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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第一章 ライラルフ王国の陰
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第20話 守る者と奪う者

森へ入った瞬間、空気が変わった。湿った土の匂いと葉の擦れる音、夜露を含んだ風が肌にまとわりつく。悠真は歩幅をわずかに落とし、視線を前に固定したまま周囲の気配を拾う。


「……距離を詰めるな」

低く言うと、後方の間隔が自然と広がる。リゼルが小さく頷き、フェンは耳を伏せて気配を探っていた。


(来る)


その直後、矢が飛ぶ。悠真は身体を傾けてかわし、矢は背後の木に突き刺さった。同時に別方向からも気配が走る。二方向。だが姿は見えない。


「散るな!」

足元で魔術が弾け、土と光が視界を潰す。衝撃が足裏から伝わる。続けざまに上から影が落ちる。枝上からの奇襲。かわし、撃ち、切り抜けるが、終わらない。距離を詰めず、確実に削る攻撃。


(連携が早い……無駄がない)


悠真の視線が鋭くなる。

(数が少ないのに圧が強い……練度が違う)

さらに理解が進む。

(違う。ただの兵じゃない……“使われ方”が統一されてる)

動きに迷いがない。無理に仕掛けず、確実に削る。

(指揮が一本通ってる)

その瞬間、確信に変わる。

(……あの人だ)

前方の木々の隙間が不自然に開ける。悠真の足が止まり、同時に周囲の気配が薄くなる。静寂の中、その中央に一人の男が立っている。

「……松岡、隊長」

「久しぶりだな、榊原」

声も間も変わらない。だが、その奥が違う。悠真はじっと見つめる。

「……生きてたのか」

「どう見える?」

軽い調子。だが視線は逸らさない。周囲の気配は消えていない。完全に囲まれている。

「お前が指揮してるのか」

「察しがいいな。むしろ安心したよ、まだ鈍ってない」

悠真の中で何かが沈む。松岡が一歩前に出る。

「で、だ。まだ“守る側”にいるのか」

悠真は答えない。

松岡はふと、視線を横に流す。リゼルとフェンを一瞥する。

「……ずいぶんと、いい仲間を見つけたじゃないか」

口元がわずかに歪む。

「異世界で新しい相棒に、新しい仲間か?」

軽く笑う。

「で、どうだ? そいつらのために戦うのは楽しいか?」

一拍。

「昔の戦友は、もうどうでもよくなったか?」

その言葉が、静かに刺さる。

悠真の指が、わずかに動く。

だが何も言わない。

松岡は視線を戻す。

「……瓦礫の下から、手が出てた」

悠真の瞳がわずかに揺れる。

「助けを求めて、指だけ動いてた。引き上げたときには、もう冷えてた」

風が止まったように感じる。

「もう一歩早ければ、間に合ったかもしれない」

松岡の声は静かだった。

「子どもが泣いてたな。ずっと同じ声で、母親の名前を呼んでた。その母親は、俺たちが守るはずだった区域で死んだ」

一拍。

「……全部、遅かった」

言い切る。

「守ってるつもりだった。でも実際は違う。終わった後に現場に入って、死体を確認してるだけだ」

悠真の呼吸が浅くなる。

「何度繰り返した?」

問いではない。

「結果は同じだ。守れない。必ず取りこぼす」

わずかに目を細める。

「だから俺は、こっちに来た」

悠真の視線が鋭くなる。

「……どういう意味だ」

「そのままだ。俺は“呼ばれた”」

一拍。

「勇者としてな」

リゼルの表情が変わる。フェンの瞳も揺れる。

(勇者……複数……)

帝国の異常な強さ。練度。戦術。

(……そういうことか)

理解が落ちる。

「最初は笑ったよ。だが現実だった。力も与えられた。選択肢もな」

松岡は淡々と続ける。

「そして理解した。この世界も“守る側”じゃ何も変わらない」

一歩踏み出す。

「だから俺は選んだ。奪う側に回ると」

悠真の眉が寄る。

「……お前だけか」

「そう思うか?」

短く言う。

「甘いな」

一拍。

「俺だけなわけがないだろ」

森の空気が冷える。

「この世界に、呼ばれた仲間は他にもいる。帝国に選ばれた。」

視線を外さない。

「お前も、その一人になれ」

「こちらに来い。」

悠真の中で、理解と嫌悪が同時に湧き上がる。

「……あの戦いもそうだ」

松岡が続ける。

「お前も見ただろ。燃えてる中で、手を伸ばしてたやつ」

一瞬、光景がよぎる。

「届かなかった。全滅だ」

一拍。

「無駄死にだ」

――その瞬間。

悠真の中で、完全に何かが切れる。

拳が強く握られる。

「……やめろ」

低い声。

だが、震えている。

松岡は止まらない。

「違うか? 何も残らなかっただろ」

静かに刺す。

「だったら同じことを繰り返すな。奪う側に来い」

「ふざけるなッ!!」

爆発する。

悠真が一歩踏み出す。

「無駄じゃねえ!! 誰一人、無駄に死んでない!!」

息が荒い。

「勝手に決めんな!!」

歯を食いしばる。

「守れなかったのは事実だ……でもな!!」

顔を上げる。

「意味がなかったことにはならねえ!!」

視線をぶつける。

「お前がそれを言うな!!」

森が静まり返る。

拳が震えている。

怒りと悔しさが混ざる。

「……隊長。そんなこと言う奴じゃなかっただろ」

沈黙。

松岡はゆっくり息を吐く。

「……変わるさ。現実を見ればな」

悠真は即座に首を振る。

「違う。それは逃げだ」

言い切る。

「奪う側に回る理由にはならない」

完全な否定。

松岡はしばらく見つめ、小さく笑う。

「……そうか。なら仕方ない」

視線が変わる。

戦場の目。

「説得はここまでだ」

一拍。

「――ここで削る」

その瞬間、周囲の気配が一斉に動いた。森の闇が再び牙を剥く。戦闘が、再開される。

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