攻撃をすり抜けさせてしまえば、一瞬で人外(死神)であることがバレる。その危機感が、骨の身体に凄まじい反応速度をもたらしたのだ。


「何すんだガキぃ!」


「うるせー! オレは強くなるんだー!」


少年の再びの振り下ろし。今度は避けずに、肉のない左手でガシッと受け止める。そのまま無理やり木刀を奪い取り、遠くの茂みへ放り投げた。


「で? 誰が強くなるって?」


ハヤトは嘲笑気味に聞き返した。もし表情筋が残っていれば、とんでもなく邪悪な顔をしていただろう。


「くっそ! なんなんだこのおっさん、くそ強ええ!」


「 俺はまだ高2だぞ!せめて成人済みのやつに言え!そういうのは」


ハヤトと少年の、この上なくレベルの低い言い合いが続く。すると、騒ぎを聞きつけたのか、側にある家の窓が勢いよく開いた。

中から顔を出したのは、少年とよく似た顔立ちの若い女性。おそらく少年の母親だろう。

その女性は大きく息を吸い込み、村中に響き渡る声で張り上げた。


「こらあああ!! トース!! あんた何やってんだい!!」


「やべっ! かあちゃんだ!」


少年――トースは脱兎のごとく逃げ出したが、陸上選手を彷彿とさせる見事なフォームで追いかける母親。すぐに追いつかれ、首根っこを掴まれてハヤトの元に連れ戻される。


「トース! あんたって子は、ことあるごとに他所様に喧嘩ふっかけて……迷惑でしょうが! ……ほんっとうに申し訳ありません、うちの馬鹿息子が……!」


母親はトースの頭を押さえつけながら、深々と頭を下げた。


「だってよ、かあちゃん! オレがあの竜を倒せば、村もいつも通りに戻るんだろ!?」


「またそんなこと言って! 一人でワイバーンのところへ向かったら、お尻ペンペン100回よ!」


「ワイバーン……?」


ハヤトが思わず聞き返す。


トースの母親の説明によれば、最近この村の近くにワイバーンが住み着いてしまったらしい。

街への買い出しもままならず、畑仕事も最低限。家畜もすでに何匹か連れ去られたという。

村長がギルドに依頼を出しているものの、冒険者はなかなか現れない。困り果てた村の現状に、トースは我慢できず「俺が倒す!」と息巻いているというわけだ。


ハヤトから見れば、トースの討伐計画など無謀もいいところだ。元気はあるが、ゴブリン相手にすら勝てるか怪しい。


「村長がギルドに依頼したから、冒険者が討伐してくれるらしいんですけどね……中々遅くて。ほんと困った状況なんですよ」


「それは困りましたね」


……冒険者。ハヤトの脳内でその単語が煌めく。

冒険者はハヤトの憧れの象徴だ。依頼を受けて、お金をもらう。絶対に楽しい仕事だと確信させる。


ハヤトの決意は固まった。ここを出たら、冒険者登録ができる場所を探そう。そうすれば今よりは安定した生活を送れるだろうし、絶対に楽しいだろう。


「……なぁなぁ母ちゃん」


トースが母親の服を引っ張り、空気を読まずに爆弾を投下した。


「このおっさん、冒険者なんじゃねえの? ……めっちゃ強えんだぜ! オレの木刀を片手で受け止めやがった」


「えっ!? そうなのですか?」


トースの母親が、期待に満ちた眼差しをハヤトに向ける。


「エッ?」


ハヤトは固まった。もちろん、そんなわけはない。彼は転生して7日程度、ただの寂しがりやな高校生なのだ。否定しようとしたが、トースの母親の期待の眼差しに躊躇してしまう。


その一瞬の間を、トースの母親は肯定と受け取った。期待の眼差しが、一瞬にして深い感謝の眼差しへと変わる。


「お越しいただきありがとうございます、冒険者様! 本当に助かります!」


「いや、違うっ――」


「ワイバーンの巣は、門を抜けて直進です! 数分で着きますよ!」


彼女の声は村中に響き渡った。『冒険者様が来たぞ!』と村は大騒ぎになり、家々から村人が溢れ出してくる。


「冒険者様! あのクソトカゲを追い払ってくれ!」


「なぁなぁ、なんでそんな布被ってんだ? かっこいいな!」


「怪我すんなよ!」


「報酬金は用意してるから気合い入れろよ!」


囲まれ、押し出され、背中を押される。完全に断れる空気ではなくなった。


気がつけばハヤトは、村の門の前に立たされていた。

背後では村人たちの歓声と期待の声。引くに引けない状況の中、ハヤトは自問する。ゴブリン戦で自分の身体能力が異常なことは理解したが、ワイバーンに通用するのか?


「……まぁ、報酬が出るなら悪い話じゃない、か?」


自分への言い訳を作り、ハヤトは小さく息を吐く。今後のための軍資金が必要だと自分を納得させ、ハヤトはフードを深く被り直した。


「……よし! 行くか!」


ハヤトが門を抜け、ワイバーンの待つ道へと直進する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