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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第三章 交錯する思惑
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第47話 境界突破

ヴェルグラード王国王城。

フェリナ・ターベルは王城の廊下を駆けていた。遠くで轟音が響く。

窓ガラスが小さく震え、天井から砂埃が落ちる。

王城の中も混乱していた。

侍女たちは避難誘導に追われ、兵士たちは慌ただしく駆け回っている。

「――フェリナ様!」兵士の一人が声を上げた。

「お前たちは王城の防備を固めろ!」

フェリナは足を止め、叫ぶ。

「これは……帝国の攻撃なのですか!?」

兵士たちは動揺を隠せないでいる。

「わからない……だが私は、レフィル様の元へ向かう!」そう言うと再び走り出した。

廊下の窓から見える王都は赤く染まっていた。

あちこちで火の手が上がり、黒煙が夜空へ昇っている。


ヒュウゥゥ――。

再び夜空を裂く飛翔音が響いた。

フェリナは思わず窓の外を見る。

王都の一角で巨大な爆発が起きる。


揺れる王城。

悲鳴、怒号、燃え上がる街。


「くっ……!」

フェリナは唇を噛み締めた。

こんな事はあり得ない。

境界の樹海に守られたヴェルグラード王国が、これほど一方的に攻撃されるなど。

「レフィル様……!」フェリナは速度を上げる。

今は何よりも近衛騎士団長として、レフィルを守らなければならなかった。


フェリナは玉座の扉の前まで到着した。

息も絶え絶えになっている。息を整えて、フェリナは玉座の扉に手をかざした。

重い扉が開く音が廊下に響く。

「レフィル様!」フェリナが声を荒げる。

レフィルは椅子に座ったまま目を瞑り、顔だけをフェリナの声のするほうへ向ける。


「フェリナ……」か細い声でレフィルは呟く。

「守護樹から反応がないのです……こちらが魔力を送り続けても……まるで送った魔力が、どこかに取られているみたいに……」レフィルはフェリナにそう告げる。

「レフィル様、王国は至る所から火の手が上がっております……せめて守護樹を介さず、王城だけでも物理結界を!」

フェリナの言葉にレフィルは弱々しく呟く。

「既に試しました……ですが、結界は弱まっています……このままでは……」

城の外からは先程よりも轟音が大きくなっていた。

レフィルの耳がピクリと動く。

「既に……結界の一部に穴が……帝国軍が流れ込んでいます……」フェリナは息を呑んだ。

帝国軍が王都に? そんな馬鹿な。

境界の樹海を突破しただけではない。既に王都へ侵入しているというのか。


レフィルは立ち上がった。身体は少しふらついている。

目を瞑り立ち上がる彼女にフェリナは慌てて駆け寄る。

「レフィル様!」

「ありがとうございます、フェリナ……ですが、魔力感知で見えなくとも知覚出来るので問題ありませんよ」

レフィルはそう言うと目を閉じたままフェリナに笑いかけた。

「それに……もう王都の中にいる者たちの魔力も感じていますから」

「守護樹に直接魔力を流し込みます。フェリナ騎士団長」

レフィルはそう言うと、目を閉じたまま扉に歩みを進める。

フェリナは唇を噛み締めた。嫌な予感が消えない。

それでも今は、レフィルの背を追うしかなかった。


◆


王都の街では、ガルフや王国兵たちの避難誘導が続いていた。

守護樹の下、地下へ続く道に人々が逃げ込んでいく。

その混乱の中、悠真たちは必死に救助活動を行なっていた。

悠真と神崎は火の手から人々を避難させ、ガルフが全体の指揮を取る。

フェンは嗅覚と聴覚を頼りに逃げ遅れた人を捜していた。

エリシアも人々に優しく声をかけていた。

リゼルは拳を握り締めた。

唇を噛み、眉間に深い皺を刻む。

その光景を、ライラルフ王国陥落の日と重ねていた。


炎に包まれた街の奥から、全身を黒い鎧で覆った兵士たちが姿を現した。

悠真には見覚えのない装備。

だが、その手に握られているものだけは違った。

悠真が使うものとは形状の異なるライフルだった。

しかも、一人ではない。

炎の向こうから次々と姿を現していく。


「全員、逃げろ!」悠真の怒声が響く。

その言葉に、周囲のものたちが悠真の方をみる。

直後、銃撃音が響いた。

ヴェルグラード王国の兵士の1人の鎧に穴が空いている。

兵士は膝から崩れ落ちた。血が兵士の身体から広がる。

避難していたものたちがその光景を見て叫びを上げる。

守護樹の前では混乱が起きていた。

リゼルは黒い鎧の兵士たちをみる。

鎧の胸に紋章――帝国軍だ。

「帝国軍! どうして……」

何故、ヴェルグラード王国の内部に帝国軍が入りこめているのかリゼルには理解出来なかった。

それはガルフも同じだ。

「どうして、ヴェルグラード王国内に……結界は!?」

焦るガルフの横で、悠真は黒い靄を発現させる。

形は機関銃。

引き金を引く瞬間、聞き慣れた声が聞こえ指が止まる。

「またお前らか……神崎、榊原」松岡の声。

黒い鎧の兵士たちに守られながら、松岡が現れる。

黒いコート、肩には帝国の紋章が刻まれている。コートの下は悠真と同じ迷彩服だ。

そして、傍らには学生服を着た青年を連れていた。

「松岡……」神崎は歯を食いしばりながら松岡を睨む。

「神崎……久しぶりだな! 王女も生きていたのか?」そう、言いながら笑いかける。敵として相対しているようにはとても見えない。

「貴様! よくも……ライラルフ王国を!」リゼルが叫ぶ。

だが、その足は立っているのがやっとだ。

肩も小刻みに震えていた。

「あ? 誰だ、お前は?」松岡は首を傾げる。

「貴様ぁ!」リゼルは剣を松岡に向ける。だが、手が震えて剣先が定まらない。

「ああ! 思い出した、榊原と一緒に見逃した女騎士か」

松岡は余裕そうな表情を浮かべる。

「こんなに早く再会できるとはな? 榊原、約束だ。もう一度聞いてやる」

「こちら側にこい! 神崎が抜けた代わりだ」

松岡は笑いながら悠真に問いかける。だが、悠真は首を横に振る。

「前に会ったときと同じだ。今のアンタについていく気はない」

悠真は冷静に答える。ライラルフ王国で会った時、フェンが殺されかけて怒りを露にしていたが今は冷静さを保てている。

自分は1人ではない。リゼル、ガルフ、フェン、そして自分の戦友である神崎がいる。

この世界に飛ばされて1人だと思っていたが、いつの間にか頼れるものたちがいた。


「そうか、まあいい」

松岡はそう言うと、手を上に上げる。帝国兵たちがライフルを構えた。

「なら――ここで死ね」

松岡が手を振り下ろした瞬間、帝国兵たちが一斉に銃撃を始める。

「伏せろ!」悠真が叫ぶ。

次の瞬間、夜空を裂くような銃声が連続して響き渡った。

乾いた破裂音、飛び散る石畳。

誰かの悲鳴。


そして――

悠真の視界を、二つの人影が遮った。

ガルフの表情が、一気に強張る。

「――っ!」

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