第8話 王国騎士団長――最期の命令
改稿・推敲版になります。
悠真はライフルを床へ投げ捨てる。
乾いた音が石畳に響く。
一瞬の静寂。
次の瞬間、距離が詰まる。
敵兵が一斉に踏み込んできた。
「…来い」
低く言い放つと、悠真はナイフを抜く。
最初に飛び込んできた騎士の剣を、半歩の移動で外す。
刃が頬の横をかすめる。腕を掴み、力を加えず勢いだけを流す。
そのまま体勢を崩させ、床へ叩きつける。鈍い音。
落ちた頭へ、踵を叩き込んだ。骨が砕ける感触が足に残る。
二人目は盾を持った騎士。
正面からは行かない。
一歩、左へ。死角へ回り込む。
盾の縁を蹴り上げる。視界が跳ねる。
その一瞬の隙、空いた脇へナイフを突き刺す。
刃が肉を裂き、奥まで沈む。
三人目は槍を持っている。
突き出された穂先を体を捻ってかわす。
踏み込み、懐へ潜り込む。喉へ肘を打ち込むみ、息が止まる音。
「ぐ……ぅ、息……が……」
騎士は息が出来ずに態勢が崩れる。
そのまま喉へ、刃を滑り込ませる。温かい血が手にかかる。
悠真は今までに培った技術を駆使して騎士達と互角以上に渡り合っている。
――そのすぐ横で。
リゼルは団長と剣を交えていた。
ギィンッ、ギィンッ――火花が散る。一撃が重い。押される。
「……団長! 何が起きているのですか、なぜ私を……!」
斬撃を受ける、そして弾く。
「私は貴方の部下です! 共に王国を守ると誓ったはずだ!」
返答はない、ただ剣が来る。
速い、重い、正確すぎる。
「……答えてください!団長!」
踏み込み、刃を打ち合わせる。
だが団長は、一言も発さない。
ただ真っすぐに、リゼルだけを見ている。
その瞳に感情はない。怒りも迷いも躊躇もない。ただ“敵”を見据える視線。
「……違う……! こんなの、団長じゃない……!」
剣戟を受けながら、リゼルは叫ぶ。
「戻ってください……! 」
斬撃は止まらない。
だが、団長の目に――変化があった。
一筋、涙が頬を伝う。
表情は変わらない。無表情のまま、ただ涙だけが溢れていく。
「……っ」
リゼルの動きが止まりかける。
(やっぱり……!何か…!)
リゼルは、団長も本心で自分と戦ってる訳ではないと察する。
団長の剣が、ほんのわずかに鈍る。
一瞬。だが、致命的な隙。
「…団長…!」
リゼルは踏み込み、渾身の力を込めて、刃を弾き上げる。
金属音。団長の右手から、剣が弾き飛ばされる。
わずかな間、二人の間に距離が生まれる。
団長は立っている。無表情のまま。その目から、大粒の涙が溢れ落ちていた。
ぽたり、と石畳に落ちる。
そしてゆっくりと、口元が動く。
――にっこりと笑う。
「……見事だ」
かすかに、確かにそう言った。
リゼルの目が見開かれる。
「……団長――」
その言葉が終わる前に、団長の左手が自身の腰へ伸びる。短剣を抜く。
一瞬。本当に瞬きほどの時間。止める間もない。迷いもない。
そのまま喉へ、突き立てた。
「――っ!!」
鮮血が噴き出す。団長の身体が揺れる。
それでもその顔は、穏やかだった。
崩れ落ちる。石畳へ。音もなく。
「……っ!」
リゼルは剣を落とした。
駆け寄る、膝をつき、倒れた団長の身体を抱き起こす。震える手で、その手を握る。
「…ど…どうして……」
掠れた声。返ってこないとわかっていながら、それでも問わずにはいられなかった。
団長はかすかに目を開く。
焦点の合わない視線が、ゆっくりとリゼルを捉える。呼吸は浅い。途切れ途切れ。
それでも、その瞳にはわずかに意志が戻っていた。
口が動く。声にならない息が漏れる。
「……すま……ない……リゼ……ル……」
リゼルは顔を近づける。その言葉を聞き逃さないように。
団長は最後の力を振り絞り、声を出す。
「……王国騎士団長として……命令する……」
息が詰まる、それでも続ける。
「……王と……王女を……頼む……」
その言葉が落ちる。
次の瞬間、団長の全身から力が抜けた。
手の中の重みが、変わる。
「……っ……」
リゼルの喉が震える。呼びかけようとして、声が出ない。もう、返ってこない。
――そのとき。
城の奥で、重い扉が軋む音が響いた。ギィ、と低い音。
現れたのは、ローブを纏った男。
静かに歩み出る。
その後ろに続くのは、数名の騎士たち。だがその装備は、王国のものではない。
重厚な鎧。異国の紋章。統一された気配。
リゼルの瞳が揺れる。
「……あれは……アルバストロ帝国騎士……」
さらに視線がローブの男へ向く。
「……宮廷魔導士……!」
確信。
ここで、すべてが繋がる。
悠真はその様子を横目で捉え、ゆっくりと息を吐いた。
「……なるほどな」
状況を理解する。
敵は一つではない。
そして――
本命が、現れた。
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