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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第一章 ライラルフ王国の陰
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第19話 背中を預ける理由

月明かりが雲に遮られ、足元の感覚だけが頼りとなるなか。


石造りの階段は、不規則に欠けていた。


段差の高さも揃っていない。


周囲には蝋燭ろうそくの明かりもなく、

踏み外せば、そのまま下まで転がり落ちる。


悠真は足を置くたびに、靴底の感触を確かめていた。


わずかに滑る。血と煤で、石がぬめっている。

重心を低く保ったまま、膝で衝撃を吸収しながら降りる。

背後からは、鈍い爆音が断続的に響いていた。

振り返らない。


ただ一度だけ、肩越しに空気の流れを感じる。

熱が来ている。火は確実に広がっている。


「急げ!」

リゼルの声が階段に反響する。

悠真は答えない。

代わりに、わずかに顎を引く。


(右に折れる。死角になる)


減速せず、角へ踏み込む。

「止まれッ!」


刹那。

視界に刃が滑り込む、近い。反応が遅れれば刺さる距離。

悠真の瞳がわずかに細くなる。

半歩前へ。


刃の軌道の“内側”へ入る。

左手で相手の手首を外側へ弾く。

骨に触れる感触。

同時に、右肘を引き絞り――

打つ。顎に当たる。


鈍い音とともに、相手の体が後ろへ崩れる。

一歩、間合いを切る。


その瞬間、左右の柱の陰から複数の気配。


剣先が一斉に向く気配を感じる。


悠真の視線が、順番に流れる。


左、2人。右、3人。

距離、二〜四メートル。

全員、構えは遅い。疲労している。

「敵か!?」声が上がる。


悠真は何も言わない。

ただ、右手の指先をわずかに開く。

いつでも武装を出せるように。


暗がりに月の光が差し込み相手の輪郭が露わにになる。


その空気を、リゼルが切る。

「待て!」一歩前へ出る。

肩で息をしながらも、姿勢は崩さない。


「味方だ。王国騎士団だ」

その声に、騎士たちの剣先がわずかに下がる。


月明かりを覆っていた雲が晴れ、互いの顔が見える。


鎧は割れ、血で固まり、手は震えている。

だが、誰一人として剣を完全には下ろさない。


「……リゼル隊長か」

一人が、息を吐くように言う。


リゼルは小さく頷く。

「生きていたか」

騎士達は小さく頷き返す。

短いやり取り。


そのあと、誰かが口を開きかける。


「王は――」


リゼルの視線が一瞬だけ落ちる。

ほんのわずか。だが確かに。

「……討たれた」


言い終えたあと、リゼルはすぐに顔を上げる。

だがその指先は、無意識に剣の柄を強く握っていた。


騎士たちの肩がわずかに落ちる。

誰も声を出さない。


その沈黙に、爆音が割り込む。

天井から砂がぱらぱらと落ちる。

悠真が、ゆっくりと視線を上げる。


通路の奥、崩れかけた壁を見る。

「ここは持たない」


淡々とした声。全員が顔を向ける。

悠真は指で通路の先を示す。


「敵はもう展開してる。この位置は包囲される」


リゼルが唇を引き結ぶ。


騎士の一人が拳を握る。

「……民がまだ残っている」

その声は低い。


悠真は、ほんの一瞬だけ目を細める。

そして、言う。「救えない」


騎士の指がぴくりと動く。


「ここで止まれば全員死ぬ」

悠真は一歩近づく。視線は逸らさない。


「今は誰も救えない」言い切る。


冷たいが、揺れない。

騎士たちは理解している。


だからこそ、言葉が出ない。

その沈黙の中。

リゼルが一歩前に出る。

剣をわずかに持ち上げる。

「……撤退する」


声は低いが、はっきりしている。

「生きて、取り返す」

「……了解」小さく頷く。


移動が再開される。自然と隊列が組まれる。


悠真が先頭。リゼルがすぐ後ろ。騎士たちが左右に分かれる。フェンが最後尾で周囲を見ている。

悠真は歩きながら、指先で軽くトリガーをなぞる。(いつでも出せる)

