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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第一章 ライラルフ王国の陰
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第6話 騎士――リゼル・アルディア

こちらは改稿・推敲版になります。

石畳の路地裏。

湿った空気に、鉄の匂いが混じる。


悠真は物陰に身を潜め、状況を伺っている


壁際に、女騎士が追い詰められていた。

剣を構えてはいるが、足元は崩れかけている。


銀色の鎧。だが、その表面は傷だらけで、ところどころが黒く焼け焦げていた。


肩当ては片側が割れ、内側の鎖帷子チェインメイルが露出している。


胸当てには深い斬撃の痕。

額から流れた血が頬を伝い、顎から滴っていた。


首元までの銀色の髪は乱れ、血と汗で張り付いている。


それでも――その瞳は死んでいなかった。鋭く、まっすぐに敵を睨んでいる。


その周囲――


転がるのは、味方だったものだ。

鎧ごと断たれた腕。壁に叩きつけられたまま動かない体。


石畳に広がった血が、靴底にまとわりつく。


倒れている者の指が、かすかに震え――

次の瞬間、力なく落ちた。


三人の兵士が、ゆっくりと間合いを詰める。

逃げ場は、ない。


「まだやる気かよ、騎士様」


「剣を捨てろ」


「その前に遊ぶか?」


三人の兵士の下卑げびた笑いが響く。


女騎士は答えない。わずかに体重を前へ乗せる。


そのとき――


悠真は物陰から一歩出た。


三人の兵士に足音を殺しながら近づき、ライフルを前へ回す。


左手で銃身を支えたまま腰の装備に指を伸ばす。


銃剣を引き抜き、そのまま銃口へ装着する。

確かな手応え。固定。一切の無駄がない動き。


カチッ――金属音。乾いた音が路地に響く。


その音に、三人の兵士が一斉に振り向いた。


逆光。傾いた日の光が差し込み、悠真の顔は影に沈んでいる。

輪郭しか見えない。手にしている長い得物。


それを見て、兵士の一人が吐き捨てる。


「なんだ?……やりか?」


「まだ仲間がいたのかよ、ふざけやがって邪魔するな!」


「一人でなにが出来る。見逃してやる!失せろ」


三人の兵士は笑いながら短く吐き捨てる。


手だけを雑に振り、意識は完全に女騎士へ残したまま。


悠真は、無表情のまま立っていた。

揺らぎも、迷いもない。ただ、そこにいる。


「チッ……なんだこいつ?舐めてんのか」


兵士の一人が、剣を引きずるようにして一歩踏み出す。


次の瞬間、ライフルを構える。


一人目。


頭部へ照準を合わせる。

呼吸を止め、そのまま引き金を引く。


乾いた銃声と同時に頭が弾ける。

轟音ごうおんが路地に響き渡る。


「は――?」


理解が追いつかない声。


女騎士の身体がびくりと跳ねる。


は置かない。


反動を押さえ込みながら、ニ人目へ照準を滑らせる。


振り向いた喉元へ、続けて引き金を引く。


ニ発目。


再び轟音。

女騎士の肩が先程よりも強く震える。


弾丸が喉を貫き、血が噴き出す。

兵士は声も出せず、その場に崩れ落ちた。


三人目。


完全に恐怖に染まる。


「な、なんだそれは――」


言い終わる前に、悠真が動く。


踏み込む。

地面を蹴る。一歩で間合いを詰める。


兵士が剣を振り上げる。


遅い。


悠真は身体を低く落とし、その懐へ入り込む。

ライフルの銃床じゅうしょうを、下から上へと振り上げる。


顎へ直撃、鈍い衝撃音。

兵士の頭が跳ね上がる。体勢が崩れる。


その瞬間。


銃剣を突き出す。一直線に、喉元へ。

刃が深く沈み込む、短く息が漏れる。

引き抜く。


兵士は力を失い、崩れ落ちた。


静寂。

わずか数十秒。すべてが終わる。


悠真は銃口を下げ、周囲を一瞥いちべつする。


安全確認。問題なし。


そのまま、視線を女騎士へ向けた。


女騎士は、ゆっくりと顔を上げる。


だが――逆光と疲労でにじむ視界。

そこに立つ男の顔は、やはり見えない。


血の中に立つ影だけが、そこにあった。


耳の奥には、先ほどの轟音が残っている。


女騎士の喉が震える。


「……な、何者だ……」


恐怖の混じった声だった。


「……立てるか」


低く問う。

「敵か、味方か……」


声は弱い。だが、まだ折れてはいない。


「通りすがりだ」


悠真は短く答え、黒狼へ視線をやる。


黒狼は路地の入口を睨んでいた。耳がわずかに動く。


