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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第三章 交錯する思惑
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第49話 白銀の再臨

リゼルの剣が弾かれた。

甲高い金属音が響き、リゼルの身体が数歩後ろへ押し戻される。

「ぐっ……!」

八雲は間髪入れず地面を蹴った。長剣が一直線にリゼルの喉元を狙う。

「させるか!」

フェリナが割って入り、剣で受け止める。激突の衝撃で足元の石畳が砕けた。

「なんという力……!」

フェリナは押し返す暇もない。

眩い光が八雲の右手を包み込み、長剣は一瞬で槍へと姿を変えた。

「また武器が……!」神崎が目を見開く。

八雲は迷いなく槍を突き出す。フェリナが身を捻ると穂先は頬を掠め、そのまま背後の石壁へ突き刺さった。

轟音と共に石壁が崩れ落ちる。

「相手は一人だぞ……」

悠真は舌打ちした。誰も止められない。

「レフィル!」ガルフが振り返る。

レフィルの呼吸はさらに荒くなっていた。守護樹へ魔力を送り続ける身体は限界に近い。

「もう十分だ! これ以上は身体が保たない!」

ガルフの叫びにも、レフィルは首を横へ振る。

「止めれば……王都が……」

その声は弱々しかった。それでも魔力だけは流し続けている。

エリシアはその姿をじっと見つめていた。

胸が痛む。涙が溢れそうになる。

レフィルのその懸命な姿に。

ライラルフ王国もこのように蹂躙されたかのかとエリシアがそう考えた時。

頭の奥で、白銀の光景がよぎる。

崩れた遺跡、眠る白竜。

『……貴方様が……』

「……え?」

エリシアは胸を押さえる。誰かが呼んでいる。遠く、とても遠くから。

しかし、その正体だけは思い出せなかった。

その時、レフィルの身体が崩れ落ちる。

「レフィル様!」

フェリナが咄嗟に抱き留める。

王都中で暴れていた守護樹の根が、一斉にその動きを鈍らせた。

松岡が口元を吊り上げる。

「終わりだ」そう静かに呟く。

八雲は迷いなく地面を蹴った。

狙いはレフィル。

フェリナが立ち塞がろうとする。だが、先程までの衝撃で身体は思うように動かない。

「レフィル!」

ガルフが叫ぶ。

リゼルも剣を構えるが、間に合わない。

悠真はライフルを向ける。だが、撃てない。

フェリナの背中が射線を塞いでいた。

「くそっ……!」

誰も間に合わない。

八雲の得物が振り上げられる。

その光景を見た瞬間だった。


――嫌だ。

エリシアの胸の奥から、その一言だけが込み上げる。

もう見たくない。誰にも、死んでほしくない。

その瞬間、世界から音が消えた。

風が止み、炎も止まる。

舞い上がっていた土煙も。

空中へ飛び散っていた石片さえ、その場で静止している。

「……え?」

エリシアはゆっくりと顔を上げた。

誰も動いていない。

八雲も、悠真も。

フェリナも。

まるで時間そのものが止まったようだった。

「これは……」

静かな声が響く。

エリシアが振り返る。

そこには、一頭の白銀の竜が佇んでいた。

巨大な翼、白竜はゆっくりと瞼を開く。

蒼銀色の瞳。

神々しいまでの白銀の鱗。

遺跡で薄っすら記憶に残るその姿。

「あなたは……?」

白竜は静かに瞳を細めた。

『貴方の呼びかけに答えたのです』

低く、それでいて優しい声が、直接エリシアの意識へ響く。

『我が主よ』

「……え?」

エリシアは息を呑む。

「……主?」

思わず一歩後ずさる。

「ま、待ってください……あなたは誰なんですか?」

白竜は穏やかにエリシアを見つめる。

『私は白銀竜エルヴァリオン』

「エル……ヴァリオン……」

聞いたことのない名前。

それなのに、不思議と胸の奥が温かくなる。

「どうして……私を主なんて呼ぶんですか?」

エリシアは首を横に振る。

「私はそんな人じゃありません。ただの人間です。」

白竜は静かに目を細めた。

『やはり……貴方様は覚えておられないのですね』

「覚えていない? どういう事ですか?」

『それも無理はありません。貴方様は自ら、その記憶を封じられたのですから』

エリシアの瞳が大きく揺れる。

「私が……?」

『世界を存続させる為に』


◆


「世界を……存続させる?」

エリシアは呆然と呟いた。あまりにも話が大きすぎる。

自分が記憶を封じた?世界を存続させるために?

