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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
第一章 ライラルフ王国の陰
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第18話 王都脱出


悠真は妖刀を腰へ引いた。


足幅を定める。


膝をゆるめ、重心を落とす。


息をひとつ吸い、音もなく吐く。


世界が細くなる。


偽王女の魔力。


リゼルの震える呼吸。


フェンの気配。


全部が遠のき、切るべき一点だけが鮮明になる。

「終わりだ」

抜刀。


白銀の刃が、偽王女の胸を斜めに断った。

血が噴く。

今度こそ、はっきりと人のものだった。


偽王女は大きく目を見開き、口元から血を零す。

膝が折れ、階段へ崩れ落ちる。

「……あ、あ……」


まだ生きている。

人工生命体であっても、最後まで人間の肉体だった。


彼女は震える指で、自分の胸の傷に触れる。

指先が血で染まり、その赤を見つめて、信じられないというように目を揺らした。


「わたし……も……生き、たかった……」

かすかな声。


リゼルが息を呑む。


フェンも目を伏せる。


悠真は何も言わない。


偽王女は最後に、リゼルを見た。

その表情だけは、作られた王女でも帝国の尖兵でもなく、ただ生まれ方を選べなかった一人の少女に見えた。


そしてゆっくりと瞳から光が消え、身体から力が抜けた。


玉座の間に、重い沈黙が落ちる。

だが、その静寂は長く続かなかった。

城の外から、地鳴りのような轟音が響いた。

続いて、爆発。悲鳴。金属音。いくつもの怒号。


悠真が顔を上げる。


玉座の間の扉が勢いよく開き、血まみれの王国騎士が転がり込んできた。鎧は砕け、片腕を失い、息も絶え絶えだった。

「て、帝国軍が……城内へ……!」


リゼルが駆け寄る。

「状況は!?」


騎士は血を吐きながら、それでも叫ぶ。

「西門、北門、ともに突破! 王都防衛線は崩壊! 王国騎士団は……壊滅、です……!」

その言葉が、残酷な現実として広間へ落ちた。


フェンが窓の外へ視線を向ける。


悠真も振り返り、割れた窓の向こうを見る。

夜の王都が燃えていた。

通りという通りに炎が走り、整然と進む帝国軍の隊列が城下を呑み込んでいる。


もう局地戦ではない。王都全体が陥ちたのだ。

「……退くぞ」

悠真が短く言う。


リゼルは唇を噛み締めたまま、王の亡骸と偽王女の死体を見た。

その目に迷いはあった。怒りも悔しさも、どうしようもなく残っている。


悠真はそんな彼女へ向き直る。

「ここで死んでも終わりだ」


「……だが……!」


「本物の王女を助けるんだろ」

その一言で、リゼルの瞳が揺れた。


悠真は続ける。

「生きてる可能性があるなら、ここで潰れるわけにはいかない」


沈黙ののち、リゼルはぎゅっと拳を握った。

「……ああ」


声は震えていた。

それでも、折れてはいない。

「必ず、取り戻す」


フェンが静かに頷く。


リゼルがハッと思い出したかのように話す。

「東塔に退避路がある。王族用の隠し通路だ」


「案内しろ」

三人は玉座の間を飛び出した。


廊下はすでに戦場だった。

帝国兵が押し寄せ、残った王国騎士たちを蹂躙している。悠真は黒い拳銃を投影し、必要最小限だけ撃つ。頭が軋む。だが止まらない。近づいた敵は妖刀で斬り、フェンが横合いから喉を裂き、リゼルが背後を守る。


階段を駆け下り、回廊を抜け、崩れた壁を越える。


東塔へ向かう途中、城の一角が爆音とともに吹き飛んだ。


熱風が背中を叩き、砕けた石片が頬を掠める。

「急げ!」

悠真が叫ぶ。


東塔の最下部。

古い壁の裏に隠された石扉をリゼルが押し開くと、その先には細い退避路が闇の中へ続いていた。夜風が吹き込み、遠くで燃える王都の明かりが見える。


三人はその入口で一瞬だけ足を止めた。

振り返れば、王城が燃えている。

王は死に、騎士団は壊滅し、王女は奪われたまま。


王都は落ちた。


リゼルが、焼ける都を見つめたまま低く呟く。

「……必ず、取り戻します」


フェンはその横顔を見つめ、静かに目を細めた。

悠真は何も言わない。


ただ王都の炎を見据え、その光を目に焼きつける。

アルバストロ帝国。

女神の力を歪め、勇者召喚を悪用し、王女を奪い、国を内側から壊した敵。

次に潰すべき相手は、もうはっきりしていた。


「行くぞ」


悠真が背を向ける。


「ここから先は逃亡じゃない。反撃の準備だ」

三人は闇の中へ走り出した。


敗走の夜。

だがそれは同時に、帝国を討つための旅の始まりでもあった。

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