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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第三章 交錯する思惑
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第46話 守護樹の沈黙

前王の肖像画が飾られた部屋。 長い机に椅子がいくつも並べられている。

「……まず、魔力許容量から説明しよう」ガルフはそう言うと、椅子へ深く腰掛けた。

部屋の中には重い沈黙が流れている。

レフィルの話。 王の話。

そして、ヴェルグラード王国そのものの話。

それら全てを理解するには、まずエルフという種族を知らなければならない。

「人間には分かりづらいかもしれないが……魔力許容量というのは、簡単に言えば器の大きさだ」

「グラスに水を入れれば段々と水が溜まり、グラスの限界を超えれば……水は溢れ出す。それと同じだ。それが魔力許容量だ」


「ま、待ってくれ……先程からガルフ殿の話を聞いていたが、魔力許容量? 魔力保有量ではないのか?」リゼルがガルフに尋ねる。

「魔力とは身体の中で作られるものではない。使う時に周囲から集めて使うんだ」


「私は魔法を使えない。それは魔力がないからだと思っていた……だが、違うのか?」リゼルは驚きを隠せないでいる。


人間の常識とエルフの常識には差異があるらしい。

「そうだ……魔法を使えない人間は、魔力許容量を知らないか、極端に魔力許容量が少ない者だけだ」


ガルフは話を続ける。


「俺たちエルフには周囲に霧散している魔力を知覚出来る」


神崎と悠真は話についていけていない。

だが、リゼルは違った。

今まで自分が信じていた常識が間違っていた。 その事実に驚いている。


「リゼルは魔導具を使った事はあるか?」

リゼルは「ああ」と短く頷く。

「何故、魔法が使えないのに魔導具は使える? 考えた事はあるか?」

ガルフの問いに、リゼルは言葉に詰まる。


確かに考えた事がなかった。

魔法は使えない。 だが、魔導具は問題なく扱える。


それを当たり前だと思っていた。


「魔導具は周囲の魔力を吸い上げて動いている」


「つまり、リゼルにも魔力は流れている。ただ、その器が小さすぎて魔法として扱えないだけだ」

そう言うと、ガルフは悠真とエリシアへ視線を向けた。


「だが、例外もある……悠真、お前だ」


悠真は黙ったままガルフを見つめる。

ガルフは真剣な表情で続けた。

「お前の力を見た時から気になっていた」

「あの黒い靄は魔力じゃない」部屋の空気が少し張り詰めた。

「流れを見ていたが、周囲から集めている訳ではない」

「まるで悠真自身の中から溢れ出しているようだった」

ガルフは悠真を見据える。

「あれは……何なんだ?」

そして、一息吐く。


「エリシアもだ」

ガルフは今度はエリシアへ視線を向けた。


「白い遺跡で白竜を消した……あの魔術陣を俺は知らない」


「魔力の流れから感じたのは、通常の魔術ではないという事だ……」


ガルフの言葉にエリシアは黙り込む。

エリシア自身も記憶が曖昧で、どうやって発動したのか覚えていなかった。


そして悠真は自身の手を見る。

女神から与えられた力。

これが、この世界の理に背いている。

自分でも理解出来ていなかった。

「ガルフ……俺の黒い靄は、女神から与えられた力だ」


ガルフはその言葉に顔をしかめる。

「ああ、連邦で確かに女神様から与えられたと聞いた」


「だが、前にも言ったが……それは与えられた“力”というより……“呪い”に近い何かだ……」


その言葉に悠真は眉をひそめる。


「エルフにも過去に女神様から力を授かった者は数人いる」


「もう生きてはいないがな」


神崎が顔を上げた。


「待て……エルフにもいたのか?」

ガルフは頷く。

「伝承でしか残っていない。実際に見た事はないが……皆、一様に白銀の光を纏っていたらしい」


そう言うとガルフはエリシアを見る。


「エリシア王女、遺跡で使った魔術は白銀の光を帯びていた……伝承の通りだ」


部屋の中が静まり返る。誰も口を開かない。

ガルフはゆっくりと続けた。その声は重かった。

「あの遺跡で起きた事は、私たちが知る魔術では説明がつかない、だとすれば――」


ガルフが次の話しを始めようとした瞬間、ガルフの屋敷が揺れた。


地鳴りのような揺れに加え、何がぶつかるような轟音が夜のヴェルグラード王国王城に響く。

1回だけではない、何回も聞こえてくる。

その度に地面が揺れ、轟音が夜空へ響き渡る。

ガルフの表情が強張っている。


その瞬間、悠真と神崎が部屋を飛び出す。

「どこにいく!?」ガルフの声に構わず、悠真と神崎は屋敷の外に出た。

そしてヴェルグラード王城の門前まで到着し、そこから街を見下ろす。


ヒュウゥゥ――。

夜空を裂くような飛翔音。

次の瞬間。

ドォォンッ!!

地面を揺るがす爆発が王都の一角で炸裂した。


神崎と悠真は目を細くする。

遅れてきたガルフたちは、王城の門から見える景色に絶句する。

緑と一帯になっている街では所々で火の手が上がり、街道、家屋、広場。

至る所に巨大な穴が出来ている。

「ガルフ様!」

「なんだ……これは!?」

「わ、わかりません……ですが、王都の広場に大きな穴が……」ガルフに駆け寄ってきた兵士の声は震えていた。


「グラムだ……」

神崎の声にガルフが反応する。

「神崎……お前が見たと言う、帝国の新兵器か!?」

「ああ……」神崎がそう力なく呟く。

「実戦投入出来るように仕上げてきたんだ……」


「お前は言っていたな? 新兵器には問題があると」ガルフの問いに神崎は頷く。


「座標……位置を割り出す方法だ……」

「一体、どうやって?」神崎の背筋を冷たいものが走った。

境界の樹海は突破されていない。

それなのに砲撃は正確だった。

帝国軍は――どうやって座標を割り出した?

だが、考えている間にもグラムの砲撃は続いている。

先ずは、街の人間の救援をしなければと神崎はガルフに伝えた。

ガルフは言葉を止めた。

そして、何かを思い出したように顔を上げる。

「守護樹だ!」

「何?」神崎が問いかける。

「守護樹の真下に地下へ繋がる避難路がある! そこなら――!」


「私は……レフィル様の元へ向かう、人間たち! ガルフ殿を頼むぞ!!」

そういうと、フェリナは王城に向けて走り出した。

「フェリナ! レフィルを頼む!」

「俺たちも街へ行くぞ!」

ガルフがそう言うと、悠真たちは門の外に向けて走り出した。



◆


街に出ると、辺りには火が燃え広がっている。

聞こえてくるのは街の人の悲鳴と兵士たちの怒号だ。

「こっちだ!」

「一体……なんなの!?」

「うぁーん」

燃える街の中でガルフは大きな守護樹を見上げる。

「……何故」

「守護樹の守りが機能していない……」ガルフが小さく疑問を漏らす。

そして、王城へ視線を向ける。

「レフィル……」

そう、呟くとガルフは拳を強く握り締めた。


ヒュウゥゥ――。

夜空を裂く飛翔音。

直後、王都の別の場所で爆発が起きる。


また一つ、王都に火柱が上がっていた。

この時はまだ誰も知らない。

帝国軍が、境界の樹海を攻略する方法を見つけていた事を。

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