第9話 帝国の魔導士――黒き影
改稿・推敲版になります。
「まったく……役に立たぬな」
城から広場に足を踏み入れたローブの男――宮廷魔導士が、淡々と呟いた。その視線の先には、倒れ伏した王国騎士たち。
「たった2人。それも女騎士と……妙な装いの男すら止められんとは」
侮蔑が滲む声。
「これが王国騎士団か、笑わせる」
ゆっくりと歩みながら、倒れた騎士の一人を足で転がす。
「……貴重な魔道具を使ったというのに」
手元を見下ろす。そこには鈍く光る腕輪。
“支配の腕輪”本来ならば将を屈服させ、戦を終わらせるためのものだ。
忠誠心が高い程にその効果は強く発現する魔道具。
宮廷魔導士は、わずかに眉をひそめる。
「……あの男に使ったのは、無駄だったか」
「せめて最後まで、駒として役に立てばよかったものを…」
宮廷魔導士の言葉は明確にリゼルへ向けられていた。
煽るように、踏みにじるように。
リゼルの拳が震える。
「……貴様…貴様が!」
声が低く落ちる。
だが、その言葉が続く前に――
悠真は、すでに動いていた。
戦いは終わっていた。
悠真の周囲には王国騎士たちが倒れている。数にして十数、いずれも致命のみを的確に奪われている。
その手には血に濡れた剣が2本。
呼吸は荒い、肩がわずかに上下している。
だが視線は死んでいない。戦闘状態を維持したまま、次を見据えている。
背後から低い足音。
黒狼が静かに歩み寄る。
全長三メートルの巨体、その体躯はすでに複数の命を喰らったことを物語っていた。
牙には血が残り、呼吸は深い。
それでも動きに鈍りはない。
リゼルは、はっとして後方を振り返る。
城門の方角へ。
そこには――先程まで戦っていた王国騎士と侵入してきた敵兵、その両方が倒れていた。
生存者はいない。戦場としては、完全に終わっている。
「……そんな……」
掠れた声が漏れる。
だが次の瞬間、その感情は怒りへと塗り替えられる。
リゼルは振り返る。ローブの男を睨みつける。
「……何故だ」
剣を握り直す。その切っ先が魔導士へ向く。
「何故、帝国の人間がここにいる!」
声が広場に響く。
怒りも、悲しみも、すべてを乗せて。
宮廷魔導士は、わずかに口元を歪めた。
静かに両手を上げる。
その周囲の空気が歪む。魔力の収束、可視化されるほどの熱量。
「これはな、反乱などではない」
「――侵略だ」
その瞬間、魔導士の周囲で炎の気配が膨れ上がる。熱が一気に広がり、空気が焼ける。
次の瞬間、放たれた。
圧縮された炎の球、一直線にリゼルへ迫る。距離およそ十数メートル、回避を許さない速度。
「――っ!」
リゼルの反応が遅れる。疲労、判断の遅延、回避不能。
だが――その前に悠真が動く。
地を蹴る、強引な踏み込み。
リゼルとの腕を掴む、引く、倒す。
そのまま覆いかぶさり、二人の体勢はほぼ地面と水平、防御としては最低だ。
だが間に合う位置に滑り込んだ。
直後、轟音。炎が炸裂する。
爆発点は先程までリゼルが立っていた位置。
石畳が弾け、破片が飛び、熱風が叩きつける。
遅れて衝撃波、広場全体がわずかに揺れた。
悠真は歯を食いしばる。呼吸が乱れる。肺が熱を拒絶する。
ここまでの連戦、すでに限界に近い。
それはリゼルも同じだった。
立ち上がるまでに生まれる、わずかな“間”
本来なら致命的になる遅れ。
――状況は、明確に悪い。
悠真は視線だけで周囲を走査する。
敵の配置、距離、遮蔽物、退路。
戦うか、退くか、その判断を数秒で組み立てる。
だが――その思考が結論に至る前に、新たな熱が生まれる。
二発目だ。
炎の球、すでに発射されている。距離は同等、だがこちらの体勢が違う。回避動作に移れない、間に合わない。
結論は一つ――回避不能。
悠真は理解する。これは、詰みだ。
思考がわずかに静まる。
死を受け入れる直前の静寂。
その瞬間――黒い影が、悠真の視界を埋めた。
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