「……今来る連中にとっては敵だ」


複数の足音が近づく。

石を踏む音。装備が触れる音。


悠真は女騎士の腕を掴む。

細い。だが、芯のある筋肉。


無理に引く。

「動け」


「なっ――」


「死にたくなければ従え」

悠真のその一言に、女騎士は息を呑んだ。


石畳の路地の入口、見覚えのある鎧が混じっている。こちらを見つけた瞬間、きびすを返した男。その背を逃がした記憶が残っている。


――門で逃がした兵だ。


仲間を呼びに戻ったか。


足音が重なる。増えている。確実に。


石畳の路地に、十数人の兵士が流れ込もうとしていた。壁に反響し、逃げ場を塞ぐように迫ってくる。


「いたぞッ!」


「あいつだ!」

怒号が響く。


その瞬間、黒狼が低く唸った。


一歩、前へ出る。


漆黒の巨体が、路地を塞ぐように躍り出た。牙が閃く。

先頭の兵士に食らいつき、そのまま地面へ叩きつける。

悲鳴と混乱、黒狼はそのまま群れの中へ飛び込み、数人をまとめて引き受ける。


だが、止まりきらない。


黒狼を避けた兵士たちが、悠真と女騎士へ向かってくる。


悠真は即座にライフルを構える。照準、発砲。


一発がひたいに命中。

崩れる前に次、心臓に一発。

更にもう一発、喉を弾丸が貫通する。


三人が立て続けに崩れ落ちる。

だが、奥からさらに兵士が流れ込んでくる。足音が重なる。途切れない。


「……チッ」


このままでは押し潰される。悠真は即座に判断する。


悠真は左手で女騎士の腕を掴む。


「来い!」


近くの半壊した家屋へ踏み込む。


崩れた窓から突入しガラスの残骸を踏み砕き、そのまま屋内へ滑り込む。


同時に右手で装備に触れる。


手榴弾、その安全ピンを引き抜く。


振り返る。


窓の外、路地。兵士たちが押し寄せてくる。


投擲とうてき

を描き、路地の中央へ落ちる。


「伏せろ!」


悠真は大声で叫びながら、女騎士の体を引き倒し、その上に覆いかぶさる。


次の瞬間、爆音。


凄まじい衝撃。空気が震え、瓦礫が弾け飛ぶ。耳鳴り、粉塵が室内へ流れ込む。


耳鳴りだけが残る。


音が戻るまで、数秒かかった。


やがて、現実が戻る。


悠真はゆっくりと身体を起こす、窓の外。


路地はえぐれ、石畳がめくれ上がっている。兵士の姿はない。


黒狼が血に濡れたまま立っている。残っていた敵も、すでに動かない。


悠真はライフルを構え直し、周囲を確認する。


敵排除クリア


マガジンを外す。目視と重さで残弾を確かめる。


「……二十発」


小さく呟く。


女騎士が息を乱しながら見上げていた。爆音の余韻が、まだ瞳に残っている。


「な……なんだ、その武器は……」


かすれた声。悠真は短く答える。


「遠くの敵を殺せる武器だ」


「魔道具か……?」


悠真は一瞬だけ考える。


否定する理由はない。


「そんなところだ」


女騎士は呼吸を整えながら、ゆっくりと口を開く。


「わ…私はリゼル・アルディア。ライラルフ王国騎士団所属だ。危ないところだった、感謝する」


悠真はわずかに眉を動かす。


――ライラルフ王国

聞き慣れない名が、頭の中に残る。


悠真も簡潔に返す。


「榊原悠真」


「……サカ…キバラ?」


リゼルが一瞬、目を丸くする。


「珍しい響きだな。少なくとも、このライラルフ王国では聞かない名だ」


「俺の故郷じゃ普通だ」


「故郷、か……」

リゼルはわずかに眉を寄せるが、追及する余裕はない。


悠真が問う。


「城は生きてるか」


「わからない。だが、陥ちてはいないはずだ」


悠真はマガジンを差し込み、装填を確認する。


「案内しろ。城まで行く」


短く、断定的に言った。


リゼルは一瞬だけ言葉を失う。すぐに表情を引き締め、悠真を見る。


「……待て。貴様は、何が目的でここまで戦う」


問いは鋭い。だが、声にはわずかに迷いが混じっている。


悠真は視線を外し、崩れた路地の先を見る。


「罪滅ぼしだ…」


一瞬だけ、視線が落ちる。


それ以上は言わない。


この街の人間は無関係な存在だ。縁もない。義務もない。それでも、彼は命を賭けて踏み込む。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

この作品や題材が面白い、つづきが読みたいと思ってくださればブックマークや率直な評価をお願いします。

励みにさせて頂きます。

指摘に関しても自分の作品に反映させて頂きます。

後書きまでお付き合い頂きありがとうございました。

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