足を止めない。前方の暗がりが揺れる。

悠真の足が、ほんのわずかに減速する。


前方の暗がりが揺れた。悠真の足が止まる。「……来る」


次の瞬間、帝国兵が通路に押し込まれるように現れた。狭い通路いっぱいに広がる影。悠真は一歩踏み込み、右手に黒い拳銃を生成する。


「失せろ」

撃つ。一発目はわずかに逸れ、敵の肩を掠めた。だがすぐに修正し、二発目で喉を撃ち抜く。倒れた兵を踏み越え、後続が一気に距離を詰める。速い。

悠真は半歩下がる。右からの斬撃を身体を捻って避けるが、刃が肩をかすめた。「っ……!」浅い。問題ない。そのまま至近距離で撃ち返す。一人沈む。だが間に合わない。次が来る。


「下がれ!」

リゼルの剣が割り込み、敵の刃を弾く。火花が散る。その一瞬で榊原は距離を作る。床の血を踏み、滑る勢いを利用して後退。視界が開く。


(まだ来る)


奥から押し出される影。終わりが見えない。


悠真は一瞬だけ迷い――決める。拳銃が崩れ、機関銃へ変わる。頭の奥に鈍い痛みが走る。


構え、引き金を引く。連射。弾丸が通路を薙ぎ、前列の敵をまとめて吹き飛ばす。倒れた体が壁に叩きつけられ、後続の動きが一瞬止まる。


「今だ、抜ける!」

悠真が叫ぶ。全員が走る。その瞬間、倒れた敵の陰から一人が這い出た。剣が突き出される。反応が遅れる。


――間に合わない。


横から黒い影が弾けた。フェンだった。体当たりで敵を壁へ叩きつけ、そのまま喉を裂く。血が噴き出す。悠真は一瞬だけ視線を向けるが、すぐに前へ戻す。


「走れ!」

通路を抜ける。外へ飛び出す。


夜の空気が肺に流れ込む。冷たい。だが、生きている空気だった。背後では王都が燃えている。赤い炎が空を染め、煙が流れていた。騎士の一人が膝をつき、荒く息を吐く。誰もが限界に近い。

その中で、一人が悠真をジッと見る。「なぜだ」


悠真は答えない。騎士は続ける。「なぜ戦う」


わずかな沈黙。悠真は視線を外し、燃える王都を一度だけ見る。


「……この国のためじゃない。元いた場所でも同じことしてた。守る側だった」


リゼルの指がわずかに剣を握る。

「見てるだけってのができないだけだ。それに、放っておいたら面倒になる」


騎士が眉をひそめる。


「帝国は広がる。だったら先に潰す」


沈黙のあと、騎士が小さく笑う。「……変な男だ」


「よく言われる」

そう言うと、悠真も騎士につられ少し頬が緩む、思えばこの世界に来てから誰かと話して笑う事がなかった。


リゼルが一歩前に出る。「だが、それでも助けられた」

まっすぐ悠真を見る。

「礼を言う」


悠真は目を逸らす。「いらない」


「必要だ。私は騎士だ」

その言葉に迷いはない。悠真は小さく息を吐く。

「……好きにしろ」

「移動するぞ」


悠真が言った、そのときだった。


背筋に、ぞくりとした違和感が走る。足が止まる。リゼルが振り返る。

「どうした?」


悠真は答えない。ゆっくりと視線を上げ、目を細める。


外壁の上。炎と煙の向こうに、ひとつの影が立っていた。遠い。顔は見えない。だが――わかる。立ち方。重心。あの癖。

榊原の呼吸が止まる。

「……隊長」

かすれた声だった。死んだはずの男。あの戦場で、確かに。


影がこちらを見る。一瞬だけ炎が輪郭を照らす。確信に変わる。悠真の指が強く握られる。動けない。


「サカキバラ!」

リゼルの声で、意識が戻る。だが視線は外さない。


やがて影は踵を返し、煙の中へ消えた。

悠真が一歩踏み出しかける。止まる。拳がわずかに震えている。


「……知ってる奴だ」

それだけ言う。目を閉じる。一瞬。開く。いつもの表情に戻る。


「行くぞ」

短く告げる。誰もそれ以上は聞かない。だが全員が感じていた。何かが変わったと。


悠真は前を向く。


「……ありえないだろ」

小さく呟き、闇へ踏み出した。

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