エリシアは、何一つ理解出来なかった。

「待ってください……私には、何のことか……」

エルヴァリオンは答えない。

ただ静かに、エリシアを見つめていた。

その時、エリシアの視界に動きを止めたレフィルの姿が入る。

フェリナに抱き留められ、力なく身体を預けている。

そのすぐ前には、武器を振り上げた八雲。

この止まった世界が動き出せば、どうなるのか。

考えるまでもなかった。

「……レフィル様」

エリシアは拳を握り締める。

自分が何者なのか。

エルヴァリオンが何を知っているのか。

聞きたいことはいくらでもあった。

だが――今は違う。

エリシアはエルヴァリオンへ顔を向けた。

「あなたなら……レフィル様を助けられるんですか?」

『可能です』

迷いのない返答だった。

エリシアの表情が変わる。

「だったら、お願いします!」

エルヴァリオンは動かない。

「……どうしたんですか?」

エリシアの声が強くなる。

「このままではレフィル様が殺されます! この王都だって……たくさんの人が!」

『だからこそ、貴方様がお決めになるのです』

「私が……?」

エルヴァリオンは巨大な頭をゆっくりと下げた。

蒼銀色の瞳が、エリシアと同じ高さまで降りてくる。

『私は貴方様の眷属。貴方様の意志なく、この世界へ力を振るうことはありません』

エリシアは言葉を失った。

「でも……私は何も覚えていません」

『記憶など必要ありません』

「え……?」

『あの時の貴方様も、今の貴方様も――根にあるものは変わっておられない』

エリシアの瞳が揺れる。

エルヴァリオンは静かに続けた。

『故に私は、再び問いましょう』

白銀の粒子が、二人の周囲へ浮かび始める。

一つ、また一つ。

やがて無数の光となり、止まった世界を満たしていく。

『貴方様は、何を望まれますか?』

エリシアは振り返った。

剣を握るリゼル。

必死に銃を構える悠真。

叫んでいるガルフ。

傷ついたフェリナ。

そして、その腕の中で倒れているレフィル。

さらにその向こうには、燃え続けるエルフの王都がある。

エリシアは目を閉じた。

自身の故郷――ライラルフ王国は、帝国によって蹂躙された。

だが、その時エリシアは既に帝国へ連れ去られていた。

燃える城も、逃げ惑う民も。

最後まで国を守ろうとした者たちの姿も。

何一つ見ることは出来なかった。

だからこそ、今目の前で必死に国を守ろうとするレフィルの姿が胸に刺さる。

同じ王族として。

国を守ろうとする者として。

レフィルには戦うことが出来た。

だが、自分にはそれさえ許されなかった。

「……もう」

エリシアの手が震える。

「もう、同じ思いを誰かにしてほしくありません」

ゆっくりと目を開く。

涙を浮かべながら、それでもエルヴァリオンを真っ直ぐ見つめた。

「レフィル様を助けたい」

一歩、前へ出る。

「そして、ここにいる皆を……この国の人たちを助けたい」

エルヴァリオンの瞳が僅かに細められた。

『それが、貴方様の望みですか?』

「はい」

今度は迷わなかった。

「私が何者なのかは分かりません。あなたの言う“主”が誰なのかも、世界を存続させるっという意味も……何も分かりません」

エリシアは胸元を強く握る。

「でも――」

エルヴァリオンを見上げる。

「目の前で誰かが死ぬのを、黙って見ていることだけは嫌です」

しばらくの沈黙。

やがてエルヴァリオンは、ゆっくりと頭を垂れた。

それはまるで――王へ忠誠を誓う騎士のようだった。

『――承知いたしました』

白銀の光が一気に強くなる。

『ならば再び、我が力を貴方様のために』

エルヴァリオンの身体から、白銀の光が溢れ出した。

『そして――かつて貴方様から預かった力を、お返しいたします』

「え……?」

白銀の粒子がエリシアの周囲を包み込む。

その光はゆっくりと胸元へ集まり、身体の奥へ吸い込まれていった。

「これは……」

『恐れる必要はございません』

エルヴァリオンは静かに瞳を細める。

『本来、貴方様のものです』


そして、止まっていた世界が再び動き出した。

「レフィル!」

ガルフの叫び。

八雲の振り下ろす武器。

フェリナが目を見開く。

悠真が引き金へ指を掛ける。

その刹那――。

八雲とレフィルの間へ白銀の光が落ちる。

ドォン――!

凄まじい衝撃が石畳を走り、地面が割れた。

「なっ!?」

松岡が腕で顔を覆い、八雲の身体が弾き飛ばされる。

数十メートル先の石畳へ叩きつけられ、そのまま何度も転がった。

「八雲!?」

悠真たちも動きを止める。

誰も何が起きたのか理解出来ない。

白銀の光がゆっくりと消えていく。

その中心、倒れたレフィルを庇うようにエリシアが立っていた。

「……エリシア?」

神崎が呟く。

エリシアは何も答えない。

白銀の光が、その身体から静かに溢れている。


そして――遥か上空。

王都を覆う黒煙のさらに向こうから。

巨大な咆哮が響いた。

『――――――ッ!!』

空気そのものが震える。

悠真が反射的に空を見上げる。

ガルフも、フェリナもその場にいる全員が。

月明かりを背負い、巨大な翼がゆっくりと広がった。

白銀の鱗が夜空に輝く。

「……遺跡の竜?」

ガルフが呆然と呟いた。

樹海の遺跡で眠っていたはずの白竜。

エルヴァリオンが王都上空に姿を現していた。

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